万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の核自衛論は日本国の核武装を正当化する:現在の核保有状況はNPT条約の正当なる終了事由を満たしているのでは?

2024年06月18日 11時29分43秒 | 国際政治
 先日6月17日、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、世界各国の核保有に関する推計を発表しています。同報告に因りますと、核保有国の攻撃力並びに脅威はさらに高まっているようです。核保有国による核戦力の拡大増強は、それだけ非核兵器国の安全が脅かされることを意味するのですが、国際社会はNPT体制の維持を優先し、この現状を看過すべきなのでしょうか。

同報告は、核保有について中国の保有する核弾頭数が今年の1月の時点で500発に上り、昨年との比較では90発増えているとしています。しかも、今回の報告では、中国の核の内24発は、初めて「貯蔵弾頭」から「配備弾頭」へと分類を変えています。同ペースで増加し続けますと、10年以内には中国が保有するICMB数は米ロに並ぶとされ、中国は、核を本格的に実戦に投入する体制を整えつつあるのです。

 また、NPTからの脱退を宣言し、不法に核を開発・保有するに至った北朝鮮についても、昨年比で20発増えており、合計で50発は保有していると見ています。僅か1年の間で倍増とまでは行かないまでも30発から50発まで増やしたのですから、中国を上回る増加率です。おそらく、その背景には、ウクライナ紛争を機としたロシアとの軍事関係の緊密化があるのでしょう。ロシアとしては、自らは核の威嚇や核攻撃に手を染めず、北朝鮮、あるいは、ベラルーシを‘実行犯’に仕立てる戦略なのかも知れません。

 NPTにあって合法的な核兵器国である中国のみならず、暴力主義国家である北朝鮮までもが急速に核戦力の増強を図っている現状が明らかとされたのですから、全世界の非核兵器国には緊張が走り、戦々恐々となります。軍事同盟によって核兵器国から核の傘を提供されるはずの諸国も、いざとなれば‘開かない傘’か‘破れ傘’になる可能性も高く、不安は募る一ばかりです。何故ならば、中国、ロシア、北朝鮮と言った暴力主義国家からの核攻撃を防ぐ手段が、‘核なき世界’や‘核兵器廃絶’の美名の下で封じられているからです。しかしながら、こうした中国、ロシア、北朝鮮並びにイスラエルが国際社会に齎す核の脅威は、NPTを終了すべき根拠を自ら提供しています。

 第一に、中国を初めとする核を保有する諸国は、NPTが定める核兵器国の義務に違反しています。先ずもって、同条約は、核兵器の他国への拡散のみならず、その第6条において核軍縮について軍縮条約を締結するように求めています。欠陥と言えるほどに核兵器国に対する制約が甘い同条約にあって、核兵器国に義務を課す条文なのですが、同条文が、核兵器国に対して暗に核弾頭数の削減を求めていることは容易に理解されます。否、そもそも同条約は、核戦争の防止を目的に制定されたのですから、中国、ロシア、北朝鮮による攻撃力としての核保有は、同条約の正当なる終了事由となることは言うまでもありません。攻撃力としての核の保有・使用は‘核戦争’を意味しますので、同条約制定の基礎を破壊しているのです。NPTは、条約法条約に定める条約違反(第60条)、後発的履行不能(第61条)、事情の根本的変化(第62条)の何れに照らしましても、むしろ‘終了させるべき条約’なのです(特に、イスラエルや北朝鮮の核保有等は、事情の根本的変化に該当する・・・)。

 ストックホルム国際平和研究所報告は、中国の核軍拡に対する国際的な批判を呼び起こすことにもなりましたが、同批判に対して、中国外務省の林剣副報道局長は、「自衛のための核戦略」と述べ、その正当性を主張しています(軍事大国が自衛を主張するナンセンス・・・)。500発という弾頭数からしますと、到底、自衛目的とは考えられないのですが、自衛を以て核保有を正当化するならば、当然に、他国に対してもこれを認めるべきです。どの国、あるいは、誰が、自衛のための核は持ってはならないと言えるのでしょうか。核の使用を自国の戦略に組み込んでいる、即ち、核戦争を想定している核兵器国が‘自衛’を口実にする一方で、他の諸国は、核戦争の回避を目的とした条約に縛られ、自衛の手段として核の抑止力さえ備えることが出来ない現状は、どのように考えましても狂っています。第二点として、自衛のための核保有をも否定するNPTは、道理に反しているのです。

 そして第三に、何よりもNPTは、法の前の平等、並びに、刑法の一般適用性という近現代法の基本原則にも反しています(所謂‘不平等条約’)。核兵器保有国は、国際社会において悪を取り締まる‘正義力’として武力を独占し得る警察の立場にあるわけではありません。‘パックス・アメリカーナ’を自負してきたアメリカでさえ、オバマ政権時代に‘世界の警察官’の職を辞職しています。治安維持の分野では、理性に照らして誰もが納得する行動規範を法として定め(国内法であれば、殺人、傷害、窃盗、人身売買、詐欺等であり、国際法では、侵略、ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪など・・・)、その法を全ての構成員から超越した中立・公平な機関が執行、並びに、適用しないことには、全ての人々の基本的な自由と権利を護り、安全な社会をもたらすことはできません。同観点からしますと、国際社会の現状は、法が、特定の凶悪で凶暴な暴力団に特別の地位を与え、合法的かつ独占的に暴力手段の所持を認めているようなものです。しかもその間、不法に銃刀を所持する暴力団も出現しているのですから、常識や理性がある人々から見ますと、現状は耐え難き馬鹿馬鹿しさなのです。

 以上に述べてましたように、今日、NPTの欺瞞性がいよいよもって誰の目にも明らかとなってきております。非核兵器国の立場にあるNPT加盟国は、同条約の終了を提起すべきですし、とりわけ日本国は、中国並びに北朝鮮の核兵器の脅威に直面しているのですから、同条約からの合法的な脱退も選択肢の一つであると思うのです。

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