駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『カサブランカ』その4(完)

2010年03月02日 | 観劇記/タイトルか行
 イルザが誠実で真剣だからこそ、ここでそのままリックを撃ってしまいそうに見えた、という観客は多いのではないでしょうか。
 というか、イルザの真意がよくわからなかった、という人は多いのでは?
 少なくとも私は、イルザはかつてリックを愛していたことは確かだとしても、ラズロとの関係は最初は尊敬から始まったものだとしても、今は情もわいているし、今イルザが愛しているのはラズロなのだ…と思っていたのです。
 だからイルザが
「あなたを愛していた…そして、今でも…(と脚本はなっているけど、こんなタメがあったことはなかったが…)」
 と言い出したときに仰天したのです。

 そもそもここでのリックはおちつきすぎているのではないでしょうか。イルザが自分を撃つはずないと思っているように見えます。
 でも、彼にはもっと動揺させた方がいいと思うんですよね。私なら、
「君はラズロのためならなんだってできるんだな! それなら俺を撃て、その方が俺も楽になる」
 として、もっと悲痛に叫ばせる。もうホント死にたいよ、どうなってもいいよ、おまえがそんなんだったら俺の人生になんかなんの意味もないよ…そうやさぐれて、それをぶつけさせたい。それが響くからこそ、それこそ自分でも今は自分はラズロを愛しているんだと思いこんでいたイルザの心を揺さぶり、本当の愛に気づかせるのでは?

 ちなみにここの
「あなたがパリを去った後、どんな思いをしたか…」
 の主語は誰なの? この曖昧さも、ここの理屈をわかりにくくさせている原因だと思うのですが…
 「あなたがどんなつらい思いをしたかと思うと、私もつらくて申し訳なくて」という意味なのか? でもそれは余計なお世話って感じもする。
 「私がどんなつらい思いをしたと思うの?」ってこと? それならまだわかるけれど、ここに言葉をもっと尽くしてほしいと思うのですよね…

 ともあれイルザの愛情を確信したリックは、彼女を抱き寄せるのでした。
 ここでタバコを持ったままの手でイルザを抱き寄せるのが、危なくて冷や冷やするんですけれどね…どうせ明かりと煙だけの電気煙草ですよね? 床に投げ捨ててから抱き寄せにいってもいいと思うんだけれど。暗転の間に拾えばいいんだし…

 で、集会のシーンを挟んでラブシーンは続きます。ヒドい演出だ(^^;)。
 映画でも、コトがあったかどうかはなんともいえない感じのつなぎになっていますが、こちらでも舞台が再びカフェに戻ると、リックはスーツの上着を脱いでいて、ワイシャツの第一ボタンは開いている(^^)。でもそれだけと言えばそれだけです。ああ、そそられるなー。
 「世界の果てまでも」のあと、ただ酒を継ぐ後ろ姿がとてもとても素敵でほとんど卑怯。
 ただここも、
「これからどうする?」
 なんてきちんとした現実的な台詞、こういうときの男は意外にしないんじゃないかなーとか思うとやや違和感を感じるんですよね…

 そのあとラズロとカール(寿つかさ)が警察から逃れて店に駆け込んでくるわけですが、リックが
「どうやら真夜中の運動会の帰りらしいな」
 と冷やかすのには、「あんた(たち)こそ!」とつっこみたくなるワタシ…
 そして二階でイルザを見つけるカールはちょっと驚きすぎなんじゃないかといつも思う。リックがイルザをゴミ扱いで呼ぶのもちょっと嫌。
「それほどまでにイルザを好きか?」
 も、ちょっと軽く聞こえるんだよなー。「愛しているのか?」じゃダメなのかな?

 警察に連行されるとき、乱暴に手錠をかけるのに抗議する意味でも、手首の痛みに顔をしかめてみせるラズロが素敵。
 のちにルノーが踏み込むときもそうですが、「手を挙げろ」と言われて腰くらいの高さまでしか上げないリックが素敵。

 「本当の俺」の入り方、素敵です。上着を取ってつかつかと舞台前面に歩き出して見得を切って、音楽が入る。よっ、千両役者、と言いたいです。

 フェラーリとの店の売買、脚本にはないですが
「手打ちでいいさ」
 の前に入れる「あぁーあ」ってのが好き。
 ラズロが金を出そうとするのに
「取っておいた方がいい」
 と言うときにもアタマに「あぁーあ」と入るのも好き。

 踏み込むルノーに
「ドイツ特使殺害容疑だ」
 と言わせるのはよくないと思います。これまで「ドイツの外交官」としか呼ばれていないのだし、「特使」というのは発音しづらい音なので、気に障るのです。

 第17場、飛行場。
「結論は、君がヴィクターとあの飛行機に乗る。それがベストだ」
 いつのまにファースト・ネームで呼ぶ仲に!と思ってしまうので、「ラズロ」でいいんじゃないでしょうかね…呼び方フェチなもんで、イルザが他人行儀にラズロを名字で呼んだり、いろいろと気にかかる点が多いのですよ…

「君に一つ聞いてほしいことがある」
 からのくだりですが、本当にイルザの立場をおもんぱかって説明しているようでもあるし、「ホントは俺のことが好きなんだもんね、俺たち一瞬元サヤに収まっちゃったんだもんね」と言いたげにも聞こえると思います。だってどんなに説明されたって、ラズロからしたらエクスキューズにしか聞こえないと思うんですよね。でも、実際にイルザをつれていけるのは自分だと確定したのだから、そんな話くらいおとなしく聞いてやるよ、という感じのラズロが、本当に大人物だなあと思うのですよ。私はイヤだけどね、そんな男(^^;)。女々しすぎるくらいのリックの方が断然好きですけれどネ。

 ルノーの
「君に通行証をやろう」
 というのは、「ヴィザを出してやろう」とした方がいいですけどね。通行証という言葉はドイツの外交官が持っていたもの、ウガーテが売ろうとしていた物をのみ指す言葉としておいた方がいいからです。
「経費だな、俺たちの。これからの友情のな」
 と言ってリックの背中を叩くルノーの手が、上手からだとリックのお尻にでもやっていそうで、ドキドキしていた私を誰か止めてください。

 「カサブランカの風」B版とも言える歌を歌って、上手から漂い出すスモークに巻かれて舞台を閉めるリックのすばらしさはもう言筆舌に尽くしがたい。
 帽子を取り、顔を見せ、「熱い思いこみあげる」胸に帽子を当て、また帽子をかぶって、最後に帽子の縁をそっと人差し指でなぞる、そのただならぬ色気!
 立てたコートの襟の絶妙さ。広い肩幅、細い腰、長い足、立ち去る後ろ姿の美しさ!

 フィナーレがまたすばらしいんですよねー。
 みー、だい、カチャのトリオによる「As Time Goes By」というベタなところから始まって、ロケットへ。
 おそらく結乃かなりちゃんじゃないかと思うのですが、途中までずっと二列目センターにいる娘役さんの笑顔の作り方が好みで、惚れました(^^)。
 まゆがメインの「モロッコの男」の場面では、若手男役スター候補性たちがバリバリとがんばっています。
 背後には大階段がセットされ、娘役たちがそれぞれ決めポーズを作りながら降りてきている。
 そして、下手から斜めに降りてきて、センターに陣取る「カフェの男S」。シルエットに光が当たり、歌い出す。た・ま・り・ま・せ・ん!!
 アリス、えつと絡んだあとの、おそらく舞姫あゆみちゃんが心臓のあたりに指し伸ばしてくる手をふいっと取っていなす感じがたまらなく素敵。
 ステージに出てきてふわっと笑うところが本当に素敵。
 たいしたダンスはしていないんだけど(爆)、とにかく粋なのが本当に素敵。
 やがて現れる白タキシードのリック候補性たちを迎え入れ、センターで踊る赤いベルベットのタキシード姿が素敵。思えば路線にバリバリのダンサーがいないので、ユウヒの粗が目立たなくて助かるわー。
 ユウヒがはけてからは、まさこがとてもくどく濃く踊り、みっちゃんが端正に美しく踊っているのがとても好対照で見ていて楽しいです。

 そしてデュエットダンス。
 シルエットになって大階段をまっすぐゆっくり降りてくる「デュエットの男」が素敵。
 紫とも葡萄茶ともつかないお衣装の色目が素敵。
 舞台稽古で期せずして拍手がわいたという、恋を語り合っているかのような、愛にあふれたダンスがすばらしい。
 リフトはいつの間にか必須となってしまったようですが、腰に負担がかかりそうでドキドキです。でもとても形が美しい。
 銀橋に出てきてのポーズも素敵。

 エトワールの七瀬りりこもすばらしい。DVDではヨレたところが収録されてしまって残念。また、何度か観た中ではもちろん声がかすれたときもあってドキドキしましたが、「ゆーう、くー」が上手く延びると本当に聴き惚れました。

 ああ、ベタ誉めすぎですね。すみません…

 さて最後に、DVDについて。
 私は映像では舞台は再現できないと考えていて、今までDVDを買ったりTV中継を観たりするのが好きではありませんでした。もっぱら実況CDを買って聴き、頭の中で舞台を思い起こし、再現していました。
 『太王四神記』が好きすぎてついに初めてDVDを買ってしまったわけですが(実はその前にも、『メランコリック・ジゴロ』復刻版が出たときには飛びついて買っちゃいましたけれどネ!)、それからは「ま、これはこれで」といろいろと買い集めるようになってしまい…
 けれど、これだけ通った舞台のDVDを観ると、やはり物足りないわけです。
 たとえば、舞台の照明は撮影するにはかなり暗い。舞台奥に映るカサブランカの街並みと大西洋、パリの夜景、ナチスの影、南駅などなど、みんなほとんど拾えていないと言っていい。
 それから収録が初日から二週間後くらいのことなので、特にフィナーレのあっさりさ加減には仰天しました。このあとこなれてもっとぐっとくどく濃く素敵になっていたのに~と歯噛みしたいくらいです。
 それに演技にはいろいろなバージョンができていき、当然ですがそのすべてを収録することは不可能です。
 要するに、舞台はナマモノで、閉幕してしまったらもう完全に再現することは不可能で、ただもう私たちの心の中に刻みつけるしかないわけです。
 せつないなあ、はかないなあ。だからこそ、ちょっとでもたくさん観ておこう、とファンは通ってしまうものなのかもしれません。
 舞台って本当に魔物だわ。

 そんなあたりまえのことを、今回あらためて考えさせられました。
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宝塚歌劇宙組『カサブランカ』その3

2010年03月02日 | 観劇記/タイトルか行
 それからすると第2幕の立ち上がりはずっと心が穏やかです。何しろしばらくリックさんが登場しませんから!
 このあたりでの個人的ポイントはカッセル(澄輝さやと)の
「お会いできません」
「確約できません」
 という堅い声が何故かツボ、という困ったところですから(^^;)。

 第3場、ブルー・パロットでのフェラーリとの会話ですが、
「午前中は飲まない」
 と言っているんだから、中身はむしろノンアルコールさ、という切り替えしであるべきなのでは?

 ラズロとばったり会うと、フェラーリの居場所を伝える親切さを発揮するふりして、目は合わせないわきちんと挨拶しないわ、の幼くお行儀の悪いリックに萌え。

 バザールでイルザに会うと、
「俺は君のチケット一枚分無駄にしたんだから、聞かせてくれてもいいだろう?」
 とセコい取引を持ちかけるリックに萌え。どこまでもいじましく情けなくダメな男であることが否定できないところがヨイのですよね、このリックさんは。

 第4場のカフェの捜索シーンは、ミュージカルではよくあるくだりですが、私はどうもテレてしまっていつも正視できないでいました…サムの
「どしたの?」
 のあととか、間に耐えられなくて…
 でもとりあえず、マタドールふうにテーブルクロスを三人して振り回すシーン、何故エミールだけがそろわないのかはつっこんでおきたいです。

 続く第5場はルノーのおめかしが見所で、前楽なんかは鏡を見ながらくるりと回って見せたり、いろいろおかしかったのですが、それでもリックがくさくさした感じで店を出てくるとさっと場をさらう気がするのは私だけでしょうか(^^;)。

 第7場、エミールに目配せしてヤン(凪七瑠海)を勝たせてやるシーン。エミールとしてもボスにいいところを見せる、前夜2万フラン負けた挽回をはかるいいチャンスですよね。
 「従業員の慰安」に遅れて参加し、サッシャの無法に驚くエミールも萌え。

 第8場、オフィスでのラズロとの会話。
 私は最初の頃は、ここでのラズロは、わー嫌なヤツだなーと思ったものでした。
 なんか、自分の信念に自信を持っているのはいいんだけれど、周りのみんなが自分に協力するのが当然だと思いこんでいる押しつけがましさが、気に障ったのです。
 でもおそらくそういう部分がラズロには少しはあったんじゃないのかなー。
 ただここでは、むしろラズロは本当にいいことを言って、だからこそリックはより意固地になり、取り引きはしないと言い放つのでしょう。それから考えると、やや中途半端な演出になっているのかな?

 第9場の国歌対決のシーンは、とても感動的になっていますが、それでも私は胸の底でちらりと思っていることがありまして…
 それは、シュトラッサーたちが歌っているのはむしろ郷土愛の民謡ですが、フランス国歌は明らかに軍歌であり、戦闘の勝利を歌ったものであることです。
 そういう意味ではどっちもどっちなのかもしれない。陸続きの狭いヨーロッパ大陸の中で、勝手に小競り合いを繰り広げていれば?とアメリカ人のリックがちょっと醒めた目で見てしまったとしても、仕方ないと思うんですよね…それは島国で隣接する他国と大きな戦争をしたことがない日本人である私もしかりです。
 でも、開いたシャンパンを機嫌よく受け取るリックさんですけれどね。
 ちなみにここでサッシャがあけたシャンパンは、注文が入ったものではないと思うのだけれど(^^;)、あとでお給料から引いてくださいとリックに申告したのかしらん。そしてリックはいいよと言ってあげたのかしらん…もちろんルノーはちゃっかりお相伴に預かっていましたね。シャンパンに目がないんだよね。そういえば前楽で初めて、シュトラッサーから伝票を預けられたハインツが会計に目をむいている芝居に気づいたのですが(^^;)、ルノーがいいシャンパンばかり開けて集っていましたものね…

 第10場のシュトラッサーの「栄光のドイツ」の素敵さは筆舌に尽くしがたい。振りを覚えて後ろでやりたいくらいです(^^)。

 続いて銀橋でのイルザとラズロの会話。
 ラズロはイルザに対しての一人称が一定していませんが、どうなのかな…全部「僕」でもいいと思うけどな…「~たまえ」式の語尾にはそそられるんですけれどね。
 ここでのラズロには、それでも嫉妬の影は見受けられるし、その方がいいと思います。

 イルザは集会には参加しません。
 そういう意味ではレジスタンス活動に積極的には参加していないことになるのかもしれない。
 けれど、運動の先頭を突っ走るラズロをずっと家で待ち、影で支えてきたのでしょう。それはとても大事なことで、イルザはそういう形で運動に参加してきたのであり、ラズロも彼女を必要としてきたのだと思います。
 そういう重みが、このくだりからはきちんと感じられます。だからこそ、イルザがなにがしかの決意を持ってリックの元に引き返したことは観客には十分伝わります。

 というわけで、問題の第12場ですが…
 私は肝心のこのシーンに、違和感を感じてしまっているのです。

(続く)
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宝塚歌劇宙組『カサブランカ』その2

2010年03月02日 | 観劇記/タイトルか行
 第11場で寝るよう諭すサムに対し
「嫌だ」
 と言う台詞、「いーやーだっ」ってほどではないにせよ、初期はもっと駄々っ子バージョンだった気がします。ここもキュート。男ってバカねシリーズですが。
 サムの
「人生には、忘れた方がいいこともありますよ」
 の台詞の言われ方もいろいろでしたが、「あ~りま~すよ~」と、わざとちゃかして言うパターンも好きだったなあ…

「世界中の酒場の中で、なんでこの店に来たんだ?」
 という台詞にこもるせつなさに萌え。
 「カサブランカの夜霧に」の歌詞にもありますが、この「The Last」というのがものすごく英語的で、シビれるのです。

「彼女が耐えたなら、俺も耐えられる」
 イルザはもう過去のことなど忘れたような顔をしていたから。
 すでに次の男を捕まえて、幸せにやっているようだったから。
 だったら自分だって大丈夫だってことを証明しなければ…だからリックはサムにピアノをねだるのですが、もちろんリックは大丈夫なんかじゃないわけです(本当のことを言えば、イルザも)。
 過去はますます鮮やかに思い出され、彼はパリの回想シーンに巻き込まれていきます…

 ここから回想に入る流れが本当にすばらしい。
 ほろほろと「As Time~」を自ら歌い出し(立ち上がったとき、持ち上がったままのタキシードの肩とかにまで萌える自分はさすがに如何かとは思っています)、階段を上がり、背を向けて、パリの美しい夜景を思い出し、過去に戻っていく…その万感の想いを、背中だけで十全に語っています。
 そして階段を下りて消えていったときには、舞台は、そして観客は、もう過去のパリにいるのでした。
 舞台奥の壁に流れるパリの風景のフラッシュバックは、でも、二階席奥とかからでは見づらいのが難点ですね。もったいないことです。

 第12場、ラ・ベル・オーロール。
 マドレーヌ(大海亜呼)と若手男役たちの羽扇ボーイズの見せ場です。ちなみに目立つのは愛月ひかる。第3場での「あの女はやめておけ」の台詞も声にちょっと特徴があってよかったなあ。
 ここでピアノを弾いていたサムの横を、飛び跳ねるように弾んだ足取りで入ってくる若き日のリック…という感じが以前はあったかと思うのですが、普通にゆっくり入ってくるときも多い。スペインでの傷心を抱えてのパリ生活なので、あまり浮かれてても…ってことなのかな?
 でももうパリ暮らしも一年がたっていて、戦場の記憶は遠いはず。だからこそ再会したセザールに対し、嫌みなんかではなく
「一体どうしてここに」
 と言ってしまうのですが。
 そのあとの
「そんな意味で言ったんじゃない」
 は脚本では語尾に何故か「!」がありますが、そうではない口調の舞台版が好きです。
 ちなみにそのあとの
「例えファシストに~」
 の「例え」は誤字です。

 セザールと別れたあとの、リックのくさくさした感じはすばらしい。だからこそ、倒れ込んできた隣席の少女を誘うことになるわけですからね。イヤ、一年かけても見つからなかった彼女の理想像が空から降ってきたのでひっつかんだ、のかもしれませんが(^^;)。それほどまでにここでのヤング・リックさんの情熱派っぷりはハンパありません。
 このときのイルザは脚本には「場違いな平服で」とありますが、確かに周りが派手なドレスやソワレのご婦人方ばかりなのでそれに比べると、ということです。清楚なピンクのワンピースに、きっとラパンにちがいないという白のベレー帽が、いかにもパリの女学生さん上がりという感じでイルザっぽい。
 おそらくは地下組織の人間らしきカレル(蒼羽りく)に、ラズロが収容所で死んだと知らせる手紙を渡され(結果的には誤報だったわけですが)、失神しかけるイルザですが、上手にリックの膝に倒れ込むときもあれば、リックが呼び寄せるように抱き抱えるときもあるので、その都度にやにやしてしまいます。もちろんうまく膝に収まったときが一番スッキリするわけですが。
 リックの、
「大丈夫か? しっかりしなさい!君!」
 と言うときの声の優しさ、
「ギャルソン、ナポレオンを」
 と言うときに綺麗に鳴らす指、
「落とし物?」
 と言って律儀にテーブルや椅子の下を探そうとする様子。愛らしい。イルザへの気遣いと愛情にすでにして満ち満ちています。

 このあとの、いわゆる「君の瞳に乾杯」のくだりは、初日は本当に感心しました。
 日本映画字幕史上最高の超訳として知られる名台詞ですが、元の台詞をうまく汲み取り、かつナチュラルに挿入しています。三度繰り返されるこの台詞のうち、大空氏自身も最初のときの台詞の気負いのない感じが一番好きだとのことですが、まったく同感です。二度目は色っぽすぎ、三度目は気障すぎてテレます(^^;)。
 何かを祝して乾杯する、ということの伏線を張ってきただけのことはある効果が上がっています。

 カンカンが始まって、席を立ちイルザを奥へとエスコートするリックさんの物腰に萌え!
 カンカンガールズに呼び込まれて巻き込まれちゃう客ふたりのあたふたっぷりがキュート。

 そして第13場。ここの紺のストライプのスリーピースが若々しくて本当に素敵! もちろん、ヤング・リックさんの好み?ってな真紅のソワレで現れるイルザも素敵。
 リックのキスはいつも相手の体を抱き寄せるというよりは、相手の手首のあたりを取って、その手を自分の腰に回させる感じで引き寄せてキスするのですが、このときもそう。最初のキスはイルザがすぐ身を離してしまうのですが、微笑んでいるのがわかるので、嫌がってはいないのだとわかります。

 そして「過去は聞かない」の包容力あふれる歌唱、すばらしい。
 ユウヒは決して歌手ではないが(たとえば宙組ならみっちゃんの歌と比べればすぐわかります)、芝居歌としては本当に本当に上手くなりました。完成されたと言っていいと思います。あとはスミカにもうちょっとお歌はがんばってもらいたいよね…

 このあとのコーラスの「パリにナチスが」、振りとともに本当にすばらしい。手前のライトのせいで舞台奥の壁に影が映り込み、それが揺らいで不安を見事に表現しています。

 第14場、「パンドラの筺」のシーン。
 リックはスリーピースの上着を脱いでベスト姿。ベストが大好きな私のためのサービスかと思いましたが(^^;)、ダークなカーキなどの姿で現れる幻の兵士たちに混ざると、リックのシャツの袖の白さがとてもとても目立つのですね。立場の異質さを示す演出なのです、すばらしい。
 ちなみにここで現れる兵士たちは、盆が回って舞台の奥に下げられたホールのテーブルについていた夜会の客たちが実は…という形になっていることに、DVDでやっと気づきました、すみません。これもすばらしい演出だと思います。
 ユウヒはこれまた決してダンサーではないので、ここでも極力ボロが出ない振りとなっていますが(^^;)、でも好きだなー、ここのダンス(振付は桜木涼介)。

 第15場、長椅子で悪夢から覚めるリックを見守るイルザが、椅子に上げたリックの長い脚をさすっているのにジェラス!
 ところでマルセイユまで逃げることを思いつくのはいいんですけど、なんで
「結婚しよう、マルセイユで」
 って思い至るんですかね。アメリカのラスベガスみたいな、届けが簡単な土地だとかかなんだとかがなあ…なんか理由がないと、思いつきのプロポーズってどうなの?って気はしてしまうかも。

 ところでなんで急にリックは10年前のことなんか言い出すんでしょうね? イヤいいんだけど。歯の矯正とか職探しとか、いかにも外人さんで素敵な会話だと思うのですが。
 東宝ではイルザが
「あなたは?」
 と言いながら、つないでいない方の手でリックの肩を抱いていたのがラブラブで印象的だったのですが、DVDではやっていなくてちょっと残念。でもここのポイントは手つなぎしたまま会話するラブラブなふたり、ってことなんでしょうけれどね。あと
「過去を聞くの?」
 ってつっこまれて、「ああ、しまった」と言いたげに苦笑いして額に手をやるリックのラブリーさ!
 「この世界で最後のキスみたい」なキスの深さについては言うまでもありません。

 第16場、パリ南駅。
 組子ほぼ全員でのコーラスかと思いますが、ここの避難民がきれいに男女交互になっているのに妙に心打たれました。宝塚の男女平等感が現れている…と言ったら言い過ぎかもしれませんが。でも男役と娘役って同数いるわけではないはずなので、わざわざ揃えてえていてかつ交互に立たせているんだから、なんらかの意味は持たせているわけです。

 イルザの手紙に放心状態のリックを引っ張って、切り込んでいくサムの果敢さにシビれます。その後、カサブランカまで流れて、それでも商売なぞして生きていこうとリックが回復するまでを支えたのは、サムだったんですよね…

 私は「カサブランカの夜霧に」と第1幕の幕切れを本当に愛しているので、このあたりまで来ると、毎回、「ああ、パリ時代が終わってしまう…」と寂しくなる一方で、お気に入りの場面が巡ってくるときめきに、心ふるわせたのでした。

 ブリッジの音楽が本当にすばらしくて、胸がひりついているうちに、舞台は現在のカフェに戻ります。
 酩酊しているリックと、介抱しているサム。そして、リックの言っていたとおりに、やっぱり現れるイルザ。
 気を利かせて立ち去ったサムでしたが、それに気づいていなかったようなリックが
「ま、一杯飲めよ。一人なんだ」
 と言うのには、私は毎度サムのために心の中で「ひとりじゃなかっただろ!」とつっこんでいましたから。
 イルザの口真似をして言う、ちょっと早口な「私たち~」に萌え。
 イルザが数えることなど思いもつかなかった、「ふたりが一緒に過ごした日々」をねちねち数えたリックさんに萌え(^^)。男ってバカね。
「それともまだ他にいたのか?」
 と聞かないではいられない、悲しい男であるリックさんに萌え。
 ラズロについては、自分より先に出会っていた男として、仕方ないとあきらめることもできるのでしょう。
 けれと、彼の不在を埋める男として、他の男と並列にされていたのだとしたら、それは耐えられない…そんなふうに考えてしまう生き物なのですね、男って。バカですね。
 けれどそれはイルザにとっては最大の侮辱です。憎悪の目で見られて、話が通じないと感じたイルザはカフェを出ていきます。

 リックは酒をあおりますが、注いだ酒瓶の口をきちんと閉めます。
 彼は酔ってなどいないのです。何もかも忘れられるくらい酔いつぶれることができていたなら、もっと楽だったのかもしれないのに…
 ここでのテーブルの叩き方もいろいろなバージョンがありますが、私は本気で本当に叩いているときが好きです。いかにも手が痛そうな、観ているこちらの心まで痛くなるような…

 ゆらりと音楽が被さり、イルザが出ていったドアを見つめながら歌うリック。その背中に漂う万感の悲しさがたまりません。
 リックが銀橋に出ていくと、舞台ではカフェの日常が立ち上がり、オールキャストが登場して「タブローになり」ます。なんてかっこいい演出なの!
 銀橋のセンターで歌い終わったリックが、うつむき、振り仰ぎ、決めて、照明が落ちる。
 万雷の拍手の中、ゆっくりと上手へはけていくリック。素敵すぎます。
 いつもいつも、最後に彼が消えていくまで、ずっとずっと拍手し続けて見守っていました。休憩に立ち上がれないくらいでした。

(続く)
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宝塚歌劇宙組『カサブランカ』その1

2010年03月02日 | 観劇記/タイトルか行
 東京宝塚劇場、2010年1月3日(初日)、11日ソワレ、17日マチネ、ソワレ、20日マチネ、22日マチネ、27日マチネ、28日ソワレ、31日ソワレ、2月6日ソワレ、7日マチネ(前楽)、ソワレ(千秋楽)

 1941年、モロッコのカサブランカには、アメリカへ渡ろうとする亡命者たちがリスボン行きのヴィザを求めて殺到していた。街はドイツの傀儡であるフランス・ヴィシー政権が治めている。アメリカ人のリチャード・ブレイン、通称リック(大空祐飛)は、亡命者たちのたまり場になっているナイトクラブを経営していた…脚本・演出/小池修一郎、作曲・編曲/太田健、青木朝子。1942年製作、1943年アカデミー賞受賞作の不朽の名画の、世界初のミュージカル化。

 あんなによく出来た原作映画をどうするのか、と不安に思ったのも今は昔…
 主に回想のパリ時代を肉付けして、キャラクターたちに奥行きと説得力を持たせ、ショーアップもして、すばらしい舞台になりました。
 力強いコーラス、盆回しによるスムーズな場面転換もすばらしい。
 本当によく出来ていて、もしかしたら再演もあるのかもしれません。宝塚歌劇の財産になっていくような演目になるのかもしれない。誰がやっても素敵なのかもしれない。
 だけど。
 だからこそ。
 ここは、大空リックについて語らせていただいても、よかですか?

 ずっと、舞台をリピートすることがありませんでした。
 ストーリーは一回観てわかるべきだし、チャンスがあれば二度観てより深く理解できるとか役者の芝居がじっくり見られるとか、そういうことはあるにしても、何度も何度もリピートする必要を感じたことはありませんでした。
 でも、今回は、東西合わせて15回、通ってしまった。
 もっとディープに通う人からしたら些細な数字でしょうが、私にとっては大きなことでした。
 舞台は生物で日々変わるから、メイン以外にも小さな芝居は行われていて、そこを観るから…ということは実はなくて、何度通ってもただただリックを見つめてしまったのですが、それで全然よかった。
 まったく飽きなかった。
 台詞も音楽も覚えてしまっても、それでもただただリックだけを見つめていました。

 たとえば、私は愛蔵しているコミックスを、それこそ台詞もコマ割りも覚えていようが、何度でも何度でも読み返します。その世界に浸りたいから。彼らの物語を鑑賞したいから。
 今回の『カサブランカ』通いも、まさにそれだったのでした。
 そうして、通う人はみんな通うのだ、とやっと私は知ったのでした…

 なのにコミックスとちがって舞台はいつかは終わります。DVDに収録されて残るのは、一公演、芝居の一パターンにすぎない。観た人たちが、通った人たちが、覚えていて、心にとどめていないと、消えてなくなってしまうものなのです。なんてはかない、なんて美しい…

 なので、書き留めておきたいと思います。

*****

 第1幕、序。
 大劇場の初日、上手からセリ上がり、ソフト帽とトレンチコートの後ろ姿がもうそれだけで格好良くて、セリ上がってもセリ上がってもまだあって脚が長くて驚嘆し、振り返って、ライトが当たって、思わず拍手がこぼれて、効果音が入って音楽が入って物語が始まって…なんてゾクゾクものの立ち上がりだったことを、今でも覚えています。様式美とあいまって絶好のイントロだと思いました。
 東宝でもその感動は変わりませんでした。

 フェラーリ(磯野千尋)に会釈代わりに振る手の、煙草を挟んだままの指の美しさ。
 「カサブランカの風」を情感たっぷりに歌うときの、目の伏せ方、瞬きのタイミング、振り返り方…すべてが美しい。たまりません。

 第3場で再びリックが現れるまでを、やや冗長に感じた初日の私を許してね、ルノー(北翔海莉)、シュトラッサー(悠未ひろ)。運転手役のちーちゃんも素敵でした。

 その第3場、リックのカフェ。
 初見時、ヘルム(雅桜歌)の人種差別発言に本当にハッとさせられたんですね。なんて嫌なことをいうヤツなの、なんて嫌な言い方をするヤツなの…と。
 脚本家の罠にうかうかとはまったのだと気づかされたのはそのすぐあと。
「私の店では、人間は皆平等です」
 胸のすくような台詞が先に響いて、音楽が鳴って、カーテンが開いてスポットが当たって、主役登場! 待ってました!!って感じ。
 観客の心の声を代弁し、
「リック!」
「待ってたわ」
 と合いの手のような台詞が入る。完璧です。
 サム(萬あきら)も小躍りして喜びを表しているし、ヘルムに絡まれていたアブドゥル(鳳樹いち)もほっとして、敬愛の眼差しをリックに注ぎます。みんなの心がひとつになる瞬間です。

 ただこのあとの台詞、
「男と女、髪の色、目の色~」
 は「男か、女か、髪の色~」とした方がよかったでしょうね。並列しているように聞こえないので。
 「例えそれが~」の「例え」も、残念ながら「喩え」が正しい。

 それはともかく、ここでのヘルムの名刺の破りっぷりがまた素敵。
 DVDではヘルムの
「こんな店、潰してやる!」
 の捨て台詞に対し、
「おお」
 とつぶやきながら、おどけるように「怖っ!」って感じで肩をすくめる仕草が入っています。私はあんなに観ていたのに舞台では気づかなかった…とってもキュート!

 第4場はカジノ。
 脚本によれば、自分専用のテーブルで「攻守を自分一人で勤める(「務める」が正しいかな)」チェスをしているリック、ということですが、私は詰め将棋みたいなものか譜並べをしているのかと思っていました…
 ここでのウガーテ(天羽珠紀)の小者っぷり、一人称が「僕」な感じもすばらしい。

 続く第5場で再びカフェに戻り、サムのダンスを観ながらただピアノにもたれて立っているだけの姿が素敵なのがほとんど卑怯。
 サムに
「金を使う暇もありゃしない(「遣う」かなー)」
 と言われて「おやおや」って顔をするのも素敵。そんなに働かせているかな俺は?って感じ?
 このあとサッシャ(春風弥里)がヘルムの小切手を持ってくるのを、またまた鮮やかに破り捨てるのがまたまた素敵。

 そしてイヴォンヌ(純矢ちとせ)との、これまた有名なやりとり。
「そんな先の計画は、立てたことはない」
 は、「立てたことがない」の方が自然かな、と思いますが。
 ここでリックが「まいっちゃうなー」みたいな感じで耳の後ろを掻いているのが可愛かったのですが、DVDではむしろ「耳障りな大声だな」って感じで指で耳の穴を塞いでいました。大劇場公演の初期ではこんなだったんですね。

 映画ではこのふたりには確かに何かがあったのかもしれないな、という感じがあったかと思うのですが、大空リックはそんなことはしないの、というのはロマンチックにすぎるでしょうか(^^)。
 でもサッシャがイヴォンヌをけっこう本気で好きだというのはリックもわかっているんだろうし、だとしたらなおさら過ちなんか犯さないよね、って気はしました。
 でもちょっと隙を見せてしまった、みたいなことはあったのかもしれない。そこをさすがイヴォンヌは見逃さなかった、ってことじゃないかしらん。

 第6場、妙に好きなシーンです。
 カフェの外で、ただ佇んで、煙草を吸う姿が素敵。空を眺める姿が素敵。
 でも、ルノーが言うほどには、夜間便を眺めるリックに感慨はないと思うんですよね。それくらい彼の心は渇いてしまっているのです。

 ところでルノーのファーストネームはルイだそうですが、だったらどこかでフルネームで呼ばせないと、観客は混乱します。

 しょんぼりやってくるエミール(蓮水ゆうや)も素敵。

 金庫前で、ルノーの「客」がシュトラッサーであることを聞いたときの、脚本によれば
「(落胆)おお!」
 は、字で読むと「外人か!」とつっこみたくなるところですが、実際にはなんかとてもいい「ああ~…」って感じになるのが素敵。
 その後の
「ナチの収容所脱出」
 の滑舌が悪いのは仕方がないとして、ナチかナチスかの統一はした方がいいと思うよ小池先生…
 賭けに関する銀橋の会話では、リックのひらめく笑顔がたくさん観られてうれしいくだりです。しかし外人さんは日常でやるこういう小さな賭けが好きだよね。

 第8場、シュトラッサーのテーブルにつくくだり。
 ここはなんといっても大股開きの腰掛け方、いかにも嫌そうに腰を前に出して座るだらしないポーズでしょう。
 国籍を聞かれて答える
「アルコール合衆国」
 というのはいわゆるおやじギャグなんだけれど、妙にウケるハインツ(風莉じん)がラブリー。
「俺の目は茶色か?」
 のくだりは、東宝公演でもいろいろなバージョンがありましたが、私はやはり大劇場での、リックが大きくのけぞってルノーに目の色を見させる、ってのが好きだったなあ。リックがラブリーだったし、ルノーとのおどけた信頼関係が見えて萌えだったし…
 その前からルノーもリックの肩越しに手帳をのぞいていて、リックが振り返ったら顔が近くてびっくり、で笑いを取る、というのもわかりやすくはありましたけれどね…

 ラズロに関して賭けをしたことをバラされて焦るルノーがシャンパンを吹き、ハインツにかかり、ハインツが迷惑そうに拭う、という小芝居は映画にはないのですが、私は大好き。

 そしてやっと第9場にしてイルザ(野々すみ花)とラズロ(蘭寿とむ)の登場です。脱獄犯のくせして堂々と本名でテーブル予約してくるラズロが本当にそれっぽいですよね(^^)。
 そしてカフェの店員は多かれ少なかれレジスタンスのメンバーだったりするので、みんなが色めき立ちます。
 ファティマ(すみれ乃麗)のご注進でバーガー(鳳翔大)が飛んできます。ラブリー。
 イルザの台詞は「そのマーク…フランス解放同盟のものだわ!」とかにした方が、バーガーが何をしているのかがよくわかってよかったかもしれません。
 ちなみにファンの間ではファティマはバーガーが好きなのにバーガーはラズロしか見ていなくて(!)という話ができていましたが、生徒によればファティマはビゴー(七海ひろき)とラブラブなんだそうですね(^^)。

 それにしても、ファティマから買った一輪の薔薇の花で額の傷を指すラズロ…粋すぎます。強制収容所での拷問がそんなものですむはずはないんだけど(^^;)。さらにラズロは後でその花をカウンターに飾るようサッシャにあげてるんだから、粋というか気障というか(^^;)…素敵です。
 ルノーはもちろんバーガーの活動は知っていて泳がせているのだと思われますが、ちゃんと釘を刺しておく、というのもいいですね。

 一方、イルザとサムの会話。ボスであるリックにイルザを会わせまいと嘘をつくサム、その嘘を女の勘?で見破るイルザ。
 イルザはおそらく、ただただ懐かしくてサムに声をかけたのでしょう。本当にリックに会えるかとか、会ってどうするとかは考えられないでいるうちに、リックが現れてしまい、自分でも驚くくらいに動揺させられることになってしまったのではないかな…

 サムが「As Time Goes By」を歌い出すと、リックがゆらりと階段を上がってくるのが見えます。照明が当たる前でも、白いタキシードがぼんやり浮かび上がって、とても幻想的でいいのです。席によっては、階段を上がりきったところからしか見えないのが残念。

 階段を下りてきて、サムが歌っている曲に気づいてからの、各キャラクターたちの視線の交錯のドラマは見事の一言です。

 「オーナーは決してお客様と盃を交わすことはございません」
 というモットーを破ってまでラズロのテーブルについたリックですが、まあその態度の悪いこと悪いこと。
 嫌みったらしくイルザにチクチクやって、ラズロの台詞にいちいち皮肉っぽく返して、イルザを睨んで、無視して。ラズロやルノーが大人らしく場を保たせようとするのに全然頓着しません。男ってバカね、って感じ全開でとてもラブリー。つまりそれくらい、彼の心は未だに傷ついていたわけです。

 第10場で見送りのためにカフェの外に出たあとも、イルザを睨んだり、でも視線を外したりで、結局きちんと見送りきらずにさっさと店の中に戻ってしまっている。オーナー失格です。でも、そうせずにはいられなかったのです。

(続く)
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