万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

SNSサービス事業者が私的検閲機関になる?-EUの言論規制

2018-09-28 11:03:27 | ヨーロッパ
報道に拠りますと、EUの欧州委員会は、フェイスブック、ツイッター、Youtube等のSNSサービス事業者との間で利用者の投稿内容をチェックし、不適切と判断された投稿を削除する方向で合意したそうです。規制導入の理由としては、移民・難民問題を背景としたヘイト・スピーチ、並びに、イスラム過激派等のテロリストによるSNS利用が挙げられています(移民受け入れ側と移民側の両者)。

 因みに日本国憲法でも、その第21条2項には、「検閲は、これをしてならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」とあり、検閲行為は固く禁じられています。習近平体制の下で情報統制が強引に推し進められている中国の状況を念頭に、検閲反対の声は、兎角に政府に向かいがちであり、政府が検閲に乗り出しようものならヒステリックなまでの拒絶反応が起きるのですが、民間企業による検閲については、民間企業=自由というイメージが隠れ蓑となって見逃されがちです。しかしながら、政府であれ、民間であれ、誰であれ、SNS上の投稿の事前削除が、一般人をも対象とした検閲行為であることには変わりはありません。この観点から今般のEUの規制を見てみますと、幾つかの疑問点があります。

 第一の疑問点は、SNSサービス事業者が民間による私的検閲機関と化すリスクです。今般の法規制では、投稿の削除作業はこれらの事業者に丸投げされています。乃ち、SNSサービス事業者は、自らの主観的な判断で投稿を削除することができるのであり、その作業は、企業の組織内部で秘密裏に行われます。SNSとは、オープンな言論空間を提供しているように見えながら、その実、私的検閲機関と化した事業者によって言論が裏からコントロールされていることとなります。SNSサービス事業者とは、典型的なグローバル企業であり、かつ、同分野は‘ユダヤ’色も強いという特徴がありますので、自己の基本スタンスに反する移民反対やイスラム教に対しては、とりわけ、厳しい‘検閲’を行うかもしれません(中国には優しいかもしれない…)。

 第二の疑問点は、EUの規制は、SNSサービス事業者の私的検閲機関化である同時に、その本質においては、公権力による間接的な検閲に当たるのではないか、という点です。近年の動向を見ますと、ヘイトやテロに関してだけは、公権力による検閲が許されております。しかしながら、この問題と結びつく移民・難民問題は、今や、欧米諸国を中心に最も関心の高い政治問題と化しています。日本国内でも在日外国人の急増、並びに、政府による事実上の移民政策への転換により、さらに国民の関心は高まることでしょう。今後とも、移民をめぐる議論が活発化することも予測されますが、EUが、今般、規制強化に踏み出したのも、EU自身が移民推進派であることと無縁ではないのでしょう。つまり、自己に都合の悪い言論に対しては、SNSサービス事業者に対して厳しい取り締まりを求める可能性があるのです。

 そして、第3点として挙げられるのが、ヘイト・スピーチやテロ扇動に反応する人々が、当局が恐れる程多いのか、という疑問です。仮に、特定の民族集団に対して虐殺や弾圧まで招くような事態が起きるとすれば、第二次世界大戦前夜のドイツ人のように、一般の人々が極限まで追い詰められるような時代状況を要します。統治制度も整い、事情の異なる今日においては、単なる移民反対の声であれば平和的手段、例えば、移民の送還などの立法措置で解決できるのであり、多くの人々がこのことを認識しているはず。イスラム過激派によるテロ扇動については、殺人の教唆の廉で刑法上の規制対象となるのでしょうが、少なくとも、一般の人々による移民反対の意見を事前検閲によって封鎖する行為は、言論の自由を侵害しかねないのです。この点に鑑みれば、ネオ・ナチ運動などは、敢えて過激な行動をデモンストレーションすることで規制を正当化する‘マッチポンプ’の疑いも拭い去れません。

 EUであれ、SNSサービス事業者であれ、政治的に中立な立場にあるわけではありません。そうであるからこそ、これらによる事前検閲は、一般の人々から言論の自由を奪い、言論空間に監視網をかける結果を招きかねないリスクがあります。移動の自由が認められても、言論の自由を失うのであれば、人の精神的な自由という人間存在の本質に照らせば、本末転倒であるように思えます。最低限、サービス事業者に対しての削除された理由の開示、ならびに、その理由が不適切であった場合の再掲載を求める権利は、投稿者に確保されるべきではないのでしょうか。

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ポーランドの対独賠償請求問題-請求先はロシアでは?

2018-03-23 16:11:43 | ヨーロッパ
ドイツ侵攻で57兆円賠償請求を ポーランド議会が試算
 報道に拠りますと、ポーランド下院の調査チームは、第二次世界大戦におけるナチス・ドイツによる同国が受けた被害を57兆2000億円と試算し、同国政府に対して対独請求を求めたとされております。この対独賠償請求、やはり無理があるように思えます。

 ポーランドの対独賠償請求に対して、ドイツは、1953年8月22日にソ連邦とポーランドとの間で締結された協定において、東西両ドイツを含む“ドイツ”に対する請求権は放棄されたと主張しています。1970年12月7日に署名され、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)とポーランドの両国間の関係正常化をもたらしたワルシャワ条約でも、ポーランドによる請求権放棄は確認されたとする立場にあるのです(同条約第4条?)。

 ドイツの主張の背景には、第二次世界大戦におけるポーランドに対する賠償支払いは、ソ連経由であったとする特殊な事情があります。1945年8月2日に締結されたポツダム協定によって、ポーランドに対する賠償支払いは、ソ連に対する賠償としてソ連占領地域から徴収された分から充てられるとされたからです。敗戦当時、ドイツは、経済の疲弊は著しく、賠償の支払いは、在外資産やデモンタージュと称された工場・機械設備の接収によって行われました。ソ連による賠償徴収は苛烈を極め、デモンタージュが1948年に終了した後も、東ドイツ(ドイツ民主共和国)から現物による賠償支払いが継続されたそうです。

 戦前にあっては現在のイメージとは逆に、東西分裂後に東ドイツ地域となるドイツ東部のほうが、旧プロイセン領であり、かつ、首都ベルリンが所在したこともあり、西部地域よりも産業が格段に発展していました。その東ドイツが、戦後は工業生産力の低い後進国に転落するのですから、ソ連邦の賠償取立ての過酷さが窺われます。長期にわたって蓄積されてきた工業生産力が根こそぎドイツから徴収されたのですから、その額は、現在の価値で換算すれば、今般の賠償請求額を上回るかもしれません。

 こうした戦後史を考慮しますと、仮に、ポーランドが賠償を請求するのであれば、その請求先は、ソ連邦、即ち、現ロシアではないか、という疑問が生じます(ドイツとソ連邦の両面侵攻によりポーランドは分割されており、ポーランドは、同侵略行為に基づく対ソ(ロ)賠償請求権もあるのでは…)。ソ連邦は、自らはドイツ領内から賠償を強制的に取り立てながら、ポーランドに対しては被害を償うに足る賠償分配を行わなかった可能性があるからです。また、ソ連邦のポーランドに対する賠償分配が十分な額であったとすれば、今般のポーランドの請求は、ドイツに対する二重請求となりましょう。果たして、今般の問題に対して、ポーランドに出自を遡るメルケル首相は、どのような対応を見せるのでしょうか。

 戦争被害に対する賠償問題とは、それが法的な権利である以上、国際社会における国際法秩序の成立を前提としております。そうであるからこそ、賠償請求は事実、及び、法的関係に基づくべきであり、請求先や根拠を誤ってはなりませんし、ゆめゆめ勝者による敗者からの掠奪や“被害者ビジネス”と化してはならないと思うのです(もっとも、真の戦争責任はどこにあるのか、という道義をも含む歴史上の難問が残る…)。

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マクロン大統領のEU路線では仏国民負担増では?

2017-06-13 16:53:11 | ヨーロッパ
仏野党、「一党支配」阻止に全力へ=大統領新党が圧勝の勢い―下院選
 フランス下院選挙では、共和党、並びに、社会党の左右両党から有力幹部を引き抜いて閣僚に据えたことから、”マクロン新党”である「共和国前進」が圧勝するシナリオも現実味を帯びてきました。7割を越える議席を獲得するとの予想もあり、既存政党は、一党支配の阻止に全力を挙げているとも報じられています。

 ところで、7割という数字からすれば、”マクロン新党”は圧勝と言えるのですが、フランス国民は、マクロン大統領の政策を積極的に支持しているのでしょうか。第一回投票の投票率が最低であることも然ることながら、マクロン大統領の掲げるEU政策は、フランス国民にとりましては財政面では負担増となる可能性があります。

 同大統領は、大統領選挙時よりEU深化を基本方針として掲げており、特にユーロ圏共通予算の設立や経済財務相ポストの新設が、財政統合路線として注目されてきました。共通予算の下でEUの財政基盤が強化され、財政権限も拡大すれば、南欧諸国等の債務危機に陥った加盟国を救済したり、加盟国への投資も増やすことができるとする主張です。財政統合は、ソブリン危機を思い起こせば、EUの安定化に貢献するのでしょうが、それは同時にEU内における加盟国間の財政移転の強化を意味します。言い換えますと、豊かな加盟国のEUに対する財政支出が増加する一方で、財政的に苦境にある諸国は、EU予算から支援を受けることができるようになるのです。

 マクロン大統領の主張は、豊かなドイツからのフランスへの財政移転を念頭に置いているとする説もありますが、EUの財政の現状を見ますと、フランスは、財政的にはEUに対して出超国です。しかも、同様にEU予算を支えてきたイギリスが離脱するとなりますと、地域政策等の下で現在実施されている南欧や中東欧諸国への財政移転も、他の国が肩代わりする必要があります。となりますと、フランスは、EUから財政支援を受ける側ではなく支援を行う側となる公算が高く、それはとりもなおさず、フランス国民の肩に財政負担が重くのしかかることを意味するのです。

 財政統合については、ドイツ国内でも財政負担増から反対の声が根強いのですが、フランス国民は、この問題をどのように考えているのでしょうか。そして、仮に財政統合を実現させたとしても、予算や負担をめぐって、加盟国のみならず、EUレベルの各種利益団体や業界が入り乱れる熾烈な争いも起きないとも限りません。マクロン大統領のEU路線は、フランス国内においても、また、EUにとりましても、波乱含みではないかと思うのです。

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問われるイスラム系カーン市長の責任ーロンドンテロ事件

2017-06-05 15:08:51 | ヨーロッパ
英、テロ容疑者の捜査本格化=ISが犯行主張―パキスタン出身27歳主犯格か
 イギリスでは、マンチェスターに次いで首都ロンドンでも、ワゴン車の暴走による凄惨なテロ事件が発生しました。主犯と目されるテロリストは、パキスタン出身の27歳の男性であり、ISが犯行声明を出したとも報じられております。

 首都ロンドンと言えば、EU離脱を問う国民投票を前にして、史上初めてのイスラム系市長が誕生しています。当選したサディク・カーン市長は、移民2世とはいえ、今般のテロ事件の主犯と同様にパキスタン出身者のイスラム教徒であり、その当選に際しては、多様性、あるいは、寛容の精神の勝利として報じられたものです。近年、テロ事件が相次ぐ中、労働党党員や有権者の中には、ロンドン市長にイスラム系の政治家を据えることで、イスラム過激派の動きを内部から抑えてもらうとする期待もあったのかもしれません(”イスラムを以ってイスラムを制する”とする発想…)。あるいは、敢えてイスラム教徒を多様性の一つとして受け入れる姿勢を示すことで、イスラムの攻撃性を和らげようとしたとも推測されます。

 ところが、これらの淡い期待は、今般のテロ事件で吹き飛んでしまったかのようです。当のカーン市長に至っては、”テロが起きても怖がるな”とするリベラル特有の欺瞞的なコメントを述べるにとどまり、大西洋を隔てたアメリカのトランプ大統領にまで無責任として批判されています。テロに対する恐怖心の有無は表面に現れているわけではありませんから、テロを抑止する効果があるとは思えず、また、恐怖心という人間の本質の放棄を人々に迫るのですから、非人間的な手法と言わざるを得ません。結局、カーン市長は、テロリストを厳しく断罪するよりも、同郷のテロリストを庇い、テロの責任をイギリス国内のイスラム教徒に対する一般イギリス人の偏見や差別に転化したいようなのです。

 今般のロンドンのテロ事件は、ロンドン市長という要職を任せても、イスラム教徒は満足しないことを示しております。そしてこの事件は、首都の治安を預かり、人々の安全を守る立場にあるカーン市長に対して、その立ち位置と責任を鋭く問うていると思うのです。

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全世界の移民はフランスを目指す?-フランス革命の後遺症

2017-05-15 15:20:29 | ヨーロッパ
マクロン新大統領就任=仏最年少、初の非大政党系
 先日、NHKのBS1スペシャルで、”欲望の民主主義~世界の景色が変わる時~”と題して、フランスの大統領選挙とフランス社会の現状を取材する番組が放送されていました。番組構成については掴みどころのない支離滅裂な感が否めなかったのですが、フランスの混迷は、かのフランス革命が残した後遺症と言えるのかもしれません。

 当番組では幾度となくフランスの”建国”に言及していましたが、不思議なことに、NHKの云う”建国”の時期とはフランク王国ではなく、フランス革命を機とした共和国成立時です。そして、著名な識者を登場させながら、革命時に建国の理念として掲げられた”自由、平等、博愛”の堅持こそ、今般のマクロン大統領選出の要因であると共に、この理念を否定したところにルペン氏の敗因があったという論調で番組が進行しているのです。

 フランスの歴史的な建国時期は一般的には5世紀のメロヴィング朝フランク王国とするのが適切であり、フランス革命は、体制の転換期として捉えるべきと思われます。実際に、革命後もルイ・フィリップによる王政復古やナポレオン家による二度の帝政もあり、政体が二転三転してようやく第3共和政あたりから共和制が定着したのですから。”建国”をフランス革命に求める見解にも疑問があるのですが、そもそも、当番組は、フランス革命における”自由、平等、博愛”のスローガンが、常に理想とは逆の結果を招いてきた歴史については、短く紹介する程度にしか触れてはおりません。ロベスピエールによる恐怖政治は、フランス国内において人権の尊重どころか反革命勢力に対する大虐殺をもたらし、フランス革命は、暴力と殺戮を正当化する血塗られた革命となりました。加えて、同スローガンに含まれる普遍性は、フランス帝国主義をヨーロッパ大に推し進める口実ともなりました。好都合なことに、フランス革命の理念は、他の諸国にも熱烈な賛同者を獲得することとなり、かのゲーテさえも、当初はフランス革命を絶賛していたのです。”ここから、そしてこの日から、世界史の新しい時代が始まる”として(ヴァルミーの戦におけるフランス革命軍の勝利を祝して…)。

 フランス革命戦争は、やがてフランス帝国による征服事業へと転化され、ナポレオン体制の成立が他のヨーロッパ諸国を帝国支配の頸木に繋いだのは無視できない歴史的事実です。普遍的な価値には国境がありませんので、フランス革命の理念は、普遍的価値の下において周辺諸国の支配を許す正当化イデオロギーとして機能したのです。そして、ナポレオン時代にあっては、革命の理念は対外的な膨張主義としてヨーロッパ全土に戦禍をもたらします。

 今般、フランスが同理念を再確認し、それをさらに追求するとなりますと、革命の理念は、今度は、外ではなく、内に向かってフランスに禍の渦をもたらさないとも限りません。何故ならば、理念の普遍性には、外に向かっても内に向かっても、境界の概念が存在しないからです。つまり、同理念を徹底すれば、フランスは、自らの国境を全世界の人々に向けて開放せざるを得ないのです。

 今日のフランスが”自由、平等、博愛”を高らかに宣言することは、同理念の尊重を条件にするにせよ、EUのみならず、全世界の移民希望者に対して受け入れを表明するに等しいこととなります。マクロン大統領は、選挙期間にあっては多様性の尊重に基づく移民容認政策を公約に掲げておりましたが、果たして今後とも、自らの理想を貫くのでしょうか。フランス革命の理念は、理想と現実の間で人々を引き裂き、自己矛盾との闘いを強い、そして、周囲の人々を巻き込むという意味において、今日に至るまで、フランスとフランス国民を苦しめ続けているように思えるのです。

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マクロン政権の行方ー新自由主義には統合力がない

2017-05-09 17:04:28 | ヨーロッパ
マクロン氏、風頼みの船出 仏総選挙が基盤安定の試金石
 今般のフランス大統領選挙は、フランス国内の分裂の深刻さを浮き彫りにしたとも評されております。これを裏付けるかのように、当選を決めたばかりのマクロン氏は、パリ市内おいて”マクロン辞めろ”の大規模デモに見舞われたと報じられています。

 選挙期間を通じて深まった国内分裂を前にして、マクロン政権の重要課題は、フランスに和解と連帯、即ち、統合をもたらすことにあると指摘されております。しかしながら、氏が心酔する’中道’という名の新自由主義に対して統合力を期待することには無理があります。何故ならば、新自由主義とは、国家を消滅させることによって、はじめてその理想を実現することができるからです。新自由主義者は、全世界を一つの自由なグローバル市場と見なし、国境という障壁に阻まれることなく自らの事業を最適に分散化、かつ、もの、サービス、資本、人、技術、情報など自由に移動させることで、自らの利益を最大化することを目指します。新自由主義の方針に従えば、マクロン氏の唱えた”競争力の強化”は、以下の結果を招くことが予測されます。

 第1に、フランスが、労働コストにおける国際競争力を回復するには、賃金レベルの低下をはかるか、安価な移民労働力を受け入れるしかありません。先進国における競争力の回復とは、即ち、国民の生活レベルの低下と移民の増加と同義となるのです。また、事業の最適分散の原則に従えば、大量失業を伴う製造拠点の移転も、民間企業に対して奨励すべき政策となります。

 第2に、新自由主義者は、民間企業に対して新たな成長産業分野への投資を促します。しかしながら、新自由主義者の理想が、国籍を問わない徹底した能力主義と多様性の尊重である限り、グローバル企業に雇用される人材とは、何れにしても外国人が多数を占めることになります。一般のフランス国民の雇用のチャンスは、減少こそすれ、増加するとは思えないのです。

 第1に関連して第3に、新自由主義者が利益を得ている事業の一つは、”移民ビジネス”や”企業合併ビジネス”です。日本国における新自由主義の代表格である竹中平蔵氏がパソナの会長であるのは偶然ではありませんし、国境を越えた企業合併や買収の増加は、多国籍企業が増加すると共に、資金を提供する金融部門にとりましても利益を得るチャンスとなるのです。

 第4に、グローバルな競争において敗者となった人々への対応をめぐりましては、政府が、失業者に対して手厚い職業訓練等を実施し、成長産業への人材シフトを促すとされていますが、そもそも、雇用側の企業は、外国人や移民を優先的に雇用する方針を採っておりますので、新旧産業の間に勤務内容において著しいギャップがある場合には、このギャップを埋めるのは至難の業です。工場で組み立て作業を行っていた勤労者が、工場閉鎖によって職を失った場合、たとえ一定期間の職業訓練を受けたとしても、人材が不足気味とされているAI産業の技術開発部門において職が見つかるとも思えません。

 第5に指摘し得ることは、公益事業の民営化もまた、新自由主義政策の基本路線であることです。マクロン氏は、貧困対策の財源として5年間で12万人の公務員削減を主張していますが、おそらく、民営化にともなっての人員削減を実行に移すと予測されます。民営化されれば、当然に、効率性重視の大規模なリストラが実施され、全土に失業者が溢れることでしょう。しかも、民間企業ともなれば、もはや公務員ではありませんので、被雇用者をフランス国籍に限定する義務もなくなります。

 以上に主要な点を挙げてみましたが、何れもが、統合とは正反対の方向性を示しています。新自由主義政策は、”移動”や”格差”を利益の源泉としているため、国家や国民に対して強力な分解力として働くのです。このように考えますと、新自由主義者に統合力を期待することは、不可能に近いのではないかと思うのです。

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ルペン氏の敗因とは-”保守”に成りきれなかった?

2017-05-08 16:35:36 | ヨーロッパ
独首相、EU結束支持姿勢を評価=仏大統領選
 5月7日に実施されたフランス大統領選挙の決選投票において、結局、国際新自由主義陣営が推すマクロン氏が大統領に選出される運びとなりました。それでは、何故、ルペン氏は敗北したのでしょうか。今般の選挙では、マクロン氏が国民からの熱狂的な支持を受けて勝ったというよりも、ルペン氏が勝てなかったといった方が適切であるかもしれません。

 ルペン氏自身は国民戦線の保守政党化を目指しながら、マスメディアが、”極右”のレッテルを決して外さなかったことも然ることながら、同氏の公約には、フランスの一般的な保守主義者には受け入れがたい政策がありました。’保守’の定義の問題はありますが、特に安全保障において親ロシア路線を掲げており、NATOや独仏和解の象徴としてのEUを重視してきた従来のフランス外交とは、一線を画するものでした。過去において、18世紀の外交革命以降のフランスは(七年戦争における仏墺露の対普連合…)、ドイツ勢力を牽制するためにロシアと結ぶ傾向にはあったのですが、ルペン氏が示したフランス外交の基本路線の転換は、戦後の一般の保守層にとりましては、ハードルが高かったと言わざるを得ないのです。

 なお、ロシア関係においては、ルペン氏には、始終、プーチン大統領の影が見え隠れしていました。真偽のほどは分かりませんが、選挙に際してロシアからの支援を受けている、あるいは、ロシアが、マクロン陣営にサイバー攻撃を仕掛けているといったネット上に流布された情報は、同氏に対するぬぐい難い不信感をもたらし、ルペン陣営にマイナスに働いたことでしょう。

 また、ルペン氏は、国民投票を約しながらも、’EU離脱’というハードランディングを唱えるに終始した頑迷さも、保守層一般からの支持を集めることができなかった一つの要因と考えられます。思慮深いフランス・ファーストの保守政治家であれば、まずは、EUに対して、”人の移動の自由”や”設立の自由”(サービスの自由に含まれ、製造拠点の国境を越えた移転を意味する…)といった原則の見直しを求めたり、国境管理に関する主権を取り戻すといった、内なる改革案を提示したはずです(EUの主要メンバーである強みを活かした条件闘争…)。加えて、ユーロ圏離脱後のフランス・フランの地位についても、英ポンドの地位に類することになる訳ですから、具体的なプロセスや詳細を説明していれば、それ程、国民に動揺や不安感を与えずに済んだかもしれません。

 仮に、イギリスの保守党のように、親NATO、国民ファースト、及び、EUに対して国境管理権や通貨権限といった主権的権限の保持を訴える”保守”の政治家がフランスに存在したならば、マクロン氏に敗れることはなかったのではないでしょうか。新自由主義への反対から保守層への支持を広げつつもマクロン氏に敗れたのは、ルペン氏が”保守”になりきれなかったとろこにあるのではないかと思うのです。

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追い詰められる不幸なフランス国民

2017-04-26 15:20:11 | ヨーロッパ
【仏大統領選】マクロン氏が大はしゃぎ? 決選投票決定後に有名店で宴会 「成金候補」と批判
 フランスの大統領選挙では、第1回目の投票の結果、エマニュエル・マクロン氏とマリーヌ・ルペン氏が決選投票に残こり、5月7日の第2回目の投票により、いよいよ次期フランス大統領が選出されます。世論調査によりますと、60%以上の支持を集めてマクロン氏がリードしているとされていますが、この選挙、フランス国民を追い詰めているように思えます。

 当選挙は、巷では、”フランス・ファースト”と”グローバリズム・ファースト”の真っからの対立とも称されています。この対立軸での選挙は既にイギリスとアメリカを舞台に実施されていますが、メディアの予想が外れる現象がフランスでも繰り返されない限り、フランス国民は両国とは逆の選択をするものと予想されているのです。”極右よりはまし”というフランス国民の消去法的な選択と説明されているものの、この選択は、フランス国民にとりましては相当に酷です。何故ならば、マクロン氏の政策を見る限り、フランスを葬り去る可能性すらあるからです。”国民の選択”の名の下で…。

 投資銀行であるロスチャイルド銀行出身のマクロン氏の政策方針を見ますと、経済相時代に「マクロン法」と呼ばれた民営化や自由化政策を実現しており、自由主義、否、”新自由主義”に軸足を置いているようです。”グローバリズム・ファースト”のみならず、親EUの立場にもあり、優先順位としては、グローバリズム、EU、そしてフランスの順なのでしょう。当然に、移民受入にも積極的であり、多様性を尊重する立場から、移民を含む貧困層に予算を振り向け、社会統合の促進を目指すとされています。財政再建策としては、公務員の12万人削減を約束はしていますが(12万人の失業者はどうなるのでしょうか…)、移民対策に加えて、所得税や法人税の減税、500億ユーロの投資(再生可能エネルギーの促進、農業改革、医療介護分野でのイノヴェーション…)、警官の1万人増員やテロ対策強化…を計画しており、財政削減一辺倒ではないようです(新自由主義政策促進のためには予算は割く…)。

 マクロン氏の人物評としてはバランス重視ともされていますが、これらの政策は何れも極めて”新自由主義的”であり、バランスどころか極端な偏りが目立ちます。むしろ、国際経済勢力が計画し、日本国政府も導入を進めている新自由主義の政策綱領の”いろは”と言っても過言ではありません。氏が大統領に当選すれば、フランスは古来のフランス人の国では最早なくなり、”ミニ・世界市民社会”が出現することでしょう。しかも、今般、問題視されている行き過ぎたグローバリズムの欠陥や欠点は是正されず、ブレーキではなくアクセルが踏まれることで、さらにマイナス方向への拍車がかかるのです。もちろん、”ミニ・世界市民社会化”を支持する国民もありましょうが、少なくない一般フランス国民は、中間層からの脱落のみならず、かつてない程のアイデンティティーの危機と喪失感に苦しむのではないでしょうか。

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思わぬドイツ銀行救世主の登場

2016-10-07 09:51:53 | ヨーロッパ
低成長、長期化を懸念=IMF専務理事―G20
 ECBのマイナス金利政策や住宅担保ローン不正販売の件でアメリカ司法省から巨額の和解金の支払いを求められたこともあり、ドイツ銀行は、現在、経営危機の最中にあります。ドイツ国内では、同行の破綻を想定してか、家庭用金庫の販売が伸びているとの指摘もあります。

 ドイツ銀行の経営危機に対しては、メルケル首相は、これまでのところ政府による救済については消極的な姿勢なようです。一民間金融機関の救済に、国民が納めた税金が投入されたのでは国民からの反発を招く、というのが救済に尻込みする理由なのでしょう。しかしながら、家庭用金庫が実際に一般のドイツ国民によって購入されているとしますと、既に、水面下においては、ドイツ銀に預金口座を有する国民による預金の引き出しが起きており、一般国民の財産喪失の危機感も高まっているものと推測されます。ドイツ銀の破綻はドイツ全体に与える影響は計り知れないのですが、少なくとも政府の態度は、冷ややかなのです。一方、IMFのラガルド専務理事も、ドイツ銀に関連して「多くの銀行は現在の金融情勢に合わせ、ビジネスモデルを見直していく必要がある」と語り、自助努力を説くに留めています。それでは、誰も、ドイツ銀に救いの手を差し伸べないのでしょうか。実のところ、思わぬところから、救世主が登場するかもしれないのです。

 メルケル首相の否定的発言があった後だけに、殊更に強い印象を残したのが、ドイツ企業によるドイツ銀支援声明です。シーメンスといったドイツ企業大手が名を連ねていましたが、”ドイツ銀は、内外におけるドイツ企業の活動を金融面から支える重要なパートナーであり、今後とも、ドイツ銀を支えてゆく準備がある”旨を述べたのです。支援の具体的な内容が、ドイツ銀に対する資本増強資金の提供や早期債務返済等の資本・財務面での支援であるのかは不明ですが、グローバル化の時代とされながら、政府にも見捨てられそうなドイツ銀に、最後に救いの手を差し伸べたのが、外でもない民間のドイツ企業であるとしますと、これは、極めて興味深い”政府抜き”のナショナリスティックな現象です。

 そして、もう一つ、思わぬ救世主が出現するとしますと、それは、EUです。ギリシャ危機に代表されるソブリン危機を経験したEUは、再発防止のために、総額7000億ユーロの基金を擁するESM(European Stability Mechanism))と呼ばれる救済メカニズムを設立しました(2012年10日8日から運営開始)。主たる救済の対象は、財政危機に陥っている加盟国政府ではあるものの、金融危機の連鎖性を考慮し、経営危機にある民間金融機関をも救済対象に含める方針を示しています。現在、ギリシャ政府はESMからの救済融資を受けていますが、ギリシャ危機に際して救済に最も難色を示したドイツの銀行もまたESMによって救済され、そして、それが自らをも救うことを意味するとなりますと、何とアイロニーに満ちた運命なのでしょうか。

 実際にドイツ銀が救世主を必要とするほど深刻な状態にあるのかは分からず、また、事の重大に気が付いた、もしくは、世論に押されたドイツ政府が、自ら救済に乗り出すかもしれません。しかしながら、上述した思わぬ救世主登場の可能性は、世の中は単純ではないことを示しております。ドイツと言えば、戦前にあってナチス政権下に国家ナショナリズムを経験した国ですが、今般の’政府抜き’のナショナリズムであれ、EUの地域主義であれ、ドイツが新たな局面を迎えていることを示唆する注目すべき現象ではないかと思うのです。

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もし中国市場へのアクセス条件が”人の自由移動”であったならば?

2016-10-04 15:10:39 | ヨーロッパ
EU離脱でメイ英首相、来年3月末までに交渉開始=保守党大会で演説へ
 98%の国民が難民割当に反対票を投じたハンガリーの国民投票は投票率の低さから不成立なりましたが、イギリスのEU脱退に続き、EUでは不協和音が響いているようです。その一方で、人の自由移動こそ、堅持すべきEUの原則であるとするEU側の見解には変化は見られません。

 メイ英首相は、来年3月末までにEUとの離脱交渉を開始する方針を示していますが、人の自由移動に関する方針が真っ向からぶつかるため、EU側との交渉は難航が予測されます。EUの柔軟性を欠いた頑強な態度には驚かされるのですが、この問題を中国市場に置き換えてみますと、どうなるのでしょうか。

 EU28か国を合わせた欧州市場の総人口は凡そ5億人であり、GDP総計ではアメリカを凌ぐ世界第一位の経済規模です。一方、GDPでは欧州市場よりは劣るものの、中国の総人口は13億とEUの2.5倍です。双方とも巨大市場であり、それ故に、イギリスを含めた全ての諸国は、これらの市場へのアクセスを重視しているのです。EU側は”規模の強み”を握っており、イギリスに対して、高飛車な態度で”自由に欧州市場にアクセスしたければ、人の自由移動を受容せよ”と迫る理由もここにあります。それでは、中国が、仮に、自国市場へのアクセス条件として人の自由移動を認めるよう要求した場合、他の諸国は、この条件を飲むことはできるのでしょうか。巨大市場であることは、同時に、人口規模も巨大であることを意味します。つまり、13億の中国人が、大量に、国境を越えて自由に移動を開始するとなりますと、人口規模の小さな諸国はひとたまりもありません。おそらく、経済分野に留まらず、政治も、社会も、文化も、中国人パワーに押されて激変してしまうことでしょう。比較的人口規模の大きい日本国でさえ、人口は、中国の十分の1に過ぎません。もっとも、共産党一党独裁体制の下にある中国市場は、政府系企業優遇措置や統制経済的手法を残していることに加えて、消費市場としても十分に成長しているとも言えず、それほど魅力的な市場ではなくなってはいますが…。

 欧州市場を中国市場に置き換えてみますと、EU側の要求が、如何に無理難題であるのか理解できます。巨大市場へのアクセスは確保できても、人の自由移動の条件を受け入れたことから、国民の過半数を占めるに至った移住民が政治的権利を主張するようになり、もとからの住民が将来的には祖国を喪失し、国家の独立性やナショナル・アイデンティティーも危うくなるのですから。EUが、EEC創設以来の原則という理由だけで、頑なに人の自由移動の原則に拘っているとしますと、前例踏襲の悪しき官僚主義に陥っているのかもしれません。果たしてEUは、欧州の人々を何処に連れてゆこうとしているのでしょうか。

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”裏プロジェクト”としての”EU市民統合”の表面化

2016-10-03 14:57:37 | ヨーロッパ
ハンガリー国民投票不成立=要件満たさず―難民受け入れ反対98%
 欧州統合と申しますと、直ぐに頭に浮かぶのは、経済分野における華々しいプロジェクトの数々です。60年代には関税同盟を実現し、90年代にはEUを創設すると共に、単一欧州市場をも完成させました。そして、単一通貨ユーロの登場は、EUが、不可能という声を押しのけて成し遂げた壮大なる構想として知られています。しかしながら、現在、イギリスが国民投票によってEU離脱を決定し、ハンガリーでも、EUによる難民割当に対する不満が98%の反対という国民投票の結果に表れています。

 ハンガリーでの国民投票は、有効投票数が50%を切っているために不成立ではあるのですが、棄権票を考慮しても、EUの難民政策に対する国民の強い不満が伺えます。今に至り、何故、かくも移民・難民問題が深刻化してるのかと申しますと、人の自由移動の実現は、”裏プロジェクト”であったからではないかと思うのです。経済分野におけるプロジェクトは、表舞台において堂々と推進されており、誰もがその内容や影響について凡そ理解していました。その一方で、人の移動の自由化は、EEC時代から目指すべき基本原則として掲げられつつも、その具体的な内容については、十分なコンセンサスが形成されていたとは言い難い面があります。況してや、”EU市民統合”といった名称で、プロジェクト化されていたわけでもありません。内容や範囲が曖昧な内にEU主導で進められ、国民が気が付いた時には、国家の根底を揺るがす重大事に発展していたのです。加盟国の拡大や国際情勢の変化によって、移民数や難民数も劇的に変化し、当問題への効果的な対応を理由にEUの権限も拡大するのですから、加盟国政府や国民にとりましては、”こんなはずではなかった”ということになるのでしょう。”欧州市民統合”の行き着く先には、国民の枠組みの融解させ見えています。

 人の自由移動の原則に基づく”EU市民統合”が、EU統合に付随する不透明な”裏プロジェクト”であったことは、今日、EUのみならず、加盟国をも不安定化し、国内分裂の要因にもなりかねません。人の自由移動とは申しましても、ビジネスや観光等による一時的な移動もあれば、現地での就業や社会保障の享受等を伴う定住型の移動もあるのですから、移民・難民問題が噴出したのを機に、人の自由移動の曖昧さと加盟国間のコンセンサスの欠如がもたらす問題について、EUは、方向性の見直しを含め、真剣に向き合うべきではないかと思うのです。

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イギリスのEU離脱再投票の否定ーやり直しても結果は同じ?

2016-07-10 14:50:36 | ヨーロッパ
国民投票のやり直し行わず 英政府が明確に
 先月23日にイギリスで実施された国民投票は、大方の予想を覆し、離脱派の勝利に終わることとなりました。この結果を受けて、イギリス政府に対して、再投票を求める請願が410万も寄せられたそうです。やり直しを求めているのは残留に投じた人々なのでしょうが、その一方で、離脱による影響の大きさに慄き、自らの投票に後悔している離脱派も少なくないとの指摘もあります。それでは、やり直し投票を実施したとしますと、投票結果は、逆になるのでしょうか。

 英政府の対応を見ますと、国民投票のやり直しを求める請願に対しては、正式にこれを否定したと報じられております。仮に、離脱に投じた国民の大半が真剣に投票結果を変えたいと望んでいるとしますと、政府も、その道を探ったかもしれません。しかしながら、やり直し投票を実施しても結果は同じとなる公算が高いと見て、きっぱりと否定したのではないかとも憶測するのです。あるいは、また、仮に、国民投票をやり直して残留派が勝利したとしても、今度は、離脱派から選挙のやり直しを求める同規模の請願が殺到することが予測され、再度、選挙のやり直しを実施せざるを得なくなります。離脱派と残留派の人口比が僅差である以上、国民投票のやり直しは永遠に続く、といった奇妙な事態ともなりかねないのです。

 このように考える理由は、EU離脱には、プラス・マイナスの両面があり、立場によって評価も違うからです。EUからの離脱により、ポンド安のみならず、不動産価格の下落も予測されており、イギリスの不動産投資ファンドでは将来への悲観から解約が相次いでいるようです。この現象は、確かに離脱のマイナス影響と見られがちですが、離脱派の人々にとりましては、決して”悪いニュース”ではないのかもしれません。何故ならば、近年、イギリス、特にロンドンでは不動産バブルが発生し、不動産価格の上昇により一般のイギリス国民がロンドンに住むことが難しくなっていたからです。ロンドンの人口が、過半数を越えて移民系となった理由も、全世界の富裕層が集まる”コスモポリタン都市”に変貌したからに他なりません(その一方で、SOHOなどのスラム地区では移民労働者が増加…)。不動産価格の下落は、一般の人々にとりましては、都心の不動産が手の届く範囲になるのですから、朗報ですらあるのです。また、ポンドの下落も、輸出競争力を考慮すれば、これもまた、必ずしも”悪いニュース”ではありません。金融シフトにより製造業が衰退したとはいえ、産業革命の発祥の地であるイギリスの産業基盤は、まだまだ強固であるとする指摘もあります。

 以上に述べたように、プラス・マイナス両面の評価に注目しますと、たとえ国民投票をやり直したとしても、一般のイギリス国民が、必ずしも残留を選択するとは限らないように思えます。”真の豊かさや幸せとは何か”を問う時、そこには、経済規模や経済成長率では測れない”何か”があるのではないかと思うのです。

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EUの”いいとこ取り”は中東欧諸国?-受益と負担の不均衡

2016-07-05 16:54:25 | ヨーロッパ
英とEU、ブレグジット後も市民の在住権利継続を=英移民担当相
 イギリス国民の多数がEU離脱を決断した最大の理由は、移民問題にあります。年間、30万人もの移民が押し寄せるのですから、イギリス人が悲鳴を上げるのも頷けます。

 イギリスへの移民は、域外からも然ることながら、域内、特に2004年5月の第5次拡大以降にEUに加盟した中東欧諸国からの移民が群を抜いています。ポーランド人移民が既に80万人を超え、2014年から規制が解除されたルーマニアやブルガリアからの移民も増加しているそうです。イギリスにしてみますと、EUへの加盟により、大量移民の受け皿となる一方で、当初主張されていた額よりは少ないとはいえ、年間で計算して凡そ7000億円のEUへの財政移転を引き受けていることになります。デメリット面が誰の目にも明らかなほど表面化しているのですが、その一方で、EU加盟のメリットの最大の享受国は、中東欧諸国です。インフラ整備などにEU予算が投入されていますし、安価な不動産価格や労働力は、製造拠点としての強みでもあります。その上、若年層を中心に西欧諸国に移民を送り出すことができるのですから、失業問題も緩和できます(西欧から東欧への逆パターンの移民は少ない…)。先日、EU側は、イギリスに対して”いいとこ取り”は許されない、と釘を刺しましたが、EUで”いいとこ取り”をしている加盟国があるとしますと、それは、中東欧諸国なのです(一人勝ち状態とされるドイツもまた、移民問題には苦しんでいる…)。

 このように、EU全体を見ますと、加盟国間に受益と負担の不均衡が見られます。仮に、真っ先に負担に耐えられなくなったのがイギリスであるとしますと、受益側である中東欧諸国は、受け入れ国側の人々の苦境を理解し、人の自由移動については譲歩すべきなのかもしれません。国造りに必要となる人材流出を止めるという面においても、この譲歩は、必ずしもマイナスとは限らないかと思うのです。 

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英EU離脱とポーランド問題-人の自由移動のパラドクス

2016-06-30 15:10:15 | ヨーロッパ
「早期の離脱通告」要求=英抜き首脳会議で結束確認―EU
 EU離脱を問うイギリスの国民投票は、終盤では移民問題が主たる争点となりました。最も多いのがポーランド人移民なのですが、この現象は、ポーランド問題の深刻さをも露わにしています。

 2014年の統計によりますと、イギリスにおけるポーランド人移民の数は83.3万人に上るそうです。イギリスは、ヴィザやパスポートなしでの入国を可能とするシェンゲン・アキからはオプト・アウトしているものの、EU域内であれば、人の自由移動は原則自由ですので、働き口さえあれば無制限にイギリス国内に居住することができます。それでは、何故、群を抜いてポーランド人移民の数が多いのでしょうか。

 その理由の一つには、グローバル言語とも化している英語が通用することや、既に親族等が居住していることも挙げられるのでしょうが、ポーランド側にも要因がありそうです。昨今、ポーランドでは、政権側が報道統制を強めるなど、”プーチン化”が懸念されております。ロシアの影響力の拡大を警戒してか、EUも、ポーランド政府に対して警告を発していますが、崩壊したはずの旧社会・共産主義体制への揺り戻しが見られるのです。その原因の一つに、自由主義や民主主義にシンパシーを感じ、かつ、高い技能をも備えた若者たちが、国外に流出しているという現実があります。自国に留まって、ポーランドを自由で民主的な国家とすべく、忍耐や努力を要する国造りに参加するよりも、てっとり早く自由が満喫できる”西側諸国”に移住してしまうのです。政権側が強権志向を強めれば強めるほど、この傾向に拍車がかかります。この結果、ポーランドには、社会・共産主義体制に慣れ親しんできた中高齢者層が残り、国家としての活力を失う結果を招いているのです。1989年の東欧革命がポーランドの地から始まったことを思い起こしますと、俄かには信じられない事態です。

 ポーランドで起きている現象は、多かれ少なかれ、他の中東欧諸国でも観察されることでしょう。人の自由移動による若年人口の流出が、ロシアと接する中東欧諸国を徐々に親ロ派に染めてゆき、東部国境地帯の弱体化を招来しているとしますと、これほど皮肉な結果もありません。現在の欧州理事会常任議長のトゥスク氏もポーランド出身ですが、EUの掲げる人の自由移動には、深刻なパラドックスが潜んでいると思うのです。

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対英離脱交渉の行方ー欧州委員会v.s.加盟国となるのか

2016-06-27 15:36:25 | ヨーロッパ
英離脱で温度差も=28日から首脳会議―EU
 イギリスのEU離脱が決定されたことにより、国際社会の関心は、EUとイギリスとの間の離脱交渉の行方に移りつつあります。離脱交渉に際しては、EU側が、交渉妥結の条件として、イギリスに対して”人の自由移動”を認めるよう迫るのではないか、とする憶測もあります。

 この憶測通りに展開するとしますと、移民問題への危機感から離脱に投票したイギリス国民とりましては、離脱の成果が消滅することになるのですが、果たして、EU側は、実際に”人の自由移動”の承認を条件化するのでしょうか。ユンケル欧州委員会委員長の発言や行動を見ておりますと、イギリスに対する”懲罰的”な意味合いから、欧州委員会側が、”人の自由移動”の承認を要求する可能性は決して小さくはありません。移民・難民問題でも、”人の自由移動”の原則こそ、ユンケル委員長にとっての死守すべき砦であったようにも見受けられます。その一方で、EU加盟国はどうかと申しますと、少なくとも国民レベルではイギリスに同情的な意見も少なくなく、また、政府レベルでもイギリスとの友好関係の維持に積極的な加盟国も見られます。”人の自由移動”は、全ての加盟国にとりまして問題含みであるからです(国家喪失の危機感…)。対英離脱交渉に関しては、加盟国間のみならず、委員会とEU加盟国との間にも温度差が見られるのです。

 EUの通商政策の決定手続きを見ますと、委員会には提案権があっても、EU加盟国の閣僚から構成される理事会に主たる決定権があります。となりますと、委員会が望むほどには対英懲罰的な交渉とはならず、”人の自由移動”についても、何らかの見直しが図られる可能性もないとは言えません。対英交渉に先立って、EU内部での意見集約の行方が注目されるところなのです。

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