万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

隠しても現わるる中国の軍事的野心

2018年08月30日 16時24分22秒 | 国際政治
ソ連邦の存在は、高いレベルの科学技術を備えていない国でも、持てる資源を軍事部門に集中的に注ぎ込めば、短期間の内に軍事大国になり得ることを示しています。第二次世界大戦が始まった時、ソ連邦がナチスドイツからの‘解放’を口実に周辺諸国を自らの勢力圏に収め、戦後は、世界を二分してアメリカと覇を競う超大国として君臨するとは、誰もが予想しなかったはずです。そして、今日、中国は、ソ連邦と同じ道を歩むが如く、僅か数十年の内にアメリカに迫る軍事大国に成長しています。
 
 中国を軍事大国に押し上げた推進力は改革開放路線による経済大国化にあり、この経緯こそ同国の躍進が‘平和的台頭’と称される理由でもあります。しかしながら、その本質において中国が共産主義国家であり、経済よりも政治的支配の拡大を本能的に追求する傾向にあることを考慮しますと、早晩、‘軍事的台頭’への移行することはソ連邦の前例により疑いなきことです。それにも拘らず、13億の市場を有するその巨大な経済力に目を奪われている人々は、‘平和的台頭’から‘軍事的台頭’へのシフトについては半信半疑になりがちです。中国は、豊かさに満足し、覇権主義的な野心など忘れるに違いないと…。

 こうした平和国家としての中国に対する期待は、今や幻滅へと変わりつつあります。とりわけ南シナ海をめぐる常設仲裁裁判所による裁定を無視した態度は、国際的な対中認識を脅威へと転換させる分水嶺となりました。この海域における中国の行動は、既に侵略の域に達しているのです。そして、今般、さらに警戒すべき事案が持ち上っています。それは、ASAN諸国とともに作成を試みている南シナ海における「行動規範」です。

 同「行動規範」については、今年6月に草案が纏められましたが、8月29日付の産経新聞朝刊によりますと、中国側は、「参加国は域外国との共同軍事演習は行わない」とする一文を設け、「例外には通知を受けた関係国の賛同を義務付ける項目を提案」したそうです。領有権が争われている段階での軍事演習にまで踏み込んだ内容は、いささか唐突なように思えるのですが、この提案に、権謀術数に長けた中国の長期的戦略が潜んでいるとしますと、その意味するところが見えてきます。

 即ち、仮に上記の中国案を取り入れた形で「行動規範」が成立した場合、同協定が発効したその瞬間に、南シナ海は事実上‘中国の海’、あるいは、‘中国の海上要塞’となります。‘域外国’とは主としてアメリカを意味しており、たとえ中国による南シナ海全域の軍事的掌握や諸島の領土化に対してASEAN諸国が強く反発し、アメリカの支援の下で自らの権利を取り戻そうとしても、「行動規範」の条文に縛られて、もはや手も足も出せない状態となるからです。現在、フィリピンは、曲がりなりにもアメリカの同盟国でもありますが、この同盟も空文化するになりましょう。

 仮に、中国が真に平和国家であるならば、「行動規範」の草案作成に際しては、自国を含む全ての当事国の軍事行動や軍事拠点化を禁じる項目を提案することでしょう。ところが、中国は、自らの覇権主義的な行動は棚に上げて、「行動規範」という美名の下でASEAN諸国を封じ込めようとしているのです。もっとも、中国の提案は、それが他国との軍事演習の禁止にまで及んだが故に、逆に、自らの野心的なアジア、並びに、世界戦略を露わにしてしまったとも言えます。こうした中国の横暴、かつ、不誠実な姿を目の当たりにすれば、何れの国も、中国に対して最早楽観的ではいられなくなるのではないでしょうか。

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コメント (6)
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