映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

普通の人々(1980年)

2018-12-27 | 【ふ】



 高校生のコンラッド(ティモシー・ハットン)は、精神的な不安定さから眠れず、夢にうなされることもある。そんな息子を心配する父親カルヴィン(ドナルド・サザーランド)は、知り合いから勧められた精神科医バーガー(ジャド・ハーシュ)に行くようコンラッドを促し、コンラッドもバーガーの下に通うようになる。

 彼が不安定なのは、その数か月前に兄バックが海で亡くなる事故があったことが原因らしい。バックと2人、ヨットで海に出たコンラッドだが、途中で嵐になり、コンラッドだけが助かったのだ。バックを溺愛していた母親ベス(メアリー・タイラー・ムーア)は、バックを失った哀しみから抜け出せず、一人生き残ったコンラッドに対し時折冷たく当たり、2人はギクシャクするようになっていたのだった。

 コンラッドはバーガーの診療室に通ううちに、次第に自分の心と正面から向き合えるようになっていく。そして、自分がどうしてこんな気持ちになっているのか、だんだん自覚するようになっていくのだが……。

 R・レッドフォード監督デビュー作にして、オスカー受賞作。

 
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 『へレディタリー/継承』を撮るに当たり、アリ・アスター監督が参考にしたという本作。レッドフォード監督作は『ミラグロ/奇跡の地』で玉砕した経験があるので、それ以来、食指が伸びなかったのだけど、『へレディタリー/継承』をまあまあ興味深く見たので、本作も少し見てみたくなった次第。考えてみれば『クイズ・ショウ』も彼の監督作だしね。

 で、見てみたのだけれども、これは、静かなる衝撃作でありました。これが監督デビュー作とは、恐れ入る、、、。


◆フレンチトーストが、、、

 正直言って、前半は割と退屈だった。……とはいっても、序盤で、母親ベスが、コンラッドが「食べたくない」と言った(ベスが作った)フレンチトーストを容赦なくシンクのディスポーザーに捨てたシーンはギョッとなって心臓を掴まれたような気分になったけれども。

 もう、あのワンシーンで、ベスがコンラッドにどう対峙しているのかが端的に分かるという、もの凄く雄弁な描写である。ホントに、あのシーンはビックリした。

 しかし、その後、中盤くらいまではかなり淡々と(というか、本作は終始淡々とした描写なのだが)話が進んでいく。再び私が心臓を掴まれたような気分になったのは、あの“写真を撮る”シーン。

 ベスの両親がコンラッドの家に遊びに来ていて、コンラッドとカルヴィン&ベスの3人の家族写真を撮るが、その後、事件が起きる。カルヴィンが、コンラッドとベスのツーショット写真を撮ろうとすると、ベスは「イヤだ」とは言わないが、「いいわよそんなの、男性3人の写真撮りましょうよ、私が撮るわ」と、隣にコンラッドがいるのに、カメラを構えている夫のカルヴィンに執拗に「カメラちょうだい」と手を出して言うのである。ベスの父親も「いいから2人で肩組んで!」などとベスとコンラッドに促すが、ベスは聞き入れない。すると、コンラッドがカルヴィンにキレるのだ。「いいから! カメラ渡せよ!!」と。当然、一同は凍りつく。

 ここでコンラッドがキレる相手が、母親のベスではなく、父親のカルヴィンであるところがミソだと思う。コンラッドは、母親が息子の自分をここまで嫌っていることに気付かない父親に苛立ったのだ。母親が自分を嫌っているのは、その理由が分かるから、もう仕方がないと諦めているのだろう。しかし、父親が、その空気をあまりに読めていないことで、自分がここまでいたたまれない気持ちにさせられていることが耐えられなかったに違いない。

 それ以降は、もう、見ていて辛くなるばかりで、終盤は涙が止まらなかった。

 もちろん、コンラッドの気持ちを想像すると胸が詰まるのだが、父親のカルヴィンの辛さも、そして、一般的には評判の悪い母親ベスの抱える思いも、全部が重く私の心にのしかかってくるような感じだった。


◆母親の限界

 私の心に突き刺さったのは、バーガー先生の言葉だ。コンラッドに「母親の限界を知れ」と言う。一瞬??となったが、すぐに意味が分かり、グサッと心臓を貫かれた感じだった。

 つまり、ベスはベスなりにコンラッドを愛してはいるのだろう。しかし、親の愛情は無限、などというのは単なる幻想で、ベスも一人の人間であり、母親と言えども息子に注ぐ愛情には限界があって、コンラッドが望む量の母親の愛はベスは持ち合わせていないのだということを、バーガー先生の言葉はズバリ指摘しているわけだ。

 そうか、、、親の限界を知れ、か。そう聞かされると、私自身、親の限界を知ろうとしなかったのだなぁ、、、と思い知らされた様で、目からうろこが100枚も200枚も落ちたような気分になったのである。私は、どこかで、親の愛情無限神話を信じていたのだ。言葉にして「親の限界を知れ」と言われると、これほど説得力のあるものはない。

 ネットの評では、おおむね、ベスが母親としてサイテー、という感じである。確かに、まぁ、好感は持てないよなぁ。だけど、サイテーとまでこき下ろす気にもなれない。

 一度だけ、ベスの方からコンラッドに歩み寄るシーンがある。寒い庭で、コンラッドが椅子に横たわっているのを見たベスは、何を思ったのか、自分も庭へ出てコンラッドに近づいて声を掛ける。「寒いから上着持ってこようか?」みたいなことを言うんだけど、コンラッドは違う話をして、結局2人の会話は噛み合わないまま終わる。ベスは家に入ってしまい、夕食の支度を始めるが、コンラッドは少しベスに悪いと思ったのだろう、自分も家に入るとベスに「手伝うよ」と申し出る。でも、ベスは「必要ない、そんな暇があるなら自分の部屋を片付けて」と言って、その後、彼女の友人と思しき人からかかってくる電話に出ると、やたら明るく笑い声を立てて楽しそうに話すのである。そのベスの背中を見ながら、部屋へと上がって行くコンラッド。

 結局、この母と息子は、一人の人間対人間として、決定的に合わないのだと思う。バックが生きていたときは、それが表面化することなく、何となく上手く行っていたのだ。

 ベスは、自分の“良し”とする範囲内のこと以外のありとあらゆるものに対して、全く柔軟性がないのである。自分の“良し”とする範囲ってのも、つまりは、世間一般が良しとしていることなわけ。自分に自信がない人の特徴として最たるものだと思うけれど、そういう人だから、想定外のことが起きたとき全く冷静に対処できない。そして、それを全部、自分以外のせいにして、非常に他罰的な思考回路。「私はこんなに世間の規範に沿ってちゃんとしてるのに、何なのよ!」という感じ。自分の融通のきかなさを顧みることは決してない。

 バーガー先生に、誰よりも診てもらわなければならなかったのは、コンラッドでもカルヴィンでもない、ベスだったということ。

 でも、こういう人は、自分に自信はないけどプライドは人一倍高いから、自分のオカシさを自覚することはそもそも出来ない。だから、夫のカルヴィンに「一緒にバーガー先生の所に行こう」と言われても、ヒステリックに拒絶してしまう。

 このシーンは、私が摂食障害になって精神科に通っていたとき、医師に「お母さんも一緒に来てもらった方がいいんだけどねぇ……」と言われ、それを母親に伝えた時の反応の再現フィルムを見ているようだったので、正直、一瞬凍りついた。まあ、母親はメアリー・タイラー・ムーアのように美しくはないですが。ホント、これ以上ないっていうくらいの拒絶っぷりに、絶望的な気持ちにさせられたんだけど、本作のカルヴィンも固まっていた。

 でも、それもこれも、「母親の限界」と思えば、もしかしたらそれほどのことではないのかも知れない。偏差値30くらいの人に、偏差値70の学校に受かれ、と言ったって、そもそもムリなわけで。それと同じなんだと思うと、私も、母親に対して可哀想という感情が湧いてきたのも事実。


◆家族崩壊……か?

 ラストは、ベスが一人、家を出て行き、カルヴィンとコンラッドが抱き合うシーンだった。家族の崩壊、、、ということなのか。

 ベスが家を出たのは、カルヴィンに愛想を尽かされたからだが、カルヴィンがそうなった直截的な原因は、その前のシーンにある。コンラッドが、旅行から帰って来た両親に「お帰り」と明るく言い、ベスにそっと近づいてハグをする。しかし、ベスは戸惑ったような、むしろ嫌悪の表情を浮かべて、ハグを返すことなく硬直していただけなのだ。それを見たカルヴィンは、ようやくベスの抱えるオカシさをハッキリと認識したのだ。

 けれども、21年も連れ添ってきた夫婦であり、妻がオカシいと知って、それだけで夫婦が破綻するというのも、何か違う気がする。カルヴィンは、鈍感だが、愛情深い人間であることは確かなようだから、自分が家族の接点となって、再びコンラッドとベスの歪ながらも三角形を築いて行く、と願いたい。

 故淀川長治氏の本作の評をYouTubeで見たけれど、淀川さんは「息子がもっと母親を理解し歩み寄るべき」と言っていた。……そうかなぁ。コンラッドは歩み寄ったぞ? だからこその、あの優しいハグだったのではないか。そして、だからこそ、カルヴィンがベスに愛想を尽かしたのではないか? あれ以上、それでも息子は母親を優しく包み込まなければならないのか? それはちょっと酷というものだろうと、私は思うのだけれど、、、。
 
 それにしても、家族って、、、何なんですかね。私にとっては、あらゆる悩みの根源でしかなかったけれど。「家族っていいなぁ、、、」と無邪気に言える人は、ホントにラッキーな人なのかも知れない。家族は選べないもんね。

 終盤、コンラッドが仲良くなる女の子ジェニンを演じていたのは、エリザベス・マクガヴァン。「ダウントン・アビー」のコーラ役がステキだけど、『窓・ベッドルームの女』でも好印象だった。すんごい足が長くてビックリ。目が綺麗で、ホントに可愛い。

 コンラッドを演じたティモシー・ハットンは、本作でオスカーを受賞している。……けれど、その後はあんましパッとしない様子。出演作を見たら、『ゲティ家の身代金』に出ていたらしい! えー、ゼンゼン気付かなかった、何の役だったの?? といって、再見する気にもならないし、、、。ま、いっか。








バーガー先生、たばこ吸い過ぎです。




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4 コメント

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家族って (松たけ子)
2018-12-30 23:21:20
すねこすりさん、こんばんは!
かつてはアメリカン美男の代名詞だったロバート・レッドフォードも、すっかり爺さんになりましたね~。この映画、オスカー受賞作なのに未見!めんどくさいこじらせ家族の話、観たら疲れそう。親に愛されてるとも拒絶されてるとも感じたことがない私です。
今年もさまざまなことがありましたね~。過酷な夏でした…でも、映画を観て元気になれた年でもありました!今年もこちらにお邪魔で来て楽しかったです。来年もよろしくお願いいたします!すねこすりさんの2018年ベスト映画、男女優が気になります!
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ブラピのお父さんかと思った。 (すねこすり)
2018-12-31 00:10:24
たけ子さん、こんばんは~!
今年も終わろうとしておりますが、私、もう15年くらい親の家に帰っておらず、親とも会っていないので、親の顔、忘れそうです
この映画、淡々としているので、あんまり疲れないと思いますヨ。人によっては、拍子抜けするかも。
是非、ご覧くださいまし!
今年のベスト映画は、、、『ウインド・リバー』ですね、私の場合。衝撃的でした。ベスト男優は、毎年(新作があろうがなかろうが)DDLです!
こちらこそ、来年もよろしくお願いします~!!
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家族。 (フキン)
2018-12-31 11:25:02
こんにちは、すねこすりさん♬

こちらの作品はかなり昔に見た気がするんですがあまり深く見ることができていなかったように思います。
すねこすりさんのレビューを拝見し、もう一度見てみようと思いました。

この作品はきつと、見る年齢によって感じ方が全然違うタイプなのかなと思います。

家族って、少ない人数とか大家族とか
それぞれいろいろあると思うけれど
なんにしたってややこしいもんですよね、、、。しかし、15年、永いですね。

先日のドラマ版「バーニング」私も見ましたよ。
原作知りませんけど、何のために納屋を
焼くんでしょうね、、、
あれって映画版が公開されるんですか?

昔ありませんでした?「パティオ」でしたっけ?古いっ!(´⊙ω⊙`)

最近では「OH!ルーシー」とかもありましたね。全く見に行く気がしませんでしたけど(笑)
「バーニング」のあの女優は良かったと思いますが金持ちの男がもったいつけててイライラしました。笑

来年もまた遊びに行きます。(o^^o)
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今年もあと5時間30分。 (すねこすり)
2018-12-31 18:32:26
フキンさん、こんばんは☆!

この映画は確かに、若い頃見ても、ふ〜ん…で終わってたかも知れません。
家族がテーマの映画が多いのも、家族がそれだけややこしいものだからでしょうね、きっと。
再見されたら、是非ご感想うかがいたいです!

お、ご覧になりましたか、バーニング。
「金持ちの男が……イライラ」…分かります分かります! ハルキーものにはお決まりの不思議チャン女子とか、もうげんなりしてしまった(>_<) 女優さんは可愛かったけど。
私は、憂さ晴らしに焼く、というか、暴力のメタファーかな、と思いましたけど、なんかそれさえどーでも良いというか。
多分劇場には見に行かないな…。

パティオ…? ってあの、高岡早紀とか出てたやつでしたっけ? パ・テ・オ、とか区切ってた? いやぁ、そんなんありましたねぇ…。フキンさん、すごい記憶力!!
OH!ルーシー もそういえばドラマと映画両方ありましたね。 私もゼンゼン食指伸びず…。

楽しいコメントをたくさん頂戴して、ありがとうございました。また楽しいコメントお待ちしております♪
来たる年が良い年でありますように。
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