駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『PR×PRince』

2019年04月04日 | 観劇記/タイトルは行
 宝塚バウホール、2019年4月2日11時、14時半。

 歴史ある小国ペキエノの宮殿で、大臣たちが騒いでいる。財政難からの脱却のため、ペキエノ出身の俳優を使って観光CM制作を予定していたのだが、俳優にドタキャンされたのだ。困惑する大臣たちのもとに現れた王子の乳母(早花まこ)が、第一王子ヴィクトル(永久輝せあ)の眼鏡を外して撮影現場にむりやり押し入れる。そこに第二王子ヴァレンティン(綾凰華)、第三王子ヴァルテリ(彩海せら)が加わり、華麗なダンスパフォーマンスが繰り広げられ、その様子はSNSで拡散されてイケメンプリンスたちの人気は急上昇。世界中の話題になるが…
 作・演出/町田菜花、作曲・編曲/吉﨑憲治、長谷川雄大。町田先生のデビュー作、ひとこ初バウ単独主演作。全2幕。

 町田先生は平成生まれ、でも宝塚歌劇ファンの年期はあって古い作品やスターにもくわしいらしく、外部のお芝居もよく観に行っている人だそうです。「宝塚で王子というにはあまりにも王道で安易かもしれ」ない、と自覚した上で、それでも、あえての、このコンセプトでのこの作品、だったのではないかな、と思いました。舞台は現代でヤフオクだのメルカリだのといった単語は出てくるんだけれど、環境汚染の解決がこんなふうにうまくいくわきゃないし、隣国との外交の軋轢ったって所詮痴話喧嘩レベルというか小さな誤解、すれ違い、実は愛ゆえだったみたいなことで解決しちゃうので、要するにまったく現実的でない世界線での、それこそ古き良きというか古くトンチキな、ファンタジー設定のおとぎ話ジャンルとして宝塚歌劇にかつてはけっこうあるあるだったものを、今まあまあお洒落なセットとお衣装と何よりキラキラ力が素晴らしい生徒の力を借りて、あえてやってみた、のだと私は解釈しました。イヤもちろん心底コレがやりたかったのかもしれないけれど、それはそれでいいんだけれどでもコレしかできないのも困るので、他にも引き出しあるけどあえてなんですよね?と思いたい、というのは、ある、かな………
 でも、そういうコンセプトが何もないよりは全然いいし、また作家のやりたいことばかりがひとりよがりに突っ走ってて生徒も観客も置いていかれるようなタイプの舞台ではなかったので、まあよかったんじゃないかな、というのが私の感想です。
 ただ、台詞は、なんか聴いていてあまり流れが良くなかったです。戯曲の文体になっていなくて、ダメなラノベみたいだったというか…聴いて届くのと読んで響くのとでは違う言葉が必要なんだと思うので、そこは研究していってほしいかなと思いました。そこは生徒の演技では埋められません。
 ギャグなんかは、逆に生徒がきちんと上手い間を作ってちゃんと笑いを取れていたんですけれどね。
 昭和感漂う大仰な吉﨑メロディの起用はあえてだと思いますし、これもおとぎ話感、非リアリティ感を上手く醸し出していてよかったと思いました。

 そんな中で、抜群の存在感と輝き、フェアリーなんだけど役者として舞台にしっかりと実在してみせる実力をまざまざと見せつけるひとこが、何より素晴らしかったです。もちろんあやなもあみちゃんも、かのちゃんもりさちゃんみちるも素晴らしかった。国王夫妻も三大臣もヴィランズももちろん。あとヴィクトルの影(鳳華はるな)ね!
 スターが演じるんじゃなきゃ成立しない、そういう意味でとても宝塚歌劇らしい作品だと思いました。ある意味で裏の(こっちが裏なんだけど)『20世紀号』と対照的かもしれません。どちらも良き、ですし、宝塚歌劇の懐の深さを感じます。
 ひとこの真ん中力はすごいし、このある種の二役をやりきる力量もすごいし、なんせ顔がいい。ひと頃心配された線の細さもこの作品では感じませんでした。
 かのちゃんは笑顔がいいですよね、そして首筋が本当に綺麗。ポスターも綺麗に取れていますけど、フィナーレのデュエダンのドレスの首筋にチケット代全額ぶっ込めると思いました。歌はまだまだかな、がんばれ!
 あやなはこういう役を振りきってやるのを苦手にしている性格の人なんじゃないかと勝手に思っていましたが、ちゃんと振りきっていてよかったです。スターですもの、どんどん殻を破っていかないとね。華もあるし押し出しもいいし、新公卒業直後は辛抱時期になりがちだけれどそろそろバウ主演だってあるだろうし、さらなる飛躍が楽しみです。
 そしてあみちゃんがイキイキノリノリでこれまたよかった! あとめっちゃ踊れる! フィナーレ釘付けでした。
 りさちゃんがいい仕事をしていて、こういうお役もできるようになると強いよ、いいよいいよと思いました。みちるも手堅い。ふたりともバウヒロイン経験者だもんね、雪組の娘役の層は厚いなあ。
 だから第三王子カップルはこれくらいの軽さでちょうどよくて、でもたとえばヴァレンティンはもうちょっと書き込んでもよかったと思いますね。かなり年上のはずのダイアナ(星南のぞみ)とくっつくに至るのもなかなかドラマチックだったので、もうちょっと芝居のしどころを与え、作品に深みを与えてもよかったかと思います。
 それで言えばヴィクトルも、この二重人格というか分裂症って本当はけっこう深刻な事態なんじゃないの?って気もするし、いわゆる邪眼ネタってファンタジーではよくあるけれどこれは単にイケメンすぎたってことなのなんなの?ってあたりもかなり浅くてやや気になりました。もう少し深く掘ってきちんとドラマを作ってもよかったかもしれません。今、ドラマを一番背負ってるのはリリー(愛すみれ)になっちゃってますからね。
 これもまたベタベタな展開だったんだけれど、でもゴーギャンの絵みたいなアイディアはとても良かったです。
 エル(潤花)がお金持ちの娘だった、ってオチは蛇足というか所詮金かよ!みたいな気持ちにもなってしまうのだけれど、まあお金はないよりあった方がいいんだし、彼らはまず研究への興味で出会ったのであってそこには不純な打算はみじんもない、てか小学生レベルの恋愛を遅々と進めてきたまさしく純粋無垢なふたりなのであって…というのは充分描かれているので、まあいいオマケかな、と思えました。
 そういう意味でもおとぎ話でありいかにもアタマで作ったお話なんだけれど、それをスターが立体化してちょうどいい舞台になっているという、いかにもな宝塚歌劇かなと思いました。もうちょっと冒険してもらいたかった気もするけれど、多分これは性格的なものもあるのではないかな。町田先生の次回作に期待しています。
 そしてひとこは、あーさやあやなの組替えでこのところちょっと役付きが落ちているかなという印象がありましたが、満を持しての初単独主演作がとにもかくにも本人は素晴らしい、ビジュアルも素晴らしい、となったのだから大成功だと思いますし、これを機にさらに躍進していただきたいです。いいタレントですよやっぱり。でも次の本公演はまたしょっぱいのかな、どうなのかな…
 引き続き、注視していきたく思います。






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