万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

金正恩委員長の面子を護るとモラル・ハザードに-危うい対北政策

2018年03月31日 13時44分33秒 | 国際政治
金氏の顔立つような核放棄を検討 河野太郎外相「米側と話した」
 北朝鮮の核放棄をめぐって、日本国の河野太郎外相は、北朝鮮の金正恩委員長の面子を立てる方策についてアメリカと協議したことを明らかとしました。しかしながら、無法者の面子を護る必要があるのか、疑問なところです。

 具体的には、金正恩委員長が、国内向けの発言として「国際社会は屈した。核兵器は不要になった」と宣言をしても、アメリカ、並びに、国際社会との合意通りに核放棄を実行すれば、日米はその発言を受け入れる準備がある、というもののようです。この方針は、北朝鮮の核放棄と引き換えに金正恩独裁体制を日米が承認することをも意味します。しかしながら、この方針、幾つかの点でモラル・ハザードを起こすリスクがあります。

 第1に、法の支配の確立を訴えてきた日米両国が、たとえ北朝鮮国民に向けた宣言であっても、無法者に対する“屈服”を公然と認めれば、武力によって周辺諸国を威喝する無法者が勝利する世界を是認したことになります。この方針は、近代に始まり、今日に至るまで多大なる犠牲を払いつつ構築されてきた国際法秩序を自ら否定し、根底から覆す危うさがあります。北朝鮮は、常々、負けを認めない強がり発言を繰り返してきましたので、完全に無視するか、あるいは、国際社会の制裁に屈したのは北朝鮮側であることを強調した方が望ましいように思えます。

 北朝鮮は、国連のみならずNPTにも加盟しながらアメリカをはじめとした国際社会を欺き、秘密裏に核兵器を開発してきた罪深い国です。第2のモラル・ハザードは、“罪”に対する“罰”がないことです。否、罰するどころか、法やルールを蔑にしてきた無法者の面子を立てようとしているのですから、道徳や倫理の原則に照らしますと善悪の倒錯が起きています。古来、ルール違反や抜け駆けは不名誉な行為なのですから、北朝鮮の面子を護る必要性はないと考えられるのです。

 第3に懸念されるのは、国際社会に対して“独裁者の甘やかし”という誤ったメッセージを送るリスクです。民主主義国家にあっては、その首相は、政策運営に失敗すれば、常々国内外から手厳しい批判を受け、退陣や政権交代に追い込まれることも少なくありません。誰も面子など気にかけてくれず、むしろ、メディアを含めた内外からの容赦ない批判は当然のこととして受け止められています。ところが、こと独裁国家となりますと、何故か、その批判のトーンが低下してしまうのです。独裁国家では、厳しい言論統制が敷かれており、国民が政権を批判すれば身に危険が及びます。そうであればこそ、民主主義国家は、政治的自由を不当に奪われている国民のために独裁者の批判を積極的に行うべきなのですが、当の民主主義国家が独裁者の面子を護るようでは、“怖いものなし”となった独裁国家はのさばるばかりとなりましょう。

 以上に主要なモラル・ハザードについて述べてきましたが、無法者の独裁者の面子を護ることは、国際社会における法の支配の原則を後退させ、暗黒の世界へと導く恐れがあります。軍事大国である中国やロシアにおいても独裁化が進行している中、自由で民主的な国家までもが同調したのでは、国際社会が不安定化するのは必至です。河野外相は、同面子容認方針をアメリカのティラーソン前国務長官との間で話し合ったそうですが、同氏の更迭も、今般の一件からも垣間見られる対北宥和的な姿勢にあったのではないかとも推測されるのです。

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北朝鮮による対日諜報活動の活発化に注意を

2018年03月30日 16時02分09秒 | 日本政治
北、対中諜報員の増員指示 元米情報将校が証言 中国接近、情報収集を強化
 北朝鮮の金正恩委員長は、今月17日から27日の間の何れかの時期に、同国の工作機関である偵察総局の傘下にある組織に対し、対中諜報活動の増員を指示したそうです。この情報は、北朝鮮政府関係者に接触した元米空軍情報将校によるものですが、対中諜報活動は、北朝鮮の対日工作活動の実態を知る上でも極めて貴重な情報となり得ます。

 北朝鮮が対中諜報活動を積極化した理由は、中国を信じ切れない北朝鮮の猜疑心にあると見られています。中国は、中朝首脳会談後にその内容を米トランプ政権に報告しており、同会談で中朝両国の結束が確認されたとはいえ、北朝鮮としては、中国が対米関係を優先することで、中国に裏切られるリスクを感じ取ったのかもしれません。中国も北朝鮮も、合意や約束とは、その場限りの空虚なものであり、状況が変われば違約などは当然と見なす国ですので、不誠実な国同士であれば、相互に疑心暗鬼に陥いるのも当然です。

 かくして、北朝鮮の独裁者は、盟友であるはずの中国に対してすら、その不信感から諜報活動員の増員を決め、中国の動き、即ち、背信の気配をいち早くキャッチしようとしているのですが、況してやアメリカの同盟国であり、北朝鮮の仮想敵国とされる日本国に対しては、対中以上に活発な諜報活動を行っていることは十分に推測されます。

同元米空軍情報将校によると、北朝鮮は、現在、中国国内に数万人の諜報部員を潜伏させているとしており、当然に、日本国内にも、万単位の諜報部員が配置されていることでしょう。スーパースリーパー論争では、対日工作活動を行うような在日北朝鮮人は存在しないかのような主張もありましたが、対中工作活動の実態を見る限り、北朝鮮の工作員が日本国内でも活動していると見て間違いはないように思えます。

 また、同工作組織は(1)金正恩委員長直属、(2)偵察総局配下、(3)それ以下の三クラスに分かれており、今般の増員は第二のクラスなそうです。同将校は、第二クラス増員により情報収集能力が大幅に向上すると説明しておりますので、第二クラスのメンバーが実行部隊であり、実際の諜報活動を担っている可能性があります。おそらく、日本国内に潜入している工作員の多くも、第二クラスに属しているのかもしれません。

 さらに、諜報活動に際しては、「中国国内に企業関係者などを装って潜入。政府や企業を監視するほか、資金や情報提供者を獲得する」手法が採用されているそうです。日本国内でも、同様の手口によって情報を収集していると考えられますので、日本国の民間企業も警戒を強める必要がありそうです。

 米軍による軍事制裁もあり得る状況にあって、北朝鮮が、対外諜報活動を活発化させることは十分にあり得ます。おそらく、アメリカ国内にあっては、韓国系アメリカ人を籠絡する、あるいは、偽装することで、同様の活動を展開していることでしょう。日本国政府は、北朝鮮の諜報活動に対して警戒を強めると共に、こうした活動の監視活動から得た情報を北朝鮮の現状分析に役立てるべきではないかと思うのです。

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“北朝鮮の核放棄”と“朝鮮半島の非核化”との違いは深刻

2018年03月29日 15時29分00秒 | 国際政治
金正恩氏、父の「慣例」踏襲=「伝統」重視、実務的訪中
 金正恩委員長の突然の訪中により、北京で行われることになった中朝首脳会談では、両者は、“朝鮮半島の非核化”で合意したと報じられております。しかしながら、アメリカが求めてきた“北朝鮮の核放棄”と“朝鮮半島の非核化”では、雲泥の差があるように思えます。

 今のところ、アメリカのトランプ大統領は、中朝首脳会談での“朝鮮半島の非核化”方針について歓迎の意向を示しており、予定されている米朝首脳会談を楽しみにしているとツイートしたそうです。一先ずは、米中朝が足並みを揃えているようにも見えますが、既に、中朝の言う“朝鮮半島の非核化”とは、長期的には朝鮮半島からの米軍撤退を伴う米韓同盟の終了と朝鮮半島の中国勢力圏化を意味するとする指摘があります。この説では、北朝鮮の核放棄とアメリカによる中国の朝鮮半島支配の承認がバーターとなっており、南北両国の頭越しとなる事実上の“米中合意”、あるいは、“米中取引”ということになります。

 “朝鮮半島の非核化”の意味が中国による朝鮮半島支配を意味する一方で、“北朝鮮の核放棄”は、あくまでも、国際法上の違法行為への制裁、あるいは、国際社会における平和への脅威の排除の文脈において捉えられる課題です。NPT体制の行方にも関わるため、国連における対北制裁決議等は、この文脈において成立している国際的な合意であり、日本国政府をはじめ、表向きであれ全国連加盟国が対北制裁の枠組に協力しています。そして、この立場で特に重要な点は、中国の覇権主義的北朝鮮危機の政治利用の思惑とは全く関係なく、国際法秩序を守るための米軍による軍事制裁が正当化されていることです。ここには、政治的妥協の入り込む隙はないのです。

 以上に述べたように、“北朝鮮の核放棄”と“朝鮮半島の非核化”には、その本質からして政治問題と法律問題の違いがあるのですが、北朝鮮危機にあって漁夫の利を得たい中国が、巧妙に前者の方向へと誘導しようとしていることだけは確かです。また、北朝鮮の金委員長も、訪問先の中国では、自国が国連制裁対象国であることを忘れたかのように振る舞っております。となりますと、この問題は、“北朝鮮の核放棄”と核放棄後の朝鮮半島の将来像については一旦切り離した方が賢明なように思えます。乃ち、北朝鮮が無条件の核放棄に応じるまで、中国を含めた国際的な経済制裁の枠組を緩めることなく、否、より厳格に実施し、かつ、北朝鮮に核・ミサイル開発の時間的な猶予を与えないために、一定の期限を設定し、その間に北朝鮮が核放棄を実行しない場合には、軍事制裁を科すとするプロセスを検討すべきではないでしょうか。

 仮に、トランプ政権が米韓同盟について再考し、朝鮮半島の現状を変更する方針にあるならば、北朝鮮の核放棄に伴う北朝鮮の現体制の変化を見極めた上で(体制崩壊もあり得る…)、別途、朝鮮戦争の当事国も参加する形で合意を形成するという方法もあります。中国主導による北朝鮮危機の解決、即ち、“朝鮮半島の非核化”路線は、東アジアにおける習独裁体制とその支配力の歯止めなき膨張に繋がりかねません。“赤い帝国”の拡大は、日米を含む周辺諸国の安全を根底から脅かすと共に、国際社会の無法化をも意味するのですから。

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米朝首脳会談を逆手に取る中朝の作戦か?

2018年03月28日 15時28分22秒 | 国際政治
米政権「中国から金氏訪中の説明受けた」
 北朝鮮の金正恩委員長の突然の訪中は、想定外の展開として国際社会に衝撃を与えています。中朝首脳会談が米朝首脳会談のお株を奪ってしまったかの様相を呈しておりますが、中朝の狙いとは、一体、どこにあるのでしょうか。

 金委員長の電撃訪中は、米朝首脳会談に対して先手を打つことで、北朝鮮問題の主導権を中国が握る、あるいは、アメリカから奪い返すとする習国家主席の強い意志の現れであるかもしれません。同会談の内容は詳らかではありませんが、一つだけ確かなことは、両国が、北朝鮮の非核化から最大の利益を引き出そうとしている点です。

 報道に拠りますと、北朝鮮の非核化は無条件ではありません。“我々の努力に善意で応えて、平和と安定の雰囲気がつくられ、平和実現のために段階的で歩調を合わせた措置を取るなら…”とする曖昧ながらも明確な条件付けがなされているのです。この条件を正確に読み解くことは困難ですが、おそらく、(1)アメリカは中朝の要求に対して受け身の立場にある、(2)朝鮮戦争の終結、即ち、米朝国交正常化をも意味する平和条約を締結する、(3)核放棄は段階的であり、即時の廃棄には応じない(検証不可能な核放棄?)…といった諸点を、最低限、核放棄の見返りとして要求するものと推測されます。朝鮮戦争の終結にまで及ぶならば、在韓米軍の撤退も視野に入りますので、中国としても、朝鮮半島全域を自国の勢力圏に含める上での絶好のチャンスとなりましょう(もっとも、アメリカとしても、この点は、韓国防衛が重荷となってる可能性も…)。

 中国は、既に中朝首脳会談についてアメリカのホワイトハウスに説明済みであり、同報告を受けたアメリカは、同電撃訪問をトランプ政権の圧力政策の成果として認識している模様です。しかしながら、殊、北朝鮮問題に関しては、楽観は禁物なようにも思えます。仮に、中朝側の要求が先に述べた内容であるとしますと、アメリカが求める“完全で検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化”は困難であると共に、それを実現しようとすれば、アメリカは、多大なる譲歩を迫られることが予測されるからです。否、中朝からすれば、どの道核兵器を放棄するぐらいならば、このカードを最大限に利用し、“負けて勝つ”作戦へと転じたのかもしれません。あるいは、無理難題を押し付けることで、アメリカから交渉の席を蹴らせ、仮に米軍による軍事制裁が発動されたとしても、開戦責任をアメリカに押し付けようとしている可能性もあります。国際社会に対しては、平和への努力と善意を踏みにじったのは、我々ではなくアメリカであると…。

 ビジネス界出身のトランプ米大統領は駆け引きが得意であり、米朝首脳会談での交渉も、相互に条件を出し合って落としどころで妥協するビジネス感覚で捉えているとの指摘があります。しかしながら、戦略が複雑に交差する国際政治の世界では、相互利益ではなく、ゼロ・サム関係となる場面が少なくなく、部分的、かつ、即時的には相互利益をもたらす一つの譲歩が、全体、かつ、長期的な視点から見れば死活的な形成の逆転や秩序の崩壊をもたらすことすらあります。最悪の場合には、政策転換によって圧力や制裁を強化し、北朝鮮を“降伏”寸前まで追い詰めたつもりが、結局は、中国が北朝鮮の後ろ盾となる、即ち、背後から対米牽制圧力の一環を担うことで、過去の失敗を繰り返すか、中国中心の新秩序が出現する契機ともなりかねないのです。この意味において、米朝首脳会談はリスクに満ちているのではないかと思うのです。

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“北朝鮮要人”訪中の意味とは?

2018年03月27日 15時27分32秒 | 国際政治
北京訪問の要人は金正恩氏
米朝首脳会談を間近に控えたこの時期にあって、北朝鮮要人が中国を訪問しているとする情報が、目下、関心を集めています。同国の要人とは、共産党当局者の談によりますと、金正恩委員長本人とされていますが、この訪中、果たして何を意味するのでしょうか。

 メディアによる凡その見立ては、米朝首脳会談でのトップ解決に向けた中朝間の事前調整であり、北朝鮮は、遂に核放棄を決意したと言うものです。中国側は、以前より、金委員長訪中に関しては、非核化に向けて取り組む姿勢を示すことを、受け入れ条件として付してきたからです。訪朝が実現した以上、北朝鮮が中国側の条件を満たしたと見るのが自然であり、同条件については中国の共産党当局者が説明している点も、北朝鮮の核放棄を前提とした中朝打ち合わせ説を補強しています。

 仮にこの推測が正しければ、北朝鮮は中国に対して幾つかの要請を行った可能性があります。第一に考えられるのは、アメリカが要求している“検証可能な核放棄”に応えるために、中国に対して核査察の実施国となるよう要請したとする説です。中国による核査察は信頼性に欠けるため、アメリカが同案を承認するとも思えませんが、北朝鮮としては、中国が最も望ましい査察国なのでしょう。第二にあり得る要請は、中朝友好協力相互援助条約を締結している中国に対する核の傘の提供です。朝鮮半島全域を非核化するとしても、韓国が米韓同盟に基づいて米軍の核の傘にある以上、北朝鮮も、“丸腰”は望まないはずです(もっとも、交渉の結果、韓国から在韓米軍が撤退するならば、この線は消える…)。そして、第三に可能性として挙げられるのは、仮に米朝首脳会談が決裂した場合の対応です(もっとも、第4として、米国による軍事攻撃を怖れた金正恩の事実上の中国亡命であり、“替え玉”を帰国させるためであるという可能性も指摘できます)。

 上述した“共産党当局者”は、北朝鮮が非核化に舵を切った、即ち、アメリカに対して事実上降伏したかのような口ぶりですが、北朝鮮と同様に、虚偽の発言を常とする中国が事実を述べているとは限りません。戦略や謀略に長けた中国のことですから、北朝鮮が核放棄に応じたとする説明は、自国、並びに、自国陣営を有利な立場に導くための策略の一環であるかもしれないのです。となりますと、上述した推測の内、第三の可能性が、俄然、高まります。

 第三の可能性についても、あり得る想定は一つではありません。そもそも、中国共産党が嘘をついているならば、北朝鮮の要人が“金正恩委員長”であるとする説明をも疑わなければならないのです。また、米朝決裂への備えであるならば、昨今、中国が習主席独裁体制を固めた点を考慮すれば、米朝首脳会談に先立って中朝首脳会談が設けられたこととなりましょう。そして、同トップ会談で話し合われた内容としては、(1)中朝友好協力相互援助条約の発動による人民解放軍の介入、(2)ロシア等に対する参戦要請による自陣営の拡大、(3)日本国や韓国における戦時テロ・破壊活動に関する協力、(4)中国が不介入とした場合の金一家の亡命受け入れ等が推測されます。

 突然の訪中であっただけにその内容は詳らかではありませんが、中国側からの公表であった点を考慮しますと、中国側が、何としても米朝会談を出し抜くための一手を打とうしているようにも見えます。日本国政府もまた、あらゆる事態に対応できるよう、同盟国であるアメリカとの十分な事前調整を進めると共に、有事への備えも怠ってはならないと思うのです。

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軍事大国中国は自由貿易体制が生み出したモンスター

2018年03月26日 16時45分56秒 | 国際政治
トランプ大統領、中国との貿易戦争恐れていない=米財務長官
アメリカのトランプ政権は、鉄鋼・アルミニウム製品に対する高額関税の設定に加えて、知的財産権についても最大で600億ドル規模の対中制裁関税をかけると発表しました。こうした一連の米国の対中強硬政策に対して、中国は、米国債の購入を減額する措置をも辞さずとして対抗心を露わにしております。遂に米中貿易戦争の火蓋が切って落とされた感がありますが、そもそも、米中貿易戦争の根本的な原因は、今日の自由貿易体制そのものにあるのかもしれません。

 ソ連邦の崩壊によって中国が学んだことは、ハイテク技術を含む経済力の差が米ソの命運を分けたと言うことです。言い換えますと、共産主義に基づく計画経済に固執している限り、中国もまた、遅かれ早かれソ連邦と同じ運命を辿るしかなかったのです。そこで、天安門事件で一旦は挫折するものの、中国は、経済力においてアメリカと同等、否、それ以上の力を蓄えることで、自国の共産党一党独裁体制を断固として守る決意を固めるのです。

 中国がこの目的を達成するための最短距離の道として選んだのは、西側諸国で構築されていた既存の自由貿易体制を最大限に利用することでした。社会・共産主義国との間で結成したコメコンといった国家貿易圏の内側に閉じこもっていたソ連邦の閉鎖型の貿易体制から一歩踏み出し、自ら自由主義国の通商体制に参加することこそ、サバイバルを目指す共産主義国家には必要不可欠であると考えたのでしょう。何故ならば、自由貿易体制の内部に入り込むことができれば、米ドルという国際基軸通貨を大量、かつ、容易に入手することができるからです(2001年12月にはWTOに加盟…)。そのためには、中国は、何としても貿易黒字国となる必要があり、アメリカをはじめとした先進各国の企業に安価な労働力を以って生産拠点を提供し、かつ、人民元安を武器として輸出攻勢をかけることで、輸出大国、即ち、“世界の工場”となることに成功したのです。

 米ドルは70年代に金兌換を停止したとはいえ、今日に至るまで国際基軸通貨の地位を保っており、米ドルを始めとした外貨準備の積み上げは、経済における中国のステータスを押し上げると共に、政治的にも重要な対外政策上の道具ともなりました。物議を醸してきたAIIBは、潤沢とされた外貨準備を中華圏の形成としての“一帯一路構想”の実現に注ぎ込むプランとして理解されますし(ただし、実際には、中国には公表されているほどの外貨準備はなく、むしろ、外貨獲得が目的であるとする説もある…)、とりわけ米国債の大量購入は、今般の中国の対抗策に見られるように、対米牽制の有効な手段ともなり得ます。しかも、自由主義諸国の企業、大学、研究所などに、不正手段を含めた様々手法でアクセスすることで、軍事大国化の基盤となる先端的な軍事技術さえ容易に手に入れることができたのです。

 このように考えますと、政治的な国家間対立や防衛・安全保障面でのリスクを凡そ捨象し得る自由貿易体制ほど、中国にとりまして好都合な国際通商体制はなかったことになります。たとえ究極の目的が共産党一党独裁体制の維持であり、また、世界支配であったとしても、自由貿易主義の大義の前では不問に付されるからです。しかしながら、政経分離を原則としてきた現下の自由貿易体制が中国というモンスターを生み出し、国民弾圧をも厭わない独裁体制の下で国際法秩序をも揺るがすほどの重大な脅威を国際社会に与えているとしますと、見直しを迫られているのは、政治的リスクを公然と無視してきた今日の自由貿易体制の方なのではないかと思うのです。

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米中貿易戦争は自由貿易主義の必然?

2018年03月25日 16時08分17秒 | 国際政治
米制裁に猛反発 中国、強硬姿勢の背景とは
 今月の19日と20にかけて、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議では、仮想通貨に対する規制が合意されると共に、トランプ政権の鉄鋼・アルミニウム製品に高率の関税を課す輸入規制を受けて、アメリカ以外のメンバー国は、反保護主義で足並みを揃えたそうです。特に、輸入規制のターゲットとなった中国は激しい反発を示しておりますが、米中貿易戦争は、自由貿易主義の必然的な結果なのではないかと思うのです。

 通商政策をめぐる今般の対立は、アメリカvs.他の諸国の構図として描かれていますが、80年代の日米貿易摩擦に際しては、日本国は、孤立無援の戦いを強いられ、日本国に味方して自由貿易の原則を擁護する国はついぞ現れませんでした。日米貿易摩擦が発生した要因とは、アメリカ市場を席巻する勢いのあった円安を伴う日本製品の圧倒的な国際競争力にあり、凡そ30年前の貿易戦争は、自動車や半導体産業等の日本国側の自主規制、円高容認、巨額財政支出を伴う内需型経済への転換、対米投資と米国内生産(米国人雇用)の拡大等によって終結したのです。言い換えますと、自由貿易の原則を放棄し、一種の管理貿易的手法を採用することで、日米間の貿易不均衡を是正したのです(この時、日本国が自由貿易主義を貫いたならば、日米関係は破局的な局面を迎えたのでは…)。

 当時と比較しますと、今般のアメリカの貿易規制は、日本国のみではなく、他の諸国にも広く及ぶことから、アメリカの通商政策に対して自由貿易の堅持を求める声も強いのですが、自由貿易=互恵的利益とする古典的な自由貿易理論の前提を疑ってみますと、国家間の貿易摩擦の発生は、理解に難くありません。貿易障壁の全面的撤廃という意味での自由貿易主義、あるいは、グローバリズムを極限まで突き詰めますと、“ルールがないのがルール”という放任主義に帰結せざるを得ないからです。放任主義が原則となる世界とは、弱肉強食を許す世界であり、あらゆる分野において競争力に優るもののみが勝利の果実を手にすることができます(自由貿易・グローバリズムの実態は不均等分散型…)。例えば、AIや情報通信といった先端分野では、全世界から人材、資金、技術等を集めてプラットフォームをも握ることができる米中の巨大企業が全世界の市場を二分するかもしれません。

放任主義において国家間の予定調和的な相互利益を期待するのは不可能であり、実際に、相互利益が実現するならば、アメリカが巨額の対中貿易赤字を記録することも、中国が最大の対米貿易黒字国となることもなかったことでしょう。この事実を一つとっても、自由貿易原理主義や行き過ぎたグローバリズムが、如何に現実と乖離しているのか分かるのです。

 以上に述べたように、米中間の貿易不均衡が自由貿易の必然的な帰結ならば、現実を理論に合わせるのではなく、理論を現実に合わせるべきです。そして、それは、自由放任主義から“規律ある自由”への転換という“自由”の定義の変更であり、グローバリズムもまた、自国の国民保護のために一定の規制をルールとして認めるルール志向型のグローバリズムへの移行ではないかと思うのです(ナショナル企業やローカル企業が生き残るためにも、独占や寡占を許さない競争法等の分野でのグローバル・ルール造りも必要では…)。しかも、日米貿易摩擦は同盟国間の紛争でしたが、米中両国は、政治・軍事的な対立関係が既に表面化してきており、最早、経済分野に限定した対処は不可能な段階にあります。放任主義を是とする自由貿易主義、並びに、グローバリズムは、経済のみならず、防衛や安全保障上のリスクといった政治における現実からも修正を迫られているように思えるのです。

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ベーシックインカムは人類衰退の道?-共産主義と新自由主義の‘キメラ’

2018年03月24日 16時01分26秒 | 国際政治
 つい最近まで、政府が生活に必要となる必要品を国民に配る配給制度は、社会・共産主義の“専売特許”と見なされてきました。ところが、近年、“資本主義”のお膝元の諸国でも、全ての国民に一定の所得を配るベーシックインカムが唱えられるようになり、スイスでの国民投票に加えてオランダやフィンランドでも実証実験まで始まっているそうです。

 ベーシックインカムとは、働かなくても生活費が支給されるため、人類を労働から解放する政策として支持する声も少なくありません。しかしながら、同政策には、幾つかの問題点が潜んでいます。

 第1の問題点は、言わずもがな、ソ連邦崩壊の主因として指摘されているように、人々の労働意欲が著しく低下してしまう点です。人間の中には、本能的に“快楽”を求める人々もおりますので、こうしたタイプの人々は、働かなくても生活できるならば、敢えて職を持って職場で苦労しようとはしないでしょう。もっとも、この点に関しては、仕事に喜びを見出すタイプの人々の存在を根拠として、クリエーティブな仕事が増えるとする反論があるかもしれません。しかしながら、世の中には、しばしば“3K(きつい・汚い・危険)”、あるいは、英語では“3D(Dirty, Dangerous and Demeaning)”とも表現されるように、なり手が少なく、相応の報酬があってこそ成り立つ職業もあります。

 第1点に関連して第2点として指摘し得ることは、経済全体のメカニズムから見れば、全員、あるいは、大多数が働かないで生活を送ることは、事実上不可能なことです。何故ならば、生活に必要となる物品や施設等を造ったり、行政サービスも含め、それらを提供する人も同時にいなくなるからです。ベーシックインカム論は、個々人の所得の保障面ばかりに注目してメリットを説いていますが、たとえ所得があっても、消費する‘もの’や‘サービス’がなくなれば、経済のサイクルは停止します。人々の労働市場からの撤退とは、即ち、生産物の減少や経済活動の縮小をも意味しますので、経済レベルは自ずと低下せざるを得ないのです。また、需要と供給から成り立つ価格形成のメカニズムからすれば、それは同時に、‘もの’や‘サービス’不足による物価高騰を招くかもしれません(財源が政府紙幣の発効であれば、悪性のインフレも…)。

 第3の問題点は、スイスで実施されたベーシックインカムの導入を問う国民投票においても議論された財源問題です。上述したように、経済は低減傾向を辿りますので、法人税、所得税、付加価値税等、何れの租税の種類において税収も低下することでしょう。大幅に減少した歳入からベーシックインカムに必要となる予算が割かれるのですから、長期的には給付額や他の政策予算を削減しなければならない事態が予測されます。予算不足により行政サービスも低下しますので、社会インフラを含めた人々の生活の質も劣化することでしょう。

 以上に主要な問題点を挙げて見ましたが、ベーシックインカムが望ましくないことは、実際に街を歩いてみれば一目瞭然です。何故ならば、人には将来に向けてすべき仕事がたくさん残されていることが分かるからです。ベーシックインカムといった公的給付制度よりも、経済とは持ちつ持たれつの関係で成り立っているなのですから、社会に役立ち(犯罪等を除いておよそあらゆる職業は世の中のためになっている…)、人々の生活やその向上に貢献する様々な仕事が正当に評価され、相応の報酬が支払われる経済システムの構築を目指すべきです。人類は、より善き経済・社会システムに向けて未だ発展の途上にあるのですから。結局、停滞と退行を招くベーシックインカムとは、配給制度において統制経済を取り入れ、労働選択では個人の自由放任を認めた、共産主義と新自由主義との奇妙な‘キメラ’なのではないでしょうか。そしてそれは、人類を衰退へと導くように思えるのです。

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ポーランドの対独賠償請求問題-請求先はロシアでは?

2018年03月23日 16時11分43秒 | ヨーロッパ
ドイツ侵攻で57兆円賠償請求を ポーランド議会が試算
 報道に拠りますと、ポーランド下院の調査チームは、第二次世界大戦におけるナチス・ドイツによる同国が受けた被害を57兆2000億円と試算し、同国政府に対して対独請求を求めたとされております。この対独賠償請求、やはり無理があるように思えます。

 ポーランドの対独賠償請求に対して、ドイツは、1953年8月22日にソ連邦とポーランドとの間で締結された協定において、東西両ドイツを含む“ドイツ”に対する請求権は放棄されたと主張しています。1970年12月7日に署名され、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)とポーランドの両国間の関係正常化をもたらしたワルシャワ条約でも、ポーランドによる請求権放棄は確認されたとする立場にあるのです(同条約第4条?)。

 ドイツの主張の背景には、第二次世界大戦におけるポーランドに対する賠償支払いは、ソ連経由であったとする特殊な事情があります。1945年8月2日に締結されたポツダム協定によって、ポーランドに対する賠償支払いは、ソ連に対する賠償としてソ連占領地域から徴収された分から充てられるとされたからです。敗戦当時、ドイツは、経済の疲弊は著しく、賠償の支払いは、在外資産やデモンタージュと称された工場・機械設備の接収によって行われました。ソ連による賠償徴収は苛烈を極め、デモンタージュが1948年に終了した後も、東ドイツ(ドイツ民主共和国)から現物による賠償支払いが継続されたそうです。

 戦前にあっては現在のイメージとは逆に、東西分裂後に東ドイツ地域となるドイツ東部のほうが、旧プロイセン領であり、かつ、首都ベルリンが所在したこともあり、西部地域よりも産業が格段に発展していました。その東ドイツが、戦後は工業生産力の低い後進国に転落するのですから、ソ連邦の賠償取立ての過酷さが窺われます。長期にわたって蓄積されてきた工業生産力が根こそぎドイツから徴収されたのですから、その額は、現在の価値で換算すれば、今般の賠償請求額を上回るかもしれません。

 こうした戦後史を考慮しますと、仮に、ポーランドが賠償を請求するのであれば、その請求先は、ソ連邦、即ち、現ロシアではないか、という疑問が生じます(ドイツとソ連邦の両面侵攻によりポーランドは分割されており、ポーランドは、同侵略行為に基づく対ソ(ロ)賠償請求権もあるのでは…)。ソ連邦は、自らはドイツ領内から賠償を強制的に取り立てながら、ポーランドに対しては被害を償うに足る賠償分配を行わなかった可能性があるからです。また、ソ連邦のポーランドに対する賠償分配が十分な額であったとすれば、今般のポーランドの請求は、ドイツに対する二重請求となりましょう。果たして、今般の問題に対して、ポーランドに出自を遡るメルケル首相は、どのような対応を見せるのでしょうか。

 戦争被害に対する賠償問題とは、それが法的な権利である以上、国際社会における国際法秩序の成立を前提としております。そうであるからこそ、賠償請求は事実、及び、法的関係に基づくべきであり、請求先や根拠を誤ってはなりませんし、ゆめゆめ勝者による敗者からの掠奪や“被害者ビジネス”と化してはならないと思うのです(もっとも、真の戦争責任はどこにあるのか、という道義をも含む歴史上の難問が残る…)。

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不協和音が既に聞こえる米朝首脳会談

2018年03月22日 15時58分24秒 | 国際政治
北朝鮮、対話姿勢は制裁のせいでないと主張
トランプ米大統領による米朝首脳会談開催の受け入れは、何れの方向に向かうにせよ、北朝鮮危機における重大な転機となりました。同会談に対しては、平和的な解決をもたらすとする期待がある一方で、既に両者の間には、埋めがたい見解の違いが見受けられます。

 米朝首脳会談を承諾した理由について、トランプ大統領は、国民やメディアに対して自らが率先して進めてきた経済・軍事両面における対北制裁の成果として説明しています。オバマ前政権の基本方針であった“戦略的忍耐”を放棄し、北朝鮮に対して最大限の圧力をかけたからこそ北朝鮮が膝を折り、核・ミサイル開発の放棄を自ら申し出たと理解しているのです。同大統領の発言からは、自らの政策転換の正しさを確信している様子が窺えます。

 その一方で、北朝鮮側が公表した見解は、トランプ米大統領の説明とは正反対といえるくらいに違っています。北朝鮮の国営・朝鮮中央通信(KCNA)の論説に依れば、米朝首脳会談の開催を申し入れたのは、制裁や圧力によって追い詰められたためではなく、“望んでいたことがすべて手に入り、自信を得たことの表れだ”と説明されているのですから。この論調からは、金正恩委員長は、核・ミサイル開発を放棄する意思は毛頭なく、むしろ、北朝鮮側は、アメリカから大幅な譲歩を引き出せる見通しを持っていると解せざるを得ません。北朝鮮は、これまでの対米要求、即ち、核保有をアメリカに認めさせ、朝鮮戦争終結のための平和条約を締結し、かつ、“金王朝”の体制保証を勝ち取ると暗に述べているのです。

 フィンランドにおける米朝間の接触でもその会談の内容は詳らかではなく、北朝鮮の非核化が議題に上ったのか否かも不明です。北朝鮮は、検証可能な非核化を前提としない限り対北交渉に応じないとするアメリカの基本姿勢を崩すために、本心に反して非核化の準備がある旨を伝えることで、騙してでもアメリカを交渉の席に座らせようとしたのでしょうか。あるいは、KCNAの論評はあくまでも国内向けであって、核放棄に伴う国民の動揺を抑えるために、虚勢を張っているのでしょうか。それとも、フィンランドにおいて、既に両国は、既に何らかの“手打ち”で合意しているのでしょうか。

 フィンランドでの米韓朝間の会談は、もしかしますと、アメリカが南北両国の真意を探る場であったのかもしれません。少なくとも首脳会談を控えた米朝の間でかくも認識に相違があるとしますと、実際に同会談が開催された場合には、両者の面子もかかっている以上、決裂という結末を向かえる可能性は決して低くはないように思えるのです。

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“治安維持”をAIに頼る中国-道徳教育ができない共産主義国家

2018年03月21日 15時36分39秒 | 国際政治
 AI技術の発展に伴って、近年、俄かに注目されるようになったのは、中国の習近平政権による“治安維持”分野での活用です。全体主義国家である同国における“犯罪”には政治犯も含まれているため、同システムは、国民の自由を抑圧する統制装置としても強力に働くことは容易に予測されます。

 例えば、顔認証システムは、自由主義諸国でも適切に運用されれば犯罪やテロ防止には役立ちますが、政治犯が存在する中国では、反共産主義者、体制批判者、並びに、独立を求めるチベット人やウイグル人を正確に識別する道具ともなります。中国の一般国民の声として、“監視システムによって犯罪やテロの心配がなくなる”とする意見が紹介されてはいますが、中国当局によるAI活用の真の目的が、政治犯の摘発にあることは疑いなきことです。何故ならば、仮に、中国政府が、国民のために犯罪の減少による治安の向上を目指すならば、監視システムの徹底のみが有効な方法ではないからです。

 実のところ、犯罪を根底からなくそうとすれば、民意を向上させるべく、道徳教育を強化する必要があります。監視システムは、表面に現れた人々の行動をウォッチして取締りを行うには役立ちますが、“何故、利己的な目的で他者を害する行為が許されないのか”、その根本的な理由を説明し、国民が心から納得しないことには犯罪は減らないからです。行動の奥には、人の基本的な心の持ち方があります。脳機能上の問題に起因して病的な倫理観の欠如を患うサイコパスを除いて、一般の人々は、犯罪が“悪”である理由に納得すれば、敢えてこうした行為に及ぼうとはしないことでしょう。言い換えますと、共産主義のイデオロギー、あるいは、習近平思想で国民を染め上げるよりも、人類に普遍的に備わる道徳や倫理を教えた方が、余程、犯罪なき安全な社会が実現するはずなのです。

 ところが、共産主義という思想自体が、「モーゼの十戒」にも示される基本的な道徳律から逸脱している思想です。目的のためには手段を選ばず、暴力を肯定し、共産革命を成し遂げるためには、人殺しも、掠奪も、嘘も、騙しも、皆許されてしまうのです。反道徳的な行動を国是として掲げる国が、自らの教育プログラムにおいてこれらを禁ずるはずもなく、否、これらを否定すれば、自らの正当性をも失いかねません。日本国内でも、社会・共産主義者が道徳教育に反対する理由の一つは、自らの思想が普遍的な道徳律の名の下で否定される事態に対する漠然とした怖れや不安があるからなのでしょう。

 かくして、中国では、“歴史的に搾取されてきた多数のプロレタリアートによる自治”とは真逆の、“暴力革命によって特権階級となった少数の共産主義者による独裁”が成立しても、それを道徳や倫理において批判することができない国となりました。特定の集団が反道徳的な手段で統治権力を手中にした場合、以後、国民に対して道徳教育を行うことは自己否定に等しくなるのです。AIに頼る中国の現状は、社会・共産主義者による善悪や正邪の区別、即ち、道徳からの逃避こそ、人々に暗黒の世界をもたらしていることを示しているように思えるのです。

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日本年金機構の中国業者再委託事件-故意なのか?

2018年03月20日 11時37分49秒 | 日本政治
500万人分の個人情報が中国業者に 年金情報入力を再委託
日本年金機構が都内の情報処理会社に500万人分のデータ入力業務を委託したところ、同社が契約に違反して中国業者に再委託していた事実が明るみとなり、日本国内に衝撃が走っています。同データにはマイナンバー等の重要な日本国民の個人情報も含まれていたからです。日本年金機構、並びに、委託を受けた情報処理会社は、調査中との理由を付けてコメントを控えていますが、果たして、この事件、単なるミスや営利目的なのでしょうか。この点に関して、以下に述べるような幾つの不審な点が見受けられます。

 第一の不審点は、同事件を報じたマスコミ各社が、何故か、直接に委託を受けた情報処理会社の社名を伏せていることです。国民に直接に関わる重大事件が発生した場合、通常、マスコミは同社の社会的責任を明らかにするためにも社名を記して報じています。おそらく、同社の社名が判明すれば、何らかの不都合や不利益が生じるということなのでしょうが、それはいったい誰の、そして、どのような不都合や不利益なのでしょうか。

 第二に挙げられる点は、委託を受けた情報処理会社は、日本年金機構との契約書に再委託を禁じる項目があることを知りながら違約したのですから、再委託行為自体は同社の故意としか言いようがありません。今日、ビックデータの活用等において個人情報の扱いに関心が集まっており、況してや、国家機密のレベルにあるマイナンバーについては、特に厳重な管理が求められてきました。近年の法改正により、共産党の企業統制が強化されている矢先に中国業者に再委託するという発想は、国家の情報管理の原則に照らせばあり得ませんし、同社もまた、日本国の年金機構からの委託である以上、その点は十分に認識していたはずです。

 第三の不審点は、同情報処理会社が、たとえ純粋な営利目的、即ち、低コストの事業者への再委託で利益を上げる目的であったとしても、選定したのが中国業者ですので、日本国のデータが中国本土(中国共産党政府)に流出した可能性が高い点です。電力コストや人件費等の安価な中国本土での作業の方が、膨大なデータ入力を低コストで実現することができるからです。

 また、現在、在日中国人も日本国の年金制度に加入可能であり、かつ、目下、日中間で保険料の二重払い問題を解消するための社会保障制度に関する協定の締結作業が進められています。再委託先の中国業者が、日本国側のチェックが及ばない密室において自国民に利益となるようデータを改竄したり、データ操作を行った場合、日本国民の受給者が不利益を受けるリスクもあります。中国業者による入力作業の不透明性が第四の不審点です。

 厚労省は、これまでのところ、「中国の業者から個人情報が外部に流出した事実は今のところ確認されていないと」と説明していますが、この説明を信用することはできるのでしょうか。第二点で述べたように、既に中国企業は中国共産党のコントロール下にあることに鑑みれば、たとえ、日本国内で入力作業が行われたとしても、“内部流出”という形で既に情報が中国の情報機関に渡っているかもしれないのです。同情報処理会社は、委託を受けてから中国業者への再委託を決めたのでしょうか、それとも、委託以前の段階で中国業者と既に結託していたのでしょうか。

 以上に主要な不審点を述べましたが、年金情報とは、受給者の過去の就労経歴から現在の生活状況までの全ての情報が詰まっていますので、こうした個々人のパッケージ情報が中国に流出したとなりますと、日本国民は、心安く日常の生活を送ることさえ難しくなります。日本国民の多くが、隣国の独裁国家によって自己の生涯に関する情報を握られている状況となるのですから。

 そして、最後にもう一つの不審点を挙げるとすれば、それは、この事件の目的です。その目的とは、拡張主義の野望を最早隠そうともしない中国による日本国攻略を睨んだ情報収集の一環とも推測されますし、あるいは、北朝鮮危機とも関連するマイナンバー制度潰しであるのかもしれません。日本国内に日本年金機構、情報処理会社、並びに、中国事業者を横断する謀略ネットワークがあるとしますと、日本国の安全は内側からの組織的な活動によって脅かされている恐れがあります。こうした懸念を考慮しますと、この事件の全容を解明することこそ、日本国政府の急務なのではないでしょうか。

*本日20日の正午のNHKのニュースにより、以上の諸点について、判明した部分をお知らせします。第一点のこれまで伏せられてきた委託情報処理会社の社名は、SAY企画なそうです。同社につきましては、ネットで検索してみましたが、ホームページはメンテナンス中となっており、詳しい情報を得ることはできませんでした。なお、再委託先の中国業者とは、同社の社長が設立の時点から関わった大連所在の事業者のようです(第3点は中国国内での作業…)。このことから、データの入力作業は中国の大連市で行われたことになりますが、これが事実としますと、入力作業は“氏名のデータ”のみとする同社の説明と矛盾しています。何故ならば、日本人の氏名入力ほど、中国人にとりまして困難な作業はないからです。受給者には高齢者が多いため、きらきらネームはないまでも、古来の漢字や日本独自の漢字に加えて、訓読みと音読みの違いのみならず、音読みでも、呉音、漢音、唐音の違いもあるからです。上記の謎は全て解けたわけではなく、同事件の調査は始まったばかりと言えましょう。


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攻撃は最大の防御?-森友学園問題を政局にしたい勢力の本心とは

2018年03月19日 13時57分34秒 | 日本政治
進退答弁の影響否定=安倍首相「改ざん指示ない」―支持率急落、深刻に受け止め
 去年から燻ってきた森友学園問題は、財務省の決済文書改竄問題が持ち上がった途端に、安倍政権が退陣を求められる事態に至っています。まさに政局となろうとしているのですが、この一連の流れにはどこか不自然な空気が漂っております。

 国有地払い下げ問題は、明治期から常々政界を揺るがす大疑獄事件となり、日本国の近現代史においても何度となく繰り返されてきました。政治腐敗の象徴ともされるのですが、こうした事件の背景には、不正糾弾を大義名分とする政治的思惑が潜んでいる場合が少なくありません。中国では、まさに腐敗撲滅が政治的粛清の最強手段と化しており、習主席の独裁的な権力掌握もこの運動なくしてあり得ませんでした。今日、日本国内で吹き荒れている糾弾の嵐の裏にも、表向きとは違う政治的目的あるとする推測は、無碍に否定はできないように思えます。

 それでは、何故、野党やマスメディアは、かくも必死の形相で森友学園問題を論い、安倍政権を倒したいのでしょうか。国政を停滞させてでも、真に日本国の政治の浄化を目指しているのでしょうか。安倍政権には経済面では新自由主義的な政策も多く、真に保守系の内閣であるのかどうか疑わしいところはあるのですが、政治面にあっては、少なくとも中国、韓国、北朝鮮に対しては比較的厳しい姿勢を貫いてきました。今般、北朝鮮危機が緊迫化を増し、中国が習近平独裁体制を固めつつある中、日本国は、対外政策において極めて重要な局面を迎えており、日本国政府の政策決定は、今後のアジア情勢をも大きく左右するといっても過言ではありません。現安倍政権の基本的スタンスは日米同盟重視にありますので、安倍政権の存続は、中国や北朝鮮、そして南北融和を最優先とする韓国の三国にとりましては極めて不都合な“障害”なはずです。野党6党、与党公明党、並びに、自民党親中派の政治家達は、上記3国の利益のために森友学園問題を最大限に利用し、親米路線の安倍政権から親中内閣への転換を目指しているとも推測されるのです。

 そして、親中路線への転換を図りたい政治勢力にとりまして、森友学園問題には、もう一つの有効な活用方法があります。それは、国会を混乱させ、同問題に審議時間を割かせることで、自らの親中路線を隠すことができる点です。仮に、森友学園問題がなければ、国会では、日本国の防衛や安全保障、並びに、北朝鮮の核・ミサイル問題や軍拡を進める中国に対する基本姿勢などについて活発な議論が交わされたことでしょう。国会での質疑応答等において、親中派政治勢力は、非民主的な全体主義体制の“隠れ支持者”という、国民に隠しておきたい正体を見せてしまう場面も想定されるのです。親中派政治勢力にとりましては、森友学園問題こそ、“攻撃は最大の防御”なのです(この問題に拘泥している限り、自らの“売国的姿勢”は糾弾されない…)。

 政治腐敗は確かに追及されてしかるべきですし、その撲滅を目指すのは政治倫理に照らしても正しい態度です。しかしながら、その裏に、別の政治的目的がある場合には、倒閣後に表面化するであろう忌々しき事態を十分に予測する必要があるように思えます。安倍政権が倒された後、本格的な親中派政権が日本国に誕生するとしますと、それは、日米同盟を揺るがすと共に、東アジア、否、全世界をも震撼させる事態にも発展しかねないと思うのです。

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米中対立と日朝平壌宣言は両立しない-危うい日本国

2018年03月18日 16時31分59秒 | 国際政治
 世の中には、その時には気が付かなくても、後に至って事の重大さに慄くような出来事があるものです。2002年に当時の小泉内閣が北朝鮮と間で交わした日朝平壌宣言もまた、その一つではないかと思うのです。

 戦後、朝鮮半島が南北に分裂して以来、長らく日本国と北朝鮮との間には国交はなく、この意味で日朝平壌宣言は、日本国の対北政策の転換点とも目されました。その背景に拉致事件があったことは言うまでもなく、小泉首相の平壌訪問と拉致被害者、並びに、その家族の方々の帰国実現は、サプライズ外交として脚光を浴びることとなったのです。小泉元首相の最大の功績とも評されていますが、今になって考えて見ますと、あまりに危うい橋を渡っていたとしか言いようがないのです。

 今日の中国の軍事大国化とそれに伴う米中対立の深刻化を考慮しますと、その危うさは鮮明に浮かび上がります。2002年当時にあって、中国は、天安門事件後であれ、2001年にはWTOへの加盟を果たしており、自由主義国でも中国の経済発展がやがて同国の自由化と民主化をもたらすとする期待感がありました。このため、表立った中国脅威論もなく、況してや平壌宣言と中国との関連性について深く考える論評も皆無に近かったのではないでしょうか。

 しかしながら、当時にあって極めて自然に感じられた日朝首脳会談を機とした拉致事件の一部解決から平壌宣言への流れは、両者を結び付ける必然性も道理もなく、日本国、並びに、国際社会にとりまして攪乱要因でしかなかったように思われます。何故ならば、仮に、平壌宣言の内容に従って、北朝鮮の核・ミサイル開発問題の解決が図られ(北朝鮮の非核化を明記しているわけはなく、ミサイル発射実験もモラトリアムに過ぎない…)、日朝関係が正常化された場合には、日米同盟をも揺るがしかねない重大な問題が発生するリスクがあったからです。

 例えば、日朝国交正常化と同時に、日本国は、北朝鮮に対する莫大な経済支援を約束しておりますが、朝鮮戦争以来、米朝関係が休戦状態にあり、かつ、特に中国と北朝鮮との間で同盟関係が維持されている点を考慮しますと、日本国は、同盟国であるアメリカの“敵国”を資金面で支えることとなります。また、同宣言では、日朝間において相互に脅威となる行動をとならいとされていますが、朝鮮戦争が再開される、あるいは、対北軍事制裁が実施される場合、自衛隊の対米軍支援にも支障をきたすことも予測されます。アメリカは、日本国による頭越しの“日朝和平”に憤慨したかもしれません。加えて、北朝鮮は、ソ連邦を後ろ盾として建国された国ですので、米ロ関係においても間接的なロシア支援ともなりかねません。言い換えますと、平壌宣言の“誠実な履行”は、同盟国であるアメリカをはじめとした自由主義国に対する“裏切り”ともなりかねなかったのです。

 この問題の根底には、国際社会における対立関係に変化がない状態において、核・ミサイル問題、並びに、拉致問題の解決の代償として、敵方陣営にある北朝鮮と国交を正常化し、かつ、経済支援を行うのは間違いではないか、という基本的な問いかけがあります。本来、別個に解決すべき問題を一緒くたにしたことで、日本国は、中ロ北陣営に引き寄せられると共に、日米同盟の弛緩と信頼喪失というリスクを負うこととなるからです。幸いにして、北朝鮮は、その後、悉く平壌宣言の内容を反故にしたために日本国は事なきを得ましたが、今般、再度、日朝、日米、並びに、南北間の対話において核・ミサイル問題、拉致問題、そしてその先に平壌宣言が持ち出されている現状は(米朝和平への流れも同じパターンであるかもしれない…)、2002年において架設された“危ない橋”を再び渡り始めたことを意味します。米中対立が先鋭化している今日(たとえ米朝関係が正常化されても、中国の脅威は残る…)、再びこの問題が日本国の安全保障上の危機として迫ってきているように思えるのです。

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危険に満ちた日本国の日朝国交正常化提案-敵に塩を送る?

2018年03月17日 16時06分40秒 | 国際政治
安倍首相、韓国大統領に拉致提起要請=日朝対話再開に期待
報道に拠りますと、安倍首相は、韓国の文大統領との電話会談において、南北会談の席で拉致問題を提案すると共に、核・ミサイル問題が解決した暁には、平壌宣言に即して日朝国交正常化交渉を進める用意がある旨の伝言を託したそうです。しかしながら、この方針、どう考えましても、北朝鮮が仕掛けた罠に嵌っているように思えます。

 目下、米朝首脳会談の行方に関心が集まっておりますが、日本国内の識者の中には、米朝間のトップ会談によって、日本国は置き去りにされ、制裁で疲弊した北朝鮮の経済再建を助けるための経済負担だけが課せられるとする予測もあります。このシナリオには疑問の余地があるのですが、少なくとも、北朝鮮としては、これをチャンスに日本国から最大限資金を引き出す手立てを練っているはずです。

 推測される基本路線は、検証可能な核放棄であれ、核・ミサイル開発の凍結であれ、何れにしても、日米に対して“見返り”を求めると言うものです。同国の核・ミサイル開発には既に多額の国家予算が注ぎ込まれていますし、不足分を補うために、秘かに外国政府や海外の金融機関等から融資を受けている可能性もあります。仮に、日米の要求に応じればそれはそのまま“損失”となりますので、北朝鮮が、何としても日米側から資金を回収したいと考えても不思議はありません。

 対外財政支出に対して批判的なトランプ米大統領に対して莫大な経済支援を求めるのは難しく、アメリカの世論も無法者に“飴”をあたえるような行為は許さないことでしょう。となりますと、北朝鮮は、資金源として日本国に狙いを定めるはずであり、その準備を着々と進めているように思えるのです。核・ミサイル交渉に絡める形で日本国に対する資金提供を求めるとすれば、その主たる口実は、(1)日朝国交正常化に伴う経済支援、及び、(2)拉致被害者の帰国許可への見返りと考えられ、(2)については、早々、北朝鮮が、これまで否定してきた拉致被害者の入国を認めています。一方の日本国側も、上述したように拉致問題との一括解決を求める姿勢を示すと共に、(1)の日朝国交正常化についても、何故か、安倍首相から北朝鮮に対して申し出を行っているのです。

 おそらく、日本国内における親中・親北派の進言を受け入れた結果、あるいは、森友学園問題に関連した野党側に対する妥協ではないかとも推測されますが、2002年の平壌宣言が、国会に諮ることも、国民的な合意を得ることもなく、当時の小泉政権が一存で決定した文書であることを考慮しますと、この路線の踏襲には疑問があります。日韓請求権協定に準じる措置として説明されていますが、同協定は、西側陣営の盟主であったアメリカの意向に沿う形で、朝鮮戦争で荒廃した韓国を支援する意味合いがありました。共産圏に対する防波堤としての韓国を支える意義があってこそ、当時の日本国政府は、アメリカ政府の仲介による“どんぶり勘定”を受け入れ、請求権の処理を遥かに越える莫大な額の経済支援を実施したのです。

 今日の状況を見ますと、日本国には、北朝鮮を経済的に支援する安全保障上のメリットもなければ、法的な義務もありません。日朝間において併合時代の事実に基づく請求権の処理が行われれば、日本国は、韓国よりも北朝鮮地域に水豊ダム等のインフラ資産を残しましたので、日本国の対北請求額の方が上回るはずです(もっとも、同宣言では、双方の請求権の相互放棄を基本原則としている…)。あるいは、北朝鮮は、中ロとの関係を一切断って、日米陣営に加わると言うのでしょうか(軍事独裁体制を維持したままでは無理では…)。蓋を開けて見ますと、日本国のみが莫大な経済的負担を課せられた上に、中ロ陣営が勢いづくようでは、“敵に塩を送る”ようなものではないかと思うのです。

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