万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

英EU離脱とポーランド問題-人の自由移動のパラドクス

2016年06月30日 15時10分15秒 | ヨーロッパ
「早期の離脱通告」要求=英抜き首脳会議で結束確認―EU
 EU離脱を問うイギリスの国民投票は、終盤では移民問題が主たる争点となりました。最も多いのがポーランド人移民なのですが、この現象は、ポーランド問題の深刻さをも露わにしています。

 2014年の統計によりますと、イギリスにおけるポーランド人移民の数は83.3万人に上るそうです。イギリスは、ヴィザやパスポートなしでの入国を可能とするシェンゲン・アキからはオプト・アウトしているものの、EU域内であれば、人の自由移動は原則自由ですので、働き口さえあれば無制限にイギリス国内に居住することができます。それでは、何故、群を抜いてポーランド人移民の数が多いのでしょうか。

 その理由の一つには、グローバル言語とも化している英語が通用することや、既に親族等が居住していることも挙げられるのでしょうが、ポーランド側にも要因がありそうです。昨今、ポーランドでは、政権側が報道統制を強めるなど、”プーチン化”が懸念されております。ロシアの影響力の拡大を警戒してか、EUも、ポーランド政府に対して警告を発していますが、崩壊したはずの旧社会・共産主義体制への揺り戻しが見られるのです。その原因の一つに、自由主義や民主主義にシンパシーを感じ、かつ、高い技能をも備えた若者たちが、国外に流出しているという現実があります。自国に留まって、ポーランドを自由で民主的な国家とすべく、忍耐や努力を要する国造りに参加するよりも、てっとり早く自由が満喫できる”西側諸国”に移住してしまうのです。政権側が強権志向を強めれば強めるほど、この傾向に拍車がかかります。この結果、ポーランドには、社会・共産主義体制に慣れ親しんできた中高齢者層が残り、国家としての活力を失う結果を招いているのです。1989年の東欧革命がポーランドの地から始まったことを思い起こしますと、俄かには信じられない事態です。

 ポーランドで起きている現象は、多かれ少なかれ、他の中東欧諸国でも観察されることでしょう。人の自由移動による若年人口の流出が、ロシアと接する中東欧諸国を徐々に親ロ派に染めてゆき、東部国境地帯の弱体化を招来しているとしますと、これほど皮肉な結果もありません。現在の欧州理事会常任議長のトゥスク氏もポーランド出身ですが、EUの掲げる人の自由移動には、深刻なパラドックスが潜んでいると思うのです。

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英EU離脱交渉ー通商とは本来「いいとこ取り」だった

2016年06月29日 14時56分42秒 | 国際経済
英の「いいとこ取り」許さず=EU離脱交渉で厳格姿勢―メルケル独首相
 イギリスでの国民投票の結果を受けて、EUとイギリスとの間の離脱交渉の行方が、目下、関心を集めております。メルケル独首相は、「いいとこ取り」は許さないと、早くも牽制的な発言を放っていますが、この発言こそ、EUの問題点を凝縮しているかのようです。

 今日の感覚からしますと、経済のグローバル化を背景に、財に加えてサービス、資本、人といったあらゆる要素が、国内市場の如くに自由に移動する市場統合こそ、目指すべき経済圏と見なされがちです。EUは、まさにその先進的モデルでした。関税削減や撤廃の対象となる物品を相互に絞り込むピックアップ型の通商協定は時代遅れと見なされ、自由貿易協定でさえ、古びた響きがあります。しかしながら、通商利益の互恵性を考慮しますと、必ずしも、古典的な通商協定や自由貿易が劣っているという訳ではありません。自由貿易における互恵性は、既にリカードなどの古典的な比較優位論で論理的に説明されていますが(それでも劣位産業は淘汰の運命に…)、古典的な通商協定もまた、基本的には、相互利益の成立する分野に限定するのですから、互恵性、つまり、双方の「いいとこ取り」が許されているのです。先史時代の遺跡からも遠方の物産が発掘されるように、交易の本質は互恵にあります。

 その一方で、市場統合の形態を見ますと、確かに、市場が広域化されますので、規模の経済の追求といったメリットが認められます。しかしながら、全ての要素が一斉に移動するわけですから、経済力の格差によって、要素移動には当然に不均衡が生じます。経済レベルの低い国から高い国へとあらゆる要素が移動し、全体を見れば、経済格差が広がるのです。例えば、国内において、都市部への人口や拠点の集中が起こるのと同時に、地方の過疎化が起きるのと同じです。しかも、EU域内では、人も自由に移動するわけですから、経済レベルの高い国でも移民に職を奪われる結果として失業問題が発生します。こうした種々のデメリットを押さえるために、EUでは、経済レベルの高い国の財政負担によって、インフラ整備といった様々な形での財政移転政策が実施されています。EUの結束を強めるために財政統合を推進すべき、とする意見の根拠は、まさにここにあるのです。しかしながら、ソブリン危機で見られたように、財政統合の深化は、経済レベルの高い国の国民の強固な反対に直面します。さらなる財政統合は、分離方向に作用する可能性が高いのです。

 EUで起きた現象は、市場統合が、必ずしも全ての加盟国にとってウィン・ウィン関係とはならず、深刻な社会変化をも伴う様々な問題を引き起こすリスクを示しています(場合によっては、メリットよりデメリットが上回る…)。EUが、国民国家体系と自由主義経済という二つの系のバランスの上に成立しているとしますと(複体系)、これ以上の混乱を回避するためには、むしろ、対英関係のみならず、EU内部においても、「いいとこ取り」に向けての修正を図る方が賢明ではないかと思うのです。

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イギリスのEU離脱問題-人の自由移動の先は人類家畜化

2016年06月28日 16時55分12秒 | 社会
アングル:英国、EU市場へのアクセス維持へ「第三の道」模索も
 イギリスのEU離脱問題とは、突き詰めて考えてみますと、国家と市場のどちらを取るのかを英国民に迫る酷な選択であったように思われます。この二者択一に合って、イギリス人は国家を選択したわけですが、近年、イギリスが直面していた移民問題の深刻さを考慮しますと、離脱の選択も理解できます。

 ところで、マスコミ等では、離脱の選択を非理性的で感情的、かつ、愚かな選択としてこき下ろしておりますが、果たして、この評価は当たっているのでしょうか。EU側は、人の自由移動の原則の維持に並々ならぬ意欲を示しており、また、これを欧州市場の核となる原則と位置付けています。しかしながら、人の自由移動の先には、人類家畜化の未来が見え隠れしております。何故ならば、全世界の人種、民族、宗教…が混じり合いますと、歴史や伝統文化というものを人類は失うからです。

 歴史や伝統文化というものは、その土地にあって、長い時間をかけて形成されてきた国民という集団の記憶や慣習と共に根付いているものであり、個人レベルでは維持できない性質ものです。全世界的に移動を自由化しますと、全ての歴史や伝統文化が個人レベルに細分化され、他所へ移動する状態となりますので、同民族が集まって集住しない限り、結局は、散逸するか、変質してしまうのです。これが同時に発生しますと、人類の将来とは、職場に出勤し、帰宅してはスマホをいじり、休日には均質化された大衆娯楽に興じ、会話も多言語状態のために必要最低限の日常会話程度に劣化するという状況に陥ります。そして職を失えば、また別の場所に移動するのです。この状態では、人間とは、単なる”働く生き物”に過ぎず、家畜と然程の差はありません。

 離脱の決断に対しては風当たりが強いようですが、人類の将来像を予測しますと、イギリス人が世界に対して示した決断は、必ずしも間違っているとは言えないように思えます。人の自由移動の先に、人類家畜化への道が続いていることに気が付いたのかもしれないのですから。

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対英離脱交渉の行方ー欧州委員会v.s.加盟国となるのか

2016年06月27日 15時36分25秒 | ヨーロッパ
英離脱で温度差も=28日から首脳会議―EU
 イギリスのEU離脱が決定されたことにより、国際社会の関心は、EUとイギリスとの間の離脱交渉の行方に移りつつあります。離脱交渉に際しては、EU側が、交渉妥結の条件として、イギリスに対して”人の自由移動”を認めるよう迫るのではないか、とする憶測もあります。

 この憶測通りに展開するとしますと、移民問題への危機感から離脱に投票したイギリス国民とりましては、離脱の成果が消滅することになるのですが、果たして、EU側は、実際に”人の自由移動”の承認を条件化するのでしょうか。ユンケル欧州委員会委員長の発言や行動を見ておりますと、イギリスに対する”懲罰的”な意味合いから、欧州委員会側が、”人の自由移動”の承認を要求する可能性は決して小さくはありません。移民・難民問題でも、”人の自由移動”の原則こそ、ユンケル委員長にとっての死守すべき砦であったようにも見受けられます。その一方で、EU加盟国はどうかと申しますと、少なくとも国民レベルではイギリスに同情的な意見も少なくなく、また、政府レベルでもイギリスとの友好関係の維持に積極的な加盟国も見られます。”人の自由移動”は、全ての加盟国にとりまして問題含みであるからです(国家喪失の危機感…)。対英離脱交渉に関しては、加盟国間のみならず、委員会とEU加盟国との間にも温度差が見られるのです。

 EUの通商政策の決定手続きを見ますと、委員会には提案権があっても、EU加盟国の閣僚から構成される理事会に主たる決定権があります。となりますと、委員会が望むほどには対英懲罰的な交渉とはならず、”人の自由移動”についても、何らかの見直しが図られる可能性もないとは言えません。対英交渉に先立って、EU内部での意見集約の行方が注目されるところなのです。

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イギリスのEU脱退-財政統合加速論への疑問

2016年06月26日 21時16分00秒 | アジア
離脱の意味理解せず投票?勝利後に英で検索1位
イギリスのEU脱退を受けて、今後のEUの将来像に関する議論も活発化して生きております。”ドミノ現象”の発生を懸念してか、今後、EUの結束を強めるために、財政統合を加速化されるのではないかとする意見もあります。

 しかしながら、ヨーロッパの歴史を振り返りますと、この説には疑問を感じずにはいられません。何故ならば、過去の歴史において、類似する事件が発生しているからです。時は西暦407年、ローマ帝国は、紀元前1世紀のカエサルの上陸以来、自らの版図としてきたブリタニアの支配を諦め、ローマ軍の撤退が開始されます。その背景には、大ブリテン島にアイルランド人やサクソン人が侵入し始めたことに加えて、財政問題があったとされています。当時のローマ帝国は、東方の国境を防備するために帝国の予算を費やしており、このため、ブリテン島への税負担(穀物の徴収)も増していたとする説があるのです。この結果、ブリテン島では、ローマ帝国による厳しい苛斂誅求に耐えかねたブリトン人の反乱が絶えず、もはやローマ帝国は、ブリテン島を維持できなかったというのです。今日のイギリスの対EUの税負担については、残留派は不正確であるとして否定しつつも、イギリスのEUへの財政上の出超は、国民投票における離脱派の根拠の一つとなりました。

 何時の世でも、他国への財政移転が負担側の人々の不満を高めるとしますと(アメリカでも、トランプ氏が在外米軍の駐留費を問題に…)、今後、EUにおいて強引に財政統合を進めた場合、逆に、EUを分離の方向に加速させる可能性も否定はできません。果たして、歴史は、姿を変えて繰り返すことになるのでしょうか。

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英EU離脱ー仕切り直しのチャンスでは?

2016年06月25日 06時37分56秒 | 国際政治
外務次官がEU、英国訪問=離脱派勝利受け対応協議
 昨日、国民投票の結果、イギリスのEU離脱が決定されました。大方の予測が残留であっただけに、離脱ショックが全世界に広がっています。

 悲観論に覆われているかのようですが、必ずしも悲劇的な結末を迎えるとは限らないのではないかと思うのです。否、国家と市場、あるいは、政治と経済との関係については、”仕切り直し”を試みるチャンスとなる可能性さえあります。今日、イギリスのみならず、多くの諸国で移民・難民問題、所得格差、伝統や自国らしさの喪失…といった共通した問題を抱えています。イギリスの離脱派の判断は、こうした危機感が表出したものであり、他のEU加盟国もイギリスの後に続く”ドミノ現象”が懸念されているのも、この共通認識が存在しているからに他なりません。となりますと、EUが全世界に先駆けて実践しようとした”もの、人、サービス、資本”の4つの要素の全面的な自由化には、無理があると考えざるを得ないのです。そして、ここで主たる検討課題となるのは、やはり、”人”なのではないかと思うのです。人とは、経済のみで割り切ることは出来ず、政治、並びに、社会な存在でもあるからです。

 幸いにして、EUは、関税同盟(自由貿易+共通関税)、欧州市場、ユーロ圏…といった経済的枠組みの積み重ねでもありますので、イギリスの脱退については、関税同盟部分のみは維持するといった部分脱退の方法もないわけではありません。将来、イギリス脱退が”終わりよければすべてよし”となるために、双方にとって満足できる調和点こそ模索すべきと思うのです。

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英国民投票ー正反対の二つの理想

2016年06月24日 10時01分02秒 | ヨーロッパ
英国民投票:サンダーランドは離脱派が勝利
 昨日、EUからの離脱の是非を問う国民投票がイギリスで実施され、現在、開票作業が続いています。締め切り直後の世論調査では、残留派が僅かにリードしたものの、開票速報でも、接戦状態のようです。

 離脱派と残留派とを地域的に色分けすると、中部サンダーランドで離脱票が61%に達するなど、イングランドでは離脱票が優勢であり、スコットランド等では、逆に残留票が多数を占めています(ただし、都市部の開票はまだかもしれない…)。地域差も見られるのですが、英国の国民投票は、自国に対して、国民が全く逆の異なる”理想”、あるいは、”将来像”を持つ場合の混迷をも示しています。

 離脱派にとりましては、国民投票は、いわば”独立”の問題と化しており、死活問題ですらありました。何故ならば、EUへの残留が、国境管理や移民・難民政策を含む国家の主権的な権限の喪失を意味し、近い将来、イギリスという国が移民社会に変貌する可能性があるからです。離脱派の理想とは、イギリスの歴史や伝統が息づく安定した社会なのでしょう。その一方で、残留派は、EUとの経済的関係のメリットを強調しましたが、それは、イギリスの移民社会化の容認と表裏一体でもありました。否、国境がなく、全ての人種、民族、宗教等が融合し、仲良く共存する社会こそが理想であったのです。たとえ現実においては、深刻な社会的分裂やテロ事件が起きていたとしても…。となりますと、双方とも、他方の理想実現に向けた行動は、自らにとっては”地獄”への道の強要となります。こうした場合には、”理想”への献身は、褒め言葉とはならないのです。

 コンセンサスなき”理想”の強要は、国民の反発を買う原因となります。何れの結果となったとしても、勝利した側も、国民の凡そ半数が、逆の理想を抱いていることを考慮すべきですし、その懸念を払拭する努力を怠るべきではないのでしょう。投票結果を待つばかりとなりましたが、イギリスの国民投票は、”その後”にも関心を払うべきではないかと思うのです。

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英国民投票は国家対市場の構図-古くて新しい問題

2016年06月23日 14時59分28秒 | 国際政治
EU離脱支持、1ポイントリード=世論調査
 注目を集めてきたEUからの離脱を問うイギリスの国民投票は、遂に投票日を迎えました。直近の世論調査では、離脱支持が1ポイントほど上回っていると報じられており、最後まで結果が分からない展開となっております。

 EU離脱派とEU残留派との対立軸を見ますと、終盤に至るほどに、国家対市場という古くて新しい対立構図が浮かび上がってきたように思えます。現実の世界では、通常、政治と経済とでは、異なる秩序の下にあるものです。共産主義国家では、理論上、政経は一元化されており、その硬直性(自由な経済空間の消滅)が、ソ連邦を崩壊させた要因となりました。

 その一方、自由主義国、特に第二次世界大戦後の西側諸国では、政治の分野では国民国家体系が構築される一方で、経済の分野では、個々に経済活動の自由を認める市場経済が独自の発展を遂げています。国民国家体系は、民族(nation)を基本的な枠組みとしますので、分離・独立に見られるように、政治的単位は細分化の方向へと向かいますが、市場経済では、グローバリズムと称されるように、国境を超えた拡大志向を特徴とするのです。つまり、両者は、分化と拡大という全く逆方向のベクトルを持つのです。この二つの系は、どちらか一方のベクトルが強く働く、あるいは、両者が同時に自らの目指す方向にアクセルを踏みますと、分裂や崩壊の危機に瀕します。EUが、市場経済の発展に応える形で、複数の主権国家から構築された地域機構であることを考慮しますと、EUとは、まさしく、両者のバランスの上で安定を保っていたとも言えます。

 イギリスの情勢、並びに、近年のEU懐疑主義の躍進は、EUにおいて保たれてきた国家と市場との間のバランスが崩れつつあることの現れであるかもしれません。危機に瀕するEUは、国家と市場との調和点はどこにあるのか、という根本問題を、改めて問うているように思えるです。

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EUは統合し続けるのか?-ジャック・アタリ氏への疑問

2016年06月22日 15時52分28秒 | 国際政治
残留か離脱か、社説で舌戦=英主要紙
 EUからの離脱を問うイギリスの国民投票を明日に控え、関連の報道も過熱気味です。かつては、EU誕生、ユーロ導入、並びに、新規加盟等が華々しく報じられたものですが、最近は、ソブリン危機や難民・移民問題をはじめ、マイナス面での報道が目立っております。

 こうした中、先日の日経新聞の紙面に、フランスの知識人として知られるジャック・アタリ氏の見解が掲載されていました。混迷を深めるEU情勢について、氏は、統合のさらなる推進こそが、危機を脱出する道であると説いています。EUは、常に統合に向けて歩み続けなければ倒れてしまうと…。こうした議論は、しばしば漕ぎ続けなければ倒れてしまう二輪車に譬えられますが、氏の処方箋は、EUを救うことになるのでしょうか。

 現実には、イギリスをはじめ、EU加盟国の間でEU懐疑論が湧き出てしまった原因は、EUが、統合の深化に向けてペダルを踏み過ぎてしまった点にあるのかもしれません。EUの将来像を連邦国家や超国家に定めるとしますと、EUの統合プロセスとは、完成に至るまでの直線として描かれます。アタリ氏の見解は、この直線論です。その一方で、EUの理想像を複数の主権国家から構成される国家連合と見なす立場からしますと、EUが統合に向けてペダルを踏めば、国家主権を維持したい加盟国政府や国民の側からのブレーキがかかります。統合のレベルは直線的に上昇せず、逓減するのです。後者の見解では、EUと加盟国との間で調和点が模索されることになります。

 現在のヨーロッパを見ておりますと、後者の見解の方に説得力があるように思えます。イギリスの国民投票は、同時に、EUのあり方をも問うているのではないかと思うのです。

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中国が航行を欲する海峡が国際海峡?

2016年06月21日 16時57分21秒 | 国際政治
 今月15日、中国の軍艦が鹿児島県口永良部島沖の日本の領海を航行した件について、中国側は、トカラ海峡は国際海峡であると主張し、国際法上の合法行為であると正当化しました。しかしながら、トカラ海峡が国際海峡であるとする説は、誰も聞いたことがないはずです。

 中国の突飛な言い分に日本国民の多くは唖然とさせられたのですが、国際法における国際海峡とは、特定の国の領海の下におかれ、海洋の二つの部分を結ぶ国際航行の要路であり、かつ、軍事上、及び、通商上極めて重要な地理的位置にある海峡を意味します。国際海峡の通過通航権は、通常の領海内の無害通航よりも自由度が高く、潜水艦を含め、軍事目的の航行も許されます。因みに、国連海洋法条約の第37条では、国際海峡の通過通航権は、「公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡」と規定されています。

 ここで注目すべきは、トカラ海峡は”国際海峡”に当たるのか、という問題です。トカラ海峡が国際航行に使用されているわけではありませんので、日本国では、トカラ海峡は国際海峡としては認定されていません。しかも、トカラ海峡は、航行の難所ということもあり、通商航路として国際的に使用されているわけでもないのです。中国は、トカラ海峡を国際海峡と見なす根拠を全く示しておりませんが、おそらく、トカラ海峡が中国=外国の軍事戦略において航行を要する海峡であることが、唯一の理由であると推察されます。この理屈が通用するならば、中国が航行を欲する海峡は、全て”国際海峡”ということになりましょう。他の諸国も、”中国に倣え”で真似を始めますと、国際海洋秩序は混乱を来し、世界各地で軍事的な緊張も高まります。

 中国が、軍事的にトカラ海峡の国際海峡としての通過通航権を主張する背景には、当然に、太平洋への進出を目指す海洋覇権の追求があります。トカラ海峡を国際海峡と言い張るならば、中国は、国際海洋法条約の規定に従い、国際司法機関への解決の付託を日本国側に提案すべきと思うのです。

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女性初のローマ市長-広がる既成政治への不満

2016年06月20日 15時39分52秒 | ヨーロッパ
伊地方選決選投票、ローマ市長選は五つ星運動が勝利 首相に痛手
 アメリカでは、共和党の指名候補の座を手にしたトランプ氏に対して、しばしば”大衆迎合”とする批判の声が寄せられています。一方、イギリスのEU離脱をめぐる国民投票でも、残留派は、離脱派を”大衆迎合”として罵っています。

 こうした中、イタリアの首都ローマでは、初の女性市長が誕生したと報じられています。新興政党である五つ星運動のビルジニア・ラッジ候補が67%もの票を獲得したというのですから圧勝です。五つ星運動とは、左右両派の既成政党に対する批判から7年前に誕生した政党であり、公約としては、腐敗撲滅や公共サービスの向上などを掲げ、EUに対しても批判的な立場とされています。既成政党の立場からすれば、五つ星運動も”大衆迎合”なのでしょうが、果たして、世界各地、しかも、先進国で散見される反既成政治の動きは、”大衆迎合”という否定的表現、批判の一言で済まされるのでしょうか。

 少なくとも民主主義国家では、”大衆迎合”を否定することは、民主主義の否定をも意味しかねません。”大衆迎合”と民意は、表裏一体であるからです。逆から見ますと、既成政治側の主張は、大衆無視の’既得権益政治’、あるいは、少数エリート支配の容認となり、既成政治側が”大衆迎合”として批判すればするほど、言われた側は見下された感覚を抱くと共に、反発を感じます。しかも、移民・難民問題の深刻化、政治腐敗、劣悪な公共サービスといった問題への対応は、一般の国民にとりましては、常識的な政治に対する要求です。”大衆”は、必ずしも、無知で野蛮な存在ではありません。”大衆迎合”は、意見を同じくする人々が多い、ということだけであり、必ずしも反知性的で反道徳的でもないのです(もちろん、実現不可能な解決方法を示すことで、国民を騙すケースもありますが…)。

 一般の国民の常識的な要求を”大衆迎合”という言葉で冷たくあしらってきた既成政党の高慢な態度、あるいは、その背後にある既得権への執着こそが、今般の地殻変動を生んでいるのではないでしょうか。既成政治であれ、何であれ、独断や独善に陥らず、政治家である限り、国民の声に真摯に耳を傾けるべきなのではないかと思うのです。

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英国民投票はEUとの合意案の是非を問うべきだった

2016年06月19日 15時00分34秒 | ヨーロッパ
英首相「不寛容排除」訴え=野党党首と議員殺害現場訪問―国民投票、残留派同情論も
 EUからの離脱を問う国民投票の投票日を23日に控え、イギリス国内では離脱派と残留派の間の対立が激化し、下院議員殺害事件も発生しました。投票結果に拘わらず、双方の間の感情的なしこりは長期的に残ると予測され、国民投票の実施は、国民の間の溝を深めています。

 悲劇的な展開とも言えますが、両派による対立の激化は、当国民投票が表面的にはEUからの離脱を問うていながら、その実、イギリスという国家の将来像を問うものであったからに他なりません。双方ともに譲れない問題であり、かつ、選択肢は”Yes”か”No”の何れしかないのです。およそ最終決定を意味し、かつ、二者択一化された状況では、両派の間で妥協点を見出すことも不可能となりますので、対立の先鋭化は必至であったとも言えます。それでは、こうした事態を避ける方法はあったのでしょうか。

 仮に方法があったとしますと、その一つは、国民投票のテーマを、2月に成立したEUとの妥協案に対する受入の是非に設定することではなかったかと思うのです。このテーマであれば、EU離脱を問う前に、もう一度、EU側と再交渉を行うチャンスが確保できます。国民投票で国民多数が受け入れを拒否すれば、イギリス政府は、その拒絶の投票結果をバックに、EUに対してさらなる譲歩を要求することができるのです。EU離脱の国民投票は、再交渉においてEU側が対英譲歩を拒絶した後でも遅くはなかったはずです。

 今般の国民投票におけるイギリスの状況を見ておりますと、より丁寧な手続きを踏んだ方が、国内の混乱は避けることができたかもしれません。国民投票を四日後に控え、もはや、”時すでに遅し”の状況ではありますが、今からでも国民投票のテーマを変更することはできないものか、と思案するところです。テーマが変更されれば、国内の緊張が緩和され、国民の心にも余裕が生まれるのではないかと思うのです。

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移民への質問-”あなたの祖国が移民に占められてもよいですか?”

2016年06月18日 14時17分31秒 | 国際政治
英首相「不寛容排除」訴え=野党党首と議員殺害現場訪問―国民投票、残留派同情論も
 EU離脱の是非を問う国民投票を間近にして、イギリスでは、女性議員の殺害という忌まわしい事件が発生しました。犯人の背景が取り沙汰されおりますように、同国での離脱派と残留派の論争を見ておりますと、移民問題が主要軸となっているように思えます。

 残留派の人々は、EU加盟国であることの経済的メリットを訴えておりますが、その努力もむなしく、なかなか残留派の人々を説得するには至っていないようです。何故ならば、離脱派の人々にとりましては、移民によって自国が奪われてしまうという危機感こそ、離脱を選択する理由であるからです。特に、移民人口が過半数を超えたロンドンでは、史上初のイスラム系市長が誕生しており、一般のイギリス人にとりましては、移民の増加は、英国という国名は残っても実質的に祖国が喪失する、という切実、且つ、現実的な問題なのです。

 残留派が、たとえ”恐怖プログラム”と称される”脅し”をかけても、離脱派にとりましては、自国喪失の恐怖の方が遥かに上回るのです。イギリスに限らず、移民問題を抱えていない国は殆どなく、今や、世界共通の課題と化していますが、この問題に関して常々疑問に感じるのは、移民の人々の”移民という行動”に対する理解です。人間とは、立場によって意見が変わることがありますが、移民する側の人々は、”あたなの祖国が移民に占められてもよいのですか?”という質問を受けた場合、何と答えるのでしょうか。おそらく、自己矛盾を避けるために表面上は肯定的な意見を述べたとしても、大半の人々は、本音では、”No”なのではないでしょうか。移民の人々も、出身国に居住していた時には、移民反対であったかもしれないのです。

 移民する人々には、”自分はよくでも、他者はだめ”というダブルスタンダードが見受けられます。例えば、イスラム諸国にとりましては、キリスト教徒や仏教徒など、異民族によって自国人口が占められてしまうことは、悪夢以外の何ものでもないことでしょう。移民問題の解決に際して多面的な見方が必要であるならば、移民する側にも、他の諸国や人々を思いやる気持ちを求めるべきなのではないでしょうか。”他人の嫌がることはしない”は、普遍的な道徳律であると思うのです。

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イギリス女性議員暗殺事件-何故現地は冷静なのか?

2016年06月17日 10時06分22秒 | ヨーロッパ
残留派女性議員、撃たれ死亡=国民投票に影響の可能性―英中部
 今朝方、EUからの離脱を問う国民投票を前にしたイギリスから、労働党に所属し、EU残留派であったジョー・コックス議員の暗殺を伝える衝撃的なニュースが飛び込んできました。ネット上では、第一次世界大戦の引き金となった”サラエボの一発の銃声”に譬える意見が見られる一方で、BBCの報道を見る限り、現地は予想外に冷静さを保っているようです。

 それでは、何故、歴史的国民投票を控えた時期に、政治的暗殺という忌まわしい事件が発生しながら、現地はかくも落ち着いているのでしょうか。犯人は既に逮捕されていますが、居合わせた目撃者の証言によりますと、暗殺に際してこの犯人は、”ブリテン・ファースト”と叫んだそうです。”ブリテン・ファースト”とは、EU離脱を主張するイギリスの”極右団体”の名称ですが、同団体は、早々に犯行を否認しています。表面的には残留派が離脱派に対して政治的テロを仕掛けた構図となりますので、一昔前であるならば、国民世論は離脱派批判で激高したことでしょう。しかしながら、この事件は、国民投票の行方にも影響を与えるとされながら、今のところ、イギリスにおいて感情的な反応は見られないのです。その理由として推測されることは、国民の多くが、表面的な構図を素直には信じなくなってきていることです。例えば、離脱派が優勢にある中、犯人が”ブリテン・ファースト”と叫んだ点も疑問の一つです。優勢にある側が、敢えて自らに不利になるような行動をとるとは思えないからです。イギリスは、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロなど、名探偵が数多く誕生した国でもありますが、推理小説好きのイギリス人の多くは、事件の裏には別の思惑が働いている可能性を敏感に感じ取っているのかもしれません。

 情報に乏しく、事件の真相が不明な段階では、国民としても、判断のしようがないのでしょう。もっとも、こうした国民の警戒心と用心深さこそ、国民が”政治的テクニック”のリスクを熟知した民主主義国家の姿であるのかもしれません。

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”中国包囲網”を自ら構築する中国

2016年06月16日 15時08分34秒 | 国際政治
また中国軍艦、政府危機感 抗議6日後、鹿児島沖領海に
 今月9日、インドと中国との間の係争地であり、現在、インドの実効支配の下にある印北東部アルナチャルプラデシュ州に、人民解放軍が侵入したと報じられておりました。中国の積極的な軍事行動への警戒感が強まる中、昨日は、中国軍艦が日本国の鹿児島県沖の領海に侵入しております。

 中国は、東西においてほぼ同時に軍事的な行動を起こしたわけですが、両者の間には繋がりがあるのでしょうか。中国軍艦による日本国領海の侵犯については、日米印合同演習に参加していた航行中のインド艦隊を追尾、あるいは、監視するためであったとの指摘があります。中国軍艦はドンディアオ級情報収集艦であることも確認されており、何らかの軍事活動を行っていたものと推測されます。日本国から抗議を受けた中国側は、”法的に問題はない”と主張していますが、他国の領海で軍事的な情報収集活動を行っていたとしますと、国際法において認められている無害通航には当たりません。中国の行動は、明らかに国際法違反なのです。中国は、国際法上の違法行為を承知で領海侵犯を行ったとなりますと、東西を隔てた二つの中国の軍事行動は、日米印に対する牽制であったと考えざるを得ません。おそらく、その背景には、近年、中国が、印パ関係においてはパキスタンへの肩入れを強めてきたこともあるのでしょう。中国は、日米のみならず、インドに対する”敵視”を、最早隠そうとはしていないのです。

 中国の周辺国に対する軍事的な敵対行為は、国際社会に対して、これらの周辺諸国によって中国包囲網が形成されることの正当性を、中国自らが印象付ける行為でもあります。行動によって自らの危険性、あるいは、侵略性を露わにしているのですから。そして今後、軍事行動をエスカレートさせ、本格的に侵略を開始するとしますと、中国は、二正面戦争、あるいは、全方位戦争を自ら招くことになるのではないでしょうか。

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