万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮による拉致問題の逆利用-悪魔は善から悪を引き出す

2018年04月30日 13時46分05秒 | 国際政治
日韓首脳電話会談 文大統領が拉致問題提起 安倍晋三首相「誠意に感謝」 
 南北首脳会談に続き米朝首脳会談の開催も決定された頃から、日本国内からも、日朝首脳会談を勧める意見が散見されるようになりました。この流れに乗せられてか、安倍首相も同会談に積極的な意向を表明するに至っています。しかも、拉致問題解決を最優先の議題に据えたいようなのです。

 こうした日本側の動きを見越して、北朝鮮の金正恩委員長からも対日交渉の扉は開かれているとするメッセージが発せられているようです。しかしながら、この流れ、拉致問題を巧妙に利用した一種の詐欺ではないかと思うのです。何故ならば、日本人拉致事件とは、紛れもない北朝鮮による国家犯罪であり、拉致被害者の解放は、当然のことであるからです。国内法である刑法においては略取又は誘拐の罪に当たり、加害者は厳正なる裁判の下で刑罰を受ける立場にあります。

 ところが、マスメディアの報道ぶりを見ますと、拉致事件の解決=平和=北朝鮮礼賛の三段論法的な構図が演出されており、その犯罪性が隠蔽されているかのようです。しかも、核・ミサイル問題の解決とは切り離した見解も多く、日朝交渉に限定すれば、金委員長の‘英断’によって拉致被害者の帰国が実現すれば、直ぐにでも日本国側の対北経済制裁が解除され、日朝国交正常化まで進展するかのような印象を与えているのです。

 北朝鮮の策略とは、核・ミサイル問題は脇に置き、拉致事件を前面に打ち出すことで、先ずは日本国政府を交渉の場に引出し、現行の経済制裁の緩和や多額の経済協力を伴う日朝国交正常化等を条件に拉致被害者を帰国させるというものなのでしょう。その際には、生き別れた被害者家族の再会という誰もの涙を誘う“感動的なシーン”が演出され、金委員長を勇気ある‘解放者’として讃えるものと推測されます。その真の姿が刑務所に行くべき犯罪者であるにも拘わらず…。

そして、この点に関しては、安倍首相も、拉致事件の解決を最優先とし、かの平壌宣言に基づく日朝国交正常化に言及しているのですから、北朝鮮の巧妙な対日懐柔作戦に騙されているとしか言いようがないのです。この流れは、2002年の小泉元首相による訪朝時における“サプライズ外交”と類似しています。日本国政府は、またもや北朝鮮が仕掛けた同じ手に騙されるのでしょうか。

 “悪魔は、善から悪を引き出す”とされていますが、北朝鮮の手法は、拉致問題が人道問題であることを逆手にとった一種の詐欺のように思えます。拉致事件の解決に対しては、人道問題であるだけに心理的に反対意見の表明が憚られ、北朝鮮による詐欺を見抜いての冷静、かつ、合理的な批判であっても、マスメディア等から非人道的な見解として手厳しく叩かれかねません。国家犯罪が人道の名によって“善行”にすり替えられ、しかもその先には、日本国からの莫大な経済支援という詐取が潜んでいるのです(経済支援を受けた後に、日米に向けた核開発が再開される可能性もある)。このように考えますと、マスメディアによる“バスに乗り遅れるな”式の日朝交渉の薦めに煽られることなく、日本国政府も国民も、冷静に北朝鮮の悪を見据えるべきではないかと思うのです。

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朝鮮戦争終結なら中朝同盟も終了すべき-朝鮮半島の非同盟地帯化案

2018年04月29日 14時49分18秒 | 国際政治
北朝鮮が核実験場を5月中に廃棄、米韓メディアに公開へ
朝鮮半島情勢については、未だの予断を許さないものの、米朝首脳会談では、アメリカ側も満足する合意、即ち、北朝鮮の非核化が実現するとする期待が高まっております。トランプ米大統領が合意に向けた自信を示す一方で、北朝鮮側も、核施設の5月中の廃棄を約すると共に、朝鮮戦争の終結と不可侵の確約さえ得られれば、核を放棄する意向を表明しています。

 北朝鮮に逃げ道や極秘開発を許すような中途半端な妥協には警戒を要するのですが、先代とは違い、スイスで教育を受けた金正恩委員長が、国際経済勢力とも手を結び、自己保身と鉱物資源等の経済利権の独占を優先するならば、“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”に応じる可能性は決して低くはありません。そして、このシナリオが現実のものとなる時、考えるべきは朝鮮半島の将来像です。

 アメリカが、朝鮮戦争の終結を望むには、それ相応の理由があります。東西冷戦下の朝鮮戦争の当時にあっても、アメリカの若者たちが、海外で起きた戦争において命を落とす不条理さが問題視されており、トランプ大統領としても、できることならば自国民が韓国のために犠牲を払う状況は避けたいことでしょう。また、米韓同盟から生じる財政負担についても批判的でしたので、朝鮮戦争が終結されれば、在韓米軍の駐留費も削減することができます。そして、“北朝鮮の非核化”に留まらず、北朝鮮、否、その背後に控える中国の“朝鮮半島の非核化”の要求に応じるならば、韓国に対するアメリカの“核の傘”も外す必要があり、それは、米韓同盟の終了を意味するかもしれません。“韓国疲れ”も指摘されているアメリカの立場を慮れば、米韓同盟の終了も致し方ないと言わざるを得ないのです。

 朝鮮戦争の終結と同時に米韓同盟も終焉を迎えるとなりますと、最も懸念される事態は、軍事、並びに、経済大国と化した中国による朝鮮半島全域における支配の確立です。親北派の韓国の文大統領は、民主主義、自由、法の支配といった諸価値よりも“平和”を重視しており、歴代中華帝国から冊封を受けていた朝鮮半島の歴史を振り返れば、中国の傘下入りは吝かではないことでしょう。しかしながら、日本国にとりましては、自国の防衛線が一気に西水道まで下がるのですから、安全保障上の重大な転機を迎えます。日本国までもが中国の支配下に入るような事態ともなれば、アメリカもまたもはや太平洋を維持することはできず、国際秩序は一変することでしょう。しかも中国は、国際法を踏み躙る無法国家ですので、国際社会は軍事力がものを言う野蛮な世界に逆戻りするのです。

 となりますと、日本国こそ、野蛮と対峙する文明の最前線に位置することとなるのですが、独裁国家中国の世界支配を阻止するためにも、その前段階となる朝鮮半島全域の中国支配を未然に防ぐ必要があります。そこで考えられる方法の一つは、朝鮮半島の緩衝地帯化であり、米韓同盟の解消と中朝同盟の終結とをセットとし、半島全域を非同盟地帯化です。つまり、“朝鮮半島の非核化”のプロセスに緩衝地帯化を組み込み、最終的に、米中ロの何れの国も朝鮮半島に決定的な支配力を及ぼすことを防ぐのです。

 目下、メディアをはじめ国際社会の関心は米朝首脳会談に集中しておりますが、既に、その先を考える時期に至っているのかもしれません。たとえ同会談で合意に達したとしても、国際社会は、人類が培ってきた諸価値を破壊し、法の支配ではなく人の支配、否、独裁者の支配を是とする勢力の拡大という忌々しき事態に直面するかもしれないのですから。“平和”という美名の下で米朝合意が強欲な無法勢力に利用されぬよう、米朝首脳会談に臨むトランプ大統領には、是非とも、有効な予防策を講じていただきたいと思うのです。

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朝鮮戦争終結で北朝鮮は軍事独裁体制から経済利権独占体制へ?

2018年04月28日 15時20分38秒 | 国際政治
「完全非核化目標」と明記 北朝鮮、南北会談を報道
 昨日、朝鮮半島の板門店で設けられた南北首脳会談において、両国首脳が最も強調したかった合意点は、予想通り、朝鮮戦争の終結であったようです。案の定、非核化問題について沈黙してきた北朝鮮の朝鮮中央通信も、同会談の共同宣言を「板門店宣言」として報じながらも、同問題については、“付け足し”程度の報道ぶりであったようです。

 ところで、プロパガンダと演出を重んじる南北両政府とも、同会談を朝鮮戦争終結への道筋をつけた歴史的快挙として浮かれておりますが、朝鮮半島における朝鮮戦争の終結が何を帰結するのか、真剣に考えた末なのか疑問なところです。何故ならば、朝鮮戦争が幕を閉じれば、同時に、北朝鮮の軍事独裁体制もまた終焉を迎えざるを得ないからです。

 北朝鮮の独裁体制は、外部に“敵”の存在があってこそ、成立し得えるものです。歴代の指導者達は、恒常的な戦時体制を以って自らの独裁権力を正当化しており、アメリカや韓国、時には日本国をも倒すべき敵国として罵倒してきました。北朝鮮国民も、幼少期から一致団結して戦う心構えを叩き込まれ、“将軍さま”が敵国を倒す日を信じて窮乏生活に耐えています。飢餓が起ころうが、抑圧的な生活を余儀なくされようが、あるいは、指導者達が贅の限りを尽くした生活を送ろうが、どれもこれも戦争に勝つという目的の前には些細なことでしかなかったのです。

 しかしながら、今般、両国が平和に向けた新たな道を歩み始めるとしますと、北朝鮮国民は、一体、どのような反応を示すのでしょうか。もはや憎き“敵”はいなくなるのですから、軍のトップに座す金正恩委員長のみならず、朝鮮人民軍もまた、これまでの特権的な立場を維持できなくなります。従来の先軍政治は方向転換せざるを得ず、国家の予算や資源も経済分野に重点的に振り向けられることになりましょう。

 確かに、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会においては、核開発は完了したとして“並進”路線から転換し、今後は“社会主義経済建設”を目指すとしており、既に経済中心への移行の兆候は見られます。また、金委員長が極秘に訪中した際にも、改革開放路線のモデル事業等を視察するなど、経済に対する高い関心を示しています。となりますと、ソ連邦崩壊に際して、旧共産党員が企業家に転身し、中国においても共産党幹部が経済利権を握ったように、北朝鮮にあっても、指導者と軍部に経済利権を集中させる“新たな体制”への転換を図ろうとしているのかもしれません。

 そして、ここに一つの可能性としてのシナリオが想定されます。それは、米朝首脳会談において、北朝鮮が急転直下、アメリカが求める“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”に応じるとするものです。おそらく、その見返りは“体制の保障”であり、それは、現行の軍事独裁体制ではなく、金一族、並びに、その取り巻きによる経済利権の独占体制の承認となのでしょう(北朝鮮の鉱物資源や労働力等を狙う米欧企業、並びに、中韓企業にとりましても、独裁体制の方が取引し易い…)。政治的な民主化は、AIや情報通信分野における先端技術を駆使した情報統制や監視システムによって押さえつける一方で、経済面においては、独裁者が党を介して官民の企業をコントロールするという、かの中国モデルです。冷酷で利己的な金正恩委員長であれば国権を私物化し、国民を置き去りにしても自己利益の最大化を図ることには躊躇しないことでしょう。しかも、“北朝鮮の核放棄”の合意ともなれば、米朝首脳会談において得意の“サプライズ”を演出できますし、経済制裁も解除される上に、国際社会から惜しみない称賛を受けるかもしれないのです。北朝鮮が、あくまでも核保有に拘る場合には、米朝首脳会談の決裂から軍事制裁へと事態は進展しますが、金一族が、利権さえ手に残れば核を手放すと決断するならば、両国間の合意成立もあり得るシナリオなのです。

 このシナリオは、北朝鮮の核放棄という点において、所期の国際社会の目的は達成されたように見えます。しかしながら、習近平国家主席をトップとする個人独裁を確立した中国が、国民の不満を逸らし、かつ、求心力を高めるために軍事的な拡張主義に活路を求めているように、北朝鮮の軍国主義も、何時、復活するか分かりません。特に警戒を要するのは日本国であり、南北首脳会談の晩餐会のデザートに竹島が登場したように、日本国は、南北共通の“敵”に仕立て上げられる可能性さえあるのです。また、長期的な視点からしますと、身勝手な金委員長の変わり身の早さと国家の私物化は、金一族に対する民心の離反を招き、真の意味での体制崩壊をもたらすかもしれません。

 このように考えますと、たとえ米朝首脳会談で“北朝鮮の核放棄”が合意されたとしても、手放しには歓迎できないように思えます。中国モデルの独裁国家が一つ増えただけであり、利益を得るのは利権に与る独裁者と国際経済勢力といった一部の人々でしかないからです。民主主義も自由も犠牲に供され、国際社会の法もモラルも、経済勢力を味方に付けた全体主義国家群によって蝕まれることでしょう。この解決方法が果たして人類にとりまして望ましいのか、今一度、深く考えてみる必要があるように思えるのです。

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南北首脳会談-アメリカによる最初のテスト項目とは

2018年04月27日 10時38分54秒 | 国際政治
南北会談「最初のテスト」 非核化で米高官
 本日、朝鮮半島の板門店に設けられている「平和の家」において、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長との間で、南北首脳会談が開かれる予定です。北朝鮮側は、金委員長の訪韓を「人民のため、命をかけて1人で南側に行かれる」と讃えて神格化のプロパガンダに余念が無い一方で、韓国の青瓦台も、「平和 新たな始まり」を標語として同会談を国民にアピールしています。

 南北両国とも、少なくとも国内向けには同会談の焦点を朝鮮戦争の終結問題に当てたいようですが、国際社会の優先的な関心は、別のところにあります。それは、当然に北朝鮮の非核化問題なのですが、両国間の立場の埋め難い隔たりからか、両国とも、非核化問題を最前面には出したくはないようなのです。非核化問題で折り合いをつけられなくとも共同宣言が発表できるように、平和条約締結に向けての歩み寄りを演出することで、予防線を張っているのかもしれません。先述した韓国側が作成した「平和 新たな始まり」の標語も、この文脈において理解されます。一方、アメリカ側の南北首脳会談に対する期待は、北朝鮮の誠実さに対する“最初のテスト”というものです。それでは、アメリカのテスト項目とは、一体どのような内容なのでしょうか。

 第1に推測される項目は、金委員長本人が首脳会談に出席するのか、否かです。同委員長には、暗殺を恐れるためか、多数の“影武者”が存在していると指摘されており、南北首脳会談が開かれたとしても、必ずしも、決定権を独占している独裁者自らが交渉の場に現れたとは限りません。米朝首脳会談を前にして、アメリカは、最先端の顔認証技術などを駆使して、先ずは、本人確認のテストを行うかもしれません。

 第2の項目は、同会談における核問題の議題化チェックです。この項目は、北朝鮮のみならず、同国に同調しがちな親北派の文大統領に対してもテストされるかもしれません。首脳会談に先立って設けられた高官級の南北会談では、事前の予測を裏切るかのように、核問題はスルーされました。両国とも朝鮮戦争終結を表看板としている今般の首脳会談でも、同様の事態はあり得ることです。

 仮に、第2の項目に合格して同会談において核問題が議題に上るとすれば、第3に、アメリカは、北朝鮮が、核放棄に関するアメリカの要求を正確に理解しているのか、否かをテストするかもしれません。今月20日の朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会において、金委員長は、事実上の“核保有宣言”を行いましたが、この方針に対してアメリカは“No”を宣告し、あくまでも北朝鮮の核放棄を主張しています。投げ返されたボールに対して、北朝鮮がどのような具体的な回答を返してくるのか、アメリカはその対応を注視していることでしょう。

 以上に推測され得る主要な3つの項目を挙げてみましたが、トランプ大統領は、これらのテスト結果を総合的に判断して、米朝首脳会談に臨むか否かを決定するように思えます。特に第3の項目は重要であり、北朝鮮側が、実質的にアメリカの要求に対して妥協の余地なく拒絶する内容の発言をすれば、米朝首脳会談はお流れになる、もしくは、決裂する公算は高くなりましょう。あるいは、アメリカによる厳しいテストを予感した両国が、結託して曖昧な態度や発言に終始し、テストの有名無実化を図るという不誠実な展開もあり得ますので、南北首脳会談があだ花に終わる可能性もあるのではないかと思うのです。

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米イラン核合意再交渉提案が示す教訓―対北譲歩は無意味

2018年04月26日 15時11分48秒 | 国際政治
 アメリカのトランプ大統領は、大統領選挙戦のキャンペーンにあって既に2015年に成立した米・イラン核合意の破棄を主張しておりました。今般、アメリカを訪問したフランスのマクロン大統領は、今年1月に表明したアメリカの再交渉方針に応える形で、トランプ大統領に対してイランの非核化を実現すべく、具体的な修正案を提示したと報じられています。

 マクロン仏大統領による米イラン核合意の再交渉案の提起は、制裁解除で獲得したイラン利権等を背景にこれまで合意の維持に固執してきた同国でさえ、内容が不十分であったと認識していることを意味しています。このため、具体的な修正内容は、米・イラン両国の双方が受け入れ可能な条件を探ったのか、(1)2025年に設定した核開発制限期限の延長、(2)弾道ミサイル開発の停止、(3)武装組織支援の制限とされています。フランスとしては、トランプ政権が一方的に核合意を破棄し、経済制裁が再開されるよりは、アメリカと歩調を合わせながら修正合意による枠組維持を次善の策としたのでしょう。もっとも、上記の主要3項目には、アメリカが要求してきた査察の強化も抜けており、トランプ政権を満足させる内容とは言えないかもしれません。

 それでは、もう一方の当事国であるイランの対応はどうでしょうか。これまでのところ、イランは、核合意成立時の合意内容から一歩も動かない構えを見せています。イランにとりましては、トランプ政権が進める再交渉の動きこそ“合意違反”であり、NPTからの脱退をも仄めかしつつ、合意修正には応じない方針を表明しているのです。そして、このイランの拒絶こそ、実のところ、同国が核開発を未だに断念していない証でもあります。仮に、2015年の合意にあって“核の放棄”に合意したのであれば、修正案も快く受け入れたはずであるからです。乃ち、イランは、核開発の余地を残すからこそ合意したのであり、真の目的は、経済制裁の解除による国力の充実であり、その先には、資金力と技術力を高めた上での核開発の再開であったとも推測されるのです(“核放棄”の合意ではなく“核開発の一時停止”の合意に過ぎない…)。イランの修正拒絶姿勢は、むしろ、同国が核開発・保有への執念の炎を燃やし続けていることを、国際社会に確信させているのです。

 このように考えますと、国際社会の目的が核拡散防止にあるとしますと、現行の米・イラン核合意は、その目的に対しては不十分であるどころか、経済制裁の解除がイランにもたらす資金・技術力が核開発をむしろ加速化させる点を考慮すれば、より危険でさえあります。そして、この米・イラン核合意をめぐる顛末は、北朝鮮問題に際しても、重要な教訓を与えています。それは、中途半端な合意は問題の先延ばしに過ぎず、将来的には事態を一層悪化させると言うものです。イランの場合には、石油利権等が絡んでおり(もっとも、北朝鮮の場合もウラン等の鉱物利権が関係する…)、一筋縄ではいかない複雑さがありますが、米朝首脳会談を間近に控えた今、米・イラン核合意の二の舞にならないよう、十分な注意が必要なのではないかと思うのです。

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財務次官セクハラ辞任事件―侃々諤々の日本の言論空間は健全なのかも

2018年04月25日 15時11分19秒 | 日本政治
竹下氏「財務相辞めるのも一つ」 次官のセクハラ疑惑で責任論言及
 週刊新潮に報じられた財務事務次官のセクハラ発言は、次官の辞任によって幕引きとはならず、現在、マスメディアやネットにおいて議論が続いております。同次官は名誉棄損の廉で訴訟を起こす準備中とのことですが、この事件、様々な憶測や推理が飛び交っているところを見ますと、日本国の言論空間が、案外、健全であることを示しているのかもしれません。

 第一の主張は、この事件は、純粋に個人間の問題であり、財務次官の発言は、女性に対する差別的なセクハラであり、かつ、その地位を利用したパワハラである、とするものです。この説では、被害者は、同次官を取材したテレビ朝日の女性記者であり、加害者の立場にあるのは、同次官と対処を怠ったテレビ朝日の両者です。被害者の女性は、自らの判断によって世に被害を訴えるべく、週刊新潮社に情報をリークしたことになります。

 第二の推測は、テレビ朝日が意図的に女性に取材を命じることで、同次官に対してハニートラップを仕掛けたのではないか、とする疑いです。この推測は、しばしば財務次官擁護論と称されますが、同事件を冷静に眺めて見ますと、確かに、不審な点を見出すことができます。男性記者を担当とせずに女性記者を選んでいますし(容姿端麗のきれいな方なのでは…)、セクハラ被害を訴えても適切な対応を採っておりません。この説に従えば、被害者は同次官(もっとも、国民のために国家の財務を預かる財務次官が易々とハニートラップに嵌められたのは大問題…)、並びに、社からハニートラップを強要された女性記者であり、加害者は、テレビ朝日となります。あるいは、テレビ朝日は、自らの手を汚すことなく同次官を辞任に追い込むために、女性記者に対して他者への情報リークを指示した可能性も否定はできません。

 第三にあり得るシナリオは、世界大で拡大中のMe Too運動の起爆剤として、同事件が仕組まれた、あるいは、利用されたとするものです。近年、アメリカの映画界やイギリスの政界などにおいて同様の事件が発生しており、同様の被害を受けた女性達が名乗りを上げる運動が広がっています。日本国では、海外での出来事として報じられつつも、然したる関心は寄せられておりませんでしたが、本事件を切っ掛けとして、Me Too運動に参加する女性達が続々と登場しています。この見立てでは、Me Too運動に共鳴した女性記者が個人的、あるいは、組織の支援を受けて行動したこととなり、自らが勤めるテレビ朝日ではなく、週刊新潮にリークした理由も説明がつきます。このシナリオですと、次官、朝日新聞社、並びに、女性記者の三者にあって被害者と加害者の立場が判然とせず、三者とも被害者であって加害者である三つ巴の構図ともなります。

 以上にネット上などで散見される主要な意見を述べてきましたが(第三のシナリオについてはオリジナル…)、何れの見解にも一長一短があり、真相は未だに藪の中です。様々な可能性がある段階にあって、一つの意見に流されることなく、また、糾弾一辺倒となることもなく、議論が湧くのは日本国の言論空間が比較的自由である証でもあります。そして、これらの他にも、(1)取材のモラル、(2)政府高官の品位、(3)主観に基づくセクハラ認定の是非、(4)罪刑法定主義からの逸脱(退職金等を懲罰として不払いとするならば法的根拠が必要…)、(5)セクハラ等を利用した政治的粛清のリスク、(6)セクハラ防止策としての女性の活動制限の是非、(7)デリカシーのない無自覚な男性の問題…等々、本事件が提起する問題は数限りがありません。本事件は、男性であれ、女性であれ、より善い日本の社会を築くために議論する契機として活かしてゆくべきなのではないかと思うのです。

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“観光”は対北制裁の抜け道では?

2018年04月24日 15時13分50秒 | 国際政治
金正恩氏が中国大使館訪問 北朝鮮、36人交通事故死で哀悼
 先日、北朝鮮の黄海北道において中国人32人を含む計36人が死亡する交通事故が発生しました。犠牲者の多くが中国人であったために、北朝鮮の金正恩委員長は、在北中国大使館に慰問に出向くという異例の対応を見せましたが、この事件、制裁の抜け道を見つけて北朝鮮に経済支援を行っている中国の現状を露呈したとも言えるかもしれません。

 マスメディアの報道の多くは、金委員長自ら中国大使館に足を運び、哀悼の意を示したことに焦点を当てていますが、仮に、この事件が起きなければ、少なくない中国人が北朝鮮で観光旅行を楽しんでいる実態が知られることはなかったはずです。北朝鮮には、金剛山や高麗国の首都であった開城等の観光名所があるそうですが、北朝鮮危機が緊迫化して以来、海外、特に自由主義国からの観光客は激減しています。特にアメリカでは、観光目的で入国した大学生が、拷問を疑われる状況で帰国したものの命を落としており、同国は、自由主義諸国にとりましては、生きて出国できる保障のない極めて危険な国なのです。

 それにも拘らず、中国人のみが同国を訪れる背景には、当然に、北朝鮮側が同盟国である中国の国民を丁重に扱っているということもるのでしょうが、もう一つ、推測され得る思惑は、“観光”という名の経済支援です。昨年9月に国連安保理で決定された対北経済制裁の主たる内容は、(1)対北石油・石油精製品の輸出制限、(2)北朝鮮産繊維製品の禁輸、(3)北朝鮮労働者の規制から構成されています。これらに加え、日米などは独自制裁を実施しており、経済制裁の効果をさらに高めようと努力しています。ところが、中国にとりましては、対北経済制裁決議に違反せずして北朝鮮を支援する方法を見つけることこそ課題であり、その発想は、自由主義国とは真逆なのです。

 日本国内でも、中国人観光客の‘爆買い’が常々話題とされており、様々な問題をもたらしつつも、観光客の経済効果は無視でいないと説く人々もおります。観光とは、民間交流とされながらも収益性のあるビジネスでもあり、中国人が北朝鮮に観光目的訪問すること自体が、北朝鮮に一定の経済効果をもたらしているのです。例えば、訪朝した中国人観光客が宿泊費、交通費、食費、おみやげ代、エンターテインメント代、ガイド料などを支払うに留まらず、これらの施設や商品の製造等は、北朝鮮国内の経済のカンフル剤となると共に雇用をも生み出します。しかも、支払い通貨が人民元であれば、厳しい経済制裁下にあって外貨不足に苦しむ北朝鮮にとりましては、‘恵みの雨’ともなりましょう。

 このように考えますと、北朝鮮に対する経済制裁を徹底するためには、国連安保理において、新たな制裁決議として観光業を制裁対象に加える必要があるかもしれません。訪日中国人観光客数は、現在、2400万人を超えているとされておりますが、その100分の1でも北朝鮮に向かえば、その観光収益によって制裁効果を相殺してしまいかねません。今般の事件によって、対北経済制裁の抜け道が判明した以上、国際社会は、これを塞ぐための措置を急ぐべきではないかと思うのです。

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公開交渉になりつつある米朝首脳会談

2018年04月23日 15時46分19秒 | 国際政治
G7外相、北朝鮮の核を認めず 最大圧力を維持、行動促す
 北朝鮮に付き纏ってきた従来のイメージとは、厚い帳が降ろされた秘密主義の国というものです。他国との関係も隠密工作や裏取引等を得意としてきたのでしょうが、米朝首脳会談が近づくにつれ、否が応でも国際社会の表舞台に姿を見せざるを得ない状況に追い詰められてきた感があります。

 北朝鮮の金正恩委員長が極秘に中国を訪問し、習近平国家主席と首脳会談の場を設けた辺りまでは、北朝鮮の秘密主義外交の真骨頂であったかもしれません。あるいは、ポンペオCIA長官の極秘訪朝も、アメリカを自らの土俵に巧みに引き込んだ点において、北朝鮮側は外交的には成功と評価していたことでしょう。‘サプライズ外交’と言えば、日本国内では2002年9月の小泉首相による平壌訪問が知られておりますが、相手が北朝鮮であったことを考慮すれば、これも、北朝鮮側の戦略に嵌められてしまったのかもしれません(日朝平壌宣言の内容は日本国にとって極めて不利であった…)。

 ところが、今月20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会において、金委員長が自国が引き起こした核・ミサイル問題について新方針を発表したことから、これまでの秘密主義外交に変化が生じてきました。何故ならば、同新方針こそ、日朝首脳会談に際しての北朝鮮側の基本スタンスであったからです。つまり、北部に所在する核施設の廃棄とミサイル開発の停止を譲歩項目とする一方で、製造済みの核については保有を継続し、それらの先制使用という選択肢も残したのです。

 新方針の形態で発表された北朝鮮が示した“合意案”に対して、アメリカ側は、事実上、拒否する姿勢を明らかにしています。あくまでも製造済みの核をも含めた北朝鮮の完全なる非核化を求め、同国が拒絶した場合には、何らの見返りも与えないとする態度で臨む意向を示しているのです。この基本姿勢はG7でも共有されており、北朝鮮の提案は、同国の後ろ盾でもある中ロからは歓迎されつつも、いわば、国際社会一般からは拒絶されたこととなるのです。

 かくして、米朝首脳会議以前にあって、米朝の応酬は、既にアメリカ側による北朝鮮提案の拒否の段階に至っており、ボールは北朝鮮側に返される格好となりました。今後、北朝鮮側は、何らかの機会を利用して、アメリカ側の要求の全面的受託、自国提案の修正、あるいは、首脳会談の見送りなど、自国の立場を表明するかもしれません。何れにしましても、衆人が見守る中で、両国間の交渉が進むこととなり、それは、政府のみならず、少なくとも情報が遮断されていない自由主義国にあっては誰もが知るところとなったのです。

 このことは、北朝鮮が、もはや、これまでの秘密主義外交において得てきた利益を得られなくなることを意味します。アメリカのトランプ政権のみならず、全世界の諸国や人々が納得する解決でなければ、真の解決とはならないからです。米朝会談の開催は、‘サプライズ外交’の再現を狙ったのでしょうが、今度ばかりは、この手は通用しないのではないかと思うのです。

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変質する英王室-英国国王から英連邦元首へ?

2018年04月22日 15時47分49秒 | 国際政治
英 エリザベス女王92歳に 人気歌手らが祝賀コンサート
今月21日、イギリスのエリザベス女王が92歳の誕生日を迎えられたのを祝して、ロンドンでは、人気歌手等による祝賀コンサートが催されたそうです。伝統と格式を誇ってきた英王室のイメージは、日本国の皇室と同様、ここ数年、急速に変化しております。

 おそらく、この変化の地下水脈は大英帝国の時代に遡るのでしょうが、ウィリアム王子のユダヤ系女性との結婚に加え、ハリー王子のアフリカ・ユダヤ系女性との婚姻によって、誰の目にも分かる形でその変質ぶりが表面化しているように思えます。それは、七王国時代を経て統一されたイングランド王国の後継者としての正統性を曲がりなりにも保ってきた英国王、あるいは、同君連合としての連合王国から英連邦元首へのシフトでもあるのかもしれません。

 英連邦とは、かつての大英帝国を継承して1931年に結成された国家連合です。現在、53ヶ国によって構成されており、その元首(Head of the Commonwealth)は、慣習として中心国である英国国王が務めてきました。つまり、英国国王の立場には、連合王国の君主であって、かつ、英連邦の元首という二重性が見られるのです。

この二重性は、大英帝国形成期におけるユダヤ人勢力の活動とも関連しています。大航海時代が幕開けした頃には、ポルトガルなどもユダヤ人勢力の取り込みを図った例があり、ディアスポラ以来、全世界に広まったユダヤ・ネットワークは、世界支配を試みる諸国にとりましては、是が非でも取り込みたい“プラットフォーム”でした。イギリスも例外ではなく、東インド会社による植民地の拡大を経て、19世紀のヴィクトリア女王の時代こそ、歴史上初めてユダヤ人であり、保守党の政治家であったベンジャミン・ディズレーリが首相に就任し、ネイサン・ロスチャイルドが貴族の称号を許されるなど、ユダヤ人が英国史の表舞台に躍り出た時代でもあったのです(ただし、一般の英国民は、貧困、都市犯罪、公害等に苦しんだ時代…)。乃ち、大英帝国とは、イギリス一国の国力では難しく、内外に張り巡らされたユダヤ人ネットワークあってこそ構築され得たのであり、今日のウィリアム王子とヘンリー王子のユダヤ系女性との婚姻は、イギリスと大英帝国建設の立役者であったユダヤ人との融合の象徴でもあるとともに、むしろユダヤ系による英国支配といった主客逆転の構図の象徴にも見えてきます(もっとも、既に英皇室にはユダヤ人の血脈が流れているとする説もある…)。

そして、ユダヤ・ネットワークの世界大の広がりは、特に大英帝国をしてアフリカからアジアに至るまでその版図に収めることに貢献します。現在、英連邦には18ものアフリカ諸国が加盟していることに加えて、奴隷貿易の結果として南北アメリカ大陸の13の加盟国にも、アフリカ系住民が多数居住しています。インドやパキスタンといったアジア諸国や南太平洋諸国も非白人系であり、英連邦とは、圧倒的に非ヨーロッパ諸国で構成されているのです。このことは、ヘンリー王子とアフリカ系であり、かつ、ユダヤ系であるメーガン・マークル氏のとの婚姻が、英国ではなく、英連邦を強く意識していることを示唆しているように思えます。特にEU離脱の決定後は、英国の英連邦重視の傾向を強めたとも指摘されております。

お誕生日に先立って、エリザベス女王は、英連邦首脳会議にも出席しており、同連邦元首の地位は世襲ではないため、敢えてチャールス皇太子への継承に対する支持を求めたと報じられております。こうした動きも、英王室が連邦元首の地位を維持する、あるいは、ユダヤ色の強いウィリアム王子へのスキップを阻止するためのものとも推測されますが(“君臨すれども統治せず”を原則とする英国では、国王の政治的発言は異例ですが、ユダヤの一部勢力は、案外、独裁を好む傾向にある…)、英国国王と連邦元首との間の乖離が著しくなり、英王室が英国民からの支持を失う事態に至った場合、英連邦の元首の地位もまた危うくなるはずです。あるいは、英連邦の元首の地位はネットワークを束ねてきたユダヤ系を要件とする方向に向かう可能性もありますが、このケースでも、全ての加盟国の国民の支持を得られるとも思えないのです(元首不要や瓦解の可能性も…)。

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米朝首脳会談は物別れ?-北朝鮮の真意は“核保有宣言”並びに“核の先制使用宣言”

2018年04月21日 11時23分54秒 | 国際政治
北朝鮮、核実験場廃棄を決定=ミサイル発射も中止、対話へ―正恩氏、経済建設に集中
極秘訪朝したマイク・ポンペオCIA長官の談に依れば、予定されている米朝首脳会談の成否については楽観的な感触を得ていたようです。しかしながら、今月20日に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会にて公表された金正恩委員長の方針を見る限り、米朝首脳会談は、たとえ開かれたとしても、物別れに終わりそうな気配がします。

 北朝鮮が打ち出した主たる具体的な行動とは、(1)北部の核実験場の廃棄、並びに、(2)核・ミサイル実験の停止です。マスメディア等の報道は、米朝首脳会談を前にして北朝鮮がアメリカ、並びに、国際社会に対して大幅に譲歩をした印象を与えていますが、同方針に示された全体的な文脈からしますと、むしろ、北朝鮮の一方的な“勝利宣言”とも受け止められ得る内容です。

 第一に、上述した二つの措置とも、アメリカが求める“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”が示す3つの要件を満たしていない点を挙げることができます。北部の核実験場については、その施設が北東部、豊渓里の万塔山にあるならば、崩落事故によって既に事実上の“廃棄”状態にある可能性があります。言い換えますと、他の場所に地下核実験場を建設している可能性もあり、北朝鮮の領域全体を査察しない限り、同施設に限定して“不可逆的”ではあっても、核実験場の“完全”、かつ、“検証可能”な廃棄とはならないのです。また、核・ミサイルについても、中距離、並びに、長距離ミサイルの両者を含みつつも、あくまでも中止に過ぎません。この措置に至っては、“完全”、“検証可能”、“不可逆的”の3要件のすべてが満たされていないのです。

 第二に、同大会において、北朝鮮は2013年に打ち出した“社会主義経済建設”と“国家核兵力建設の歴史的大業の完遂”を同時並行的に進める「並進」路線を改め、今後は、前者を積極的に推進してゆく姿勢に転じていますが、“並進”から“単進”に転換した理由を、既に核兵器の開発・保有を完了したからと説明しています。つまり、後者を放棄したのではなく、後者の目的を達成したから不要となったのであり、核放棄どころか、核保有を宣言していることとなるのです。

 そして、第三として、北朝鮮は、「わが国に対する核の威嚇がない限り、核兵器を絶対に使用しない」とも表明しています。この核使用に関する自制の弁も、核保有なくしてあり得ず、第二点を裏付けています。言い換えますと、アメリカの要求する“北朝鮮の非核化”に応じる意思はなく、むしろ、アメリカをはじめとした核保有国(核の脅威)が存在する以上、北朝鮮は、先制使用も含めて自国の核の使用をも辞さない、と述べているのです。こちらは言わば、“核の先制使用宣言”とも言えます。

 トランプ米大統領は、ツイッターにおいて「北朝鮮と世界にとって非常に良いニュースだ。大きな進展だ」と表明したとも報じられておりますが、以上の諸点から、北朝鮮の今般の方針の核心が、“核保有宣言”、並びに、“核の先制使用宣言”であるならば、米朝首脳会談が首尾よく合意に達するとも思えないのです。

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南スーダン日報隠し問題に見る野党の矛盾

2018年04月20日 17時26分51秒 | 日本政治
問題相次ぎ野党反対の中 小野寺防衛相が訪米に出発
 内戦の激化が懸念される南スーダンでは、2011年7月9日から国連のPKOの一環として国際連合南スーダン派遣団が活動を開始しております。日本国の自衛隊も、2012年1月から安倍内閣の決定によって撤退される2017年5月まで同活動に参加していました。凡そ5年に亘る現地での活動に関しては、今日、政府が意図的に自衛隊の日報の一部を隠したとして、野党側が政府批判を強めております。しかしながら、この問題、むしろ、野党側の矛盾が表面化しているように思えます。

 野党側の主たる批判点は、稲田朋美元防衛相の国会での虚偽答弁、及び、防衛相と自衛隊との文民統制に関わる関係に加えて、隠されたとされる日報の内容にあるようです。つまり、政府が日報の一部を隠蔽した理由は、そこには、国民に“知られたくない事実”が書かれていたと主張しているのです。この“知られたくない事実”とは派遣先の南スーダンの現地状況であり、そこには“銃弾が飛び交う厳しい現実”が克明に記されているというのです。

 自衛隊の南スーダンへの派遣は、PKO活動協力時における後方支援を定めた自衛隊法第84条の4第2項第4項、及び、国際平和協力法に基づくものです。野党からすれば、現地の現実が日報に描かれている通りであるならば、PKO参加5原則の内の一つである“紛争当事者の間で停戦合意が成立している”の要件を満たしておらず、政府は、その現実を意図的に隠蔽したことになります。森友学園問題等を機に国民の政府に対する信頼性が揺らいでいる現状にあって、自衛隊の日報隠し問題を再燃させれば、安倍政権を退陣に追い込む最後の一押しになると考えたのでしょう。

 ところが、南スーダンへの自衛隊の派遣を決断したのは、当時民主党政権にあって首相を務めた菅直人氏であり、それは2011年8月8日のことです。また、現地での状況が悪化した2012年4月の時点にあって、自衛隊の撤収を見送ったのも当時の民主党政権です。自衛隊の派遣の要件について批判するならば、むしろ、その批判は野党側へのブーメランとなるはずなのです。

 そして、野党側の認識に更なる倒錯が見られるのは、“平和”に対する基本的な考え方です。野党側は、“危険な戦闘が起こり得る地域への自衛隊の派遣は、平和に反する行為である”と信じています。しかしながら、PKO活動、即ち、平和維持活動とは、その名称が端的に表すように平和のための活動です。南スーダンにあっては、内戦の再発防止を目的とした国際的な軍事協力となりましょう。交戦能力を有する相対立する武装勢力の双方を抑え込むためには物理的な力を要することは自明であり、仮に、言葉だけで停戦が誠実に守られるならば、敢えて武装した部隊を抑え役として派遣する必要はありません。平和を護るためにこそ、時には軍事力が必要とされる場合もあるのです(もっとも、南スーダンのPKOには中国の人民解放軍も派遣されており、政治的中立性には懸念がある…)。

 野党側の脳裏には、軍事力=絶対悪とする概念が刷り込まれており、それ故に、日報隠し問題は、政府批判の絶好の材料となると踏んだのでしょう。しかしながら、野党側の矛盾に満ちた批判姿勢こそ、野党側が自らの真の目的を国民に‘隠蔽’していることを示唆しており、北朝鮮危機や中国の拡張主義によって日本国を取り巻く国際情勢が急速に悪化する中、国民に不安を与えているのではないかと思うのです。

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北朝鮮関連情報を読み解く-北朝鮮は核放棄に合意した?

2018年04月19日 15時45分46秒 | 国際政治
CIA長官が極秘訪朝、米朝会談へ正恩氏と会談
 ここ数日、米朝首脳会談を前にしたトランプ米大統領の発言を始め、北朝鮮関連の動きが報じられております。今後の展開を予測するに特に重要となる情報は以下の通りです。

 ・米国務長官に指名されたCIA長官のマイク・ポンペオ氏は極秘に訪朝し、金正恩委員長と会談している。会談は友好的な雰囲気にあった。
 ・日米は、“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”の方針を堅持し、圧力の維持で合意している。
 ・日米韓の三か国は、中国・北朝鮮が主張する核の段階的放棄には応じず、2020年までに期限を設定した北朝鮮の核放棄で合意している。
 ・朝鮮戦争に関して、韓国は、休戦協定体制から平和協定体制に向けて政策転換を図っている。
 ・トランプ大統領は、朝鮮戦争の終結に賛意を示している。

 これらの情報が正確、かつ、事実であると仮定し、点と点を結んで線を描いてみますとと、米朝首脳会談の事前交渉段階で、北朝鮮は、少なくとも“北朝鮮の非核化”には合意していると推測することができます。訪朝したポンペオ氏が持ち帰った報告を日米韓が情報として共有していなければ、2020年という期限設定のお話が出てくるはずはありません。乃ち、北朝鮮は、国際社会の経済制裁、並びに、米軍の軍事的圧力に屈し、核の放棄を決断せざるを得ない状況に追い込まれたのでしょう。

 このように読めば、一先ずは、“北朝鮮の非核化”に関する見通しがついたと推測されますが、一連の報道で気にかかるのは、トランプ大統領の朝鮮戦争終結への意欲です。朝鮮戦争については、韓国は、第二次朝鮮戦争のシナリオを消滅させるためか、北朝鮮との間で平和協定を締結する方針を示しています。韓国の基本方針の追認とも解されますが、ここで思い出されるのは、中国と北朝鮮が核放棄の見返りとして求めているのは、“朝鮮半島の非核化”である点です。つまり、韓国の非核化をも含意するのですが、その延長線上には、朝鮮半島における平和条約の締結、さらには米朝国交正常化が想定されています。米朝首脳会談後に予定されている中国の習近平主席の訪朝も、あるいは、中国が義勇兵ながら朝鮮戦争に派兵した休戦協定の当事国であるからなのかもしれません。

 果たして、トランプ大統領の朝鮮戦争終結への賛意は、一体、何を意味するのでしょうか。朝鮮戦争が平和条約の締結を以って終結されれば、もはや米韓同盟の必要性もなくなります。韓国の文在寅大統領は、同時に中国の対韓制裁の根拠とされるTHAADも撤廃できるため、この路線で解決を図りたいと考えていることでしょう。その一方で、引き続き米韓同盟が維持されるとしますと、同同盟が想定する仮想敵国は、中国、あるいは、ロシアとならざるを得ません。しかしながら、韓国国内では、急速に北朝鮮への親近感が高まっているとされており、朝鮮半島に“平和”が訪れるとなりますと、韓国が、中国・北朝鮮陣営に加わる可能性は当然に高まります。あるいは、しばしば指摘されているように、アメリカが朝鮮半島全域を中国に譲る代わりに、中国は台湾をアメリカに譲る、とするバーター取引が米中間で成立したのでしょうか。

以上の憶測は外れており、北朝鮮があくまでも核放棄を拒絶した場合であっても、北朝鮮危機の解決は、アジアの政治勢力図を塗り替えられる可能性があります。このような状況下におきまして、的確な判断には多くの正確な情報の収集とその分析を要することを踏まえますと、自国の防衛や安全保障に直接的な影響を受ける日本国政府も、関係各国の情報収集に最大限努めるべきではないかと思うのです。

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自由貿易主義は日本にとって“勝てない戦い”では?

2018年04月18日 15時22分55秒 | 国際政治
 中国、車生産の外資制限撤廃へ 商機も
1941年12月8日における日米開戦に関しては、常々、“勝てない無謀な戦争”を戦ったと評されてきました。日米間の国力の差は歴然としており、軍事力や調達可能な物資等に関する客観的なデータに基づく分析では、圧倒的に日本国側が不利であり、長期戦となれば日本必敗と報告されていたからです。

 今日と当時とでは国際状況は違いますし、政治と経済を同一視するわけにもゆきませんが、日本国政府をはじめとした日本国内全般に見られる自由貿易主義への無批判な礼賛は、どこか、当時の決断の危うさと重なって見えます。何故ならば、世界大での自由貿易が拡大し、さらには単一のグローバル市場が誕生したとしても、規模の経済が働く限り、日本企業、否、日本経済が勝者となる見込みは極めて薄いからです(近い将来、グローバル・レベルで競争政策が強化され、巨大化した中国企業が分割されるとも思えない…)。

 国際通商史を振り返りますと、自由貿易体制の中心国となった国は、最初は保護主義で自国の産業を徹底的に守りつつ(幼稚産業の育成…)、産業育成で十分な国際競争力を付けた後、満を持して自由貿易主義へと舵を切り替えています。19世紀にあって、近代自由貿易体制の中心国となったイギリスは、14世紀から17世紀にかけては航海条例を幾度となく制定し、当時、海洋大国であったオランダ船を主要なターゲットとして、外国船籍貿易船の締め出しを行っています。第二次世界大戦後に、ブレトンウッズ体制の下で自由貿易体制の中心国となったアメリカも、産業の黎明期には積極的な保護主義政策を採っていました。

 今日、自由貿易体制の旗手として名乗りを挙げている中国も、過去の英米の通商戦略に倣っているのでしょう。中国の習近平国家主席は、今月10日に開かれたボーアオ・アジアフォーラムにおいて、金融等を含む各種分野において自国の海外市場開放を前倒しで実施する方針を表明しています。この方針の表明は、マスメディアやグローバル・エリートと称される人々からは称賛を受けておりますが、中国が規制撤廃に踏み切ったのは、同国が、自由貿易主義体制にあって勝者となる確信を得ている証でもあります。言い換えますと、イギリスやアメリカと同様に、勝者となる国のみが自発的に自由貿易主義を唱えることができるのです。

 例えば、市場開放政策の一環として、自動車市場における外資規制の撤廃が公表されていますが、この政策は、中国が上海汽車集団や浙江吉利控股集団といった自国の企業がグローバル市場を席巻するためのステップなのかもしれません。中国市場では、従来のモーター方式では劣位となるため、国策によってEV化が決定されており、外資規制が撤廃されたとしてもEV技術にあって必ずしも優位な立場にはない日本のメーカーの恩恵は薄く、むしろ、EV車のグローバル・スタンダード化によって、政府の後押しでEV技術において優位となった中国メーカーの日本市場を含むグローバル市場でのチャンスを広げる結果をも招きかねません。実際に、既に浙江吉利控股集団はボルボ・カーを買収し、上海汽車集団もダイムラーの筆頭株主となっており、EU内の自動車メーカーは、相次いで中国企業の傘下入りしています(もの、サービス、資本、人の移動自由化を原則として成立したEUには、中国の自由化要求に対する抵抗力がない…)。

 中国との間の技術差が縮小し、分野によっては中国が先行する今日、規模に優る企業に勝利を約束する自由貿易主義にあって、果たして、日本企業は、生き残ることができるのでしょうか(因みに、戦前の中国の主要な対日戦略は大陸奥深くに日本軍を引き込み、退路を断って撃破するというもの…)。識者のみならず、AIに問うてみても、‘必敗’という回答が出されるならば、敗戦を覚悟してでも大義のために闘ったとも言える戦前の判断よりも、自由貿易主義に身を投じる今日の日本国の判断は、相当に無謀、かつ、非合理的に思えるのです。

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好材料がない日中関係改善への違和感

2018年04月17日 14時30分29秒 | 国際政治
米、ITでも中国に対抗措置か クラウドなど、通商摩擦拡大も
 8年ぶりとされる日中経済対話の再開に対するマスメディアの一般的な風潮は歓迎ムードです。しかしながら、本日4月17日付の日経新聞朝刊に掲載された幾つかの記事を読み合わせますと、日中関係の危うさの方が逆に浮かび上がってきます。その危うさとは、政経両面に及ぶ深刻なものです。

 中国が日本国に急接近してきた背景には、深刻さを増す米中対立があることは既に多くの識者が指摘しております。仮に、アメリカの保護貿易主義によって中国が自国製品の輸出市場や投資先を失うとしますと、中国は、その損失を世界第3位の日本国との関係強化で埋め合わせようとすることでしょう。しかしながら、日中経済対話で日本国側が改善を要請したように(第1面と3面)、日本国もまた、アメリカと同様に対中貿易では赤字国であり、自由貿易を無条件に礼賛できる立場には最早ありません。同会談では、両国は自由貿易の堅持で一致したとされていますが、日本国が立場を共有しているのは、むしろ、アメリカの方です。

 一方、第一面のメイン記事として掲載されたのは、“資本関係見直し検討 日産・ルノー22年めど”です。行き過ぎた自由貿易、あるいは、グローバリズムの観点から、日本国の将来を暗示しているのは、日産・ルノー関係の見直しです。日産自動車と仏ルノーの会長を兼任しているカルロス・ゴーン氏は、自らの退任後も両者の関係が維持されるよう、経営統合計画を検討しているそうです。その背景には、フランスのマクロン政権の意向が働いているとされており、いわば、政府主導型での統合計画と言えます。日仏両国とも自由主義国ですので日産・ルノー関係では政府の存在はそれ程強くは意識されていませんが、こうしたケースは、中国企業との間でもあり得ます。中国企業は、中国共産党のコントロール下にあり、日本経済は、企業支配を介して中華経済圏、否、中国共産党の政治的支配網に絡め捕られる可能性は否定できないのです。

 そして、同紙第9面では、“米、海外企業の投資制限”と題する記事を読むことができます。同記事は、アメリカでは、中国による米企業の支配や中国への技術流出を警戒し、対外外国投資委員会が(CFIUS)が少額出資や合併等にも審査の対象を広げたことを伝えています。トランプ政権の発足当初は、中国による対米投資を歓迎しておりましたが、中国の覇権主義的行動と米中関係の冷却化が相まって、今に至り、海外からの投資を厳格化する方向に政策転換を見せているのです。この記事は、米国から締め出されたチャイナ・マネーが日本企業のM&Aに向かう可能性を示すとともに、日本国政府の中国に対する無警戒ぶりが際立ちます。

 以上に述べたように、日本国は、経済的立場においてアメリカと共通部分が多いにも拘わらず、何故か、中国に靡くという極めて不自然、かつ、非合理的な行動を見せています。今では、日本国の経団連や企業経営者でさえ、中国が必然的に勝者として君臨するような自由貿易主義にはもろ手を挙げて賛成してはいないのではないでしょうか。中国が日本国に期待しているのは、先端技術の中国への移転、一帯一路構想への財政的貢献、中国製品の輸出市場並びにチャイナ・マネーの投資先、自国に有利となる自由貿易体制堅持のための対米共闘(政治的には日米離反…)、中国共産党ネットワークの対日拡大、及び、失業対策としての中国移民の受け入れ等であり、互恵とは程遠く、自国のために日本国を利用、あるいは、支配しようとしているに過ぎないように思えます。しかも、中国が軍事大国としてその牙を露わにしている以上、日中間で相互依存関係を進化させることは安全保障において危険でさえあります。シリア空爆や北朝鮮危機に際しての中国の態度を考慮すれば、日中間には関係を敢えて改善させる好材料は皆無に等しく、日本国政府は、両国間の関係については抜本的な見直しこそ図るべきではないかと思うのです。

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金正恩委員長の‘巻き込み作戦’に裏はあるのか?

2018年04月16日 15時54分21秒 | 国際政治
習氏、早期訪朝か…正恩氏と共産党幹部が会談
 昨晩、NHKスペシャルにおいて「金正恩の野望・第一集恐怖の暴君か戦略家か」と題する番組が放送されました。全てを視聴したわけではないのですが、同番組の最後の部分にあって、大変興味深い分析が紹介されております。

 おそらく、戦略家としての側面を強調するために収録されたのでしょうが、その分析とは、今般の北朝鮮危機における金正恩委員長の“巻き込み作戦”に関するものです。記憶が定かではなく正確ではないかもしれませんが、その分析の趣旨は、“金委員長は、最大限に危機を高め、戦争寸前までもってきたところで、一気に全世界を巻き込んで平和裏に問題を解決する”というものです。こうした手法は、北朝鮮が得意としてきた瀬戸際作戦の一種と言えそうです。

 仮に、“巻き込み作戦”の基本路線に従って北朝鮮が行動しているとすれば、今般の北朝鮮危機にあっても、金委員長は、世界を朝鮮半島問題に巻き込むタイミングを計って核やミサイル実験を強行したこととなります。つまり、北朝鮮には本気でアメリカ本土をICBM等で核攻撃する意思はなく、自らにとって好都合となる条件を勝ち取るための対米脅迫手段として危機を演出したと解されます。アメリカを交渉の場に引き出し、最終的に‘朝鮮半島を非核化’=米韓同盟の終了が実現するならば、北朝鮮としては、核・ミサイル開発は“大成功”となりましょう。

 しかしながら、同作戦の存在が国際社会に知られてしまいますと、その効果は半減するどころか、北朝鮮側に自らを滅亡に導きかねないリスクが生じます。何故ならば、北朝鮮の策略に気が付いたアメリカは、同国が要望する‘朝鮮半島の非核化’には断固として応じないでしょうし、否、国際法に反する武力による威嚇に及んだのですから、軍事制裁も辞さないことでしょう。結局、危機の演出によって北朝鮮は得るものはなく、同作戦は失敗に帰するのです。

 もっとも、北朝鮮寄りのスタンスの目立つNHKが、あえて同国の“巻き込み作戦”を報じたのには、北朝鮮側の意向が反映されていた可能性もあります。その意向とは、同作戦が“ばれ”て‘朝鮮半島の非核化’が実現しなくとも、北朝鮮の核・ミサイル開発・保有の真の目的は、“平和=朝鮮半島問題の交渉による解決”であるとする印象を、日本国内を始め諸外国に擦り込むことです。この推測に基づけば、米英仏のシリア攻撃に焦りを感じた北朝鮮は、米朝首脳会談に先立ち、既に“言い訳モード”に移行しており、同会談の席では、米軍による軍事制裁を回避すべく、同作戦の説明を以ってアメリカに“理解”を求める算段なのかもしれません。“本気ではなかった”と…。先日の金委員長と中国の高官との会談にあって、習近平主席の訪朝も議題に上ったそうですが、‘巻き込み作戦’の一環に見えながらも、これも、アメリカから理解を得られなかった場合に時間稼ぎに利用すると共に、‘保険’をかけようとしたのかもしれません。

 NHKが報じた‘巻き込み作戦’は、最終局面では戦争から和解へと180度転換するのですから、如何にも華々しく、平和の美名に隠れて勢力拡大を図りたい中国や北朝鮮が好みそうな戦略です。また、北朝鮮の本心は、アメリカを騙してでも核保有国の立場に伸し上がり、アメリカや周辺諸国を恐喝する手段を保持するとともに、通常兵器において劣る北朝鮮が、核保有によって軍事バランスを逆転させることにあったのでしょう(一方の中国は、対北警戒論から北朝鮮の核放棄を望んでいる…)。対米交渉の脅迫手段と実戦配備の両面から核・ミサイル開発・保有を急いだのが、近年の北朝鮮の実像に近いのではないでしょうか。何れにしましても、NHKの報道には裏がある可能性もあり、その制作意図を慎重に見極める必要がありそうです。

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