万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

水道民営化問題-‘何でも民営化’は危ない

2018年08月21日 15時21分51秒 | 日本政治
1980年代以降、公営事業の民営化は一つの世界的な潮流となってまいりました。特に、ソ連邦の崩壊が、経済発展の原動力を欠く‘何でも公営化’の手法が誤りであることを証明したことは、失敗例を以って民営化に根拠を与えてきたのです。

 しかしながら、‘何でも公営化’の道が間違えであるならば、その逆の‘何でも民営化’の道を歩めばよいのか、と申しますと、そうではないように思えます。昨今、地方自治体レベルにおいて水道事業の民営化が試みられ、国会においても法整備の動きがありますが、この分野、果たして民営化に相応しいのでしょうか。

 民営化に際して、常々唱えられている‘呪文’は、市場の競争メカニズムを導入すれば、効率的な経営が可能となり、コスト削減で使用料金も下がるため、消費者が恩恵を受けると言うものです。この説明を聞けば、大半の人々は、民営化に対する警戒心が解けてしまいます。しかしながら、水道事業分野において競争メカニズムが十分に働くのか、ともうしますと、これには疑問があります。何故ならば、水道事業とは、元より独占事業であるからです。

 一般の製品市場では、時空の制限を受けませんので、複数の事業者がそれぞれ自社製品を競合的に提供することができます。こうした分野では、価格の低下や品質向上を伴う教科書通りの競争メカニズムが働くのですが、公共サービスとなりますと、製品市場と同列に論じることはできなくなります。もちろん、国鉄分割民営化、電電公社民営化、郵政民営化等の事例を挙げての反論もあるでしょうが、鉄道は、バス事業者やトラック運送事業と競合しますし、通信の分野では複数の事業者が通信ネットワークを敷くことが技術的に可能となり、技術の発展が競争状態をもたらしました。郵政民営化についても、郵貯をはじめ何れの事業部門も民間事業者が存在しています。これらの公共性の高い事業分野では、再考の余地あるとはいえ、一先ずは、複数の事業者による競争が存在しているのです。一方、水道事業はと申しますと、まずは、水源や地下に張り巡らされた上下水道の施設を見れば一目瞭然であるように、複数の事業者が水道インフラを同一地域に敷くことはできません。水道事業は、時空の制約を受けるのです。

日本国政府は、水道施設の老朽化を根拠として、より低コストでの建て替えが見込める民営化を進めようとしているようですが、仮に、水道施設が民間所有、あるいは、一部であれ民間出資となり、メンテナンスのみならず料金設定も含めた事業権も民間に譲渡されるとなりますと、水の使用は人の生命維持に不可欠なだけに、国民は、事業者による一方的な使用条件を受け入れざるを得なくなります。このため、日本国内での動きとは反対に、民営化による水道料金の値上がりなどを理由として、再公営化が試みられている国もあるそうです。

民営化とは、民主主義の及ばないところに自らの生命や生活に関わる権限を明け渡してしまうことを意味します。北海道における中国資本による水源の買い占めも問題視されておりますが、今日の民営化は、凡そ市場の対外開放をも伴いますので、‘プチ植民地’の怖れさえあるのです。国民の生命維持に関わる基本的な事業が国民の手から離れても構わないのか、と問われれば、大半の人々は、NOと答えるのではないでしょうか。‘何でも民営化’でも、‘何でも公営化’でもなく、官民の間の適正な境界線を見つけることこそ、重要なのではないかと思うのです。

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コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (宮内庁皇室浄化大作戦)
2018-08-21 22:52:41
水道事業民営化には反対者も多いですし、私も反対です。

麻生大臣親族がフランスの水道事業者と結婚していると言う噂もありますし、世界中で水道民営化は失敗しているそうですが、水は命綱ですから民営化で侵略国家に支配されてしまったら、取り返しは出来ませんから、民営化には踏み込むべきではないと思います。
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宮内庁皇室浄化大作戦さま (kuranishi masako)
2018-08-22 08:18:10
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 最近の政府の動きを見ておりますと、新たな外国人在留資格という名の’移民政策’といい、日本国を’開放区’として全世界に明け渡すかのようです。一体、誰の為に政治を行っているのでしょうか…。もしかしますと、国際組織の単なる傀儡なのかもしれないとも思うのです。
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