駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『SEMINAR -セミナー-』

2013年12月27日 | 観劇記/タイトルさ行
 紀伊国屋ホール、2013年12月22日マチネ。

 有名作家レナード(北村有起哉)による、10週間5,000ドルの授業。生徒四人それぞれに作品を書かせ、レナードがそれを読んで講評するという形式で授業は進められる。レナードはケイト(黒木華)、ダグラス(相葉裕樹)の原稿はさんざんにこき下ろすが、たった2枚の原稿を提出したイジー(黒川智花)のことは高く評価する。作品ではなく彼女の性的魅力に惹かれているのは誰の目にも明らかだ。そしてマーチン(玉置玲央)だけがいつまでも作品を出さない…
 作/テレサ・リーベック、翻訳/芦沢みどり、演出/栗山民也。全1幕。

 とてもスリリングで、おもしろい舞台でした。生徒も先生もみんなその役にしか見えなかった、すごいなあ。
 最終場だけがレナードの部屋で、あとはずっとケイトの部屋が舞台で話は進み、おもしろいんだけれどはてなんの話なのか、どんなオチが待つのか…となかばヒヤヒヤ見守りました。最終場ひとつ前の場がオチってのもアリだったのかも…とか思ったらもう一押し、ダメ押しされました。
 作家の業とか創作の業、というのはテーマとしてはけっこうありがちなものでもあると言えると思うのですが、才能のある者がメフィストフェレスと化して次の才能ある者を見つけてとりついていく、その壮絶な輪廻の一端を見せられたようで…怖かったし、おもしろかったです。
 今年は幕なしストレート・プレイにアタリが多かった気がするなあ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『クランク・イン』

2013年12月21日 | 観劇記/タイトルか行
 東京芸術劇場シアターイースト、2013年12月21日マチネ。

 宇宙飛行士を目指していたオリオ(別所哲也)は、今はプラネタリウムの設計士で天文家。彼には銀幕のスターを目指す恋人・真理(新妻聖子)がいる。彼女は間もなく30歳を迎えるが、なかなかチャンスに恵まれないでいた…
 作・演出/増田久雄、音楽/寺嶋民哉、モーガン・フィッシャー。オリジナル・ミュージカル・ショー、全一幕。

 小さいハコだったのでマイクを使うのにまず違和感を感じてしまいました。ピアノ一本の生音、生歌ではできなかったのかな。
 そして例えばオーランドとマリーとか、なんでもいいんだけれど、舞台を現代日本でなくしてほしかった。月のプラネタリウムがどうとかいう台詞があったので、もしかしたら近未来なのかもしれないけれど、とりあえすスカイツリーが見えるマンションで同棲しているようなカップルの話なわけで、それにしてはリアリティがなくて私には感情移入がしづらかったのです。
 そしてそして、まさかのいわゆる「妊娠小説」…!
 え、誕生日とオーディション通過が嬉しくてついナマでやっちゃったってこと?
 いや、ピルもコンドームも100パーセント完全な避妊法ではないからデキるときにはデキるので、仕方ないといえば仕方ないですけれどね…
 そしてこんなベタではあるが重大な問題に関しての応酬が、あんな勘違いネタのギャグと陳腐な議論、安易な展開でいいとは私には思えません。特にオリオがまったくなんの変化も強いられないままにすませているところが完全に男性作家の手による話だわ、という印象。
 こんなんでクリスマスにまつわるちょっといい話でハートフルでハートウォーミングなウェルメイドな小品、佳作でしょ、ってことなら私はごめんこうむりたいと思いました。キャストの無駄遣いです。

 ああ、例えば誰か、真理が堕胎を選択する話を作ってくださいよ。今のこのチャンスを絶対に逃したくないの、ごめんね、でもこの子はきっとまた私を選んでいつかまた私に宿ってくれる、そのときはがんばるから今はごめん。これは私が決めたことでオリオにはどうしようもない、どうにもできない。だから別れる、好きだけど、ごめんね。そんな話が観てみたいよ。
 そしてクランク・アップの日に、花束抱えて指輪持ったオリオが真理をスタジオに迎えに来るような、たとえばそんな話ですよ。今回の子供はダメだったけれど、次の子供もきみと持ちたいから、と言ってくれるような、そんな話。お星様にしてしまったふたりの子供は、ふたりがまた迎えに行かなければいけないものだから。愛しているから。そんな話。
 そうやって救われる愛や命や希望や人生もあるものだと思うのですよ。現実にそういう選択をしている人はきっともっとたくさんいるし、それをフォローしカバーし認証してあげる物語がもっと必要だと思うなあ。産めって言いっ放しなんてどこの政府のお題目だよ、って感じなんだもん。残念。

 あと、一番のクライマックスでヒロインが歌う歌が英語の歌詞ってどうなんでょう。そりゃ雰囲気でどんなことを歌っている歌なのかはわかりますよ、でも日本語で歌われた方が感情はもっと伝わるじゃん。よりにもよってここだけ…というのががっかりしましたる呪文の歌は英詞でいいよ、でもここは違うと思いました。残念。








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『船に乗れ!』

2013年12月21日 | 観劇記/タイトルは行
 シアターオーブ、2013年12月15日マチネ。

 2010年の冬、45歳の津島サトル(福井晶一)は修理が終わったチェロを引き取り、とある町の踏み切りに立っていた。そして30年前、このチェロに打ち込んでいた頃のことを思い出し、高校時代の自分(山崎育三郎)に呼びかけるように振り返る…
 原作/藤谷治、脚本/鈴木哲也、脚本・演出・作詞/菅野こうめい、音楽監督・作曲/宮川彬良、指揮/西村友。クラシック音楽と哲学が題材の小説を舞台化した交響劇。全二幕。

 おもしろい舞台でした!
 ステージにオケ(東邦音楽大学管弦楽団)が乗っていて、それを縫うようにセンターがやや上手にずれたエックス字の通路があり、そこと手前の舞台が芝居をするスペースになっています。
 舞台の奥のスクリーンには芝居の状況によって教室や廊下などのイラストが背景として映し出されます。
 役者たちは芝居をし、演奏場面になると楽器を持ちますが、奥でオケのソリストにもライトが当たって、音楽はそちらが担当します。音の影武者って感じでおもしろい。
 そして芝居はミュージカル仕立てになっていて、役者たちは歌うのですが、それが有名なクラシックをアレンジして日本語の歌詞を乗せたものだったりする。そのおもしろさ!
 そして内容は、ひりひりするような青春の物語なのでした。

 私は多分昔にこの原作小説を読んでいて、でも綺麗さっぱり忘れていて、舞台で観るそばから「ああ、そういえばそうだったそんな話だった」と思い出す始末でした。でもとてもおもしろく観ました。
 ヒロインの小川真奈より、ちょっとおせっかいな女友達役の増田有華の方が上手くて鮮やかで印象的でした。教師陣の布陣もとてもよかったです。

 オチとか救いとかは特にない話といえば言えますよね。結局サトルは18歳でチェロをやめてしまった。しかし伊藤くん(平方元基)はフルートを続けていて、プロになって、その連絡があってサトルは30年ぶりにチェロに手を触れる。
 「鳥になりたい」と彼らはラストで歌ったけれど、人間は鳥にはなれない。鳥になればただ音楽だけがある空を飛べるのかもしれない。けれど人間は鳥にはなれない、音楽だけに生きることなどできはしない。ときには音楽を捨てることすらできてしまう。
 けれどやっぱり音楽は常につかず離れずそばにあるもので、生きている以上捨てきることなどできはしないものでもある。だからまた戻ってこられることもある、音楽のある空へ。
 これはそんな話なのかなと思いました。
 苦しいけれど、悲しいけれど、せつないけれど、それでも人生は美しいし、生きるに値する。そんなことを謳っている物語に、私には思えました。よかった!



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Q/今振り返ると「人生のターニングポイントだったなー」という事があれば教えて下さい。

2013年12月21日 | 日記
Q/今振り返ると「人生のターニングポイントだったなー」という事があれば教えて下さい。(ザ・インタビューズより)

A/

 第一志望だった会社の最終面接で落ちたとき、でしょうか。

 これを仮にA社とします。
 そして私が入社し今も働き春にはめでたく勤続丸20年になる会社をB社とします。
 大学四年の夏、私はA,B社含め同業数社の入社試験を受けて回りました。
 まだバブル崩壊直後でイケイケの名残があったころです。
 次の年からまず女子の就職が厳しくなったと聞きました。

 試験会場に入った瞬間から、A社はイメージよりカタく、怖く、
「私はここでは受かってもやっていけないかもしれない…!」
 と思いました。一方B社は、イメージよりもユルく、楽しげで、
「ここでなら受かればやっていけるかもしれない…!」
 と思いました。
 試験の進みはいくらかB社の方が早く、先にB社の内定をいただきました。
 しかしA社の方も最終面接まで残っていたため、正直にそう告げて、待ってもらいました。
 A社の最終面接で、他社受験状況を尋ねられたので、B社の内定をもらっていること、しかしA社が第一志望であることを正直に話しました。
 …で、ここでA社に落ちました。なので、B社のお世話になることにしました。

 B社でも、志望していない部署に配属されたりして、でもそれが実は自分の天職だったと思えるような仕事だったりして、結局以後その分野の中で職場の異動を繰り返していて、今やすっかり専門バカですが残りの会社人生も変わらずその界隈で送りたいと思っています。
 要するに私は自分で自分のことが意外によくわかっていないのだと思います…
 
 なのでA社に落ちてB社に入って、本当によかったなと思っています。
 A社の内定も出ていたら、あれだけ違和感を感じていたにもかかわらずアタマのワルい私はやっぱりA社に行っていた気がします。
 そして全然違う分野への配属になっただろうし、天職に巡り会うこともなく、その後の人生も全然違うものになっていたろうと思うのです。

 何故A社に落ちたのか、そして何故B社に受かったのか、結局のところ理由はわからないわけですが…ま、縁ってそういうものかな、と。
 そんなはかない縁を辿って、充分食べていける仕事、かつ好きで楽しくやれている仕事に巡り会えたことに、ものすごく感謝しています。


(2012.3.12)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柚木麻子『あまからカルテット』(文春文庫)

2013年12月21日 | 乱読記/書名あ行
 女子中学校の頃から仲良しの四人組の友情は、アラサーの現在も進行中。ピアノ講師の咲子、編集者の薫子、美容部員の満里子、料理上手な由香子はそれぞれ容姿も性格も違うけれど、恋に仕事に悩みは尽きず…美味しいものを手がかりに、無事に難題解決なるか?

 恋愛と同様に山と谷がある女の友情を、美味しいものを絡めて描いた連作短編集。
 みんながみんな順番に恋愛が上手くいって恋人ができていって結婚していってハッピーエンド…みたいな話じゃなくてよかった。
 スタート時点で既婚者がひとりいるからとかそういうことではなくて、人生ってそんな単純なことじゃないはずだからね、と私は思っているからです。
 特にハイボールの話がそんなことになっていたら私はその時点でこの本を叩きつけていたかもしれません(笑)。家庭の主婦のライバルは呑み屋のママだと思うけれど、胃袋をつかまれているどころか幼なじみで思い出話ができて仕事の愚痴も聞いている相手なんて、セックスしてないだけでむしろその方がよっぽど悪いってくらい勝てる相手じゃないもん。それにちゃんと男より先に気づいてちゃんと手が離せたことは偉い。その展開をきちんと書く作者も偉い。
 安心しました。
 しかし日常ミステリとグルメというのは鉄板の組み合わせだなあ…

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする