万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

危ういアメリカ―ホワイトハウス前通り改名問題

2020-06-06 13:00:29 | アメリカ

 アメリカにおける白人警察官による黒人男性暴行死事件は全米に抗議デモを巻き起こし、一時は、トランプ米大統領が軍の出動を表明する事態となりました。同抗議活動の暴徒化した原因として、過激派による煽動が指摘されていますが、その後の展開を見ますと、アメリカは極めて危うい状況に直面しているように思えます。

 その理由は、コロンビア特別区、即ち、ワシントンD.C.の通りの一部が、同事件に因んで‘ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)広場’に改名されたと報じられているからです。しかも、改名されたのは、アメリカ合衆国の大統領府であるホワイトハウスに面する通りというのですから(ペンシルバニア通り?)、否が応でも人々の関心を呼びます。日本国内でも、どちらかと申しますと、アメリカの‘抵抗の正義’を象徴するかのように報じられているのですが、この措置には‘美談’では済まされない‘危険な何か’が感じられるのです。

 それでは、通りの改名は、どのような手続きを経て実現したのでしょうか。現在のワシントンD.C.の市長は、2015年からミューリエル・バウザー氏が務めています。バウザー市長は民主党の政治家であり、1991年から1995年に市長職をあったシャーロン・プラット氏に次いで2番目の黒人系女性市長としても知られています。事件発生から僅か数日にして通りの名称が変わるという迅速さからしますと、おそらく、その背景にはバウザー市長の決断があったことは容易に想像がつきます。

構図からしますと、黒人系の市長が自らとアイデンティティーを同じくする黒人男性の死を悼んで通りの名称を独断で変えたことになるのですが、一般市民からの積極的な支持や要請があったのかどうかは不明です(あるいは、事後的であれ、区議会等の承認を得るのでしょうか…)。同通りの標識は、既に市長の命によって新しい名称に替えられており、車道には一面、同スローガンが黄色いペンキで描かれているそうです。市長が通りの名称を一夜にして変更し得る権限を持つとしますと、今後、何らかの政治的な事件や出来事が発生する度、あるいは、市長の任期終了を以って道路標識が頻繁に取り替えられ、一般の市民の人々が同一の通りとして認識できず、混乱が生じる可能性も否定はできません。

 バウザー市長は、通りの改名に先立って国防総省が派遣した1600人の陸軍兵士の撤退をも要請しており、トランプ政権との対立姿勢を強めてきてもいました。民主党の政治的な立場からしますと、暴動に発展したとはいえ、市民の抗議活動に対する‘軍の介入は許せない’ということなのでしょうが、バウザー市長の自らの出身母体である黒人コミュニティーへの過度な肩入れは、アメリカの統合の危機をむしろ際立たせています。

おそらく、同市長のいささか過激な行動も、アメリカ大統領選挙を意識したパフォーマンスなのでしょう。トランプ大統領に対しましては、アメリカの分断を煽っている、あるいは、人種間対立を政治利用している、とする批判もあるのですが、亡くなった黒人男性に哀悼の意を表するまでは理解の範囲に入るものの、バウザー市長の独断的な街路の名称の変更も、政治的対立が人種間対立と結びつくという意味においても、同程度に問題含みです。そして、その背後には、アメリカを弱体化したい何らかの政治勢力の思惑が潜んでいるようにも思えるのです。

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アメリカの暴動と香港問題の比較―民主主義とは集団的自己決定

2020-06-03 10:59:46 | アメリカ

 人種間対立を背景にアメリカで発生した暴動は、新型コロナウイルスのパンデミック化や香港問題で国際社会から厳しい批判を受ける北京政府にとりましては、民主主義国家の優位性を否定する絶好のチャンスとして利用したいところであったのかもしれません。しかしながら、昨日の記事において指摘しましたように、国内的な社会統合の問題であるアメリカの暴動と自治の枠組みの破壊を目論む香港問題とでは本質的な違いがあります。前者は多数決を旨とする民主的な制度では解決しない性質の事柄ですので、‘民主主義が機能しない’とする中国側の批判は当たらないのです。

 そして、この両者の比較は、民主主義というものの別の側面をも浮かび上がらせてきます。民主主義とは、‘自らの集団に関する事柄はその構成員で決める’とする、集団としての自己決定を本源的な価値とする言葉です(個人レベルでも自己決定の尊重は人としての本源的な価値を認めることを意味する…)。このため、国内政治にあっては、普通選挙を初め、様々な民主的な制度を介して国民は統治に参加しています。これまで国民投票、リコール、イニシャチブ、陪審制や裁判員制度など、様々な民主的制度が考案されてきており、その導入度が高いほど民主主義のレベルも高いと評されてきたのです。

 しかしながら、民主主義はオールマイティーではなく、今般のアメリカの暴動のような国民の間に存在する下部集団の間での対立を解決する手段としては限界があります。現行の制度では、民主的制度は‘多数決’を決定原則としますので、国家として一つしか選べない事項を選択する場合には、常にマジョリティーが有利となるからです。

 もっとも、対立が‘相互破壊’に向かうほど激化する場合、それを避ける方法が全くないわけではありません。その一つは、統合の枠組みを敢えて‘緩める’という方法です。つまり、反目しあう下部集団のそれぞれにより強い自己決定権を与えるのです。例えば、今般のアメリカの暴動の発端は、白人警察官が黒人男性を逮捕しようとした際に発生しています。現状のままでは、今後ともこうしたケースが頻発するでしょうから、黒人容疑者の逮捕は黒人警察官に任せるという方法です。あるいは、黒人居住地区の治安維持の権限を同コミュニティーに委託するという方法もありましょう。黒人コミュニティーは治安維持の権限を得るのですが、その一方で、同コニュニティーの安全を護る責任を負うことにもなるのです。

ただし、治安維持の権限のみの移譲では、経済的な格差や社会的な差別等の根本的な解消には繋がらない、あるいは助長するとする批判もありましょう。アメリカの場合、黒人の人々は、先祖が奴隷商人の手によってアフリカから奴隷として連れてこられた歴史がありますので、合衆国内に黒人の人々のみが特定の地域に国境線を引いて‘独立する’ことは殆ど不可能です(また、この方法ですと、本来の目的とは逆に人種隔離政策にも見えてしまう)。この歴史的な側面が、アメリカにあって人種問題の解決が難しい理由でもあるのですが、少なくとも、黒人コミュニティーにあって自治の精神を培う機会を得れば、暴動といった無責任な行動をある程度は抑えるはできるかもしれません。

もちろん、先ずは、黒人容疑者を死に至らしめるような警察による乱暴な逮捕の方法は改め、法の前の平等を徹底すべきでしょうし、さらに踏み込んで、アファーマティヴ・アクションを強化する、逮捕要件の緩和や裁判での酌量余地を広げる、あるいは、黒人層への社会保障向け予算の配分比率を高めといった、優遇的な方法もあるかもしれません。しかしながら、後者の方法では、法の前の平等の原則を崩し、逆差別が発生すると共に、白人層の不満を高め、人種間対立をさらに深めるリスクもあります(オバマ政権下における黒人優遇政策が人種間対立を深めてしまった前例がある…)。

その一方で、民主主義の価値が集団的な自己決定にあるとしますと、中国において発生している重大問題の多くは、‘民主的な手段’によって容易に解決することができます。香港の人々が政治的な集団としての自己決定権を行使すれば、完全なる独立さえ夢ではありません。チベット人、並びに、ウイグル人も同様に、‘国民投票’によって自発的にその意思を表明する機会があれば、中国からの独立を躊躇なく選択することでしょう。また、台湾についても、中国は、最早、その併合を主張し得なくなるのです。因みに、国際社会では政治的集団の自己決定の権利を民族自決権と呼び、国家の独立を支える原則として認めています。

以上にアメリカと中国のそれぞれの問題を比べてみましたが、この比較からアメリカの抱える問題の方が後者よりも解決がより困難であることが分かります。それ故に、同問題はアメリカの弱点ともなるのであり、社会統合、あるいは、国民統合の脆弱性こそが、米中対立の最中にあって、中国が同問題を対米戦略に利用しようとした理由とも憶測されます。そして同時に、他国の支配をよしとする帝国志向の中国が、民主主義、否、それに内在する集団的な自己決定の権利をあくまでも拒絶しようとする理由も見えてくるように思えるのです。

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トランプ大統領の不正投票発言とIT大手の問題

2020-05-28 12:35:09 | アメリカ

 アメリカでは、目下、激しい大統領選挙戦が戦われています。二期目を目指す現職のトランプ大統領に対して、民主党の候補者はバイデン元副大統領に絞られてきた模様です。両陣営間の舌戦も激しさを増しているのですが、こうした中、トランプ大統領のツウィートが物議をかもしていると伝わります。

 それでは、トランプ大統領は、ツイッターにどのような‘つぶやき’を投稿したのでしょうか。それは、「投票用紙は偽造され、違法に印刷され、不正に書き込まれる」というものです。実のところ、民主党陣営に対する不正投票疑惑は今に始まったことではなく、前回の大統領選挙にあっても囁かれていました。アメリカでは、しばしば票の数え直しが行われるのも、有権者の多くが選挙結果を疑うからなのでしょう。民主主義国家は、選挙制度によって支えられていますので、選挙結果に不正があれば、権力の正当性は失われるのです。

 トランプ大統領は、不正選挙を疑う多くの国民の懐疑心に訴えたとも言えるのですが、ここで問題となるのは、同発言によって指摘された内容が事実であるのか、否か、という点です。大統領職とは、機密情報を含めてあらゆる情報が集まる、いわば情報の中枢ですので、同発言内容が事実である可能性は相当に高いとは言えましょう。しかしながら、国民の多くは、事実であるかどうか確かめるすべがありません。また、事実であることが確認されますと選挙不正を働いてきた張本人ともなるのですから、民主党陣営にとりましては極めて不都合な発言となりましょう。

 真偽不明の発言ではあったのですが、ここで、すかさず介入を見せたのがツイッター社です。同社は、トランプ大統領の投稿に「事実を知ろう」という警告文を表示し、利用者に対して同発言が‘フェイク’である可能性を示唆し、その信憑性について注意を促したのです。確かに、トランプ大統領は証拠を提示しているわけではありませんので、同社が、鵜呑みにしないように訴えることは公平性や事実尊重の観点からして理解に難くはありません。しかしながら、ツイッター社の介入についても、問題がないわけではないように思えます。

第1に、トランプ大統領が常々批判してきたように、同社が民主党寄りのスタンスにあるならば、それは、特定の政治的信条に基づく‘政治介入’ということになりましょう。上述したように、トランプ大統領の発言は民主党にとりましては痛手となります。SNSは今や公共インフラ化している現実からしますと、同社による介入は公共空間の私物化ともなりかねないのです(情報インフラの私物化問題については詳しくは後日に…)。

第2の問題点は、フェイクニュースが問題視されている今日にあっては、SNSの利用者の大半は、フェイク、あるいは、真偽不明の情報や憶測が混じっていることを理解した上で、政治家の発言を受け止めていることです。過去の政治家の発言を具にチェックをしてみれば、その全てが事実や現実に合致しているわけではありません。況してや、同大統領の発言をよく読みますと、過去形ではなく、未来形(will)で書かれています。つまり、大統領としては、今年11月に予定されている大統領選挙に際して郵便投票の導入が拡大すれば不正選挙が行われるリスクが高まることを、国民に伝えようとしたとも解されるのです(もちろん、過去の事実に基づく予測かもしれませんが…)。同発言が未来に向けられていたとしますと、ツイッター社の警告は過剰反応ということになり、政治的な意図がなおさら強く疑われることとなるのです。

第3に指摘すべきは、事実を知るように訴えたものの、国民の信頼に足るほどツイッター社自身が真に事実を重視しているのか、疑わしい点です。ツイッター社のみならず、IT大手による集計にはその誕生の時から操作が加えられているとする指摘があります。SNS、ブログ、YouTube等のアクセス数、訪問者数、閲覧者数、視聴回数、ランキングなどの数字は、時にして不自然な動きを見せます(かく言う私も、あり得ない数字に遭遇…)。IT大手は、日々、運営者側が集計数を操作できる事例を自ら人々に知らしめているのですから、‘不正選挙など絶対にない’と言い切れる立場にはないはずなのです。

第4に、同社が事実を知ろうと訴えるならば、その具体的な手段をも提示すべきとも言えましょう。自らにとりまして不都合な情報に対しては、‘それは虚偽である’とする反論の仕方は、どこか、中国の手法を彷彿とさせます。中立・公平な機関による厳正な調査が実施されれば、トランプ大統領の発言こそ、事実であることが証明されるかもしれません。

以上に述べてきましたように、今般の一件では、ツイッター社の対応にも問題がありそうです。そして、この問題は、IT大手が本来自由であるべき言論空間への介入を強めてきたという民主主義国家が直面している、今日的な危機をも表しているように思えるのです。

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香港人権民主主義法はアメリカの妙手

2019-11-29 10:59:07 | アメリカ
 アメリカでは、議会両院での可決の後、トランプ大統領が速やかに署名を済ませ、香港人権民主主義法が成立しました。共和・民主の与野党とも同法案に対する立場に違いはなく、議会での採決に際しては上下両院共に凡そ全会一致で可決したのです。同法をめぐる政界の動きは、中国の暴力主義的な弾圧姿勢に対して批判的なアメリカ国民の世論をも強く反映させているのでしょう。大統領から一般市民に至るまで同法を支持するアメリカを前にして、中国側は、同法案の成立を内政干渉として報復を示唆しています。しかしながら、アメリカに打撃を与えるような具体的な報復策が存在するわけでもなく、中国側が窮地に陥っているのが実情のようです。

同法を機に米中交渉が決裂して困るのは、凡そ全ての中国製品に高率の関税が課される中国側です。トランプ大統領としても、人権や民主主義といった価値観の問題に敏感なアメリカ国民の世論が大きく反中に強く傾く中、何としても中国との合意を成立させる必要性は薄れてきています。中西部の農業地帯が同大統領の支持基盤であるたとえ、中国への大豆輸出がご破算になったとしても、健康食品としての大豆需要の世界的な高まりからすれば、代替輸出先を見つけることは不可能ではありません。また、部分合意であれ、米中交渉がたとえ成立したとしても、これを以って同法が廃止されたり、無効化される可能性はなく、中国を取り巻く状況が好転するはずもないのです。つまり、中国は、米中交渉を‘報復手段’として用いることはできないのです。

報復どころか、何よりも中国が恐れているのは、同法案に含まれている内容を一般の中国国民が知ってしまうことではないかと思うのです。何故、国民が知ることが脅威となるのかと申しますと、それは、香港を介して本土の共産党幹部や政府高官、そして、富裕層が、アメリカに秘かに資産や家族を移してきた実態が明らかとなるからです。同法には、香港において人権侵害等に加担した中国政府、並びに、香港政府の人物に対する制裁措置として、資産凍結や入国禁止等の制裁を定めています。同条項が最も効果的であるとも評されていますが、この条項は、国民に対しては共産主義者として清廉潔白なポーズを取り、‘虎もハエも叩く’をスローガンに腐敗撲滅に積極的に取り組みながら、その実、‘敵国’であるはずのアメリカに‘逃亡先’を準備してきた中国の特権階級の存在を浮き上がらせています。つまり、同条項の存在自体が、中国の共産党一党独裁体制の実態を暴露しているのです。

中国本土では、目下、政府当局が全国民を完全監視体制の下に置き、ネット情報をも徹底的に統制していますが、海外諸国にまでは同統制は及びません。実際に、日本国内での中国人居住者の数は200万人を越え、中国人訪日客も2018年には800万人を突破しています。日本一国だけでこの数ですから、アメリカをはじめ全世界には相当数の海外在住の中国人がいます。国内にあっては完璧な情報統制を実施していても、こうした人々は、自由に情報を入手できますので、中国本土の一般国民の間でも、情報が当局に筒抜けとなるスマートフォンやネットの使用を回避すれば、やがては口コミによって同法の内容が伝わることでしょう。

今後、中国は、国民の愛国心を煽り、アメリカを‘敵国’とすることで国内の体制を引き締めようとすることでしょう。しかしながら、‘外部に敵を造る’という使い古された同手法は、国民の現体制に対する不信感の高まりにより足元から崩れるかもしれません。この意味において、香港人権民主主義法の制定は、アメリカの妙手であったと思うのです。

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北朝鮮の「新兵器」実験米容認論は何を語るのか?

2019-08-12 13:36:09 | アメリカ
北朝鮮の朝鮮中央通信は、今月10日に日本海に向けて発射された新型のミサイル実験について‘トランプ米大統領は容認している’との同国外務省のクォン・ジョングン北米局長の見解を報じたそうです。この指摘が事実であれば、アメリカは、同ミサイルの射程距離に入る日本国、並びに、韓国の安全保障を軽視していることとなりますので、マスメディアでは、同発言は日米韓三国の結束に楔を打つための離反作戦の一環とする見方が有力です。

 確かに、先日、トランプ大統領は北朝鮮の短距離ミサイルの実験を取り上げて大陸間弾道ミサイルではないために問題視しない旨の発言をしておりますので、あるいは、この言葉を受けての見解であるかもしれません。実際、日本国内ではトランプ大統領の発言を不安視する声も聞かれましたので、米朝関係の緊密さの内外へのアピールは、北朝鮮にとりましてはアメリカの同盟国に対して揺さぶりをかける効果が期待できます。

 もっとも、ここで生じる素朴な疑問とは、北朝鮮はアメリカとは関係改善を目指してはいても、何故、アメリカの同盟国との関係改善には不熱心であるのか、という点です。仮に、真に東アジアの平和を求めるならば、アメリカのみならず、同国の同盟国である日本国や韓国に対しても同様に友好的な態度をとるはずです。否、離反作戦に訴えるよりも、本丸であるアメリカよりも先に同盟国から徐々に懐柔して行くという選択肢もあったはずです。ところが、北朝鮮は、敢えて短・中距離ミサイルの実験を以ってアメリカの同盟国を武力で威嚇しています。米容認を唱える北朝鮮の目的が日米韓三国の離反であるならば、アメリカだけを関係改善のターゲットにして一本釣りしていることとなり、極めて不自然で非合理的な行動なのです。

このように、北朝鮮の態度には看過できない不審な点がありますので、今般の北朝鮮による容認論は一種の偽旗作戦であり可能性も否定はできないように思えます。つまり、味方のふりをしてアメリカのみを引き寄せて懐柔し、言葉巧みに朝鮮半島から米軍を撤退させ、武力であれ、平和的手段であれ、北朝鮮主導で朝鮮半島を統一することこそが(その先には在日米軍の撤退も…)、長期的な戦略上の目的であるかもしれないのです。米軍撤退が実現するにせよ、しないにせよ、周辺諸国を制圧するためには‘敵’のままである方が好都合であると考えたのかもしれません。そしてそれは、北朝鮮のみならず、その背後で同国を操つる中国やロシア、あるいは、国際勢力にとりましても、自陣営の軍事的優位を確立するためには望ましいシナリオなのでしょう。

 それでは、アメリカは、北朝鮮から送られてくる秋波に対してどのように対応するのでしょうか。つい数か月ほど前には、トランプ大統領は、米朝首脳会談の実現によって北朝鮮のミサイル実験が抑制されたことを取り上げ、日本国に対してもその安全が高まったとして評価していました。東アジアにおける緊張緩和への貢献を自らの外交成果として強調していたのですが、アメリカと北朝鮮との和解が、同盟国、特に、日本国がより迎撃困難な新型中・短距離ミサイルの攻撃対象として残されるとするならば(文政権の韓国は既に北朝鮮と一体化…)、北朝鮮による東アジアにおける軍事的脅威は格段に高まります。つまり、米朝間にあって朝鮮戦争が平和的に‘終結’されるとしても、従来のアメリカの同盟関係は消滅しかねず、中ロ陣営による侵略、あるいは、さらに広域的な戦争さえ招きかねないのです。これでは、平和の実現という観点から見れば本末転倒となるのですが、アメリカは、北朝鮮が長距離弾道弾ミサイルを開発せず、自国の安全さえ保障されていれば、アジアから撤退するのでしょか。

 北朝鮮の容認論に対して、今後、アメリカが、どのように対応するのか注目される所です。騙されるのか、騙されたふりをするのか、あるいは、拒絶するのでしょうか。もっとも、日米両国ともに北朝鮮の短距離ミサイルの発射実験を容認するとすれば、それは、北朝鮮のミサイルの照準が日本国に向いていると見せかけながらその実中ロに合わせている場合に限られるのですが、関ヶ原の決戦の際の小早川のように、それでも北朝鮮のような何時寝返るか分からない国を最前線に配置する作戦は、リスクに満ちているように思えるのです。

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トランプ大統領の日米安保破棄発言の背景とは?

2019-06-25 19:38:13 | アメリカ

米ブルームバーク通信社の報じるところによりますと、アメリカのトランプ大統領は、私的な会話の中でではあれ、日米安保条約の破棄に言及したそうです。日本国の菅官房長官はこの発言を否定しておりますが、真相はまたしても藪の中です。

 同大統領は、安保破棄の理由として同条約の内容がアメリカ側のみが日本国の防衛に責任を負う片務条約である点を挙げております。この主張、大統領選挙戦以来のトランプ大統領の持論であり、特別に目新しいわけではありません。仮に、国賓待遇での訪日、並びに、その後の日本国政府の政策に対する不満、あるいは、失望から安保破棄を言い出したとしますと、それは一大事と云うことになりましょう(もっとも、トランプ大統領の帰国後、日本国政府の外交方針は、親中・親ロにいささか傾斜していた…)。しかしながら、従来の見解の繰り返しであるならば、最近の出来事とはいえ、同大統領が親しい知人との歓談の場でこうした発言をしても不思議ではないのです。二期目を目指して大統領選挙に臨むトランプ大統領は、前回の大統領選挙におけるスローガンを口にしたのかもしれません。

 となりますと、トランプ大統領の発言において考えてみるべきは、何故、今の時期に日米安保条約の破棄の可能性がメディアを介して報じられたのか、ということです。‘複数の関係者の話’としておりますので、おそらく個人、あるいは、民間団体主催のパーティーや支持者との懇談会といった相当数の人々が集まる会でのことであったのでしょう。こうした比較的開かれた場であるならば、大統領の発言を拾ってメディアに流す人物が存在していても不思議ではありません。そして、その‘密告者’は、日米離反を望んでいたのかもしれないのです。 

 このように考えますと、日米安保条約の存在が疎ましい中国、ロシア、イラン等の諸国の関係者が推測されるのですが、あるいは、これらの諸国に影響力を有する国際組織による情報提供であるかもしれません。トランプ大統領の日米安保破棄発言については、その背景こそ、追求してみるべきではないかと思うのです。

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イスラエルはゴラン高原を購入しては?-アメリカの主権承認問題

2019-03-29 14:02:49 | アメリカ
ゴラン高原問題で米孤立=イスラエル主権承認「決議違反」―安保理
紀元1世紀のディアスポラ以来、流浪の民とされたユダヤ人は、クルド人やチベット人、そして、祖国を持つことができない他のあらゆる民族よりも遥かに幸運な人々です。1948年5月14日、シオニズム運動が実って遂に中東の地にユダヤ人の国家であるイスラエルを建国することができたのですから。

 それでは、凡そ2000年の時を経て、どのようにして中東の地にイスラエルは建国されたのでしょうか。イギリス政府の‘二枚舌外交’どころか‘三枚舌外交’が中東問題を拗らせた原因とされていますが、同問題の解決に当たって主要な役割を果たしたのは国連です(イギリス政府内部の分裂状態に起因しているとも…)。トルコ帝国の解体過程にあって同地を委任統治領として管理していたイギリス政府は、第二次世界大戦後に至り、その解決を国連に委ねたからです。かくして、国連総会における分離案の採択を以って、イスラエルの国名はユダヤ人国家として再び歴史にその名を記すこととなったのです。

 イスラエル建国に際して重要な点は、この時、同国と周辺諸国とを隔てる国境線が引かれていることです。言い換えますと、イスラエルの領域は建国と同時に法的に確定されたのであり、イスラエルに対する国家承認は同国の領域の承認でもありました。このため、イスラエルには、国連が定めた自国の国境線を維持する国際的な義務があり、本来、武力による変更は許されないはずでした。ところが、イスラエルは、国境を越えてパレスチナ側に入植地を拡げるのみならず、第3次中東戦争の最中に軍事力を以ってシリア領であったゴラン高原を占領したのであり、いわば、国際法にも国連憲章が定める規範にも反した行動をとったのです。

 この点に鑑みますと、今般、アメリカのトランプ政権がゴラン高原の主権をイスラエルに認めたことは、国際法上の違法行為の追認となりますので、国際法秩序にとりましては極めて危険な行為と言わざるを得ません。仮に、大国による主権承認を以って領有権が確立されるならば、他の諸国もこれを模倣する可能性があるからです。既にロシアはクルミアを一方的に併合していますが、軍事大国を自負する中国もまた、軍事力で占領した土地の‘自己承認’を以ってその領有の正当性を主張することでしょう。否、地球上の全ての国境線が流動化するといっても過言ではないのです。

 ここで考えるべきは、中東問題を国際法秩序を壊さずに平和裏に解決する方法です。中東とは、文明誕生の地であると共に、過去の歴史を遡りますと様々な国家が興亡を繰り返してきた紛争の地であります。また、長期に亘って奴隷制が敷かれていた歴史から人種や民族の混合も甚だしく、歴史的定住の事実に基づき、一民族一国家を原則として国境線を引くことが極めて難しい地域でもあるのです。このため、必ずしも1948年に国連が人工的に引いた国境線が‘適切’であるとは限らず、仮にイスラエルがこれに不満であるならば、武力に訴えるのではなく、国際法において認められた正当なる手続きを経て相手国との合意を模索すべきが筋となります。

 この観点からすれば、最初に試みるべき方法は、周辺諸国との領土をめぐる再交渉です。相手国側は自らの領地を無償で割譲する案には合意しないでしょうから、仮にゴラン高原の領有権を確立したいならば、イスラエルもまた、シリア側に何らかの‘見返り’を提供する必要があります。喩えは、同程度の面積をシリア側に割譲するのも一案ですが、最もユダヤ人らしいのは、‘お金による解決’なのではないでしょうか。ユダヤ人は拝金主義者として知られており、‘お金’があれば何でもできると信じているとされます。人の心までも買うことができると言い放つ傲慢さが批判の的となっていますが、ここはユダヤ人らしく、シリアに対して多額の購入費の支払いをもってゴラン高原の主権を譲ってもらうべきなのではないかと思うのです(ユダヤ人であれば、全世界の富豪から寄付を募ることもできる…)。この方法は、パレスチナとの間の入植地問題にも適用することができます。

アメリカによるアラスカ州のロシアからの購入のように、領土の売買は過去に前例がないわけではありません。ディーリングに長けたトランプ大統領がイスラエルと関係国との間の誠実なる仲介者の役を務めれば、同大統領は、中東に平和をもたらした偉大な政治家として後世に名を残すことにもなりましょう。シリアは内戦のただ中にあるため、実現性の乏しい案ではありますが、法に則った解決策もないわけではない、とする認識が生まれれば、中東問題も自ずと平和的解決の道が開かれるのではないかと思うのです。

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米韓軍事演習縮小は‘韓国抜きの武力行使’への準備?

2019-03-09 13:15:31 | アメリカ
昨年、第一回米朝首脳会談で両国首脳が直接に顔を合わせて以来、アメリカ側は、軍事面においても北朝鮮に配慮する動きを見せてきました。1976年以来、毎年春に慣例の如くに実施されてきた韓国軍との大規模軍事演習についても、今年はその実施を見送っています。

 もっとも、米韓軍事演習が完全に廃止されたわけではなく、規模を縮小した形で実施されているため、自らの核・ミサイル開発の継続を棚に上げて、北朝鮮は、軍事的緊張緩和を明記した「南北共同宣言」に違反するとして過剰な反応を見せています。一方、トランプ大統領も、「南北共同宣言」を根拠とした措置というよりも経費面での‘節約’を強調しており、かねてからの持論であった米軍の負担軽減の一環として説明しています。アメリカ側は、やんわりと対北配慮説を否定しているのですが、米韓軍事演習の縮小には、もう一つの可能性が潜んでいるように思えます。

 もう一つの可能性とは、近い将来、仮に朝鮮戦争が再開される、あるいは、米軍による対北軍事制裁が行われる場合、アメリカは、米韓同盟に基づく韓国軍との共同防衛ではなく、米軍による単独行動、もしくは、有志連合による行動を準備していると言うものです。韓国の文在寅大統領の北朝鮮への傾斜は著しく、第2回米朝首脳会談の事実上の‘決裂’の背景にも、両首脳間の仲介役を務めた同大統領が、合意を急ぐあまりにトランプ大統領を言葉巧みに騙したのではないか、とする疑いがあります。

日韓関係を見ましても、対北朝鮮、さらにその先の対中国を睨めば日米韓の三国による軍事協力関係の維持は望ましいにも拘わらず、文政権は、慰安婦合意の事実上の破棄や日韓請求権協定に反する‘徴用工判決’など、日韓間の関係も修復不可能なレベルにまで破壊を進めています。昨年末に起きた韓国海軍駆逐艦による自衛隊哨戒機レーダー照射事件も、韓国側が見え透いた嘘を吐いてまで事実を認めない背景には、対北協力の実態を隠す目的があったとも指摘されており、南北両国は、トップレベルでは既に一体化されている様子が窺えるのです。

 こうした朝鮮半島両国の現状を冷静に分析すれば、アメリカは、有事に際して韓国を信頼するリスクについて真剣に検討せざるを得なくなるはずです。特に味方の‘寝返り’は戦局を逆転させるほどの危険性がありますので、アメリカが、事前にリスク排除に動いても不思議ではありません(有事に際して同盟軍としての韓国軍の戦力に期待できないならば、軍事演習に費やされる国費は全くの無駄に…)。むしろ、純粋に軍事的な観点から見れば至極当然の判断であり、かくも他国や国際社会からの信頼を失う行為を繰り返しながら、米韓同盟や日韓友好を維持できると考えている韓国の方が、余程、事態の深刻さを理解していないとしか言いようがないのです(もちろん、‘確信犯’かもしれませんが…)。

 このように考えますと、第2回米朝首脳会談における米朝間の‘決裂’は、同時に米韓間の‘決裂’でもあったのかもしれません。アメリカは、もはや、有事にあって韓国軍とは共に闘うことはできないと判断している可能性は否定できないのです。そして、仮に、アメリカが韓国不要論に傾いているとしますと、在韓米軍の撤退は必ずしも米朝間の‘平和’を意味せず、対北、並びに、対中包囲網の再編成プロセスの一環となるかもしれません。日本国政府も、急激に変化しつつある東アジア、そして、国際情勢に的確に対応すべく、同盟国であるアメリカとの軍事面での協議を急ぐべきではないかと思うのです。

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米議会は日韓に国際司法解決を提言すべきでは?

2019-02-15 11:49:20 | アメリカ
米議会超党派、日韓関係改善求める 7議員が決議案提出
昨年の所謂‘徴用工判決’や海上自衛隊哨戒機に対するレーダー照射事件に続き、先日の韓国国会議長による天皇謝罪要求や差し押さえ資産の売却方針など、日韓関係は、昨年末から悪化の一途を辿っております。日韓両国の同盟国であるアメリカとしては、第2回米朝首脳会談を控えて交渉の足場を固めるためにも、何としても日韓対立は沈静化したいところなのでしょう。

こうした背景もあって、今月12日、米連邦議会の超党派議連は、日韓両国に関係改善を求める決議案を提出したそうです。同提案は、審議を経て可決される見通しですが、過去の経緯からしますと、具体的な解決策を提示しない決議案は、些か無責任なようにも思えます。

アメリカとしては、どちらか一方の肩を持つような提案をすれば、もう一方の軽視された側の国からの激しい反発を招き、さらに事態を拗らせると考えたのでしょう。日韓関係の改善を求める以上、余計な口出しをせずに両国に対して中立的な立場を維持した方が、少なくともアメリカに対する両国の信頼は失わずに済みます。しかしながら、日韓関係の対立の根本的な原因が韓国側の‘無法傾向’にある点を考慮しますと、解決策に関するアメリカの沈黙は、両国の関係改善を帰結するどころか、国際社会における法の支配さえ危うくするリスクがあります。

時代状況に違いはあるものの、今日の日韓関係の構図に近い状態が、実は、1950年代に起きています。当時、朝鮮半島では朝鮮戦争が闘われており、‘国連軍’を率いるアメリカは、韓国防衛のために北朝鮮・中国軍と干戈を交えると同時に、日本国の防衛と安全保障に対する責任をも負っておりました(朝鮮戦争では、少なくない日本人も米軍に協力している…)。ところが、当の韓国は、この間、日本国領の竹島を不法に占領し、これを機に日韓関係は一気に悪化するのです。

この時、日韓両国の板挟みとなったアメリカは、竹島を囲い込むように海上に引かれた李承晩ラインを国際法違反と批判すると共に、同問題の解決策として、国際司法裁判所での司法解決を提案しています。北朝鮮による侵略を阻止すべく韓国軍と共に闘っていたアメリカは、皮肉なことに韓国による対日侵略に対しては武力で排除することは能はず、平和的な解決手段として、領有の法的な正当性をめぐる法律問題として国際司法裁判所(ICJ)による司法解決を求めたのです。

アメリカの提案は、日本国側が受け入れるところとなり、日本国政府は韓国政府に対してICJへの共同提訴を持ちかけますが、韓国側の拒絶によりこの案による解決は実現をみることなく今日に至っています。ただし、当時のアメリカは、竹島問題を両国間による軍事的解決、あるいは、政治的妥協に任せるのではなく、国際社会の問題として国際法に基づく解決を求めた点において筋を通していたことになります。たとえ、韓国側がその無法傾向から拒絶したとしても、ICJを始めとした国際司法機関による解決こそ、多くの諸国、そして、人々が納得する最も中立的で公平な解決方法なのですから。

アメリカは、韓国との軍事同盟に配慮するばかりに法の支配の原則からの同国の逸脱を許してはならず、たとえ実現を見ない、即ち、韓国側が無視したとしても、それでもなお竹島問題の発生時と同様に、日韓に横たわる様々な問題に対して司法解決を提案すべきなのではないでしょうか。より高次の視点から見れば、たとえ韓国側が、今回も拒否したとしても、国際司法解決の提案こそ(徴用工判決の場合は、先ずは、日韓請求権協定に定められた仲裁…)、アメリカが日韓両国に対して中立・公平であり、かつ、法の支配の原則を遵守する大国の証となるのではないかと思うのです。

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中間選挙結果は米国民のバランス感覚か

2018-11-08 14:02:33 | アメリカ
トランプ大統領「上院勝利は歴史的快挙」民主党に連携呼びかけ
昨日、11月18日、全世界の注目を集める中、米議会上下両院の議員を選出する中間選挙が行われました。開票結果を見ますと、上院は共和党、下院は民主党が過半数を制し、少なくとも今後2年間は、両院間のみならず、大統領と下院との間にも‘捩じれ状態’が続くこととなります。

 同選挙結果に関しては、共和党が下院で多数派の地位を失ったにも拘らず、トランプ大統領が‘大成功であった’とツウィートする一方で、熱心な民主党支持者や伝統的に民主党を支持してきたマスメディアも、手放しで勝利の美酒に酔いしれているようにも見えません。また、選挙結果に対する街頭インタヴューでは、民主党に対する積極的な支持というよりも、‘下院での民主党勝利の結果は、米市民のバランス感覚の結果では…’とする意見も少なくないのです。

 バランス感覚論とは、アメリカ政治において共和党が大統領、上院、下院の何れの統治機関をも単独で独占すると権力の暴走が起きやすくなるので、安全装置としての制御作用を働かせるために、下院は民主党優位の状態に敢えてバランスをとったというものです。アメリカの統治制度は、建国以来、相互制御の仕組み=チェック・アンド・バランスを組み込んで設計されていますので、今般の選挙は、米国民の多くがこの仕組みを利用したことになります。おそらく、上院選挙では共和党の候補者に一票を投じる一方で、下院選挙では民主党候補者を選択した有権者も少なくなかったことでしょう。

 第2に、バランス面から今般の選挙で注目される点は、女性議員数の急増です。民主党の当選者の中には、史上最年少にして中南米出身の女性やイスラム教徒の女性が当選を果たしており、いかにも多様性を志向する民主党好みの展開も見られました。その一方で、女性議員の増加は、今回の選挙結果が、マスメディアを始めとした伝統的な民主党支持層から歓迎を受けない理由の一つでもあるように思われます。何故ならば、女性は一般的に治安を重視する傾向にありますので、共和党であれ、民主党であれ、女性議員たちが、ホンジュラス等から押し寄せる大規模移民集団を無条件で受け入れるよう主張するとは思えないのです。つまり、民主党から選出された女性議員たちは、移民・難民政策に関しては、同じく民主党選出の男性議員たちよりも寛容ではないかもしれず、むしろ共和党と協力する可能性もあるのです。

また、当選した民主党女性議員の全員がマイノリティー出身者というわけではなく、白人系の女性達も少なくありません。ここに第3のバランス感覚が働いたとすれば、前回、共和党に投票した有権者も、民主党内の無制限の移民の容認などの極端で破壊的でもある政策を制御するために、あえて民主党の白人系女性候補者に投票したのかもしれません。テキサス州上院選での共和党現職のテッド・クルーズ氏の、オバマ前大統領の再来との呼び声の高かったベト・オルーク民主党候補者を破っての勝利は、民主党の男性議員にとっては不利な選挙戦であったことを示唆しています。つまり、共和党に対する外部からの制御と同時に、民主党に対する内部からの制御の働きをこれらの女性議員に期待したのかもしれません。いわば、二重の意味でバランスをとったとする見方もできるのです。

そして、第4のバランスとして指摘し得る点は、外政と内政との一種の‘棲み分け’です。アメリカの有権者は、対外政策に関する権限を有する大統領や上院に関しては、よりタカ派のポジションにある共和党に任せ、より全体に対するきめ細かな気配りや弱者への配慮を要する内政部門に関しては、民主党に期待したのかもしれません。もっとも、リベラルなグローバル志向の強い民主党が必ずしも米国民に‘やさしい’とは限らず、自国民軽視が前回の選挙戦での敗北の原因でもありました。

今般の選挙では1億人を越える米国民が投票所に足を運び、アメリカの政治史上、空前の選挙ともなりました。上記の分析が正しければ、国民の政治への関心の高まりは、バランス重視の方向へとアメリカ政治を導いたこととなります。とは申しますものの、バランスに配慮したつもりが制御作用のみが強まりますと、相互にデッドロック状態となり、統治機能が機能不全に陥るリスクもあります。中間選挙後のアメリカ政治の行方については、もうしばらく、慎重に様子を見てゆく必要があるように思えるのです。

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中国による米選挙介入問題-日本国はさらに危ない

2018-09-27 13:51:40 | アメリカ
「中国が米中間選挙への介入画策」、トランプ大統領が安保理で非難
 アメリカのトランプ大統領は、国連安保理の席上で、終に中国による米選挙への介入を批判するに至りました。取り上げられたのは11月の中間選挙における介入画策ですが、中国による他国に対する政治介入は、今に始まったことではありません。

 他国による政治介入については、マスメディアがロシア疑惑を大々的に報じたため、人々の批判の矛先はロシアに向かいがちです。しかしながら、政治介入のルートの数、米政界へのアクセスの容易さ、利用し得る世論操作の手段等に照らしてみますと、政治介入リスクは、中国の方がロシアを遥かに上回ります。トランプ大統領の対中批判は、むしろ遅すぎるくらいなのです。中国は、様々な政治介入の手段を用意しています。同国の道具箱を覘いてみますと、以下のような‘介入道具’が並んでいます。

 第1の‘道具’は、中国系アメリカ人です。サンフランシスコ市等には戦前から中華街があり、また、グローバル化の波に乗るかのように、80年代以降は中国から米国に移住するニューカマーの中国人も増加しました。米国内には、市民権の有無に拘わらず、多数の中国系米国人が居住しており、中には政治家、公務員、あるいは、ジャーナリストとして活躍している中国系アメリカ人も少なくありません。母国の共産党政権に反発して移住した中国人もいるのでしょうが、中国本土と親族等を介した何らかの華僑ネットワークを維持しているものと推測されます。

 第2の‘道具’は、中国共産党が築いてきた個人レベルでの対中協力者の人脈です。政治家としては共和党のヘンリー・キッシンジャー氏等が代表格となりますが、民主党内にも、親中派政治家は多数潜んでいます。ヒラリー・クリントン氏も然ることながら、バラク・オバマ前大統領も実弟の夫人が中国人ということもあり、中国にとりましてはアクセスしやすい位置にあります。政治家の他にも、フェイスブックのザッカーバーク氏など、夫人が中国人であることに加え習近平国家主席と人的に懇意にしている実業家も少なくありません。中国の親中派ネットワークは、社会的な影響力の強いアメリカ政界や財界等に深く根を張っているのです。

 第3の‘道具’として挙げられるのは、政党です。アメリカ民主党は、戦前より中国大陸における利権を介して中国国民党と密接な関係にありました。今日、国共内戦に勝利した共産党に権力が移りましたが、同党は、伝統的には親中派の立場にあります。今日の中国共産党にとりましても、民主党の親中シンパシーは利用価値があることでしょう。

 そして、特に中国がその対外政策上重要視しているのが、言わずもがな、米メディアです。ハリウッドの共産党の宣伝映画と見紛うほど作風の変化が既に問題視されているように、TVや新聞社をはじめ大量のチャイナ・マネーが流れ込んでいるのは周知の事実です。第4の‘道具’は親中メディアであり、これは、米国世論を誘導するための貴重な‘道具’です。

 加えて、中国国内における情報統制の強化に際し、技術面で協力関係にある情報通信大手も、中国にとりましては第5の‘道具’となり得ます。フェイスブック、ツイッター、グーグル等は、今や、私的な検閲権を有しているに等しいからです。これらの企業の協力を得ることができれば、米国内において中国に不都合な情報を隠蔽することも不可能ではありません。また、日本国の選挙集計で導入されている集計マシーンを遠隔操作する、といった高度なサイバー技術も開発しているかもしれません。

 以上に主要な中国の道具箱にある主要な品々を並べてみましたが、この他にも、この箱には、中国人留学生、提携教育機関・研究所、孔子学院、中国企業と取引のある米企業、さらには、米国内の中国企業等々、様々な‘道具’が詰まっています。これらの全てを総動員して駆使すれば、中国にとりまして他国の政治介入は容易いことです。そして、それは、アメリカのみが対象国ではありません。地理的に近く、近年、中国人移民が急増している日本国の方が、余程この危険性に晒されているとも言えます。現在、日本国には、自由民主党と公明党による連立政権が成立していますが、この二党の組み合わせは、中国発案とされる日本国の‘米中共同管理案’を思い起こさせ、不安が脳裏を過るのです。

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第2回米朝首脳会談はどちらのイニシャチヴか?

2018-09-11 13:05:14 | アメリカ
2度目の米朝会談提案=正恩氏、トランプ氏に書簡
今月10日、アメリカのサンダース報道官は、記者会見の席で、トランプ大統領が、北朝鮮の金正恩委員長から二度目の米朝首脳会談の開催を求める書簡を受けとったことを明らかにしました。トランプ大統領は、この要請に快く応じる姿勢を見せていますが、何故、北朝鮮は、今の時期に二度目のトップ会談を申し出たのでしょうか。

 金委員長からの書簡を受けての開催となりますと、二度目の首脳会談の時期は、北朝鮮側が決定したこととなり、米朝関係のイニシャチヴは、一先ずは北朝鮮側が握る形となります。米研究機関やIAEA等の分析によりますと、6月12日の第一回米朝首脳会談以降も、北朝鮮は、核、並びに、ICBMの開発を秘かに継続しているそうですので、開発の進捗状況から判断し、北朝鮮側が、アメリカに対するさらに強力な交渉材料を手にしたとする自信を得ている可能性もあります。つまり、第一回首脳会談での合意、あるいは、口約束を半ば反故にし、第二回目においては、中国の黙認の下で開発に成功した核やICBMの脅しにより、より有利な条件をアメリカから勝ち取ろうとする、北朝鮮側の思惑が推測されるのです。

 このシナリオは、当事国であるアメリカ、同盟国である日本国、そして、国際社会にとりましてはまさに‘悪夢’なのですが、同会談が、公式には北朝鮮側からの要請とする体裁をとりつつも、アメリカ側の圧力によるものであると想定しますと、別のシナリオもあり得ます。先日、ポンペオ米国務長官の訪朝が、北朝鮮の非協力的態度を理由に突然にキャンセルされた一件は記憶に新しいところであり、また、先日、米高官の一人が、トランプ大統領が書いた北朝鮮への軍事制裁を示唆するツウィートの下書きを見て、あまりの脅迫的な内容に投稿を思い止まらせたとする旨の証言もあります(訂正:この情報は、米中首脳会談以前の段階のもののようです。)。一方の北朝鮮側の動きを見ても、先日の軍事パレードではICBMは登場せず、金委員長の談話でも、先軍政治路線時代には‘お決まり’であった好戦的な言い回しが影を潜め、経済発展を力説していたそうです。こうした北朝鮮側の軟化ぶりはアメリカへの配慮以外に考えられえず、上述したシナリオとは矛盾します。もっとも、第二回米朝首脳会談のその日まで、北朝鮮は、秘かに磨いてきた鋭い爪を隠しておこうとしているのかもしれませんが…。

 表向きは北朝鮮、あるいは、その背後の中国がイニシャチヴを採っているように見えながら、その実、第2回米朝首脳会談の真の発案者がアメリカであるとしますと、トランプ政権は、いよいよ北朝鮮に対して重大な選択を迫ろうとしているのかもしれません。それは、アメリカが納得する形で完全なる非核化を実行するのか、それとも、軍事制裁を覚悟するのか、という…。トランプ大統領としては、11月の中間選挙、あるいは、その先の再選への好影響を見越して、目に見える外交上の実績を国民に示す必要がありますので、この時期での第2回米朝首脳会談は、政治日程としても好都合です。そして、仮にアメリカ主導説が正しければ、第一回米朝首脳会談は、どちらかと言えば、金委員長に主役を獲られたような‘政治ショー’でしたが、今度ばかりはトランプ大統領も主役を譲ることなく、アメリカの有権者を意識した自らがヒーローとなる‘政治ショー’を演出するはずです。

 他のファクターが働いて、全く別の方向に向かう可能性もあるのですが、以上に述べてきたように、米朝両国にあって、どちらがイニシャチヴを握っているかによりまして、予測され得るシナリオは随分と違ってきます。何れにしても、第2回米朝首脳会談によって、第1回米朝首脳会談において残された‘曖昧さ’が拭い去られ、中国やロシアも絡み混戦模様が続く朝鮮半島情勢がより明確な輪郭を現すのではないでしょうか。

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軍事面でも表面化する米中直接対立-ポンペオ国務長官の訪朝中止

2018-08-26 15:48:48 | アメリカ
「米国は無責任」と非難=中国
先日、トランプ米大統領は、北朝鮮の非核化に十分な進展が見られないことを理由に、ポンペオ国務長官の四回目となる訪朝を急遽中止しました。表向きの理由は北朝鮮の合意不履行なのですが、この決断にこそ、トランプ政権の方針転換が窺えるように思えます。

 これまで、トランプ大統領は、北朝鮮問題を解決するに当たって、二国間の首脳会談を重視してきました。トップ同士が直接に顔を合わせ、タフな交渉を経て最後は握手で合意する、というスタイルは、ビジネス界出身の同大統領の得意とするところであったはずです。6月12日の米朝首脳会談は、まさにこのスタイルの典型的な事例と言えるでしょう。北朝鮮は、金王朝とも称される強固な独裁体制を敷いてきた国ですので、そのトップである金正恩委員長との間で合意が成立すれば、懸案であった北朝鮮の非核化も難なく実現するものと信じたのかもしれません。

 しかしながら、ビジネスとは些か異なり、国際政治の世界では、交渉相手の背後に様々な利害関係者が蠢いている場合が少なくありません。北朝鮮の場合には、建国や朝鮮戦争等の経緯があり、中国とロシアがその後ろ盾であることは疑いなきことです。言い換えますと、背後にあって北朝鮮を操る国家が控えている場合、金委員長は真の政策決定者ではないわけですから、トップ会談重視のトランプ流外交は通用しなくなるのです。

 実際に、中国は、既に国連の制裁決議を無視して対北支援に動いており、習近平国家主席は、訪中した金委員長に対して莫大な経済支援を申し出たとされています。また、東シナ海等における北朝鮮船舶による‘瀬取り’は、中国の黙認のもとで行われているとされ、制裁決議違反行為も相次いでいるのです。北朝鮮側も、8月25日の「先軍節」にあって、国営メディアは非核化問題には全く触れず、経済再建を強調していたとされますので、中国からの支援を期待しての変化なのかもしれません。

北朝鮮が中国のコントロール下に置かれている現状を見れば、ポンペオ国務長官が訪朝し、たとえ非核化に向けた具体的な措置を採る約束を北朝鮮から取り付けたとしても、中国の介入によって反故にされる可能性は極めて高いと言わざるを得ません。となりますと、北朝鮮の非核化問題を根本的に解決するには、中国こそ、アメリカが直接に対峙すべき相手国となります。

この推測を裏付けるかのように、中国外務省は、アメリカがポンぺオ国務長官の訪中中止と中国の非協力的態度を絡めた点を取り上げて、「米国の言い分は基本的な事実に反しており無責任だ」とする非難の談話を発表しています。おそらく、中国もまた、アメリカ側の方針転換を敏感察知し、逃げ道を模索しているのかもしれません。北朝鮮と同様に中国もまた、トランプ流の交渉術が通じる相手ではないことを考慮しますと、米中対立は、貿易戦争のみならず、軍事面においても表面化する可能性が高いのではないかと思うのです。

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‘米中構造協議’と言わない理由とは?

2018-08-20 14:58:12 | アメリカ
【米中貿易戦争】米中、11月首脳会談探る 米紙報道、貿易対立の打開狙い
 米中貿易戦争がエスカレートする中、アメリカのトランプ政権は、第二次世界大戦後に構築された自由貿易体制を脅かす‘反逆者’として集中砲火を浴びています。しかしながら、アメリカの保護主義、あるいは、二国間通商交渉重視への回帰は、今に始まったことではありません。

 自由貿易主義が、無条件に国際収支の均衡を約束しないことは、ブレトンウッズ体制の崩壊した1970年代において既に証明されております。変動相場制への移行には国際収支の調整機能も期待されたのですが、それでも焼け石に水であり、1980年代には、圧倒的な国際競争力を有した日本製品を前に、アメリカの産業は苦境に立たされます(変動相場制への移行は、各国政府に対する対外通貨政策の解禁ともなった…)。アメリカ国内で‘ジャパン・バッシング’の嵐が吹き荒れる中、日米間で開始されたのが日米構造協議であり、国際収支の不均衡は、二国間の通商交渉によって解決されることとなったのです。

 この時、日米構造協議というスマートなネーミングによって、日米交渉による貿易不均衡の是正が、自由貿易主義からの転換であることを強く意識した人々は少なかったかもしれません。むしろ、自由貿易体制には、構造的な不均衡をもたらすメカニズムがあることを、両国とも素直に受け入れていた節さえあります。結局、日本国側が円安是正、自主規制、並びに、内需拡大等のアメリカ側の要求を受け入れたことで、日米構造協議は一先ずは一段落します。しかしながら、自由貿易体制そのものが修正されたわけではありませんので、新興国の製品が日本製品に取って替ったに過ぎず、今日では、当時の日米間よりもさらに著し貿易不均衡が米中間で起きているのです。

 トランプ大統領は、対中貿易赤字を解消するために一方的な措置をとったため、中国との間で制裁措置の応酬となったのですが、ここに来て、米中首脳会談の兆しが見え始め、米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によれば、11月の開催が模索されているそうです。となりますと、日米構造協議ならぬ、‘米中構造協議’となるはずなのですが、何故か、米中両政府のみならず、メディアを見渡しましても、こうした表現は見られません。

 何故、‘米中構造協議’という用語が避けられているのか、その理由を推測してみますと、一つには、こうした理知的な表現を用いては、自由貿易主義、あるいは、グローバリズムに内在する不均衡のメカニズムが人々の意識に上ってしまう点を挙げることができます。特に自由貿易主義体制に向けて不断に‘前進’することで経済覇権を握りたい中国にとりましては、構造的問題であることを示す‘米中構造協議’の名称はいかにも不都合です。そして、もう一つ、理由があるとすれば、それは、中国のケースでは、解決すべき問題は経済分野に限定されない点です。経済大国化を梃子にして、中国は、目下、「一帯一路構想」を掲げるなど、全世界を視野に入れた世界戦略を強引に展開しています。経済力は、軍事、あるいは、政治的目的を追求する道具に過ぎず、中国の真の目的が世界支配であるならば、アメリカが米中貿易戦争を仕掛けた背景には、中国による覇権確立の阻止という別の目的があると推測されるのです。この観点を加味すれば、‘米中構造協議’の名称は、その本質からは外れていることとなります。

 軍事力の裏付けがあるだけに、アメリカにとりまして、中国は、同盟国である日本国よりも遥かに手強い相手でもあります。日米交渉にあって日本国側が折れた理由の一つは、日米対立の安全保障分野への波及リスクもあったはずです。少なくとも、その名称の如何に依らず、米中間の関係は、軍事や政治上の対立も絡む故に、米中首脳会談で一件落着とはいかない気配がするのです。

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中国の対米‘貿易覇権主義’批判は敗北宣言?

2018-07-14 15:39:15 | アメリカ
米中摩擦の影響議論へ=21日からG20財務相会議
7月6日、終に米中貿易戦争の開戦の火蓋が切って落とされ、トランプ政権による対中制裁追加関税が発動されました。翌7日、中国の新華社通信は、アメリカの対中通商政策を‘貿易覇権主義’として批判する記事を掲載し、同記事では、貿易戦争で敗北するのはアメリカの側であると断言しておりますが、果たして、中国側の予測は当たるのでしょうか。

 同記事は、貿易には勝ち負けはないとする経済学者の見解から説き起こし、アメリカの巨額な対中赤字の発生は中国の国家戦略ではなく、主として米企業の経営戦略に起因する貿易構造や国際分業の結果であることを力説しています。そして、関税を手段とした対中圧力を‘貿易覇権種’と見なすと共に、米企業もまた、世界大で展開してきたサプライチェーンの切断という痛手を蒙ると主張しているのです。いわば、経済封鎖を実施した側が逆封鎖を受けて音を上げたナポレオンの大陸封鎖令の顛末を期待した中国側の勝利宣言なのです。

一方、中国以外の諸国では、米中貿易戦争の行方については、米中貿易の現状分析から中国を不利とする見解が大半を占めています。その理由は、対中制裁を実施するアメリカの狙いが、習近平政権が発表した野心的な産業プランである「中国製造2025」を潰すことにあり、先端産業分野において将来的に中国企業が覇権を握ることを阻止することにあるからです。乃ち、短期的には、上述した新華社通信の記事が指摘するように、中国からの輸入品の関税上乗せの影響から米企業や消費者も不利益を被るでしょう。しかしながら、長期的に見ますと、知的財産権に関して中国政府が実施してきた不公正な自国産業優先政策の下、アメリカの先端技術を貪欲なまでに吸収してきた中国企業が、価格のみならず、技術面でも米企業を凌ぐことが予測されるとなりますと、判断は違ってきます。

20年後において、中国政府、否、中国共産党の全面的なバックアップを受けて急成長を遂げた中国企業が国際競争力において一歩抜きんでた存在となり、‘グローバル市場’において独り勝ちとなる場合、米企業は、中国企業の攻勢を受けて国内市場からも撤退を余儀なくされるかもしれません。言い換えますと、中国企業優位となった将来における米企業の痛手は、今般の対中経済制裁発動によるダメージよりも遥かに深刻であり、そのリスクが予測されるからこそ、短期的な不利益を覚悟してまで、アメリカは、対中貿易制裁に踏み切ったと考えられるのです。いわば、‘肉を切らせて骨を断つ’という荒業なのです。

このように考えますと、新華社通信の記事は、アメリカの目的を直視せず、敢えて論点を逸らしたことにおいて、暗に自国の敗北を認めたのかもしれません。これを裏付けるかのように、以後、先進国に頼らずとも中国自前の技術革新が可能である、とする主旨の中国からの発信が目に付くようになりました。早、鼎の軽重を問うてしまった中国は、まずは経済面において苦境に立たされる結果を自ら招いてしまったように思えるのです。

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