駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『WEST SIDE STORY』

2018年08月12日 | 観劇記/タイトルあ行
 梅田芸術劇場、2018年7月24日15時(初日)、25日12時、16時半、29日12時、31日13時、8月5日12時、9日13時(千秋楽)。

 1950年代アメリカ、ニューヨークのウエストサイドでは、若者たちが集まるふたつのギャャング、ジェッツとシャークスが戦いを繰り返していた。リフ(澄輝さやと)をリーダーとし、この地域を支配しているジェッツは、ヨーロッパ系移民の親を持つが自分たちはアメリカで生まれたいわば「アメリカ人」と呼ばれる白人の青年の寄せ集め。一方ベルナルド(愛月ひかる)を中心に置くシャークスは、いずれもアメリカに移り住んできたプエルト・リコの青年たちだ。縄張り争いが続く中、リフは親友トニー(真風涼帆)に助けを求める。トニーはかつてリフと共にジェッツを作ったが、一か月ほど前に仲間たちから離れてドク(英真なおき)の経営するドラッグストアで働き始めていた…
 原案/ジェローム・ロビンス、脚本/アーサー・ロレンツ、音楽/レナード・バーンスタイン、作詞/スティーブン・ソンドハイム、オリジナル演出・振付/ジェローム・ロビンス、演出・振付/ジョシュア・ベルガッセ、演出補・訳詞/稲葉太地、翻訳/ 珠麗。1957年ブロードウェイ初演、1961年には映画化もされた傑作ミュージカル。宝塚歌劇団では1968年初演、1998年、1999年にも再演。今年1月にも上演されたものの再演版。

 初日の感想はこちら、国際フォーラム版の感想はこちら
 今回初めて観た方も多かったのか、前回のとき以上に「宝塚歌劇で観たいものではなかった」という意見のツイートを多く見た気がしたのが個人的には印象的でした。でも私はこの作品が好きだし、宝塚歌劇でこそやる意味があるのではないかな、とも思いました。確かに宝塚歌劇に清く正しく美しく、愛と希望に満ちあふれた作品を望むのは自然だし正しいことだとも思っています。でも私個人は単なる現実逃避としてのフィクションを求めることはほとんどしないんですね。そんなことしたって現実から完全に逃れることなどできないからです。観ている間だけ、そのときだけ逃れられればいいの、みたいにも私には思えない。だから完全に現実から遊離したお伽話の絵空事は楽しめない、そういう寂しいつまらない人間なのです私は。だから宝塚歌劇にもある程度のリアリティとか普遍性とか現代性を求めてしまうんですね。で、『WSS』の物語は、武力闘争とか人種差別とか今なお解決されていない問題がテーマになっているからこそ今もなお上演される意義があるのだとと思うし、ぶっちゃけアニータ(桜木みなと)の輪姦といった性暴力、もっと言って作品の全体的なトーンにある女性差別、女性への人権侵害に関してはもう現代日本では最近やっとやっと顕在化されてきたもののまだまだまだまだ認知も怪しく解消へはほど遠い状況なので、なおさらどんな形であれ訴え続けていかなければならない問題なのだろうと思うし、けれどそれを現代演劇で男優にやられるとかえってげんなりする部分があると思うので、全出演者が女性であるここで古典ミュージカルの再演という形で演じられる方がまだ救いがある部分があるのではないか、と私は考えているのです。
 とはいえ実は贔屓出演により私の視界はかなり狭かったので、今回は作品そのものへの考察は意外とできないままに終わってしまった印象でした。チケットが余っていたわりには配席があまり良くなくて、親友と観た一階最後列ほぼどセンターのときが最も舞台全体が観やすく、ノーオペラができました。距離はあるし梅芸一階の通路から後ろはA席にしてもいいだろうとも思うけれど、たとえばのちにもらった二階最前列サブセンターなんかよりも私はこちらの方が好みでした。あとはたいてい二階前方列だけどかなり上手か下手寄り、の席ばかりで、三階バルコニー席なんかは見切れも激しかったし、いずれも舞台からはかなり遠いのでオペラグラスが手放せない鑑賞になってしまったなあ…という結果だったのでした。やはりなんとか自券を調達して一度はいい席で観たいものです…
 ま、作品そのものについては前回わりと語りましたしね。なのでよかったらそちらも参照してくださいませ。でもリフというのは本当に大きなお役で、ルドルフロドリーゴもそりゃ大きかったんだけれどお話の根幹には実はそれほど度大きく関わってはいなかったかなとも思うのだけれど、リフは出番はほぼ1幕だけなんだけれど1幕でのその運動量はぶっちゃけ主役を凌駕しているとも思うし、物語のめっちゃキーパーソンなので、いくら全体が見えていないとはいえリフを通して感じたことはやはり多く、それは最後に語らせていただきます。
 なので、まずは、キャラクターというか、中の人の感想などから始めます。

 トニーのゆりかちゃんは、お披露目本公演を経てさらにピュア度が増しましたよね。良き良き。ゆりかちゃんは、スターとしてのニンはもっと大人の渋いタイプの男にあって、少年ギャングよりはもっとゴッドファーザー的な、スーツの裏社会の…みたいな方が似合いそうな気もするのですが、中の人は意外とのほほんとした好青年(イヤ女性なんだけど)だってこともファンはみんな知っているので、ロミオ系のこういうお役も意外ときちんとこなすんですよ。でも、前回より明らかに「ピュア」の見せ方が上手くなっていたと思いました。歌はそんなに上達していないな、と私は思ったんですけれど(^^;)、まあそれは仕方ないことでしょう。てかトニーとマリア(星風まどか)の歌って本当にオペラチックで、それを女性同士でハモろうとしたら上下の音が大変なことになるのはあたりまえなんですよね。出ていない音は楽器がよく支えていたと思いました(^^;)。
 そしてマリアのまどかにゃんは上手くなっていたと思いました! イヤもともととてもできる子なんですけれど! 丸顔なので幼いキャラかと思われがちですが、声が深いし、意外と大人っぽい芝居の方が上手いタイプですよねまどかにゃんは。でも若いユーリを経てまた若いマリアに戻って、でも前回のマリアよりより深く賢く強いキャラクターを打ち出せていたと思いました。歌もそれこそもともと上手いんだけど、さらに任せて安心になっていました。初日から少しの間はやや喉に負担がかかりそうな歌い方をしているようにも思えましたが、中盤ではそんなことはなく、終盤ですごくカマした回もあったそうでしたが千秋楽はなんの問題もなく、とてもよかったです。
 ベルナルドの愛ちゃんは、声の特徴がやっぱり損に出ている気がしましたし、大きなナンバーがあるわけではないので出番的にも損しているようにも思えましたが、存在感の濃さ熱さはさすがでしたよね。ベルナルドが単なる敵役に見えないことはこの作品において重要なことだと思うのです。彼らへの差別は不当である、と観客に思わせなければならないんですからね。ちょっと古臭いかもしれないけれど家族を大事にする、女性のこともある意味で大切にしてくれている価値観の男たち。アニータだって彼を「小僧」と呼ぶ一方で「アメリカ人」になってもらいたくて、揺れているんですよね。ベルナルドがこの国に来た最初の日に誰かがつっかかっていったのではなかったなら、優しく手を差し伸べていたのだったら、世界は変わっていたのかもしれません。それくらいの度量がある男に、愛ちゃんはきちんと演じていて素晴らしかったです。あとホント脚が長い! それはまあ全宙男デフォルトみたいなもんなんだけれど、スタイルの良さに心底惚れ惚れしました。決闘での居方もいいし、倒れる姿も素敵でした。
 アニータのずんちゃんは、以前は私は「ちょっとおばちゃんっぽいかも」みたいな評価をしてしまいましたが、要するにそらよりちょっと大人に見えた、ということなのかなあ、ともあとあと思いました。たとえばアニータがマリアに男という存在について牽制したり揶揄したりするくだりも、それは彼女が身をもって得た知識なのだろうと思えたり。ずんそらなんて一期しか違わないのに、そらアニータはまどかマリアと歳はそんなに違わないのに性格とかがお姉さん的存在、というキャラクターに見えて、私の中のアニータ像と合致しやすかったのかもしれません。あと、両方を観た親友がそらアニータはこのあと、ニューヨークでそういうお店が成立するのかわからないけれどいわゆるクラブのママみたいなものになって、水商売であれ経済的に自立してある程度優雅にやっていきそうだけれど、ずんアニータはまた別の男と恋をして結婚して妊娠して毎年のように子供を産んでその男に死なれたらまた別の男と結婚して妊娠して出産して、そうやって10人とかの子持ちになって、でもどの子供もまっとうに育たず子供にマイナスのバイアスをかける毒親になっちゃいそう…と言っていたのがなかなか印象的で、そういう印象の違いもあったのかなあと思いました。
 トニーがブライダルショップに来るのを待ってマリアがアニータに言う「先に帰っててケリーダ」をアニータが繰り返して冷やかして見せるとき、そらアニでは毎回笑いが湧いていたのにずんアニはそうでもなかったのは気になったかな。
 あと、すごく細かいことなんですけれど、例のシーンでずんちゃんはほぼ右膝を折っていて足首は左足の下に回っていて、つまり両脚が4の形になっていることが多かったんですけれど、私はこれでは駄目だと思ったんですよね…ヒドい話で申し訳ないんですが、でもここは気になりました。
 しかしホント脛が長い美脚で、「アメリカ」は堪能しました。でもじゅりぴょんは自分たちのときより振りが易しくなっていると言っていたなー(笑)、ホントかな? でもそれがジョシュア先生の振り付けだからなー。
 チノは続投のりく。ラストの芝居は毎回本当に素晴らしかったんだけれど、千秋楽はことに、マリアに拳銃を渡すあたりからの動揺と涙顔への変化が激しくて、胸をつきました。すぐにフィナーレで明るい笑顔で出てくる切り替え、毎回本当に大変だったろうなあ。でもやっぱりフィナーレがあって救われますよね。1幕ラストなんかは拍手したくないくらい、どーんと暗くなって終わるのが正解、と思っているクチなんですが、2幕はね…暗く重いまま一度緞帳は降りるんだから、そのあとは明るいカーテンコール、サービスタイムのフィナーレで言い、と思うのです。りくはナウオンなんかを見ていてもすごく役を引きずってそうで、それだけ深く役を理解し役を愛して生きているということなんだろうけれどなんか哀れで心配で、、でも無事の完走を今は祝いたいです。
 クラプキのりんきらは、私は役不足かなと思わなくもないんだけれど(りんきらのシュランク、すっしぃのドクも観てみたかった)、まっぷーとはまた違うチャーミングさと嫌みったらしさがよく出ていて、素晴らしかったと思います。
 ぺぺさお、ディーゼルかける、スノウボーイかなこは続投で任せて安心。てかかなこ茶で、スノウボーイはトニーとリフと喧嘩してそこからジェッツに加わったとかなんとかな設定があるとかないとか話に出たと漏れ聞くのですが、そこんそこもっとくわしくプリーズ…! 「やるな、おまえ」「おまえもな」からのガシッと握手、とか、そんななの!? どうなの!? ときめくわー。てかジェッツもシャークスも役作りの話をみんなからもっと聞きたかったわー、なんで別箱公演って宝塚ニュースのSSWコーナーないの…!?(ToT)
 エイラブまりなはやっぱり声があんまり良くないのが残念だったんだけど、エニボディーズ(ところで前回この役の意味がわからないと言った私ですが、これまた親友が、トランスジェンダーということではなく男の世界に入りたがる女、という意味では今でいうキャリアウーマンというか、ガラスの天井にもがき苦しむ女性像なんかに当たるのかもしれないと言っていて「ほう!」となりました)へのなんというか残念な片思い感がにじみ出ているようなのはよかったかな。アクションあーちゃんも一本調子でうるさいよ、と当初は思えたのですが、いかにもアクションっぽくはあるしこういう子ってもちろんいるしチームの中にそういうキャラを抱えたときにリーダーがそれをどう抑えるか、って問題でリフがまた違って見えたので、結果的にはよかったのかもしれません。そしてそれで言ったらビッグディールのりおくんですよね! モンチのビッグディールも良かったけれど、りおくんになってよりシュッとして見えてでも単なるメガネくんキャラではまったくなくて(それはグラッドハンドのあちゃぴなくんがやってくれている。こちらも好演でした)、私の中では中の人のイメージもあってスノウボーイがけっこうトンガった切れキャラなんですけど、そんな彼といつも対になってけっこう喧嘩ふっかけてまわる困った面もあるような、要するに実はけっこう暗い屈託がありそうなキャラクターに見えて、密かに萌えていました実は。アニータに対してもけっこう当たりがきついし、紳士的では全然なくてむしろ女嫌いっぽそうな、「クラプキ巡査殿」でふざけて女装の真似事をするのが余計にそれっぽい、要するに無自覚のゲイっぽい空気すら私は勝手に感じていて、そしてこれまたりお茶でビッグディールはトニーよりむしろリフがいたからジェッツに入ったんだとかなんとか言ったとか言わないとか漏れ聞くともうマジでソコもっとくわしく…!となりました。そんな彼だからこそ、ラストのラスト、トニーの葬列に加わらずに立ち尽くし、すがりついてくるヴェルマに手を回すんですよ…!!
 きよとどってぃの屈託のなさやなごやかさやキュートさに毎回癒やされましたし、シャークスならなっつ、ナベさん、りっつにアラレと絶対この子たちいい子…!って気がしたし、琥南くんのスタイルの良さは常に目を惹きました。ロザリアきゃのんの安定感が頼もしく、しぐれちゃんりずちゃんの黒塗りの美しさといったらハンパなく、さよちゃんは歌も芝居も絶品で、ヒロコちゃんはホントに美人で可愛くて、さらちゃんのダンスの素晴らしさに毎回見惚れていました。
 グラツィエーラには私はずっとゆいちゃんの面影を追ってしまっていたのだけれど、千秋楽の「サムウェア」でのまりあちゃんのアラベスクの美しさに「お見それしました!」となって泣きました。そこから千秋楽は、まりあとアニータの号泣デュエットも熱かったしマリアの死を聞かされてチノを呼び求めるトニーの声の揺らぎ震えもすごかったしマリアに拳銃を渡してからのチノの泣き顔もすごかったしマリアの「触らないで!」の咆哮もすごかったし、泣きっぱなしでした。
 いい公演だったと思います。

 さて、では最後にリフあっきー語りを。
 初日の「Jet Song」はねー、もともと拍もメロディも難しい歌だとは思うんですけれど、音響との不和もあって私には本当に不安定に聞こえて、ずんちゃんのときのここでの「ミュージカル、キターっ!」って感じをすごく覚えていたからこそものっすごく不安になっちゃったんですよね。「Cool」はよかったんだけど。というかいつもいつも心配しすぎて見守る体勢になるのをやめたい、もっと陶酔して観ちゃった方が楽なのに多分それは私にはできない…という、いたって勝手な自分都合の葛藤を日々抱えての観劇でした(笑)。
 でも、冷静に考えて、公正に見て、よかったと思います。これまた親友が、国際フォーラム版の方が海外ミュージカル色が強くて、梅芸版の方が宝塚歌劇色を強く感じた、と評していたのですけれど、それは彼女にとっても親友の贔屓が出演している舞台を観るんだからよりスター色というか生徒の色を感じるバイアスもかかっているんだろうけれど、フォーラム版の方が技術的なクオリティは高かったかもしれないけれどだからこそ作品そのものの強さ素晴らしさを強く感じてしまい全体がそこに寄与して終わり、みたいに見えたのが、梅芸版では役と役者の個性が際立って見えたしロマンチック度やラブ度が増して見えて結果的に宝塚歌劇として楽しく観られた気がする、というようなことを言ってくれて、単なる出来の上下といった意味ではなくて安心しましたし嬉しかったです。そしてそれはやっぱり、ロイヤルの申し子みたいに言われがちなあっきーが(笑)リフを好演してみせたからこそのことだったのではないかしらん、と思うからです。
 中年女性のエジプトの王太后から、マンハッタンのやんちゃなハイティーン青年へ。ダボッとしたデニムを腰履きしてもまだまだ脚は長くズボンの中で脚は細く泳ぎ、だけど生来のがに股がいい感じにこの時代のこうした青年のやんちゃ感になっていて、コンバースのベタ靴履いててもスラリと背が高く、けれど補正が決まってスタジャン姿もスーツ姿も細すぎてはかなくてぺらっぺら、なんてことはない。無骨さもあるワイルドさとちょっとの洗練されたスマートさが、一世代早くアメリカに移ってきているアメリカ生まれアメリカ育ちの垢抜けた感じを表していました。
 そしてまごうかたなきリーダーっぷりが素晴らしかった! みんながキラキラした目で集まってくれるから(お茶会でのトークによればフィンガースナップからの地面指差しでみんなが集合してくれるのが気持ちよくて仕方ない様子でした。カワイイ…)、っていうのもあるけれど、黙って立っていてもちゃんと彼がボスに見えました。もっとガタイがいいディーゼルがいても、もっと熱そうなアクションがいても、もっと賢明そうなビッグディールがいても、リフがリーダーでした。集合をかける台詞が走りがちで最後まで聞き取りづらかったのは残念でしたが、いいんですボスなんですボスの指示はみんなにはすぐ伝わるんです!
 そしてトニーに対してもあくまで対等かむしろ偉そうな感じなのがまた良かったです。「おまえが来るってみんなに言っちゃったんだよ」は後半はかなりしょんぼりわんこモードでしたが、前半はけっこう不承不承というかホントにブーたれててめっちゃ可愛くて、でもトニーに甘えたりすねたりしているというよりは本当に怒って見えるのがよかったんですよね。ずんちゃんリフはやっぱりトニーの弟分に見えましたが、今回のトニーとリフは本当に兄弟同然の親友で歳も同じかかなり近く見えましたし、なんならジェッツを始めたのは最初っからリフに見えました。ずんリフだと、トニーが始めてトニーがいた頃はリフが副官で、今はトニーが引退気味だからリフがリーダーを継いでいる、ように見えた気がしますが、今回のあきリフの突っ走り方とトニーのいなし方を見ていると、トニーがいた頃もトニーが副官でリーダーはずっとリフで、だから今は副官の位置は空位なのかな(プログラムではディーゼルということになっているんだけれど、戦争会議ではアクションが立っています)、と思えました。
 こういうまかあきが新鮮でしたし、スター事情を考えてもまた組み合わせの妙や映りの良さを考えてもここには金鉱があるので、劇団にはゼヒともここを深く広く掘ることを全力でオススメします! てかトップスターをちゃん付けして呼ぶ別格上級生スターがいることって、今の月組みたいにそもそもトップスターが若いということ以外ではなかなかないレアケースなのですよ!! 貴重なの!!! あと中のゆるさが共通なのもツボでしかないと思うのですよ! 掘って!!
 リフは両親を失っていて、でも伯父に引き取られるのが嫌というなんらかの屈託を抱えていて(この伯父貴って絶対すっしぃさんの二役ですよね、そんで児童性的虐待とかしちゃうやつですよねリフはそれから逃れたいんですよね絶対です)、遠い親戚ではあるのかはたまた全然血縁ないけどトニーの両親が引き取ってくれたのか、とにかく親友の家に転がり込んでいて家族同然に暮らしてやっと居場所が得られた気でいるんですよね。そしてジェッツの仲間たちがよりどころ、彼らといる街のシマが居場所。今までトニーに何かを頼んだことなんかなかったのは、常に一心同体でいちいち頼まなくてもお互いの志向がわかっていたからです。今だってきっと、リフは毎晩気持ちよくグースカ寝ていて(なんならヴェルマといちゃつく夢を見ている)トニーが手を伸ばして夜中に目を覚ましていることなんか知りゃしないのです(この時代、この層の住宅事情を考えれば彼らは同室で暮らしているのです絶対です)。トニーが真面目に働き出してもどうせ続きゃしないと思っている、ある意味のんきでまっすぐな青年で、礼儀を守ろうとする固い面もあったりする若者です。
 でも伯父貴への屈託はそのまま大人への憎悪に通じているのか、リフはベルナルドよりシュランクやクラプキを憎み嫌っているように見えます。だからそこでベルナルドたちと共闘できていたらよかったんでしょうけれどねえ…でもおそらくリフたちの親世代は移民してきた当初とても差別され苦労させられていたのだろうし、それを見て育った彼らは同じことをプエルト・リコ移民に対してしてしまうのです。
 戦争になぞらえるような決闘なんぞしなくても、バスケットボール対決でもダンス対決でもよかったのに…とドクでなくとも思わないではいられません。つーかヴェルマとアニータのダンス対決でよかったと思うよ…
 マリアが「私、アメリカのレディになるんだもの!」と言いアニータが「私はもうアメリカの女だから、男なんか待たない」と言うそのアメリカの女に一足早くなっているヴェルマですが、しかしこれがまた基本的にいつも不機嫌そうでつんけんしているのがいいんですよね。性格の問題もあるのかもしれないし、女友達と集まってアタマ空っぽな女の振りして笑ってみせてもいるんだけれど、いつもブーたれていて不満そうなのがいいんです。彼女にも屈託があって、別にアメリカの女の全部が全部幸せなんかじゃない、アメリカって別にゴールじゃない、ってことをきちんと体現してくれているところがとてもいいと思います。ちっちゃくても強いエビちゃんヴェルマがプンスカしているところに、そういうことにはあんまり気づいてなさそうなあきリフがヘラヘラすり寄ったり無造作に肩抱いちゃったりする感じがまたとてもいいわけです。
 私は男役と娘役の身長差に萌える、というのがあまりなくて、むりやりに身長差を作らなくても男女の差は表現できるだろうと思っているし、男が大きくて強くて女が小さくて弱いのがいいみたいなのはむしろなんか嫌なんですね。話はズレるでしょうがフィギュアスケートのペア競技もマッチョな男性選手と子供みたいな女性選手、の組み合わせになるじゃないですか。そういう競技だから仕方ないんだけれど、ならば私は身長も体格もむしろ近いくらいの男女ふたりがカップルを組むアイスダンスの方が好みなんですね。宝塚歌劇においても、娘役の身長の低さを美点とするような空気はどうなんだ、と思っていましたし今も思っています。しかしこのリフヴェルは…バランスとしても素晴らしかったですね!(手のひら返し)実際には同期って今も今までもダンスも芝居もあまり組まないものなんですけれど(路線であればなおさら)、こうしてがっつり組んで踊って息ぴったりなところはさすが上級生という気もするしさすが同期とも思えました。体格が全然違うのに振りが揃うし、リフが半円になった仲間たちとハイタッチして回っている間にその半円の中心でかがんで回転していたヴェルマがパッと腕を伸ばすとそこにリフが来て手を取って引き上げる、そのくだりが最高に好きでした。
 前回の月組、星組公演ではリフの恋人はグラジェラだったんだけれど、どういう改変だったのかしら…そしてずんリフをいい男に見せていたエビちゃんはさすがでしたが、今回も本当にこのヴェルマのおかげでなおさらリフがいい男に見えていたと思うので、素晴らしかったです。「Cool」のラストでリフの左脚に手を回して下から仰ぎ見てキメるヴェルマ、カッコよかったなあぁ!
 そしてあきリフは愛ちゃんの濃く熱い役作りのベルナルドともすごく映りが良かったです。ドラッグストアでシュランクに踏み込まれて、一瞬の共闘を見せるんだけれどそれでも、というかそういうことができても結局は、やっぱり話が通じないんだろうなこのふたり、って空気がちゃんと作れていたと思うんですよね。
 だから決闘で、結局リフがジャンパー脱いでナイフ抜いちゃうのも、トニーのためとか親友を馬鹿にされて怒ってみたいな生ぬるいものじゃなくて、もう生き様のぶつかり合い、みたいなものを感じました。ジェッツのために、リーダーとして、自分自身のプライドとして、ここで立たなきゃ男じゃねーだろ!ってキレてるんだと思うんです。そのトートツさにこちらが毎回新鮮に驚けるくらい、中の人は毎回真剣にリフを生きていたんだと思うのです。もうだからそういうこと含めて全部、とても彼らを愚かだとか思えませんでした。そして筋なんかわかりきってるのに、やめて!と毎回目を覆いたくなっていました。でも、物語はわかりきっている展開をしていってしまう…
 ゆりかちゃんがお茶会で言っていた、決められたサスライトのちょうどいいところにリフを横たえる「大役」と上ズレ(位置が上手側にずれることをこういうらしい)の話はめっちゃおもしろかったんだけれど、ここでのリフの横たわり方というか身体の伸ばし方がホント優雅なにゃんこのようでもあって、実に美しかったですよね…
 2幕は「サムウェア」の幻想をぶった切るシビアな登場で(ジャンパー姿だった国際フォーラム版から出血跡バッチリのシャツ姿になって痛々しさ倍増。いい改変です)、無表情なのがまたいいんですよね。当人はその前の場面が美しすぎて出ていきたくないそうですが…いやいややはり人の命は重いものなのです。そう簡単にはいつかどこかでどうにかして…なんて、得られないものなのです。
 チノがトニーを撃った銃声で集まる人々の中に、リフのジャンパーを羽織ったヴェルマがいます。あのあと、パトロール警官が高架下でふたりの遺体を発見し、遺体は警察に収容され、リフの身元引受人としてはトニーの親が呼ばれ、トニーママがヴェルマに連絡したのでしょうか。ジャンパーは遺品として下げ渡されたのでしょうか、それとも誰かが持って逃げてこっそりヴェルマに届けて伝えたか…
 これまたじゅりぴょんのトークショーで(「樹里咲穂の宝塚歌劇を愛でる会」の『ウエストサイドストーリー』を考える回に参加してきたのですが、これが抱腹絶倒のトーク&ライブだったのです)前回星組版でシャークスの女だったキンさんが、マリアが「私たち全員でこの人を殺したのよ」って言うけど、ワタシ全然悪くないって思ってた、って言ってたのがものすごくおもしろかったんだけれど(すみませんレポ禁なんだけどもっとヤバい話は黙ってるんでここは許してください)、確かに彼女からしたらトニーって悪いヤツでチノが復讐するのも当然で、そりゃ血で血を洗う復讐にゴールなんかないし虚しいとか良くないことだと頭ではわかるかもしれないけれどその責任の一端が自分にあるなんて思えない、ってのは残念ながらすごくリアルな感情なんじゃないかなと思うんですよね。彼女たちからしたら敵方のトニーと恋に落ちたマリアの方が悪いし、理解不能なんでしょう。
 でも、ヴェルマにはマリアの叫びが届いたと思います。あまつさえマリアはリフの名を挙げましたからね。「私たち全員でこの人を殺したのよ。兄を、リフを!」と。恋人を殺されたという点でヴェルマもアニータもマリアも同じです。でもそれは殺した相手が悪いというよりは、憎み合い殺し合うことしかできなかった男たちの愚かさが悪かったのだろうし、彼女たちは聡明ですから三人ともそのことがわかっていたことでしょう。だから相手を憎むとか恨むとかより、ただただもうすべてが虚しかったに違いありません。
 そしてビッグディール。「もうこれ以上は…」とアクションを一度は止めかけた彼もまた、結局は流されてしまいました。彼がトニーの葬列に加わらないのは、当初は呆然としすぎていたためかとも思いましたが、その後ちゃんと反応するくだりがあって、そして彼はそこに残ることを選んで立ち尽くしているんですよね。彼には思うところがあって、単純に改悛し葬列に加わりそれですべてをなかったことにする、みたいな安易なことができなかったんだと思うのです。彼は違う責任の取り方を自らに課したのでしょう。それくらい、リフを、トニーを、愛していたのだと思います。そんなビッグディールに、最後の最後にヴェルマがすがりついて泣く。彼が彼女の身体に腕を回すように上げるうちに、幕…
 シャークス側にも葬列に加わらず残っている男たちが何人かいます。それはひとつになって、後悔して、謝罪して、ハイ手打ち、ハイ平和、なんてありえない、そういうことを表しているようにも思えます。そして女たちはマリア以外はみんな残っています。それもまた何かを表していると思うのです。もしかしたらここで女たちが、もう愚かな男たちの争いごとなんかにつきあわない、って宣言して離反してしまえば、また違うかもしれないのです。でもマリアはすでについていってしまっている。そこにもまた断絶があるのです。
 カテコでゆりかちゃんは愛と平和を訴えていましたが、平和は結果的に訪れるもので、まずは愛と理解と寛容が求められるのかな、とか私は思いました。でも、ことがここまで至らないとそれがわからない人もいるし、ことここに至ってもわからない人がいる、ということを見せつけて、この舞台は終わります。なんというシビアさ、なんというリアル。そして、それでも…と未来への希望を捨てられない私たち観客が残される。この舞台を観てこのメッセージを受け取って、さあどう生きる何をすると問われているのでした。
 だからこそフィナーレは必要で、ヴェルマが脱いだジャンパーを着てリフが袖を走って再び出てくるのだ、ってなプチ情報も私たちには必要なのです。ドラッグストア場面のあとハケてきたずんちゃんを愛ちゃんが袖で待っていて抱擁している、とかね。大事。でないと心が折れちゃう。
 あのしんどい本編のあとに晴れやかな笑顔でフィナーレを展開してくれる組子の底力ってすごいし、踊るベルナルドとアニータをジェッツもシャークスもなく盛り立てて騒ぐこの光景こそ「サムウェア」なんだと思えるし、明るい青空の下に笑顔で出てくるトニーの広げられた両腕と広い胸に希望を見られます。そしてみんなが手をつなぐ…その手を放さずにいれば、いつか、きっと。
 やっぱり、いい公演でした。いいお役でした。
 大空さんは結局観てくれたのかなあ、フェスタで宝塚に来ていたのになあ。スカステでのトークDXは『天河』公演中の収録でしたが、大空さんが『神土地』のコンスタンチンについて言及してくれたときの言葉が本当にツボでした。まあ宝塚歌劇によくありがちな、真面目でちょっと気弱で優しい、みたいなキャラクターなんだけれど、役を単にそういう類型的なものにしないで、その人が演じていてその人の個性がにじみ出ることでそのキャラクターが物語の中の男性像として魅力的になること、それができるのがいい男役だ、みたいなことを言っていて、宝塚歌劇の作品の中に「男」を求める姿勢が大空さんっぽいと思ったし、その文脈で贔屓の演技を褒めてくれたときにはもう膝を打ったものでした。そうよそうよそうなのよ、そういう役が似合いそうだし簡単にできちゃいそうに思われがちだったけれどそれを押してなおそれ以上の魅力があの役では出せていたと思うのよ、そこをわかってくれる人がいて嬉しい! さすが私の元贔屓!!(「元」なのかという突っ込みはナシで)
 そしてリフにもそれはあったと思いました。あっきーがやったからこその、単なるリフというキャラクターというだけではない男としての魅力が、あったと思うのです。
 あとは「正統派」という言葉もドンピシャで嬉しかったです。そういう意味ではこのふたりは、普段のテンションが低かったりガツガツっ気がマイナスだったりとかは似ているかもしれないけれど、大空さんはやっぱり正統派ではないところがよかった気もするのでそこは似ていなくて、そしてあっきーのその正統派っぶりってあっさり路線に乗っていたならまだしもことここに至っては要するに弱いってことだと捉えかねられないものなんだけれど、でもホントそうとしか言えない特徴だと思うので、ズバリ言ってもらえて本当に嬉しかったです。これはもう本当に、純然たるタイプの問題だと思います。
 思えば私がきちんと見てきた間だけでも、ゆるゆるとでも変化していて進化していて、日々本当に楽しそうだしあんなにぺらっぺらなのに強いし元気だし、いろいろ案じつつも安心して楽しんで応援できていることには感謝しかありません。パーティーも楽しかった!(笑)二度と着ないままに水玉ワンピをしまい込むことになろうとも、なんの悔いもございません。
 真冬の『不滅』の梅田も楽しかったけれど、今回の真夏の梅田もたいそう楽しかったです。仕事はめちゃくちゃ忙しい時期でしたが、台風などに邪魔されることもなく予定どおり通えて幸せでした。千秋楽出待ちに招集をかけてもらった集合日は行けなくて申し訳ありませんが、あの世界一カッコよかったフィンガースナップからの地面指差しを反芻して次の初日まで生きていきたいと思います。
 てか今からでも舞台写真くらい出してくれていいんですよ劇団…そこは交渉できたんじゃないの…?(ToT)スチールだって…主演ふたりが同じだから出さない宝塚ルールってだけで、そこは著作権は関係ないと思うんですよね。会販の写真めっちゃいいよ…? そりゃ舞台は生ものだし生が一番ですけれど、よすがってものも必要よ…? そのあたりだけが、残念だったでした。
 あとは、トニーとリフが同居することになった前後のいきさつとか、リフがヴェルマを口説いて口説いて口説き落としてつきあうことになったのかなとか、勝手スピンオフを脳内で創作してロスを慰めますね。下手なパートナーと仏頂面ででもキレッキレに踊るヴェルマに一目惚れして勝手にカットインして踊って怒られてひっぱたかれたところから始まるとかどうかな、とか。夜中に何かに手を伸ばして起きたトニーが隣のベッドでクースカ寝ているリフの平和な寝顔にイラッとして鼻つまんで起こしてそこから枕投げになって大騒ぎしてトニーママに叱られる一夜、とか。トニーの服を勝手に着てめっちゃ怒られるリフとか。お互いジーンズ取り違えて履きかけて「でっか!」「きっつ!」ってなってるふたりとか。リフの苦手なものをママの目を盗んで食べてあげるトニーとか。リフが端から散らかす部屋を片付けて回るトニーとか。…だんだん単なる中の人エピソードになってきた気もするけれど、そういうのです欲しいのは…ああ、一生妄想できるな(笑)。そんな作品を、本当にありがとうございました。





 




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