駒子の備忘録

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月『エリザ』初日雑感~再びしつこく私のエリザ論

2018年08月25日 | 日記
 月組『エリザベート』大劇場公演初日(2018年8月24日15時)を日帰り遠征してきました。
 なんと言っても開演アナウンスの主演の名乗りに気持ちよく拍手できるのがいいですよね! これは初日と千秋楽(と新公)だけのもの、あとは指揮者に拍手するだけ、ってのが宝塚歌劇の古き良き伝統だと私は信じているので、最近通常公演の通常回でも起きる拍手には違和感しかありません(お披露目公演の通常回はギリ許せるかも…とかちょっと前までは思っていましたが、今やホントになんでもかんでも入るんだもん!)。ただ、それだけニューカマーが増えていて自然にやっちゃうってだけだろう、それ自体はいいことなのであろう…と思ってはいますけれどね…
 さて、宝塚歌劇では記念すべき10回目の公演で、これが史上最も下級生のトートと史上最も長く主演娘役を務めてきたシシィてせの上演となるそうです。月組では2005年2009年に上演されていて9年ぶり、前回の2016年宙組から2年ぶりの再演。
 ちゃぴのサヨナラ公演ともあっていつにもましてチケ難で、私もあとは友会が当ててくれた東京初日しか現時点でチケットを持っていません。この初日もすごくツテをたどって人に頼みました…オタクとして役替わりは観ておきたいので、これは取り次ぎ頼みと友会二次頼みですが、なんとかしたいと思っています。
 でも、逆に言えば、それで十分かな、とも個人的には思うのでした。やっぱりもう一生分観た気がするし、結局のところ個人的にはそんなに好きな話じゃないし、楽曲はともかくテキストはそろそろ力を失ってきた気がするし、なのであとはファンの方にお譲りします…という気持ちなのです。鬼リピートする意味を私は感じない。初日を観たくて観られなかった方、観たいと思いながら現時点で観る算段が整っていない方も多いでしょうから、ツイッターで言うのははばかられましたが、ここでは自分の現時点での本心として、記録しておきたいと思います。
 もちろん目新しさはありました。この人がやるとこの役はこうなるんだね、というような。でも台詞も音楽も演出もお衣装もセットも大きな変更はなく(お衣装の新調はもちろんありましたが、同じコンセプトの中でのブラッシュアップやバージョン違いのものばかりだったので)、演目としてもうできあがりきっている印象でした。もちろん月組のこと、お芝居がより深まっていきどんどん印象が変わっていくことはありえるでしょう。でもそれはファンの方々に追っていただいて、チケットもないし私は遠慮しますね…という心境なのです。愛がないところには冷たくて申し訳ない。いやちゃぴには泣いたし珠城さんの愛情あふれるトートには感動しましたよ? でも結局私が観たい『エリザ』は今回も観られそうにないということが確認できたので、なので私はもういいや、と思ってしまったのでした。不遜な物言いで申し訳ない。しかしお金も時間も有限なのです。ちなみに私が観たい『エリザ』論はこちら
 あと、新作オリジナル主義を掲げて100年以上やってきて、結局のところ代表作と言われドル箱とされるこの作品が所詮は海外ミュージカルの翻案でありオリジナル作品ではないのだけれどそれで本当にいいの劇団?という残念感も引き続き感じています。トップ娘役の花道となる作品が他にない、ということにも絶望している…未だ世間一般の人が知っているのはあとは『ベルばら』くらいで、それも漫画原作じゃないですか。そこも憂えているのですよ、だって私は宝塚歌劇のファンだからね。そして『エリザ』のファンではないのでした。
 前書きに結論を書いてしまって、読んでしまってご不快になられた方にはすみません。以下は生徒の各論など語って、あとはマイ楽後にまたまとめた記事を書きたいと思っています。おつきあいいただけるなら嬉しいです。

 さて、珠城さんのトートはスカステのお稽古場映像での目つきがすごくよかったので、このまま短髪でいけばいいのに…と思いましたがやはり今回も叶わずでしたね。そういうところだよイケコ…それはともかく、強いメイクにしていましたがやはりどかんと体格が良く明るく温かいオーラは隠しようがなく、なのでむしろ愛情あふれ表情豊かな、だけど冷酷なところももちろんある黄泉の帝王、というものをちゃんと作り上げられていたと思いました。よかったです。
 歌も大健闘していて、これは前回のまぁ様のときも思ったけれど、どんなトレーニングをさせられるのかいわゆる歌手じゃない生徒も『エリザ』では格段に歌が上手くなりますよね。珠城さんはまぁ様ほど確変した感はなかったけれど、私の愛する上がりきらない音(笑)あたりのごまかし方というかフォローの仕方がかなり上手くなっていて、全観客がほぼストレスなく聴いていられるようになったのではないでしょうか。なんてったってファンもくわしい演目なので一音外したりリズムが狂ったりするだけで引っかかるという、おそろしいものですからね…
 ただ、これまた直近のまぁ様との比較ばかりで申し訳ないのですが、「最後のダンス」の爆発力が意外とないなと思いました。前回の初日ではここでまぁ様が乗ってきたのがわかったし(まあダンサーだからかもしれませんが)、客席もあったまってきて一体化して、自然と弾けるような拍手がわいて緊張が解けて、「ああ『エリザ』ってここまで拍手入れるところがないんだ!」ってことに逆に驚き感動したくらいだったので(みりおのときによく入った「またの名を死!」での拍手を私は憎んでいます。いらない!)、今回はその熱を、パワーを私は感じなかったのです。というか珠城さんってダンサーでもないから、こういう踊りを見せるのが意外と難しいのかしらん、とさえ思いました。実はフィナーレにもそれを感じて、もちろん振り付けの問題もあると思いますし『BADDY』が良すぎたってのもあるかもしれませんが、正直ちょっとピンとこなかったんですよね…残念。
 まあでも全体としてはやはりお芝居が良くて、相手の言うことにちょいちょい反応して変わる表情がとても雄弁で楽しいし、ルドルフに対してけっこうクールなところもツボでした。千秋楽まで、がんばっていっていただきたいと思います。

 ちゃぴシシィには泣かされました。当人がことあるごとに好きだと言っていた「パパみたいに」が本当にとても良くて! 子役がしんどかったりただ少女らしくリリカルに歌われるだけのことも多い場面かと思いますが、ものすごくドラマとキャラクターを感じました。マックスを史上初めて組子が務めていたというのも大きいのかもしれません(注※初演雪組は組子の古代さんだったとのちにご指摘いただきました、失礼いたしました)。単なるいいお父さんとか困った夫とかいうのとは本当はちょっと違う、まためんどくさいところのあるキャラクターなんですよねマックスって。どなたかがつぶやいていましたがバートイシュルでいなくなるマックスは狩りは狩りでも女を狩りに行っている、というのがほんのり窺わせられた色気と茶目っ気と邪気のあるマックスで、さすがまゆぽん!といったところでした。そういう父親に憧れる娘シシィというのが、放浪癖があるとかもの想いに浸りがちでメランコリー気質だとか束縛を嫌う野生児だとかではなくて、もっと単純でまっすぐな、自分のことは自分で考えて自分で決めたいなと思っているごく普通の健やかな少女、に見えたのがよかったのかもしれません。貴族の子女の自覚とか王族に嫁ぐ決意とかはそりゃ足りなかったかもしれないけれど、考えナシなわけでも単なるわがままなわけでもなく、けなげで一生懸命で、なのにそのままに受け入れてもらえないことに傷つく…という流れに、とても共感できました。寝室でペーパーナイフによる自殺を思いついてしまうくだりや、そのナイフをしまうときの芝居など、とてもとてもよかったです。「私だけに」のラスト一音も綺麗に出ていて、まあエフェクトが仕事していましたけどいらないよって感じでした。というか今回の音声さんはもう少し生徒の力量を信じてもいいのではあるまいか…クリアにしすぎだよ…
 ラストの昇天であたりを見渡す表情が、歴代不安げだったりトートしか見ていなかったりいろいろでしたが、ちゃぴの笑っているような泣いているような口の開いた笑顔がなんとも言えずよかったです。トートの方がむしろ不安そうでした。これはおもしろい。今後のさらなる進化が楽しみです、ご卒業のその日まで輝き続けてほしいです。『ジプ男』のころのおたおたしていたところから、まさかこんなに大輪の花が咲くことになろうとは思ってもいませんでした。
 次期トップ娘役のさくさくに対してガタガタ言う意見のうちにくらげちゃんがかわいそうみたいな言い方をしているものもありましたが、くらげが就任できなかったのはさくさくが台頭してきたからではなくちゃぴが意外と長くやったからだと私は思う。ともあれこうしたことは本当は誰のせいでもないのだしそこからまたどんなスターが生まれていくかわからないのだから、ファンは真摯に応援するしかないのだと思うのでした。

 フランツのみやちゃんは、プログラムの高慢そうな表情がすごくツボで、なのにシシィへの愛が強いフランツになりそうとか語っていて、そして私はキャラクターとしてはフランツみたいなタイプはすごくツボなのでとても期待していたのですが…なんか舞台からは特に強い印象を受けなかった気がしました。なんでだろう? まあ私がみやちゃん自身のことが特に好きでも嫌いでもないのが大きいのかもしれませんが…
 歌は高音を裏声にするようになっていて、なんか色気が増していてよかったです。でも今までは絶対地声でがんばっちゃっていた音なのに、今でも地声で出す音もあるのに、不思議です…

 ルキーニのれいこも、これまた私がれいこを特に好きでも嫌いでもないからかもしれませんが(こういう美人に本当に興味なくてすみません…)、そして私はルキーニというキャラクター自体にもどうもピンときていないので、出世役だとは知りつつも、ふーんと眺めてしまいました。とても上手く舞台を回していて、まったく危なげがありませんでしたし、汚いヒゲしてても美貌なのでそれは素晴らしかったです。

 そしてルドルフありちゃんにこれまたびっくりするくらい何も感じなかったんだコレが…これは贔屓のルドルフと比べて、とかではなく、なんかあまり闇が広がっていない気がしました。ニンじゃないということなのかなあ…母親に対してわりと最初からあきらめているふうに見えたところはちょっとおもしろかったのですが。うーんわからない…自分でも意外…あ、女官たちが傘をクルクル回し始めると「ヤバい、次、出番」とそわそわする感覚がフラッシュバックしたのは自分でもおもしろかったです。

 ゾフィーのすーさんはやりすぎていない感じがよかったです。それでいうとさち花姉さんのマダム・ヴォルフもやりすぎてなくてお化粧が本当に綺麗でよかった。るうさんツェップスも渋くてよかったです。なっちゃんルドヴィカも手堅い。
 重臣sはゆりちゃんがさすがイケメン。ひびきちも素敵。からんちゃんもさすがです。
 ところで死刑囚の母ってなんかいつもあんま上手くない人がやっている気がする…何故…?
 はーちゃんリヒテンシュタインがきびきびシシィの世話妬いていて、香咲蘭ちゃんのスターレイが控えめに仕えている対比もよかった。くらげちゃんのヴィンディッシュもさすがでしたね、場をさらっていたと思います。扇の交換があるバージョンで嬉しいです。
 ときちゃんは私は苦手なんだけれど、ヘレネのおたおたっぷりはとてもよかったです。でも他にもバイトで目立つところをけっこうやっているんですね…
 革命家はみんなエエ声でよかったです。歳をとってからはゆりちゃんかれんこんにときめくつもりだったんですけれど、意外やおだちんがいいイケオジでしたよ…!
 黒天使も美形揃いで振りが綺麗に揃っていて、トートの心情をよく踊っていました。女官も各国美女も娼婦もよかった、ロケットにいる黒天使も味わい深かったです(笑)。
 フィナーレは、定番の男役群舞「闇が広がる」以外は、振り付けの問題もあるかもしれませんが今ひとつだった気がしました。でもデュエダンでちゃぴのセリ上がり、ライト、拍手!としてくれたので満足です。エトワールのさくさくも、緊張しているように見えましたがとてもよかったです。娘役の貴重な出番を次期トップ娘役の顔見せで奪うな、という人も多いようでしたが、普通に考えて今の月組の歌姫ってさくさくじゃないかなと私は思うので、これでよかったと思っています。も、ちゃぴのあとは誰でも大変だよ、がんばれさくさく!


 さて、エリザ論でも書きましたが、要するに私がこの話で納得できないのは、シシィに愛されるのを待っていたトートが何故ルキーニにナイフを渡しちゃうのか、という点に尽きるのだと思います。
 最終答弁でフランツに「彼女はあなたを憎んでいる」「あなたは恐れている、彼女に拒絶されるのを」と言われて「違う!」とキレるトートですが、どっちが正しいのかこの時点で実は観客にはよくわかっていない気がするのです。ルドルフの死後、絶望のあまり死を望んだシシィがトートに拒否されたそのあと、のドラマが実はないのだと思います。何故そこで、息子を亡くした父と母としてフランツと寄り添えなかったのか? 旅先まで来てくれたのに何故心が開けず、すれ違うままなのか? シシィはずっとトートを拒否してきたのに、旅のゴールに彼がいる気がすると言うのは何故なのか? いやトートがいるとは言っていないんだけれど、「ずっと誰かが待っている」ってトートのことでしょう? でも何故それを容認しているのかよくわからない…
 もちろん実際にはシシィは暴漢に襲われて死んでいるのだけれど、それをトートの愛を受け入れたからだ、とするためのステップがもうひとつふたつ、私には足りていない気がするんですよね…それでこの話がよくわからない、と思ってしまうのかもしれません。
 そしてこのあたりを考え出すと、おそらく原作のウィーン・ミュージカルからものすごく遠く離れていってしまうのだろうな、とも感じます。それくらい死生観って違いそう…そこに男女めいた愛めいたものを持ち込もうとするのってかなりマゼルナキケンな気もするけれど、イケコはそれをやってしまったのだし、だからこそ日本でこれだけヒットしたのでしょう。とりあえず今後も再演されれば一度は観に行って、考え続けたいと思ってはいます。










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