万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカによる日韓対立仲介案の行方

2019年07月31日 14時05分02秒 | 国際政治
 日に日に激化する日韓対立に業を煮やしたのか、両国の同盟国であるアメリカが、日韓対立を緩和させるための仲介案を両国政府に提示したと報じられております。詳しい内容は不明なのですが、同仲介案によって、果たして日韓関係は改善されるのでしょうか。

 同報道に依りますと、アメリカが提示した仲介案では、日本国政府に対しては、日韓両政府の交渉期間中という条件付きで、輸出措置において優遇を与える「ホワイト国」から韓国を除外する手続きの停止を求めているそうです。つまり、対日提案は、事実上の対韓輸出規制強化措置の延期となりますが、仲介案である以上、一方の当事国にのみ妥協や譲歩を求めることはあり得ません。そこで対韓提案として推測されるのは、(1)イランや北朝鮮といった第三国に対する輸出規制の強化、並びに、(2)所謂‘徴用工訴訟’において賠償命令を受けた日本企業の資産売却の停止、あるいは、調停委員会の設置、もしくは、ICJへの共同提訴への合意の二つです。日本国政府としては、この二つの提案内容を全て無条件に韓国側が飲むのであれば、あるいは、「ホワイト国」からの除外を思い止まるかもしれません。しかしながら、事はそれ程に簡単には解決しないように思えます。

 日本国政府は、今般の対韓輸出規制の強化について、公式には安全保障上の懸念を理由として挙げてきました。このため、アメリカは、始めから韓国側に対して(1)の提案こそすれ、(2)については言及していない可能性もあります。アメリカとしての最大の懸念は、韓国を経由したイラン、北朝鮮、並びに、中ロといった諸国に対する軍事転用可能な日本製ハイテク素材の流出ですので、(2)の問題に対する関心は相対的に低いかもしれません。あるいは、たとえアメリカが(2)を仲介案に含めたとしても、韓国側は、上記の日本国政府の説明を理由として受け入れを拒絶する可能性もあります。

 それでは、仮に、アメリカの仲介の結果、(1)の条件のみで日韓両国が合意に達した場合、即ち、日本国側が「ホワイト国」からの除外を止める一方で、韓国側は、輸出管理の徹底を図るという線で交渉が纏まった場合、どのような事態が起きるのでしょうか。この場合、(2)の問題が積み残されますので、日韓関係の悪化を防ぐ効果は期待できません。とりわけ、韓国側が日本企業の資産売却に着手すれば、日本国政府のみならず、世論の対韓感情はさらに悪化することでしょう。つまり、(1)のみによる解決は、仲介者であるアメリカの意図とは逆に日韓関係をさらに拗らせる結果を招くのです。また、合意成立後も、韓国側が輸出管理の厳格化を怠った場合には、日米両国から韓国政府は信頼を失い、交渉の努力は水泡に帰することとなりましょう(結局、「ホワイト国」から除外される…)。

 その一方で、仲介案に(2)が含まれており、かつ、韓国政府がこの提案を受け入れるとしますと、今度は、反日に凝り固まっている韓国側の世論にヒステリックなまでの‘逆切れ’が起きるかもしれません。この結果、文政権の支持率はさらに低下し、次期大統領選挙を待たずして退陣に追い込まれる可能性もないわけではありません(文大統領にとりましてはリスクの高い賭け…)。韓国世論の反日感情は、日本側の肩を持ったとして、仲介役を引き受けたアメリカにも向けられかねないのです(トランプ大統領にとりましてもリスクの高い賭け…)。

 なお、もう一つの可能性として指摘し得る点は、そもそも同仲介案は合意を想定したものではなく‘時間稼ぎ’に過ぎないのではないか、とする疑いです。何故ならば、今般の日本国政府の措置は、対話では埒が明かないことが分かりすぎる程分かった結果であるからです。時間を稼ぎたい理由がどこにあるのか不明なものの、アメリカの政界にも様々な勢力が蠢いておりますので、あるいは、中国や韓国等と利益を共にする団体によるロビー活動の結果なのかも知れません(日本製素材の輸出先諸国等…)。

 以上に、安全保障、並びに、所謂‘徴用工訴訟’の二点からアメリカの仲介案についてその行く先を推測してみましたが、その行く先には暗雲が立ち込めているように思えます(もっとも、菅官房長官は、仲介案の存在を否定している…)。同仲介案については日韓両国に署名を迫っているとも報じられているものの、韓国政府が合意に拘束されるとは限りませんので、日本国政府は、慎重には慎重を期して臨むべきではないかと思うのです。

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‘半グレ’の支援者は誰?

2019年07月30日 18時43分26秒 | 国際政治
先日、NHKが特集として放映した‘半グレ’なる集団の実態をルポルタージュした番組は、今日、日本国が置かれている危機を浮き彫りにするものでした。そして、特に気にかかりますのは、正体不明の支援者の存在です。

 同番組に登場した‘半グレ’のメンバーの一人は、自らの組織が急速に成長した理由として、資金面での支援者があったと証言しております。暴力団を使うよりも、暴対法の対象とはならず、組織形態の曖昧な‘半グレ’の方が‘使いやすかった’と言うのです。確か、‘財界’、あるいは、‘VIP’と表現していたように記憶しています。この言葉を文字通りにとれば、経団連に名を連ねる企業や一部上場企業、あるいは、メガバング等が‘半グレ’の支援者となるのですが、日本国内では、反社会勢力との関係が疑われただけで世論の激しい批判を浴びますし、社会的な信用を落としてしまいます。こうしたリスクを考慮すれば、日本国の財界が、‘半グレ’のスポンサーであったとは俄かに信じられません。そこで、諸外国の投資家、あるいは、闇金融系の投資ファンド等からの支援の方が遥かに可能性は高いと考えたのですが、本ブログに寄せられましたコメントに依りますと、その人物は、日本国内に居住する日本人とのことなのです。

 それでは、一体、この謎の人物は、誰なのでしょうか。同コメントが語るには、この人物には日本国の警察権が及ばず、逮捕することもできないそうです。日本国は法治国家であり、かつ、法の前の平等を原則としておりますので、憲法上は会期中の国会議員を除いて不逮捕特権はいかなる人にも認められておりません(天皇については摂政について定める第21条からの類推に過ぎず、明文の規定ははい…)。仮に、‘半グレ’に対して莫大な資金を援助して育て、自らの利益のために利用している人物が野放しにされているとしますと、日本国は、腐敗国家の一員と云うことになりましょう。

内戦と称されるほど麻薬戦争が闘われているメキシコでは、麻薬組織側と内通している政府高官が存在しているために、その撲滅が難しい状況にあります。政府や国会議員、あるいは、警察上層部と結びつき、‘半グレ’の黒幕、あるいは、スポンサーになりながら公然と捜査や逮捕を免れている人物が存在しているとすれば、日本国もまた、メキシコに負けず劣らず犯罪国家化の危機にあると言えます。‘半グレ’は、オレオレ詐欺の実行部隊でもあるため、被害にあった一般日本国民の数は計り知れません。おそらく、国民は知らなくとも、日本国政府はその人物が誰であるのか分かっているのでしょうから、‘半グレ’を影で操ってきた闇の人物を逮捕し、統治責任を誠実に果たすべきなのではないでしょうか。

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リブラは途上国の貧しい人々を借金漬けにする?

2019年07月29日 15時52分39秒 | 国際政治
先日、フェイスブックが公表した「リブラ構想」は、マネーロンダリングといった安全性や個人情報保護の問題に加えて、国家の金融・通貨に関する権限をも侵食するため、多方面から反発を招いています(しかも、通貨発行権の獲得は‘濡れ手に粟’…)。こうした批判に対して、リブラをより肯定的、かつ、楽観的に捉えようとする意見もないわけではありません。

 リブラ肯定派の人々のモットーは、‘超テクノロジー時代には意思ある楽観主義者になれ’というものらしく、‘「リスク要素が全部クリアにならない限りは止めておこう」という悲観主義では、ビジネスも社会も前進しない’と考えているようなのです。乃ち、‘信じる者は救われる’とする信仰にも似た信念を掲げてリブラの誕生に期待しているのです。しかしながら現実をみますと、必ずしも‘信じる者は救われる’わけではなく、古今東西を問わず‘信じたが故に酷い目に遭う’事例は枚挙に遑がありません。未来に偽りの理想郷を提示して誘い込む手法は‘メビウスの輪戦略’の一つでもありますので、ここは、楽観主義者の主張を鵜呑みにしてはいけない場面なのかもしれません。

 そこで、楽観主義者が主張するリブラのメリットについて検討を加えてみることとしましょう。フェイスブックの説明によれば、同構想が計画された主たる目的の一つは、銀行口座を持っていない全世界の17億の人々を救うことにあります(もう一つは、国際送金の低コスト・簡便化…)。つまり、フェイスブックは、多くの良識ある人々から賛同を得られるように貧しい人々が金融の恩恵に与れるという‘人助け’を表看板に掲げているのです。しかしながら、リブラ構想は、実際に‘人助け’になるのでしょうか。

 フェイスブックが‘人助け’を主張する根拠は、17億の人々が銀行口座を持てない理由を、その信用力の低さに求めているからです。しかしながら、この問題、途上国の銀行が邦銀のように無審査、維持費無料、ネット・郵送申請可の口座開設サービスを始めれば、簡単に解決してしまいます(もっとも、本人確認の作業は要しますが、仮に、フェイスブックが金融事業を始めれば、本人確認なしのモバイルウォレット開設では安全性が低いとして不許可になるのでは…)。休眠口座が多数存在しているように、銀行にとりましては、個人口座の開設自体には然程のコストがかかりませんし、預金額がゼロでも何らかの損害を受けるわけでもありません。ですから、17億人の無口座救済説は疑わしいのです。

 それでは、何故、フェイスブックが‘救済’を強調するのかと申しますと、本当のところは、同社は、17億の無口座の人々に借金をさせたいのかもしれません。低信用力⇒無口座⇒リブラの利用⇒リブラによる負債のほうが、よほど論理的な流れとしては自然です。もちろん、途上国においてスモール・ビジネスを始めるに必要な初動資金を融資するケースもありましょうが、17億という人口を考慮しますと、これらの人々が一斉に企業家になり、事業に成功するとは思えません(仮に、この可能性があれば、既存の銀行でも積極的に融資するはず…)。人口増加が著しい途上国の現状からしますと、リブラの利用によって無審査・無担保・低利子で融資が受けられるのならば、むしろ、起業ではなく消費、あるいは、家計補填のために借入金を増やす可能性の方が高いように思えます。

 かつて、歴史上には債務奴隷と云う奴隷の形態がありましたが、リブラによって貧困にある人々に債務を負わせるとなりますと、借金返済のためにどのような事態が発生するのか、不安にもなります(返済に困った末の犯罪も増加するかもしれない…)。17億の人々を救うためには、リブラによってモバイルウォレットを提供するよりも、途上国の人々が安定した生活を営めるよう、産業の発展を支援する方が余程効果的な方法ではないかと思うのです。

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「半グレ」問題から見える日本の危機

2019年07月28日 11時15分22秒 | 日本政治
昨日7月28日の晩、NHKスペシャルとして「半グレ」なる反社会組織に関する番組が放送されておりました。「半グレ」という聞き慣れない組織は、指揮命令系統や構成員等がはっきりしている暴力団などとは違い、ネットワーク状に広がるアモルフォスな形態の犯罪集団であり、警察も取締りに苦慮しているそうです。しかも、一般の人々との境が年々不明瞭になってきており、同組織の犯罪に加担してしまった一般の男子学生のケースも紹介されておりました。この「半グレ」番組、実のところ、今日の日本が抱える様々な危機を浮き彫りにしているようにも思えます。そこで、本記事では、「半グレ」番組から日本の危機を読み解いて見ることとします。

 第1に指摘すべき点は、「半グレ」が出現した背景には、中国残留孤児の帰国事業があった点です。番組に登場した「半グレ」の創設者とでも言うべき人物は、中国残留孤児2世です。80年代に怒羅権(ドラゴン)なる名称の暴走族を率い、殺人をも厭わずに‘やくざ(指定暴力団?)’との血みどろの抗争を繰り返していました。80年代とも言えば、中国が改革開放路線に舵を切った頃であり、中国共産党が世界戦略を追求し始めた時期に当たります。おそらく、戦後の日本国の裏社会では、GHQ系の犯罪組織(GHQ内の不良メンバーが戦後の闇市等をサポートしていたとも…)や韓国系の暴力団が仕切ってきたのかもしれません(日本国の暴力団幹部の大半は、韓国・北朝鮮系に占められている…)。そして、80年代以降における中国系の「半グレ」勢力の伸長は、国際社会と云う表舞台にあってアメリカの覇権に挑戦する中国の姿と重なるのです。憶測の域は出ませんが、「半グレ」の背景には、先ずは日本国の裏社会からコントロールしようとする中国が蠢いていたのかもしれません。

 第1の点に関連して、第2点としては、「半グレ」には北朝鮮の影も見え隠れしていることです。確証はないものの、現在、「半グレ」の幹部とされる人物は、本名は日本名のようなのですが、‘テポドン’といった綽名は北朝鮮の出身を推測させます。あるいは、闇の世界では、中国・北朝鮮vs.アメリカ・韓国の対立構図が成立している可能性もありましょう。何れにしましても、犯罪行為で得た巨額の資金が北朝鮮に送金されている可能性もあり、この問題は、日本国の安全保障にも関わります。

第3点として挙げられるのは、「半グレ」のスポンサーは、中国といった外国のみではない可能性です。同番組にあって「半グレ」の幹部は、自らの組織は暴力団対策法によって取り締まることができないため、‘財界?’や‘VIP’にとって使いやすい相手であったと証言しています。つまり、「半グレ」が急成長した背景には、その初期にあって資金援助した有力者、あるいは、金融組織があったはずなのです。「半グレ」は、ネットワーク状の組織形態でありながら、その実、幹部が下部構成員から収益を吸い上げるピラミッド型、否、搾取型なそうです。同組織では、融資相手に対して借金の返済が済んでも売上高の15%?といった高率で永続的に資金を供出させていますので、こうした搾取を当然とする感覚から類推しますと、「半グレ」のスポンサーもまた、同組織から資金を吸い取っていることでしょう。そして、この搾取容認感覚のスポンサーは、日本国内のものとは限らず、海外の組織である可能性も高いように思えます。

第4に社会的な影響について指摘すれば、「半グレ」は、一般の人々をも犯罪者にしてしまう点です。ネット上で一般人に呼びかけて参加者を募る場合もあれは、上述したように、普通の学生が先輩等の誘いに乗り、犯罪に手を染めてしまうケースも少なくありません。しかも、「半グレ」から「犯罪はビジネスの一種」と説明されているため、同番組に出演した学生は、被害女性に対して謝る気持ちはあっても、その反面‘良い経験をするチャンスに恵まれた’とも述べているのです。つまり、犯罪組織と一般人との境界線の曖昧化は、同時に善悪の区別の消滅をも意味しており、同学生は、犯罪組織から良心が麻痺するようにいわば‘洗脳’を受けているのです。「半グレ」勢力の拡大と一般社会への侵出は、即ち、社会のサイコパス化をもたらしますので、社会の健全性にとりましては極めて危うい兆候です。現在、「半グレ」はホワイト事業にも乗り出していますので、一般の人々が犯罪組織に利用されるリスクはさらに高まっております。

第5に述べるべきは、「半グレ」に見られる著しい女性蔑視です。女性は‘商品’、あるいは、利用すべき‘かも’としてしか見ておらず、メンバーの顔触れを見ましても女性は見当たりません。かつて、暴力沙汰でその名が知られるようになった関東連合も中国系(満州系?)、あるいは、朝鮮半島系のメンバーが多いとする情報もあり、慰安婦問題との関連性も指摘されておりましたが、おぞましい程までに徹底した女性蔑視は、女性の人格や能力を認める(日本国ではその歴史において活躍した女性も多い…)、あるいは、女性や子供は護るべき存在とする日本古来の女性観や倫理観とも著しく違っています。「半グレ」勢力が日本国内で拡大すればするほど、女性達が危険に晒されることとなりましょう(この点からも、多文化共生主義には問題がある…)。

以上に幾つかの点について述べてきましたが、「半グレ」勢力の拡大は、様々な側面において日本国の危機でもあります。そのマイナス影響の大きさからしますと、治安の維持を使命とする警察による取締り強化のみならず、日本国政府としても対応を急ぐべきなのではないでしょうか。国民の安全を護ることこそ、国家の統治機構の存在意義でもあるのですから。

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‘メビウスの輪戦略’の作戦分類

2019年07月27日 13時58分04秒 | 国際政治
数千年来の歴史を通して、人類は、巧妙に仕掛けられた‘メビウスの輪戦略’に苦しめられてきたように思えます。この悪魔的な輪から抜け出るためには、その仕組みを解き明かすことこそ肝要となりましょう。そこで、本記事では、脱出作戦の一環として‘メビウスの輪戦略’を幾つかの作戦類型に分類して見たいと思います。

 第1のタイプは、過去から未来に向かって直進しているはずの時間の帯を180度捩じって最初の時点に繋げてしまう、あるいは、出発点を変えてしまう手法です。これは、歴史認識問題にもしばしば使われる手法ですが、出発点において加害者と被害者を入れ替える、あるいは、出発点に虚偽の情報を設定、もしくは加えますと、現在における被害者と加害者の立場が逆転して、この方法を使う側からしますと、相手方に対して優位なポジションを得ることができます。

 第1のタイプを過去を捻じ曲げる過去版であるとしますと、第2のタイプは未来版です。未来版では、時間の帯は未来に向けて180度捻じ曲げられます。乃ち、仕掛ける側が真に実現したい未来像とは真逆の理想像を人々に提示して騙す手法です。共産主義を例にとりますと、一般の人々に対して平等な社会を実現すると吹聴して革命を焚きつけつつ、現実には、共産党員を少数の特権階級とする極端な格差社会に行き着きました。また、多様性の尊重を謳いながら、その実、画一化社会が到来しかねないグローバリストの主張も、この一例となるかもしれません。

 第3のタイプは、偽旗作戦、あるいは、仮面作戦です。第3のタイプでは、それを仕掛ける側は決して自らの正体を現しません。戦時にあって実際に使われてきた実践的な手法でもありますが、敵対者、あるいは、破壊したい対象に対して味方、あるいは、支援者のふりをし、その信頼を得ることができれば、相手方に不利な行動をとらせる、あるいは、内部から相手方を破壊することができるのです。近年、王室・皇室のリベラル化や保守政党による伝統破壊の事例が散見されますが、これらの事例は、第3の戦術である可能性が強く疑われます。また、‘偽者’へのすり替えなども、同タイプの変形と言えましょう。

 そして、第4のタイプとは、‘オウム返し’作戦です。この作戦では、仕掛ける側は、自らの悪しき行動を相手が行っているものとして主張します。ブーメラン効果、つまり、相手方が批判をすれば、それが自らに返って行くようにポジション取りをするのです。相手の悪事を主張することで、自らの悪事を正当化しようとする作戦なのです。相手を悪認定すれば、黒と白が逆転しますので、この作戦も‘メビウスの輪戦略’の一つに数えることができます。第4のタイプの作戦は、中国の得意技です。今日、南シナ海問題で顕在化したように国際法秩序を踏み躙り、急速な軍拡によって周辺諸国に脅威を与えながら、同国は、これらの行為をアメリカ等の諸国によるものとして批判しています。自らの悪事は、他国の悪事のリアクションに過ぎないとし、責任を回避するどころか、侵略的な攻撃の正当化にも利用しようとしているのです。

 以上に一先ず狡猾な‘メビウスの輪戦略’について簡単に分類してきましたが(これらの他にも別の類型があるかもしれない…)、同戦略に嵌りますと、閉鎖系による永遠のループから抜け出られなくなります。悪しきを克服しながらより善き未来向けて、開放系である人類の歴史を真っすぐに歩むことができなくなるのです。そして、仮に、サタニックな聖典としての‘バビロニア・タルムード’なるものが存在しているとしますと、門外不出とされたその内容は、案外、このようなものではなかったのかと想像されるのです。もっとも、一度、その手口が明らかとなれば、同戦略もその効果を失い、やがて消え去る運命を辿るのではないかと思うのです。

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テンセントの日本上陸の危機

2019年07月26日 17時21分15秒 | 日本政治
本日7月16日付の日経新聞朝刊の記事に依りますと、中国系IT大手であるテンセントは、クラウドサービス事業の分野で日本市場に参入する計画を明らかにしたそうです。しかしながら、この計画、テンセントの経営戦略通りに実現するのでしょうか。

 テンセント側は、その規模において優位な立場を過信して日本上陸を楽観視しているのでしょう。しかしながら、‘情報を制する者は世界を制する’と評されるように、情報・通信の分野は、‘支配’の問題と深くかかわっています。言い換えますと、国内の情報が海外の国、個人、あるいは、企業に握られますと、それは、これらの支配権が自国内に及ぶことをも意味しかねないのです。逆から見れば、情報・通信分野において他国での事業展開に意欲を有する者は、他国支配の野望を秘めているとも言えるのです。

民間ビジネスと雖も防衛、安全保障、市場の独占・寡占、個人情報の保護…等々に関わる故に、何れの諸国も、同分野を一定の規制の下に置いています。その最たる国が閉鎖的な全国民監視システムをほぼ完備させた中国であり、その中国が他国の政府に対しては規制の緩和を要求することはできないはずです。ところが、日本国政府の従来の対応を見ておりますと、あまりにも甘いとしか言いようがありません。配車アプリやスマホ決済等を含め、何らの警戒感を示すこともなく、中国企業に対して日本上陸を許してきたのですから。本格参入に先立って、テンセントも、既に日本のゲーム大手に対してクラウドサービスの提供を開始しているそうです。

もっとも、米中貿易戦争がエスカレートする中、さしもの日本国内でも対中警戒論が強まり、上述した記事に依れば、テンセントの参入計画に対しては情報漏洩が危惧されるようにはなりました。こうした日本国側の懸念に対して、同社担当幹部は「各地の法律法規を尊重する。顧客データを顧客の許可なしに扱うことはしない」と説明し、その払拭に努めています。また、アリババがソフトバンクと組んで設立した合併会社をモデルに、テンセントも日本国内に専用のデータセンターを設けると共に、‘中国企業隠し’のために日本の大手システム企業と連携する道を探っているともされます。

幾度となく裏切られてきた過去の前例をみれば、テンセントの説明を言葉通りに信じるわけにはいきません。また、たとえ国内にデータセンターが設けられていたとしても、サイバー技術が高度に発達し、かつ、記憶媒体も小型化した今日では、データの不正な国外持ち出しを完全に防ぐことも困難です(合弁会社からテンセントへの情報提供は容易では…)。ましてや、日本企業との合併会社設立による‘中国企業隠し’は、たとえ合法行為であったとしてもユーザーを欺く一種の‘偽装作戦’でもあります。

 米欧では、IT大手に対する規制強化が議論されておりますが、共産党一党独裁体制を敷く中国の企業ともなりますと、中国共産党のコントロール下にもあり、政治的リスクも増大します。日本国は、GAFAを想定した対策に留まらず、中国IT企業をターゲットとした規制の強化にも動くべきであり、安易に事業許可を付与してはならないと思うのです。

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暴力性を露わにする中国-国連資格を問うては?

2019年07月25日 12時53分39秒 | 国際政治
現代と云う時代にあって、異民族を支配下に置く中華帝国を維持し、かつ、その勢力範囲を全世界に広げようとしている中国の姿は、時代錯誤であると共に、国際社会にとりまして極めて危険な存在になりつつあります。第二次世界大戦後に纏った平和主義国家の衣を脱ぎ捨て、あらゆる場面で暴力主義を露わにしているのです。

 西方のウイグル人やチベット人に対するジュノサイドレベルの弾圧に加え、東方の台湾、並びに、南方の香港も、目下、中国の暴力主義の脅威に晒されています。昨日7月24日に4年ぶりに公表された中国の国防白書では、‘台湾統一’のためには武力行使も辞さずの姿勢が改めて強調され、習近平国家主席の台湾併合に向けた並々ならぬ決意が窺えます。また、中国国防相の呉謙報道官も、「逃亡犯条例」改正を機に発生した香港の大規模抗議デモについて、記者団を前に香港側の要請があれば人民解放軍を出動させる意向を示しました。先日発生した一部デモ隊の過激化については中国側の人民解放軍投入に向けた口実造りの疑いも濃厚ですが、香港もまた、北京政府から武力による威嚇を受けているのです。

 中国は、南シナ海問題についても国際法に従わず、常設仲裁裁判所の判決を破り捨てており、暴力主義への傾斜は近年とみに激しくなりました。あたかも国際社会における‘暴力団’、あるいは、‘反社会組織’の如くです。暴力主義に走る中国の暴走を放置すれば、ウイグル、チベット、内モンゴル、台湾、並びに、香港のみならず、やがて全世界の諸国はその暴力の脅しに屈するか、あるいは、直接的な武力行使によって甚大なる被害を蒙ることになりましょう。中国がその鋭い牙を剥く今日ほど、国際社会の治安維持を要する時はないかもしれません。

 それでは、国際社会は、一体、何ができるのでしょうか。例えば、中国の国連における資格を問うのも一案です。国連憲章に定める平和的な解決に背を向けている以上、中国には、国連安保理において常任理事国の地位を維持する資格があるとは思えません。そもそも、中国が国連安保理で常任理事国の地位を得たのは、社会・共産主義国の後押しを背景に、事実上中華民国を追放して中華人民共和国に代表権を与える「アルバニア決議」が1971年10月25日に成立したことによります。この時、‘世界の警察官’としての厳密な資格審査が行われたわけではなく、国連総会における多数決を以ってその席を得たに過ぎないのです。つまり、無審査による資格獲得なのです。

 中国自身が国連憲章に違反する行為を繰り返している現状からしますと、同国から常任理事国の地位を剥奪する決議案が提出されてしかるべきです。国連常任理事国の資格付与の権限が国連総会にあるならば、逆に、安保理常任理事国であれ、国連そのもののメンバーシップであれ、資格を抹消する権限も総会にあるはずです。「アルバニア決議」の採択に際しては、国連憲章第18条2に記されている重要事項に関する手続きが採られており、決議案が成立するには3分の2以上の賛成票を要するものの、第6条の除名手続きとは違い、国連安保理は全く関与しません(常任理事国は‘拒否権’を行使できない…)。中国に対する警戒感が広がれば、中国の国連における資格を問う決議案が成立しないとも限らないのです。

 中国は、しばしば国連憲章における‘敵国条項’を持ち出しては日本国に対する武力攻撃を仄めかしてきました。しかしながら、国連が対処すべきは、過去の脅威よりも現在の脅威なはずです。国連から中国を追放すれば、野獣の如くに同国は拘束的な枠組みから解き放たれ、より危険な無法国家となるとする意見もありますが、現状でさえ、既にこの状態にあります(国連のメンバーシップは残しながら、常任理事国の地位のみをはく奪する方が’野放しリスク’は低減する…)。中国が、核保有を含め、常任理事国としての特権を享受することで今日の軍事大国の地位を築いた点を考慮しますと、その資格を剥奪する案は、一考に値するのではないかと思うのです。

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竹島周辺海域における警告射撃事件から読む国際情勢

2019年07月24日 14時56分41秒 | 国際政治
昨日、竹島周辺の海域において、韓国軍機がロシア軍機に対して360発もの警告射撃を浴びせるという前代未聞の事件が発生しました。この事件、報じられている情報を拾い集めますと、緊迫感が漂う今日の国際情勢の一端が垣間見えるように思えます。

 第一に、日本国政府として最も問題しているのは、その現場が、日本国領である竹島であったことです。竹島を自国領と主張する韓国は、同島周辺12カイリを自国の領海と見なしています。それ故に、ロシア軍機の上空飛行を領空侵犯として警告射撃を行ったのですが、日本国側からしますと、ロシア軍機によって日本の領空が侵犯された上に、韓国もまた日本領空において軍事行動をとったのですから、これは、到底許されるべきことではありません。日本国政府が厳重に抗議するのは当然なのですが、この事件における韓国側の即応は、既に竹島周辺海域において、日本国による竹島奪還を想定した‘防衛体制’が構築されている実態を示しています。言い換えますと、今般の事件は、間接的ながらも日本国をも牽制するための‘警告射撃’の意味合いを含ませている可能性があるのです。

 第二に注目すべき点は、同事件には、中国が絡んでいることです。報道に依りますと、今般の事件の切っ掛けは、中ロによる初めての軍事訓練にあるそうです。どのような軍事訓練なのかと申しますと、東シナ海を北上する中国の爆撃機と日本海を南下するロシアの爆撃機が合流すると言うものらしいのです。警告射撃を受けたのは、A50空中警戒管制機ですが、軍事訓練の主役は中ロの爆撃機なのです。これは、一体、何を意味するのでしょうか。爆撃機とは、相手国に対する空爆を目的とする軍機ですので、防衛用の兵器ではありません。すなわち、爆撃機の展開事態が、極めて攻撃的な行動である点を考慮しますと、今般の事件は、中ロによる‘合同爆撃訓練’が発端となっているのです。そして、その意図については幾つかの憶測があり得ます。

 第一の推測は、朝鮮半島の有事を想定した牽制というものです。米朝首脳会談の可能性を将来に残しつつも、北朝鮮の核・ミサイル問題は暗礁に乗り上げており、先行きは不透明です。業を煮やしたアメリカによる対北軍事制裁もあり得る状況にありますので、韓国政府は、同訓練を北朝鮮有事を想定した米韓同盟に対する牽制と見ているそうです。あるいは、中ロの爆撃機は、日本列島と朝鮮半島を分かつかの如くに対馬海峡を横断して飛行しておりますので、朝鮮半島有事に際して日米同盟発動を阻止するためのデモンストレーションであった可能性もありましょう。このケースでは、日本国は、中ロ両国から空爆の脅しをかけられていることとなります。

 第二の推測は、イラン情勢の悪化から第三次世界大戦が引き起こされた場合の、中ロ間の共同軍事行動の予行練習というものです。この場合には、中ロは、朝鮮半島全域を自陣営に取り込み、対馬海峡を挟んで日米陣営に対峙する構えを見せている可能性は極めて高いように思えます。穿った見方をすれば、北朝鮮主導による南北統一のシナリオが遅々として進まない中、背後で同シナリオを支援してきた中ロによる‘実力行使’の前兆であるのかもしれません。つまり、第三次世界大戦にあって、日本国は否が応でも陣営対立の最前線に置かれるかもしれません。

 以上の二つは憶測に過ぎませんが、同事件は、近い将来、朝鮮半島発であれ、イラン発であれ、日本国が中ロ両国から軍事攻撃を受ける可能性を示しております。日本国政府は、竹島問題に留まらず、中ロによる共同爆撃訓練の真意を掴むべく、情報収集と分析を急ぐべきではないかと思うのです。

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韓国の奇妙過ぎる行動-日本国による対韓輸出規制強化問題

2019年07月23日 16時49分19秒 | 国際政治
先日、日本国政府は、韓国に対する素材輸出の規制を強化する方針を公表しました。その理由としては、マスメディア等では所謂‘徴用工訴訟’における韓国側の過激な対応に対する報復とする見方が有力でしたが、日本国政府の説明に依りますと、安全保障上の懸念が主因とされています。ハイテク素材は、大量破壊兵器のみならず、生物化学兵器の製造にも使われますので、中東諸国や北朝鮮などへの流出を恐れたのでしょう。

 日本国政府が実施する具体的な政策は、信頼性の高い諸国にのみ与えてきた優遇措置、すなわち、‘ホワイト国’の認定を取り消すことですので、禁輸とまでには至っていません。中国もまた‘ホワイト国’ではありませんので、中国並みの待遇に戻されたということのようです。とは申しますものの、米中貿易戦争の煽りも受けてさしものサムスン電子といった大手企業も苦境にある中での規制強化なだけに韓国側の反発も強く、対抗措置を採る構えを見せています。ところが韓国政府、何故か、同問題について二つの政策を同時進行させようとしているのです。

 第一のアプローチは、日本国政府の措置を不当としてWTOに訴えるというものです。福島原子力発電所の事故を根拠に日本産水産物の一部に対して韓国政府が実施してきた禁輸措置をめぐる日韓間の争いにおいて、先日、韓国側はWTOの場で事実上の‘勝訴’を勝ち取っています。おそらく、韓国政府は、自国の影響力が及びやすいWTOが舞台であれば‘二匹目のどじょう’も狙える、即ち、日本国による規制強化を止めさせることができると考えたのでしょう。もっとも、識者の見解では、‘ホワイト国’の認定は、WTO加盟国に課された義務ではなく加盟国の専権となりますので、韓国側が勝訴する見込みは薄いそうです。

 第二のアプローチは、アメリカのトランプ大統領への仲裁依頼です。トランプ大統領は、文在寅大統領から仲裁を頼まれたことをツウィッターで明らかにしており、当事国である日韓両国間での解決が望ましいものの、仲裁役を務めるのはやぶさかではないようです。大統領選挙を前にした外交上の実績造りの一環かもしれませんが、少なくとも韓国側は、アメリカに頼み込めば、自国に有利な解決に導くことができると考えたようです。とは言いますものの、このケースでは、トランプ大統領が韓国側に立って日本国政府に政策変更を迫る形にならざるを得ず、日本国政府側がアメリカへの仲介依頼に二の足を踏むことでしょう。また、韓国側も、仲裁の過程で韓国側の不適切な輸出管理の実態が明らかになれば、アメリカから厳しい追及を受けるかもしれません(むしろ、アメリカ側が日本国に対して安全保障の観点から対韓輸出規制の強化を求めたとする説もある…)。

 仮に、両者が別々の解決案を示した場合、韓国は、一体、どうのように対処するつもりなのでしょうか。トランプ大統領の仲裁案を採ってWTOの判断を無視すれば、WTO体制崩壊の引き金を引きますし、逆に、WTOの判断に従ってトランプ大統領の仲裁案を蔑にすれば、同大統領の面子を潰してしまいます。あるいは、WTOでの解決を半ば諦めたからこそ、トランプ大統領に仲裁を依頼したのでしょうか。何れに致しましても、韓国政府の行動は理解に苦しむのです。

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真の敗者は政界?-投票率50%以下は国民の政治不信表明

2019年07月22日 13時13分25秒 | 日本政治
昨日、7月21日に実施された第25回参議院議員選挙では、自民党が改選前の66議席から57議席へと議席数を減らし、議席数を伸ばした公明党との連立によりようやく与党勢力が過半数を維持することとなりました。一方、野党側を見ますと、立憲民主党が17議席を獲得して健闘を見せつつも、野党乱立が甚だしい中、れいわ新選組やNHKから国民を守る党も議席を確保しており、議席の分散が目立ちます。与野党どちらの側に軍配が上がったのか分からない結果となったのです。

 自民党が議席数を減らした敗因としては、‘事実上の移民政策’として批判された出入国管理法の改正に踏み切るなど、保守政党らしからぬ政策運営に固定的な支持基盤であった保守層に離反が生じたことに加え、森友学園・加計学園疑惑や忖度問題などの不祥事が相次ぎ、無党派層の積極的な支持も得られなかった点を挙げることができましょう(消費税増税10%上げもマイナス要因…)。長期政権の驕りと受け止めた国民が、バランス感覚も手伝って自民党への投票を躊躇ったとしても不思議ではありません。一方、連立相手である公明党は組織票の強みを活かして議席を増やしており、今後は、連立政権内において発言力を強めるとする指摘もあります。与党のさらなる中韓北傾斜もあり得る状況となりました。

 その一方で野党の側も、最大野党の立憲民主党でさえ17議席しか獲得しておらず、与党に失望した国民多数が同党に期待を寄せたとは言い難い状況です。議席数を増やしたとはいえ日本維新の会の獲得議席も10に過ぎません。何れの野党も与党に対する批判票の受け皿とはなってはいないのです。組織票において強みを持つ日本共産党に至っては議席数を減らしており、中国共産党のマイナスイメージが影響してか、国民の間で共産主義アレルギーがむしろ強まる傾向にあるのかもしれません。何れにせよ、野党側は左右を含む小党分裂状態にありますので、与党側の議席が改憲に必要な3分の2議席を下回ったとしてもその行方は不透明です。

 以上に述べたように、今般の参議院選挙の結果は玉虫色であり、日本国の政界は混沌としています。行く先を見通せないのですが、もしかしますと、48.8%という戦後二番目に低いとされる投票率こそ、政界の現状に対する国民の最も明確な不満の顕れなのかもしれません。与野党の何れの政党、あるいは、候補者に投票したとしても日本国の政治は変わらず、国民の世論や意向を無視しているという不満です。例えば、選挙遊説中の各党党首の演説を聴いてみましても、どれもが然して変わりのない内容であり、立憲民主党の枝野代表の多様性に関する演説の件などは、安倍首相の演説なのではないかと耳を疑うほどでした。

 棄権は白紙委任に等しいとする説もありますが、48.8%という数字は、日本国民が与野党を含む政治全体に突き付けられた事実上の‘不信任表明’として理解した方が適切なように思えます。どの党、あるいは、どの候補者をも支持できない場合には、有権者は棄権するしかないからです。棄権した人々も、白紙委任のつもりで投票所に足を運ばなかったわけではないはずです。この意味において、今般の参議院議員選挙の真の敗者、あるいは、国民から改革を求められているのは、日本国の政界とも言えるのではないかと思うのです。

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ホルムズ海峡問題-日本国は有志連合に参加すべきか

2019年07月21日 15時11分16秒 | 国際政治
 国連海洋法条約では、国際海峡については、無害通航である限り全ての諸国の船舶に対して航行の自由を認めています。しかしながら、イランは、同条約の締約国でありながら、ホルムズ海峡を国際海峡とは認めず、自国の領海とした上で、同海峡の外国船舶の無害通航に対して厳しい要件付ける国内法を制定しています。つまり、外国船舶の航行がイランの国益に反すると同国が判断した場合には、イランは、何時でもホルムズ海峡を封鎖できる主張しているのです。実際に、イラン・イラク戦争など、同地域で紛争が発生した際には、イランは、しばしばホルムズ海峡の封鎖を示唆してきました。そして、今般、イランの革命防衛隊はイギリスの船舶を拿捕し、再度、アメリカをはじめ国際社会に対して海峡封鎖という脅しをかけているのです。封鎖には封鎖を、つまり、イランを包囲する経済封鎖に対してホルムズ海峡封鎖を以って対抗しようとしているのです。

 この問題は、アジア向け中東産原油の80%以上が同海峡を通過して輸出されますので、日本国にとりましても他人事ではありません。イランに拿捕されたのがイギリスの船舶とはいえ、先立っては日本国の船舶も同海峡で攻撃を受けており、ホルムズ海峡が封鎖される事態に至れば、欧米諸国よりもアジア諸国の方が遥かにダメージを受けます。日本国にとりましては、東シナ海から南シナ海を経てインド洋に向かい、そして中東に至るシーレーンに位置しているのですから、アメリカの有志連合の呼びかけに対して‘知らぬ存ぜぬ’の態度をとるわけにはいかないのです。それでは、日本国政府は、どのように対応すべきなのでしょうか。

 まず確認すべきは、この問題は、国際法上の航行の自由の原則、即ち、国際海洋法秩序に関わることです。仮に、イランの言い分を認め、国際海峡における封鎖の権利を沿岸国に広く認めますと、他の諸国も同様の措置を取り始める可能性もあります。例えば、中国は、不法に軍事拠点化した南シナイ海において自国の‘領海’を主張し、外国船舶の無害通航を妨害するかもしれません。あるいは、ボスポラス海峡やダーダネルス海峡等の他の国際海峡にあっても同様の事態が発生し、現行の国際海峡制度がなし崩しになるリスクさえあります。石油を中東に依存し、かつ、イランとも友好関係を構築してきた日本国はアメリカの要請に応じる必要はないとする意見もありますが、国際法の原則を曲げてはならず、日本国政府は、イランを非難して行動の是正を求める共に、国際海洋法秩序の維持に努める責務がありましょう。

 国際法に違反する行為に対しては、国連安保理を開催して対策を協議し、国際的な合意の上でボスポラス海峡の治安維持部隊を結成するのが正道です。あるいは、被害国が加害国を相手取って国際司法機関に提訴する方法もないわけではありません。しかしながら、トランプ政権は、イランと友好関係にある中ロのみならずフランスも拒否権を有する安保理での決議成立は困難と見て、このステップを踏まずに早々に有志連合を呼びかけたのでしょう。となりますと、日本国政府は、(1)日米安保の枠組、(2)独自の安全保障政策、(3)活動資金提供国として有志連合への参加を検討することとなります。

(1)については、現行の安保関連法にあっては、日米安保協力の条件となる武力攻撃事態や存立危機事態には当たらないとされ、自衛隊の参加には消極的な識者の見解も見られ、政府も有志連合への参加には及び腰です。もっとも、先日の日本船舶に対する攻撃がイランによるものであったことが判明する、あるいは、存立危機事態の定義にある‘密接な関係にある他国’をイギリスと解釈すれば、自衛隊の派遣は絶対に不可能であるとは言い切れないかもしれません。

(2)の選択肢については、日米安保とは別の文脈において自衛隊が国際治安維持活動に参加するケースとなります。アメリカから有志連合参加の呼びかけを受けたのは、同国の同盟国のみではありません。つまり、アメリカとの同盟関係は有志連合参加の前提条件はなく、このことは、日米同盟の枠組を離れた海外派遣もあり得ることを意味します。今般のホルムズ海峡の一件が、国際法秩序の問題にあるならば、むしろ、有志連合の活動は、国家防衛よりも、国際社会における警察活動としての性格を持ちます。日本国内では、自衛隊の海外派遣は日米同盟、あるいは、国連の平和維持活動等の問題とする先入観がありますが、国際法秩序の維持を目的とした国際協力への独自参加もあり得る選択肢と言えましょう。仮にアメリカとイランとの間で軍事衝突が発生した場合、第三次世界大戦を誘発するとの懸念がありますが、日米同盟の別枠での参加であれば、日本国が自動的に交戦国となる事態を防ぐメリットもあります。

それでは、残る(3)の選択肢はどうでしょうか。湾岸戦争時にあって、日本国には自衛隊を派遣せずに資金のみを拠出したため、国際的な批判を招いた苦い経験があります。今般も同様の対応をとるとすれば、常々日本国の負担の軽さに不満を抱いてきたトランプ大統領からは不評を買う可能性はありましょう。それでも、相応の資金負担を表明すれば、米軍を始めとした他国の軍隊に自国のシーレーンを護ってもらいながら、何もせずに傍観を決め込むよりは、遥かに‘まし’なように思えます。

なお、イランのホルムズ海峡封鎖につきましては、その効果については疑問もあります。何故ならば、対岸のオマーン側を通行すれば、イランの封鎖活動を逃れることができるからです。あるいは、日本国政府は、国際社会に対してイランの封鎖策を無力化する方法を提案するのも一案となるかもしれません。

以上に日本国政府の対応について述べてきましたが、国際法秩序から受ける恩恵は、イランとの交易から生じる経済的な利益を遥かに上回ります。国際社会における警察活動であり、その枠内に現地での自衛隊の活動が留まるならば、日本国政府は、有志連合への積極的な参加を検討して然るべきではないかと思うのです。

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日韓‘無礼合戦’から見える韓国の‘メビウスの輪戦略’

2019年07月20日 13時24分37秒 | 日本政治
 昨日、日本国の河野太郎外相が韓国の南官杓駐日大使を呼んで会見した際に、外相が大使の発言を遮り、韓国側の態度は‘極めて無礼’であるとして声を荒げたそうです。それもそのばず、国際法に従おうとせず、かつ、既に日本国政府が拒絶した案を韓国側が素知らぬ顔で再度持ち出そうとしたのですから、堪忍袋の緒が切れる気持ちも理解できます。ところが、日本側の無礼発言に対して、韓国側は、河野外相の態度こそ無礼であるとして遺憾の意を表明したと言うのです。

 さながら日韓‘無礼合戦’の様相を呈しているのですが、日本国に対する韓国側の反論の主たる主張は、「根本的に強制徴用という反人道的不法行為で国際法に違反したのはまさに日本だ」というものです。しかしながら、この主張、事実誤認が甚だしいように思えます。

 何故ならば、第一に、当時、韓国併合条約によって朝鮮半島は日本国の一部となり、その住民も日本国民であったからです。日本国内では、朝鮮半島に先駆けて国家総動員法が施行されており、日本国民の大半が徴用され、軍需工場等で勤務していました。それ自体は国際法に違反しておらず、況してや、朝鮮半島出身の人々が無給で強制労働を強いられたわけでもありませんでした(東京裁判でも、この点は、訴因とはされていない…)。徴用によるものであれ、民間の公募によるものであれ、当時の日本企業は朝鮮半島の人々にも賃金を支払っており、戦争末期の混乱期にあって未払いが生じた分については、1956年の日韓請求権協定で清算されたのです(もっとも、この時、アメリカの意向を受けて日本国側は、法的根拠のある請求額以上の経済支援を韓国に提供している…)。

 しかも、日韓請求権協定は、日韓相互の請求権の処理を定めたサンフランシスコ講和条約の第4条に基づくものであって、当時にあっては、日韓両国とも、同条約が求める平和的な解決手続きに従っています。近代以降の講和条約には、一般的には個人を含む財産請求権の相互清算の条項が設けられますので、同条約も、この国際法上の形式に従ったものでした。言い換えますと、両国の合意による日韓請求権協定の成立こそ、国際法遵守の証とも言えるのです。

 これらの諸点に鑑みますと、国際法に基づく日韓請求権協定において解決されたはずの問題を蒸し返す韓国の態度こそ、国際法に反するものと言わざるを得ません。そして、韓国は、ここでも「メビウスの輪」戦略の応用を試みようとしているように見えるのです。最初の時点に戻してしまうという…。今般の‘無礼合戦’のケースでは、日本側の事実に基づく時間軸の流れでは、請求権の清算問題⇒請求権協定の成立⇒問題の解決となるのですが、韓国側は、請求権の清算問題の前に‘日本国側の国際法違反’という事実に反する仮定を捻じ込むことで、日本国側の直線的な解決の流れを逆転させているのです。つまり、前提を変えることで直線をねじり(意図的な事実誤認?)、スタートラインに戻す時系列操作により、韓国側は、日本国側の国際法違反⇒韓国側の被害⇒不当な請求権協定⇒問題の未解決という裏面の流れを作りたいのでしょう。

 日韓関係が拗れる理由の一つとは、韓国側が多用するメビウスの輪戦略にあるように思えます。韓国は、常々‘ゴールポスト’を動かすとも批判されてきましたが、韓国は、しばしば‘スタートライン’をも動かすのです。韓国に配慮したり、迂闊に譲歩すれば、何時の間にか自らが不利な立場に置かれてしまうのですから、日本国側としては心の休まる時がありません。日本国政府は、韓国の戦略を熟知した上で、同国が仕掛ける罠に嵌らないように十分に警戒すべきではないかと思うのです。

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誰が「リブラ」の運命を決定するのか?

2019年07月19日 18時11分29秒 | 国際政治
 フランスで開かれていたG7では、目下、全世界が注視している「リブラ」問題については、‘最大級の規制’をかけるとする方針のみが示されて閉幕したそうです。最終的判断は後日に持ち越されたわけですが、この言葉からは、‘規制さえクリアすれば「リブラ」の運営開始は認める’とするニュアンスが読み取れます。果たして、国家の諸権限の侵食を伴う「リブラ」は許可されるのでしょうか。

 フェイスブック側の説明に依りますと、リブラ構想の主たる目的は、(1)銀行口座を持たない全世界の凡そ17億人にデジタル・ウォレットを提供する、(2)個人レベルでの国境を越えた送金・決裁を低コストで可能とすることにあるようです。今日の全世界の人口数は凡そ77億人と推定されていますので、この説明に従えば、人類の4分の1強の人々の利便性を高めるために国家の専属的権限であった通貨発行権が一私企業に認められ、かつ、国家の政策権限が侵食されることとなります。公平に比較考量すれば、「リブラ」が齎す金融秩序の崩壊リスクは利便性の向上を遥かに上回ると判断せざるを得ません。また、「リブラ」の発行のみが上記の問題に対する唯一絶対の解決手段ではありませんし、公共性の高い通貨発行を一般のサービス事業と同列に扱うこともできないはずです。リスクの未然防止の観点からは、禁止措置が最も有効な対策のように思えるのですが、G7では、何故か、禁止の方向性が示されていないのです。

 そして、ここに、誰が「リブラ」の運営に条件付きであれ許可を与えるのか、という問題が浮かび上がってきます。リブラ構想とは、国際送金・決裁システムに他なりませんので、国際的な議論を要することは確かなことです。米ドルやユーロ等との交換、あるいは、送金や決済を介して「リブラ」を取得した人は、どこの国の人であれ、保有する「リブラ」を自国通貨に交換するか、あるいは、「リブラ」価格で表示された商品を購入するなど、「リブラ」を換金せずにそのまま使用するかの何れかの行動をとるはずです。「リブラ」の本質は流動性の高い投資信託類似商品とする説もありますが、元より「リブラ」は決済通貨として流通可能な‘通貨’として設計されています(価値尺度、支払手段、価値貯蔵手段という貨幣の三要件も満たしている…)。「リブラ」の流通が開始されれば、各国の政府は、自国の領域内において「リブラ」を‘通貨’として扱わざるを得ないのです。乃ち、世界レベルでリブラ構想を実現するためには、全ての諸国が「リブラ」に対して自国通貨との交換性を保障するとともに、自国内で流通可能な通貨としての法的地位をも与えなければならないのです。

 となりますと、「リブラ」の運営主体がサービスを開始しようとすれば、全世界の諸国において法定通貨の地位を得る、あるいは、法定通貨の地位を得た国でした事業を行うことができないこととなりましょう。このことは、たとえG7において、厳格な規制の下であれ「リブラ」の運営を認めたとしても、必ずしもリブラ構想が実現するとは限らないことを意味します。先進国であるG7のメンバー国であっても、自国に合意案を持ち帰れば議会の強固な反対に遭うかもしれませんし、国民世論の強い反発を受けるかもしれません。フェイスブックは、アメリカに本拠地を置くIT大手ですが、同社に対する国内での風当たりも強く、国家の通貨発行権といった重要な権限にも関わるともなれば、同国でさえ許可が下りるかどうか行く先は不透明なのです。

 このように考えますと、「リブラ」の命運を握っているのは国家であり、国家の承認なくして同構想は実現しないと言えましょう。もっとも、アメリカではフェイスブックの登録者が減少傾向にあるように、ユーザーにそっぽを向かれてしまう可能性もないわけではないようにも思えます。何れにしましも、リブラ構想は、国家と云う越え難い高い壁に阻まれそうな予感がするのです。

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「リブラ」の野望は世界支配?

2019年07月18日 13時26分19秒 | 国際政治
フェイスブックが公表したリブラ構想が実現すれば、全ての国家が甚大なダメージを受けることが予測されるため、今般開催されているG7財務相・中央銀行総裁会議でも、主要な議題の一つとなっています。起こり得る事態を予測するに先立って、ここで一先ず国家が「リブラ」によって影響を受ける主要な権限について整理してみるのも無駄ではないように思えます。

 第一に「リブラ」によって浸食される国家の権限は、言わずもがな、通貨発行権です。今日、管理通貨制度を採用している国家では、政府紙幣ではなく、中央銀行券を以って通貨を市中に提供しています。その主たる手段は公開オペレーションの一種である買いオペであり、金融機関から期限付きで債権を買い取ることで、通貨を事実上‘発行’しているのです。一方、「リブラ」では、金融機関から債権を買い取るのではなく、個々人から米ドルやユーロ等の既存通貨を「リブラ」で買い取ることで「リブラ」を‘発行’します。両者の間には‘金融機関か個人か’、及び、‘債権か既存通貨か’の違いはありますが、通貨発行という機能の本質においては変わりはないのです。

 第2に関連して国家が侵食を受ける第2の権限は通貨供給量の調整に関する金融政策の権限です。何故ならば、上述した公開市場操作こそ、リーマンショック後の量的緩和策が示すように、中央銀行が通貨供給量を増減させる最も有効な手段であるからです(公定金利や最低準備率の調整には公開市場操作程の効果はない…)。つまり、既存の金融機関と平行して「リブラ」が通貨供給量を増やせば、国家の中央銀行の金融政策効果は薄まりかねないのです。最悪の場合には、国家の中央銀行が景気引き締め策として市中から売りオペで通貨を回収する一方で、通貨回収機能を持たない「リブラ」は逆に通貨供給量を増やし続けるかもしれません(なお、仮に、「リブラ」が‘自己資本’を準備として通貨を発行するならば、その額が上限となる…)。そして、既存通貨と「リブラ」の混在は、同時に国家を枠組みとした‘単一通貨圏’の崩壊をも意味するのです。

 第3に、「リブラ」の登場によって中央銀行の買いオペの規模が縮小すれば、政府の財政政策にも影響を及ぼします。何故ならば、政府は、歳入不足を公債の発行を以って補うことが難しくなるからです。つまり、中央銀行による国債や公債の買い取りに期待できなくなりますので、公債発行額を減らさなければならないのです。

 第4に、「リブラ」の登場は、外国為替政策に関する権限も影響を与えることでしょう。変動相場制への移行以来、各国政府は、外国為替市場に市場介入を行う権限を得るようになりました。自国通貨安の方が輸出に有利ですし、逆に、輸入依存型の国では自国通貨高に相場を誘導する方が望ましかったからです。しかしながら、近年、アメリカは、外国為替市場に介入する政府を‘為替操作国’と認定し、こうした行為を止めさせています。つまり、外国為替政策の権限は封じられている状態にあるのですが、外国為替市場を介さない「リブラ」は、国家の外国為替政策とは無縁の世界にあります。

ならば、「リブラ」の登場によって外国為替政策は何らの影響をも受けないにも思えるのですが、報道に依りますと、「リブラ」の運営主体は、「リブラ」をビットコインのような投機から護り、価値を安定化させるために、自らの資産を活用すると説明しているそうです。詳細は分からないのですが、おそらく、「リブラ」の流通開始と共に開設が予測される「リブラ」取引所、あるいは、「リブラ」市場に対して、運営主体が自らの資金を以って介入することを意味するものと推測されます。言い換えますと、「リブラ」相場の決定権は「リブラ」の運営主体にあり、如何様にも操作できることとなるのです。既存の外国為替市場において政府介入が事実上禁じられていても、「リブラ」にあっては運営主体という一民間団体が、相場の安定を‘大義名分’として「リブラ」市場に無制限に介入できるのです。もっとも、資産を用いた「リブラ」の価値安定化につきましてはバスケット通貨制を採用するとの説もあり、この場合には、固定相場制となります。固定相場制であっても、「リブラ」の運営主体が相場の決定権を有することには変わりはありません。

第4点で指摘した外国為替市場のスルーは、「リブラ」の登場が、国家の外貨準備にも影響を与えることを示唆しています。既存の国際決済システムでは、複雑な貿易為替決済メカニズムを介して国家の国庫に外貨準備が積み上ります。このため、米中貿易戦争の一因ともなりましたように、貿易収支の黒字国程外貨準備の額も増えるのですが、国境を越えた直接的な送金や決済が可能となる「リブラ」ではこのメカニズムは働きません。外貨準備は市中への通貨供給量に直接的な影響を与えますし、ODAといった政府の対外融資政策や中国のAIIBの設立に見られるような国際経済戦略の権限とも直結します。「リブラ」の国際送金・決済機能から第5に指摘すべき点は、外貨準備、並びに、これに関連する政策権限が消滅しかねないことです。既存の国際通貨システムを無効化しかねないわけですから、ビットコインや「リブラ」に対するIMFの好意的な態度は、自らの存在意義を自ら否定するようなものなのです。

第6点としては、仮に、「リブラ」のシステムに脆弱性があり、マネーロンダリングや不正送金等の温床となった場合、誰が取締りに当たるのか、という警察権限の問題を挙げることができます。フェイスブックは、自らが運営する交流サイトにあって個人の言論に対する私的検閲権を行使するようになりましたが、同様の事態が「リブラ」にあっても発生する可能性があります。犯罪や不正行為を効果的に取締ろうとすれば、否が応でもプラットフォームを構築した運営主体が主とならざるを得ないからです。おそらく、「リブラ」では、交流サイトと同様に犯罪防止を根拠として全世界から「リブラ」に関するあらゆる取引情報を収集し、それを自らのビジネス、あるいは、利益に結びつけようとすることでしょう。

フェイスブックは、既に社会面において個々人の情報を収集・統制していますが、今後、政治、即ち、国家を巧みに排除しつつ、国家の権限を侵食しながら経済分野にも進出するとなりますと、その脅威は現在の比ではありません。「リブラ構想」が実現すれば、行く行く先には「リブラ」の発行・運営主体が‘全世界の中央銀行’となると共に(「リブラ」の発行額が一定以上に達した時点で、‘ステーブル・コイン’を止めるかもしれない…)、‘情報を制する者が世界を制する’の言葉通りに、全世界、あるいは、全人類を支配しかねないのですから。フェイスブックやスマートフォンのように、ユーザーに高い利便性を与える、あるいは、逆に政府とも組んで不使用者に不利益を与えるといった手法を用いれば、予想以上のスピードで‘リブラ圏’が全世界規模で広がる可能性も否定はできません。一民間機関に国家、並びに、国民の命運を左右する重大な政策権限の移譲を迫る構想は、やはり認めるべきではないと思うのです。

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IMFは誰の味方?-報告書の「リブラ」分析の問題点

2019年07月17日 13時27分49秒 | 国際経済
今月15日、IMFは、デジタル通貨に関する報告書を発表しました。念頭にあるのはフェイスブックが発行を予定している「リブラ」なのでしょうが、同報告書の分析には首を傾げたくなる部分も少なくありません。本日の日経新聞朝刊によれば、IMFは、デジタル通貨に関するシナリオとして、「共存」、「補完」、「乗っ取り」の3つのケースを想定しているそうです。

「乗っ取り」のシナリオとは、通貨システムの脆弱な新興国等において「リブラ」が自国通貨を駆逐し、通貨発行権から金融政策の権限に至るまで全てを‘乗っ取る’というものです。可能性は低いとしながらも、通貨崩壊に見舞われたジンバブエのみならず、自国通貨の信用下落によって外国通貨が国内で流通するに至ったケースがないわけではありません。また、経済規模の小さなミニ国家などでは、協定などに基づいて近隣の大国の通貨を自国通貨として使用する事例もあります。こうした事例を考慮すれば、「乗っ取り」は、決して可能性の低いシナリオではないように思えます。また、「リブラ」の基本コンセプトは国境を越えた送金の円滑化にありますので、新興国や途上国から先進国への移民が増加すればするほど、同シナリオの実現性は高まることでしょう。

かくして「乗っ取り」シナリオはあり得るのですが、「共存」と「補完」についても、IMFの認識は甘いようにも思えます。デジタル通貨が登場すれば、既存の銀行預金の一部がデジタル通貨に換金されて流出する、あるいは、主要な預入先がデジタル通貨の発行主体に移るため、民間銀行の融資機能が低下することが予測されます。このことは、民間金融機関とネットワークで繋がることで金融政策を実施してきた国家の中央銀行の影響力も低下することをも意味します。そして、デジタル通貨の発行主体が獲得した既存通貨を直接に運用する、即ち、‘銀行業’を開始すれば、既存の銀行は存亡の危機に立たされるのです。こうした‘銀行淘汰’の事態を避けるために、同報告書では、デジタル通貨の発行主体がユーザーから得た既存通貨を銀行に預け入れる、すなわち、還流させれば、両者は「共存」あるいは「補完」し得るとしています。

実のところ、銀行への再預金案は、IMFによる既存銀行とデジタル通貨発行主体の両者に示した‘妥協案’であるのかもしれません。しかしながら、この‘妥協案’よく考えても見ますと、やはりまやかしがあるようにも思えます。何故ならば、既存の銀行に再預金するのは、あくまでもデジタル通貨の発行主体であり、ユーザー自身ではないからです。つまり、既存銀行の口座はデジタル通貨の発行主体の名義となりますので、既存通貨との交換で得た巨額の通貨発行益の運用を、デジタル通貨発行主体が既存の銀行に任せるに過ぎないのです。この案では、民間企業であるデジタル通貨発行主体が、誰もが納得するような合理的な根拠もなく、莫大な通貨発行益を得る点においては変わりはありません。

IMFは、ビット・コインが登場した際にも、国際社会に対して積極的に議論を喚起することもなく、既成事実としてその存在を黙認してしまいました。今般のリブラ構想にあっても、IMFは、もっともらしい‘妥協案’を提示しつつ、ビット・コインと同様に民間企業によるデジタル通貨の発行を認めようとしているように見えます。今般、フランスでG7財務相・中央銀行総裁会議が開催されますが、国際機関であるIMFのスタンスとは異なり、自国経済や国民生活を預かる国家の視点から、民間企業への通貨発行権や政策権限の移譲に伴うリスクについて議論を尽くしていただきたいと思うのです。

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コメント (8)
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