駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇星組『ダンサ セレナータ/Celebrity』

2012年07月27日 | 観劇記/タイトルた行
 東京宝塚劇場、2012年7月14日ソワレ、25日マチネ。

 クラブ「ルアアズール」のステージでは、イサアク(柚希礼音)たちを中心としたダンスショーが繰り広げられていた。ショーは大盛況のうちに終了するも、いさあくだけは納得できない様子を見せる。パートナーのアンジェリータ(白華れみ)はイサアクの言葉に耳を貸そうとせず、バーテンダーのジョゼ(涼紫央)がその様子を心配そうに見つめている。それから間もなく、イサアクは酔っ払った兵士に絡まれた植民地出身のアンジェロ(十輝いりす)とモニカ(夢咲ねね)の兄妹を助けるが…
 作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、玉麻尚一。

 初見時は、「老いたなハリー…」と絶句しました。
 宝塚歌劇初観劇が『メランコリック・ジゴロ』なので正塚ファンだったし、不評だった『ラストプレイ』も『ロジェ』も『はじめて愛した』なんかの近作も許容できてきたというのに…
 二度目に見たときはだいぶココロが優しくなっていて(^^;)、「ま、これはこれでアリかな…」というくらいにはおちついたのですが。

 正塚先生がモチーフとしてほぼ常に取り上げる、戦争とか内乱とかは、私は嫌いではないんですよ。
 私自身はノンポリですが、それって無責任なことだとも思っているし、政治的なことってやはり人生にかかわる問題だと思うから。
 宝塚歌劇に不向きな素材だとも思わない。それがうまく、キャラクターたちの人生や愛のドラマに結びついていればね。物語として重要なのは後者だから。
 だからこの作品で一番不満なのは、この物語の中の戦争、内乱に主人公自身が一番距離を取ってしまっている点なのです。

 ホアキン(紅ゆずる)は現政権の国家防衛警察情報部中尉です。だから仕事として現政権のために働き戦っている。
 現政権のあり方や時刻と植民地のあり方について疑問を持つこともあったでしょう。でもとりあえずそれには目を瞑り、職務に邁進している。男性にありがちな生き方ですね。でも筋は通っていて、悪くないキャラクターだと思いました。ベニーの芝居にもう少し深みがあれば、あるいは私がもう少しベニーを好きなら、萌え萌えで見たことでしょう。でもベニーは上手くなったよね! 特に歌はかなり向上した。ショーのダンスはやっぱりまだまだつらかったけど…(^^;)

 アンジェロとモニカも植民地出身であり、完全な当事者です。
 アンジェロは独立運動のリーダーで、本国の反政府グループと結託しようとやってきました。
 モニカは運動には直接かかわっていず、戦乱を避ける意味で故国を出てこの国に留学中?みたいな身ですが(オーディションで勝手に?採用されてあっさり承諾していますが、それ以前に働いていたりはしなかったのか?とちょっとぎもんだったのですが…)、戦争がおちついたら故国に帰って父の事業を手伝いたいと考えている。ダンスは好きだけれど、趣味程度であって、あくまで自分の国に根ざした人生プランを持っている人間です。

 でも、イサアクはそういう人間じゃない。
 根っからのダンサーで、ダンスなんて体の動く若いうちにしかできないということもわかっていて、今ベストの踊りをしたいと思っていて、常により良いものを模索している。それはいい。
 国家とか戦争とかなんてくだらないことだと思っているし、どこでも同じだとかどうでもいいことだと思っている。それも一理あるでしょう。ボヘミアンというかコスモポリタン思想みたいなものがあるというのは、より高次なことかもしれないからです。
 でもそれが今、現実に、血を流して戦っている人に対しての説得力を持つかどうかはまた別です。そして私はイサアクからはそれが感じられなかった。だからどうしても「何言ってんのこの男?」って感じになっちゃうんですよね。

 思うに、イサアクの過去設定に失敗していると思うんですよ。親がギャングに殺されてそのギャングに復讐してそれで国から逃げた、なんてごく個人的なことじゃん。国家とか政治思想とかとなんら関係のない話ですよ。
 しかも私は二回しか観ていないのでよく台詞を把握していないのですが、彼は旅回りの一座のタップダンサーで国から国を渡り歩いていたようですが、殺人自体はどこで行われたんですかね? この国? なのに郷愁で戻ってきちゃったの? 逮捕されないの? 服役したの? 罪は償われたことになっているの?
 復讐だろうが殺人は殺人ですよ。しかもすぐやり返してるんじゃなくて、15歳になるまで待ってやったんでしょ? それは何故? ある程度体が大きくなるまで待ったっていうこと? その間に冷静になることはできなかったの? 復讐しても愛した人は帰らないと考えられなかったの? てか復讐って女々しくて空しいって『ロジェ』で学習しなかったのハリー!?
 こんな犯罪者を主人公に据えていいの? 宝塚歌劇のトップスターに演じさせていいと思ってんの?
 この設定、ホント何から何までいらないんですけど!

 それより、過去に政府のために働いてでも裏切られて、だから今はただの一般人のノンポリの、むしろアナーキストを気取っている、くらいにした方がよかった。
 でも裏では亡命を希望する人間を秘かに手引きして、なじみの漁師の漁船でマルセイユまで逃がしてやっている、孤独なゲリラ活動をしている、とかね。
 そういう、自分なりの政治活動をしていればこそ、アンジェロやモニカのまっすぐすぎる政治行動を無謀だよとか無駄だよとかそもそも国なんてくだらないんだよとか言える。言う資格がある。
 そういうもんじゃないですかね?

 だけど現状のイサアクは、とにかくなんだか今の自分がしっくりしてなくて、「確かめるために」モニカを利用したようにしか私には見えませんでした。
 そんなことに女を使わないでもらえませんかね? ましてわれらがねねちゃんを!
 私、初見時に最初のキスシーンで仰天しました。いつの間にそんな気持ちに!?って感じだったし、そのあともその気があるかないか確かめるために、みたいなこと抜かすし。そんなのレイプだよ。親しくもないのに他人の体に勝手に触れてはいけません!!!
 このキスは二度目に見たときもやっぱりイラッとしたなー。モニカが流すから一応納得するけれど、本当だったら頬ひっぱたいて股間に蹴り入れて警察呼んでいいレベルだと私は思うよ。
 最後の最後までイサアクは「確かめられたから、いいんだ」みたいなことしか言わない…ホントむかつくわー。中の人のせいじゃないよ、ハリーの書き方が悪いんだよ。ハリーが書きがちな男性主人公の悪い方が出ているよ。女は男のためにあるんじゃないということが一体いつになったら男は理解できるのかなあ…

 ラストもさあ。
 私は「歌劇」か何かで、ラストは時間が飛んで、ヒゲのイサアクが現れて、そこにモニカもいる、とは知っていたのですよ。
 でも私は、イサアクと管理人がしゃべっているところに、楽屋でも見ていたモニカが出てきて、「じゃあ帰りましょうか」とか言うんだと思っていたの。
 つまりモニカはイサアクと共に廃墟になったこのクラブを訪れていたんだと思っていたんですよ。すでにふたりは再会していて、結婚していて、クラブが潰れるっていうんでふたりで訪ねてきた。ふたりがあのあとちゃんと再会して今は幸せにやっているということがここで観客にわかる、という演出なのだと、まあ勝手にそう想定していた方が悪いのかもしれませんが。
 しかし現実には、ここで再会するんだったんですね。でもなんで?
 ジョゼがモニカに手紙を出せたくらいなんだから、探す気になればイサアクにだってモニカの居所は突き止められたはずじゃん。だったら戦争が終わったらすぐ迎えに行くもんじゃないの? いや受け入れられるとは思えなかったのかもしれないよ、でも顔くらい見に行くだろう、好きなら!
 なのになんなの? 確かめられたからよくて、あとはもうどうでもよかったってことなの?
 モニカの「今もひとりよ」なんて完全にご都合主義だよね。それが何年後の場面なのかよくわからないけれど、賢い女は愚かな男を待ったりしないと思うよ?
 それでも一万歩くらい譲って、「俺と踊ろう」と言うイサアクは素敵なんですけれどね。
 かつては、ダンスのパートナーとしてモニカを求めた。ダンスは若いときにしか踊れないから。モニカがダンスが上手いから。
 でも今、若くなくなって、もしかしたらもうダンサーではなくて、でも「踊ろう」という。それはつまり、残りの一生を共にすごそう、ということです。それはわかる。だからきゅんとくる、じんとする、感動する。
 というかそうすっきり感動して終わりたいの!
 だからそれまでのこの消化不良をなんとかしてほしいってことなの!って話です。

 ああ…書き出したらやっぱり長くなっちゃったよ…すみません…

 そうだ、あと、アンジェリータは、れみちゃんが演じていたからギリギリ成立していたけれど、普通に考えたらちょっと嫌な女だと思う。正直でサバサバシテイテかっこいいというよりは、無神経で嫌な女で、本当はこんな女性ってあんまりいないと思う。男性作家のミソジニーを感じました。
 あとモニカが警察に捕まってクラブのみんなで意見が割れるときの台詞がよくわからなかった。自分の代わりはモニカしかいないといっていたかと思ったらリタ、いやパトリシアがやればいいかとか言っているみたいで…
 あとトヨコの扱いはやっぱりちょっと微妙だったよね…もうちょっと本筋に絡む役を当ててあげたかったよね…
 それと気になったのは、リタ(早乙女わかば)とフェルナンド(美稀千種)のキャラクター造詣。私はこういう形で笑いを取ろうとするのはユーモアとかではなくて、ちょっと安いと思った。実際にはこういう人間っているんだけれど、でもちょっと不愉快でした。私はね。
 あとさー(どんだけ「あと」が続くんだ)、ルイス(真風涼帆)はなんなの? わざとなの? 下手なの? 正塚芝居が合わないの? ものっすごい浮いていたように私には見えたんですけれど。
 あと、こんな駆け落ちが失敗するのは当たり前なのでそれはいいんだけれど、でもつまりこの男は恋人を幸せにできなかったダメ男ってワケなんですよね。それでいいの? スターにやらせる役がそんなんで? 宝塚歌劇に出てくる男はすべからく女を幸せにするべきである、というのは極論かもしれないけれど、私はちょっとオイオイとおもってしまったんですけれどねえ…
 まあでもまっかぜーはホントに華が出てきたし、上背あるし、期待しているんですけれどね…

***

 ショー・グルーヴは作・演出/稲葉太地、作曲・編曲/高橋城、太田健、高橋恵。
 ギンギンギラギラの濃ゆいショーで楽しゅうございました。以前はオギーふうだったけれど今回はダイスケふうなのか稲葉先生?

 映像で映るヘリコプター、そこから現れるファーに身を包んだセレブリティのチエちゃん。ベタでいいですねー!
 ねねちゃんも加わって赤い革の…なんと表現したらいいのかわからないお衣装(^^;)。フリンジつきのボディスーツみたいな…スタイルが良くないと着られないよなー!
 
 お芝居ではワケアリっぽいながらもとくにでばんのなかったはるこがいい位置でいつも踊っていてよかったわー。もっと使われてほしいわー。

 レディ・ダイヤモンドのねねちゃんが素晴らしかったわー。私にとってはこの曲はヨシコとアヤカのDSで歌われた曲認識なんだけれど、いいよね!
 あとねねちゃんはファム・ファタルのオレンジのドレスも素晴らしかった。ちょっとマーサ・グラハムを思わせて、地母神のようでした。
 ただしドーンでは胸元が開きすぎだったと思う。鎖骨の下のあばらが浮き出て見えるのがちょっと痛々しくて…

 それにしてもまさこの扱いには泣けました。こんな扱いされるために嫁に出したんじゃない! こんなんだったらトップスターの同期生なんかわざわざ組替えで呼ぶなよ!!
 アカプルコ以外は完全に群舞の中じゃん。もちろん背が高いし踊りうまいし目立つよ、でもさあ…
 たとえば黒燕尾で、まずまっかぜーにピンスポ、続いてベニー、そしてトヨコってながれがあるじゃん。そこにまさこを加えてくれてもいいじゃん。
 その三人がチエちゃんを囲んでセンターで踊るところにも、まさこを入れてくれたっていじゃん。
 パレードもさあ、稲葉先生はもともとセンター降りの人数を絞るタイプだけれど、エトワールのれみちゃんがおりたらすぐまっかぜーで、すぐベニーで、すぐトヨコで、まさかまさこを脇で降ろすつもり…!?とガクプルしてたら上級生娘役を両脇にセンターで降りてきたけれど、ソロはなし、お衣装はみんなと同じピンク。
 もう泣きましたよ…どういうことなのホント?
 全ツは番手が上がるだろうけれど、その後の大劇場公演ではトヨコ並みの扱いをしてくれるんでしょうね?
 でないとホントもう、さあ…ファンは泣くよね…
 そりゃ宙組でだって番手不明の扱いでしたよ、でも組替えというものはすべからく栄転であるべきだと私は思っているので、ちょっとこれには憤りました。
 これは書いておく。

 あ、チエちゃんはノリノリの踊りまくりで素敵でした。プログラムのスーツも素敵だよねー。パレードのラストにナイアガラを蹴っぱるところも大好きです。
 チエわかば、ねねまっかぜーというカップルチェンジができるのもトップコンビ歴が長いからこそ。ゴールデンコンビと呼ばれるくらいまで、がんばってほしいです。




コメント (3)
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