万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘最後通牒’に聞こえてしまうトランプ大統領の発言

2018年08月31日 17時37分37秒 | 国際政治
 北朝鮮による非核化作業が遅々として進まず、6月12日の米朝合意の行方も不透明感を増す中、トランプ米大統領は、米韓共同軍事演習の再開について興味深い発言をしております。次に同演習が再開される時は、それは、‘かつてない規模になるだろう’と…。

 トランプ大統領の発言に先立って、マティス国防長官は米韓合同軍事演習の予定通りの実施を示唆しておりましたので、同発言は、トランプ政権内の不協和音ではないかとする憶測もあります。11月に実施される中間選挙を前に、米朝トップ会談の成果を外交実績としてアピールしたいトランプ大統領にとりましては、米朝合意の破綻はマイナス材料となるからです。そこで、早々に、マティス発言を打消したというのが、‘足並み乱れ説’の見解です。

 確かに、トランプ大統領は、金正恩委員長に対する個人的な信頼感から北朝鮮に対して与えた約束、即ち、米韓共同軍事演習の中止を維持しようとしているように見えますが、信頼一辺倒でもないことは、上述した言葉から分かります。同発言は、マティス国防長官、並びに、アメリカ国内のみに向けられているのではなく、北朝鮮、そして、同国を背後から支える中国に対しても強力なメッセージとなっているからです。

 それでは、どのようなメッセージであるのかと申しますと、まずは、北朝鮮に対しては、仮に、現状のまま非核化を遅らせて時間稼ぎに終始するならば、‘かつてない規模の演習’を実施すると言うものなのでしょう。そして、この‘かつてない規模の演習’とは、軍事制裁=対北軍事行動そのものを婉曲に表現したのではないかと推測するのです。乃ち、国内向けを装った同発言は、北朝鮮に対する事実上の“最後通牒”、あるいは、決断を迫ると言う意味おいて同様の効果を狙っていたこととなります。そしてそれは、名指しで批判された北朝鮮の後ろ盾である中国に対する重大な警告でもあるのかもしれません。軍事力行使をも厭わない、アメリカの断固たる決意を示す…。

 今般の発言では、北朝鮮と中国は一体化されて捉えられております。果たして、北朝鮮、そして中国は、トランプ大統領の発言に対して、どのような反応、あるいは、具体的な行動を示すのでしょうか。仮に、アメリカの要望に沿う形での対応があった場合には、アメリカの軍事力が、中国、並びに、北朝鮮に対する強力な抑止力をなおも保持していることとなります。そして、逆のケースの場合、即ち、アメリカからのメッセージを両国が無視した場合には、東アジアにおける軍事的緊張は、数段に高まるのではないかと思うのです。

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