万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米中貿易戦争-‘本物の戦争’より100倍以上‘まし’

2018年08月28日 15時04分00秒 | 国際政治
米中貿易戦争が激しさを増すにつれ、‘戦争被害’も取り沙汰されるようになりました。日本企業も無傷でいられるわけはなく、被害予想の試算に慄いて早期の‘終戦’を望む声も少なくありません。

 米中貿易戦争において最も被害を受けると予測される日本の企業は、中国に製造拠点を設け、アメリカ市場に輸出している企業です。国境を越えた最適配置を試みた結果として構築してきた多国籍サプライチェーンの鎖の一つが、事実上外れてしまうのですから、その再構築には時間もコストもかかります。例えば、製造拠点を中国から東南アジア諸国などに移転させようとすれば、工業新設のための新たな設備投資、あるいは、移設のための移転費を要することでしょう。しかし、もっとも、近年の中国での賃金上昇やロボットを含む工作機械の技術向上を考慮すれば、日本国内や中国以外の別の地域への工場の移転は、長期的にはコスト減となるかもしれませんし、コスト増は、日本企業のみならず、米企業を含む中国生産にシフトした全ての企業に降りかかる運命ですので、アメリカ市場での競争条件において、日本企業のみがとりわけ不利となるわけでもないかもしれません。

 何れにしても、米中貿易戦争には相応の‘被害’を覚悟しなければならないのですが、この被害、長期的に見ますと、最小の被害である可能性がないわけではありません。何故ならば、中国が、巨額の貿易黒字を計上し続け、知的財産を侵害しつつ先進国の先端技術を貪欲に吸収しながら「中国製造2025」を実現する事態に至るならば、同国の軍事的脅威は現在とは比にならない程飛躍的に高まることが予測されるからです。「中国製造2025」は産業戦略として発表されていすが、それは同時に、先端的軍事技術における優位性の確立をも意味しています。

中国では、日一日と習近平独裁体制が強まり、「一帯一路構想」の名を借りた中国支配圏構想、否、世界支配構想も着々と進められています。人民解放軍の組織改革を見ても、‘戦争ができる軍隊’へと変貌しており、今や、ハイテク兵器は米軍の専売特許ではなくなりました。過去におけるソ連邦の軍事行動が如実に示すように、暴力革命に自らの正当性を求める共産主義国家は‘行動’、あるいは、‘実行’を是としていますので、近い将来、中国が軍事行動の挙に出ることは現実的な懸念です。日本国もまた、中国によって戦争に引きずり込まれる可能性は高く、貿易戦争ならぬ‘本物の戦争’も絵空事とは言えない状況にあります。

先の大戦では、日本国は、戦後に締結されたサンフランシスコ講和条約に基づき、中国大陸に日本企業が残した全ての残置財産を中国側に引き渡しております。数十年に渡る日本国側の莫大な投資は水泡に帰し、在中資産を全て失ったのです。この前例を思えば米中貿易戦争における‘被害’は僅かなものであり、また、若干の時間がかかるとしても、より安全なサプライチェーンを再構築することも不可能ではありません。万が一にも中国との間で戦争になり、日米同盟の奮闘もむなしく中国が勝利することにでもなれば、日本国や日本企業の財産どころか、無残にも国土も国民も蹂躙され、国家そのものを奪われることとなりましょう。

米軍が人民解放軍に優位している現段階にあって、中国の覇権主義を経済的な手段で抑え込むことができれば、これに優る良策はないのではないでしょうか。先を見越すならば、米中貿易戦争を徒に嘆くよりも、‘本物の戦争’を回避できる絶好のチャンスの到来として歓迎すべきなのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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