駒子の備忘録

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宝塚歌劇月組『ラスト プレイ/Heat on Beat!』

2010年05月07日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 東京宝塚劇場、2009年12月3日マチネ、4日ソワレ。

 孤児院で育ったアリステア(瀬奈じゅん)はピアノの才能に恵まれていた。だがコンクール当日、彼は極度の昂ぶりから意識を失い、昏睡から覚めたときには将来の展望も特別待遇もすべて失っていた。居場所を失ったアリステアは街へ出、ムーア(霧矢大夢)という男と出会うが…作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城。4年余りもトップを務めた瀬奈じゅんのサヨナラ公演。

 最近は地味すぎたりスカしすぎたりで「アレレ…」と思うことも多かった正塚作品ですが、今回はよかった。というか、しょせん宝塚スタートが正塚先生の『メランコリック・ジゴロ』だった私はファンで評価が甘い、ということなのかもしれませんが…裏社会ともつながりのある故売屋の経営するアンティーク・ショップを舞台にするような、クールでスタイリッシュでニヒルな…と思わせて、意外にヒューマニスティックでロマンティックな人情ものだったりする世界、です。

 彩乃かなみの卒業後、ついに相手役を持たないまま終わるアサコのために、男同士の友情を軸にした物語になっています。それもまた一興。昔の花組の得意技ですよね(^^)。セリフはあいかわらず言葉足らずで、ちょっとずつでいいので加筆したくなるんですけれどね。
 アサコはもちろんいろいろなキャラクターを演じてきたし演じられるだけの度量があるスターでしたが、意外にこういう純朴で白い役がはまると私は思いました。大好きなのに、好きすぎて、壊してしまい、もう近づくこともできなくなって、だけど想い焦がれている…ピアノに対してそんなトラウマを抱えてしまった、優等生タイプの真面目な青年。ニンだったと思います。
 円熟の研18、もっと濃いキャラだっていくらでもできたでしょうが、このさりげなさ、明るさ、そこに漂うそこはかとない寂しさ、悲しさ…が、意外にシャイで不器用だった彼女に似合いかなーと思うのですよ(今さらにアサコがAB型と知って最近急に親近感を深めた私…思えばオサが苦手でその時期の花組をあまり観ていなかったことが本当に悔やまれます。オサアサコンビをもっと観ておきたかったし、アサコの二番手時代というものももっと観ておきたかった…痛恨)。

 これまたなんでもできるキリヤンですが、ムーアもよかった。ろくでもない両親のもとに育って小さいころから後ろ暗い暮らしをしてきて、やがて親と別れてからは赤の他人のはずの人々の人情に支えられて生きてきた青年。だからいまもギャングとのつきあいを振り切れないような危ない橋を渡る生活をしながらも、行き倒れかけている見知らぬ青年を助けちゃうような優しさを持ち続けている。
 だから、撃たれたショックで記憶を失ったアリステアがサナトリウムで弾いたピアノは、もっともっと感動的な圧倒的なタイプの楽曲の方が良かったんじゃないでしょうか。クラシックなんて全然知らないムーアをも感動させてしまうような。アリステアのことを、何か訳ありだとは思いつつも、基本的にはとっぽい兄ちゃんだとしか思っていなかったけれど、なんてことだ、本物だったんだ、自分のところで犯罪の片棒担がせていいような人間じゃなかったんだ、本当の居場所に帰してあげなくちゃ…とムーアに思わせるきっかけなんですから。
 だからムーアは一芝居打った。眠りかけたムーアのそばで弾いたアリステアのピアノは「最後の演奏」なんかではない。これからも彼はずっと弾き続ける、より多くの人々のために。そして彼がピアノの前に戻り、ムーアの家を出ても、ふたりの友情はずっと続いていくのでしょう…そんなふうに思わせる物語、素敵なラストシーンでした。

 へっぽこギャングのジークムントに、これまた卒業のアヒ(遼河はるひ)。声が好きだった、長身が素敵だった、悪役にはまったけれど今回みたいなユーモラスなキャラも上手かった、卒業が残念な三番手でした。その相棒ヴィクトールにソノカ(桐生園加)。ダンサーだとばかり思っていましたが、芝居も歌も上手くてよかった。キリヤンを支えていってあげてね。
 次世代スターは、劇団はこのところずっとミリオ(明日海りお)を押して来たくせして、今回はサナトリウムの医者というしどころのない配役。代わってムーアの相棒クリストファーを演じたまさお(龍真咲)が目立っていましたし、ショーでも一場面もらっていましたが、そういうことなんでしょうか?

 娘役勢は、ミホコの後任かと言われていたあいあいもしずくも揃ってここで退団。もっともあいあいはジャッキーもデイジーも私は感心しなかったし、今回もムーアの恋人エスメラルダなんだけれど、うーん、別に…という感じだったなあ。
 しずくの方が、今回ちょっと声がミハルに似ている!?と思って、ショーでもさすが若くてよく踊れていたし、ああもったいない…と思いました。ヘレナは最終場、ムーアの家に来ていたことにさせていさせてあげればよかったのに、と思いました。

 アステリアの看護婦アイリーンを演じた憧花ゆりのがさすがベテランで手堅い。バウヒロインなんかもやっているのがクリストファーの恋人ポーリーンを演じた蘭乃はな。生き生きしていてよかったですが、結局キリヤンの嫁には星組からマリモ(蒼乃夕妃)が来るわけで…ま、ランの方が下級生だけど。

 ギャングのドン・ローレンス(青樹泉。うーん、ぴんとこなかった…)の情婦アヌークの天野ほたるが粋でよかった。
 そして芝居を締めていたのはなんと言ってもマヤさん(未沙のえる)でした。イヤすばらしかった。

 ファンタスティック・ショーは作・演出/三木章雄。ベタでストレートかもしれない、しかし円熟・圧巻のショーでした。サヨナラ公演にふさわしい。
 第1場、板付きのアサコがランスルーを歩いてくるのですが、足の運びが一直線で、でもモデルのようにしゃなりしゃなり歩いているわけではない。その軽やかさに、「わあ、そう言えばアサコは名ダンサーだったのだ!!」とシビれました。そのあとの裏打ちの手拍子は最後は客席が乱れるのでやや苦しかった。
 まさおの場面は確かに単調でしたが、ミューズに扮したこれまた退団の麗百愛がまたすばらしいバレリーナっぷり。美しかった。
 椅子の場面はあいあいのイリュジオンをアイスダンスのようにリフトするアサコのエトランジェが素敵。歌手の彩星りおんがすばらしかった。ロケットはかなり早く置かれていました。
 エル・ビエントのアサコのスパニッシュのお衣装は、ユウヒのお披露目デュエットダンスのときのものに似た紫のような茶色のようなwyなお色目で素敵。柱から生まれるように咲いてくる男役のダルマ・フラガンシアがセクシー。ここのしずくのダンス、はきはきしていてよかったなー。そのあと卒業コンビということで、アヒと銀橋を渡らせてもらっています。涙、涙…
 しかしこの場はその後登場するアサコのボヘミアンが圧巻。するりと現れて、コートを脱いで、帽子を放って、マフラーを踊りながら外して、踊りの場に出てきて…夜会の男も女もさらっていく(^^)。一瞬だけ組むアヒとのダンスが素敵。そのあとジャケットとブーツを脱いで、裸足になって踊るコンテンポラリー・ダンスシーンが圧巻。バックに流れ星が飛ぶのもすばらしい。涙、涙。
 デュエットダンスはキリヤンが優しくあいあいのお尻から背中を撫で上げて抱き寄せるのが泣かせました。

 そして黒燕尾のボレロ…今回、揃いのダンスが多いんですよ。
 たとえば揃いのダンスをさせると、トップはやっぱり歳だしダンスがそれほど上手くない人もいて、「ダンスはあっちの人の方がうまいな」とか他に目が行くことがあるし、それを避けるためにトップにだけは別の振りがついていることも多いものです。しかし今回そういうことはほとんどなかった。そして私の目はずっとずうっとアサコに釘付けでした。アサコが一番上手い。手の上げ方、足の上げ方、カウントの取り方、ポーズの決め方…美しい!
 ナツメさんとかヤンさんとかリカちゃんとかチャーリーとか、花組出身の名ダンサーのトップスターをたくさん観てきたけれど、アサコも確かにバレエの人だったんですよね。ついついニンばかりを愛してきてしまったけれど…そう言えばトートのときもあまりダンスがなくて物足りなさそうだったのでした。ここぞとばかり踊った「最後のダンス」のシーンの動きの切れを思い出しました。
 デュエットダンスでトップコンビが銀橋でポーズ、暗転、再びライトが当たってご挨拶のお辞儀、というのはわりと最近の演出だと思いますが、私はスターの顔見せとして嫌いじゃないです。でも今回アサコはそれをひとりでやりました。さびしいけど、でもいかにも彼女らしい…

 パレードのラスト、ピカピカの燕尾服にシルクハットで決めているのに、大きく手を振っちゃうところがまた…27日の卒業まで、身体に気をつけてがんばっていただきたいです。そしてユウヒの舞台を観に来てね!
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