駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

ラ ダンス コントラステ『ラムール・ペルデュ-ジゼル-』

2013年12月10日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 吉祥寺シアター、2013年12月7日ソワレ(初日)。

 19世紀のロマンティック・バレエの代表作『ジゼル』。村娘と貴族の身分違いの恋。婚約者がいながら村娘に心惹かれる貴族の男。一途に村娘を思い続ける村の男。村娘は恋人に婚約者がいることを知ったとき、狂気の中、死を迎える。死の世界で男を守り続ける村娘の魂…
 構成・演出・振付/中原麻里。全2幕。

 モダンバレエというか、コンテンポラリーで踊られる『ジゼル』なのですが、ヒラリオン(細野圭)とバチルド(公門美佳)がきちんと立てられてがっつり四角関係になった、とてもおもしろいものでした。
 なんてったって冒頭板付きはジゼル(伊原さよ子)とヒラリオンなんです。バレエではジゼルに岡惚れしている森番のおっさんにしか見えないときもありますが、これはちゃんとジゼルのほうでも憎からず想っている幼なじみの青年なんですね。
 でもそこにアルブレヒト(白髭真二)が現われてしまった…
 二幕、ジゼルの友人たちやパチルドの友人たちを演じたコール・ドはウィリになりますが、ミルタはいません。そしてジゼルが死の国へ呼ぼうか悩むのはアルブレヒト相手ではなくヒラリオンについてのように見えました。アルブレヒトのことは割り切れていたようにも見えたし、愛しているからこそ、そして今はアルブレヒトのそばにパチルドがいることがわかっていたからこそ、死の国へ連れ去らなかったように見えました。対してヒラリオンのことは、愛していたから、その愛に気づいたから、彼がジゼルなしではもう生きていけないように見えたから、連れ去ったように見えました。

 ミルタを筆頭に、ウィリとは未婚のまま死んだ乙女の精霊、処女の亡霊みたいなものだったかと思いますが、パチルドがジゼルの唇に紅を引きアルブレヒトが赤い靴を与えたことは、彼女に性体験を与えたようにも見えました。だから死の国に連れ去るかどうかというのは処女の呪いとか怨みつらみとかではなくて、本当の愛とか心のあり方ゆえのものだったのでしょうね。

 簡素にして象徴的なお衣装が素晴らしく、パチルドの友人たち(侍女たちのようにも見えた)が妙にユリユリしいのも大変に萌えました。美しい、いい舞台でした。




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宝塚歌劇宙組『風と共に去りぬ』

2013年12月10日 | 観劇記/タイトルか行
 宝塚大劇場、2013年10月11日マチネ、12日ソワレ。
 東京宝塚劇場、2013年11月26日ソワレ、30日ソワレ、12月3日ソワレ。

 南北戦争開戦から一年後の1862年、南軍の軍需拠点となり活気溢れるアトランタに、夫チャールズが戦病死し未亡人となったスカーレット(朝夏まなと、七海ひろきのダブルキャスト)が義妹のメラニー(実咲凛音)たちと暮らすためにやってくる。メラニーの夫アシュレ(悠未ひろ、朝夏まなとのダブルキャスト)にかねてから想いを寄せていたスカーレットは、出征した彼との再会を願って故郷タラから出てきたのだが、ある男と鉢合わせする。北軍の封鎖を破って軍需物資を南部へ運び暴利を得たと噂される無頼漢レット・バトラー(凰稀かなめ)であった…
 原作/マーガレット・ミッチェル、脚本・演出/植田紳爾、演出/谷正純。77年の初演以来何度も再演されたミュージカル。

 私が月組を初めて生で観たのが94年の『風共』、ユリちゃん主演で当時二番手のノンちゃんがアシュレ、トップ娘役のヨシコと三番手スターのマミがスカーレットとスカーレットⅡを役替わりしたバトラー編でした。
 そのバージョンと脚本、演出ともほとんど変わっていないと思います。今回足された二幕冒頭の場面は蛇足でいらない(入れるならニュー・ジェネレーションの場面はいらないと思う)と思うので、そこが改悪と言えば改悪ですが、ともあれ大胆なカットや省略にもかかわらず、私は楽しく観ました。
 『ベルばら』なんかより100倍いい。この南部の伝統としての女は~とか男は~という台詞には意味があるからです。確かに役が少ないのが難点ですが、少人数がただカーテン前で立ち話、みたいなマヌケな構図も少ないし(最後には盆が回りますし!)、とてもフラストレーションが少ない演目に仕上がっていると思います。
 しかしラブストーリーとして考えるに、主役カップルの出会いと決定的にくっつくシーン、すなわち樫の木屋敷の書斎でスカーレットがアシュレに告白してフラれ、それをレットが見ていた場面と、スカーレットがカーテンから作ったドレスでアトランタに出向いてレットと結婚に持ち込む場面は、なんとか入れられないものか、とは思います。それができればほぼ完璧、と言っていい構成だと思います。まあ次に月組が梅芸でやるスカーレット編と補完しあう形になるのでしょうけれどね。
 どう考えてもヒロインのスカーレットが主人公である物語を、レットが主人公に見えるよう宝塚歌劇として上手く改変していると思いますし、なかなかの力作であり傑作なのだな、と改めて思いました。ここ最近の全ツ版を実はあまり観ていなくて、とても久々の『風共』だったため、なかなか感慨深かったのかもしれません。

 というわけで役替わり効果もあったか客入りは上々だったようで、そのあたりも劇団の手に乗るようですが楽しみました。
 ただ、東西公演ともA-B-Aパターンという形で上演されましたが、どちらもBパターンが終わってからのA、という回を見られなかったのが残念です。やはり日々進化、変化していたようなので。

 というわけで(あ、繰り返された)以下キャスト感想など。
 レットにしては線が細いのではと心配されたてるですが、やはりハートの人、芝居の人でしたね。超絶スタイルも素晴らしいが熱いレットの魂、その自信、自負、自惚れ、孤独、寂しさや悲しさ、甘えを演じてみせて素晴らしかったです。
 ただ個人的には「愛のフェニックス」の「♪ああ愛こそは幸せの」の「の」は伸ばして歌ってもらいたい派だったので(^^;)、わざとなのでしょうがぶつっと切って歌うのは「ああ苦しいのね」とかつい思っちゃって、毎回引っかかりました。
 スカーレットは、まぁ様の方が姫で高飛車で、カイちゃんはフツーの女子っぽくて、でもどちらもすごく良かったと思いました。どちらも「完全なる無慈悲」と言われるほどツンケンしてなかったのはスカーレットっぽくなかったのかもしれませんが、とにかくどちらも共感しやすく応援しやすく、けれどその愚かさや身勝手さも観客に十分伝わる役作りだったので、幕切れの展開が納得がいきかつ涙し易いという、素晴らしい状態になっていたと思います。
 そろそろ女役とかやらせている場合じゃないんじゃないのというまぁ様はともかく、カイちゃんは『ヴァレンチノ』のナターシャがあったとはいえ本公演でこんな扱いはほぼ初めてだろうという怖ろしいほどの大抜擢だったとも思います。でも大健闘していたと思うなあ。この経験は必ずや血となり肉となると思いますよ。だからこそ劇団も慎重に育ててほしいですけれどね、周りのヤングスター陣も含めてね。
 アシュレは、ともちんはやはりこの夢々しい王子さま役にしては包容力がありすぎだろう、と大劇場観劇時には思いましたが、東京では手袋場面の脱力ぶりなど素晴らしく、卒業の餞としては残念な役・公演でしたが、やはりいいものは見た、という気がしました。
 まぁ様はすごくよかったなー。アシュレとしていいと言うことが宝塚のスター評価的にどうなんだ、という気はしなくもありませんでしたが。
 みりおんはスカーレットをやらせてあげたいところでしたが、さすが達者でしっとり慈愛に満ちたメラニーを演じ切って舞台を絞めていたと思います。
 スカーレットⅡはせーことゆうりちゃん、どっちもよかった! 共にスカーレットと似ていて相性が良かったし、元気で可愛かった。しかし裏表ソングなんかはカイゆうりよりまぁせーこ圧勝だったので、歌はがんばりましょう。
 ベル・ワットリングはキタさん、泣かせました! 歌も良かったし、メラニーに寄付金を届けに来るくだりが絶品でした。「私だって南部の人間だよ!」というドヤ顔、少しのおどけ、メラニーへの甘えと認めてくれたことへの感謝、立ち去り際のスカーレットへの「フン!」…素晴らしかったです。もちろん゜およしよ」も色っぽかった!
 あとはミード博士のすっしぃが色っぽすぎて汚れた白衣姿の腕まくりがたまらなくて、ミード夫人のあゆみさんが久々にしっとりした役でこれまた良くて、さっつんてんれーの南部婦人がまた良くて。
 ルネ、メイベル、ファニーあたりは…まあ…しどころがないよね、という感じ。ともちんだけでなくタラちゃんも9年前と同じ令嬢役なんだそうですね、不毛…
 フィルのモンチはともかくとして、ちーちゃん、あっきーに愛りく、ずんちゃん、それにりんきらとかももっと仕事できますよ、もちろん娘役ちゃんたちもね。次がまた『ベルばら』だからなあ、若手には辛抱のときだけれどがんばってもらいたいわあ。

 フィナーレはタキジャズの金のお衣装で床に寝そべるゆうりちゃん絶品! みんなしてただ8の字に歩くところ最高!!
 セントルイス・ブルースはラストのセリ下がりのギリギリまでのキザっぷり!
 踊るレットと踊るスカーレットの幸福感満載のナイタンデー! でも掛け声はオケの男声にやはり違和感を感じたなあ、アシュレ役者かすっしぃさんでもいいのではないかなあ。
 伝統の振りはすべて初演からのもので、確かに今見ると難しいことはまったくやっていないのかもしれないけれど、そういうことではないのです。品格があり味わいがある、素晴らしいフィナーレだと思いました。
 大空さんも鼓笛隊とかやってたんだよね…じんわり。

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新井素子『イン・ザ・ヘブン』(新潮社)

2013年12月10日 | 乱読記/書名あ行
 最新短編10編に創作の秘密を明かすエッセイも収録した、待望の短編集。

 ものすごく久しぶりのこの作家の本を読みましたが…短編集は33年ぶりだそうですが、そこまでではなくともここ20年くらいは確かにまったく読んでいなかったとは思うのですが…しかしまったく芸風が変わっていないのに驚きました。
 文体、とか作風、とかではない。これはもう芸ですよ。デビュー時点から確立されていた芸風がいい意味でも悪い意味でもまったく変わっていない、稀有な作家なのだなあとしみじみ思いました。
 別にクサすつもりはありません。単純に本当にただただ驚いたので、ただそう記しているだけです。
 そして実は今でもときおり読み返す『星へ行く船』は愛蔵の一冊であり自分のある種の運命を変えたエポック・メイキングな作品でもあり、今なおある種の輝きを失っていない作品だと思うので、私はやっぱりこの作家を評価したいとは思うのです。
 …なんか含みがありそうな言い方になるなあ、なんなんだろうなあ。近親憎悪というレベルではさすがにないんだけれどなあ。
 まあでも今もご活躍で何よりです、はい。

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