映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地(1975年)

2023-01-17 | 【し】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv74419/


以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。
 
 思春期の息子とブリュッセルのアパートで暮らすジャンヌ(デルフィーヌ・セイリグ)は、湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、買い物に出かける。そんな平凡な暮らしをしているジャンヌだったが……。

=====ここまで。


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 昨年、渋谷だったかで「シャンタル・アケルマン特集」があったのだが、都合がつかなくて行けず仕舞い。中でも、本作は是非見たいと思っていたので、あーあ、、、という感じでいたのだが、早稲田松竹が新年早々かけてくれました。他の作品も見たいけど、何といってもアケルマンといえば本作。

 いやぁ、、、これは見て良かったです。というか、見ないと損かも。


◆ジャンヌのルーティン

 映画にしろ小説にしろ、良い作品というのは“省略の美”が大事だと言われるし、同意である。そういう意味では、本作はその対極にあるといってもよい映画であって、省略しないことの意義を納得させられる稀有な作品である。200分の映画だけど、ゼンゼン長さを感じなかったのがスゴい。

 朝、起床したジャンヌが息子を学校へ送り出すまでのルーティンの映像がず~~~~~っと流れ続ける。長回しでほとんどカットがない。でも、見ていて飽きない、ゼンゼン。それは、ジャンヌを演じるデルフィーヌ・セイリグの動きに無駄がなく、品があって美しいから。家の中でも靴を履く欧米ならではで、ジャンヌが歩くコツコツと鳴る足音がまたイイのだ。

 ストーブに火を入れ、息子の靴を磨き、コーヒー豆を挽いてコーヒーを淹れる、、、と、文字にすると味気ないけど、見入ってしまう。

 見ていて思ったのは、YouTubeの動画ブログによくある“〇〇ルーティン”みたいだなぁ、、、ということ。動画ブログも色々だが、人様の極々プライベートな時間・空間での行動を見るのは、覗き趣味的なのかも知れないが、ハッキリ言って面白い。例えば、同じコーヒーを淹れるという動作一つとっても、人によって「へぇー、こんな風にするんだ」という発見がある。そんな私的な部分は、一昔前までは、まったくのナゾだったのだから。

 とはいえ、動画ブログでも演出は当然あるだろう。本作でも、制作裏話を聞くと、ジャンヌの一つ一つの動きについて実に細かくアケルマンとセイリグは打ち合わせをしたのだという。観客がスクリーンに見たジャンヌのモーニング・ルーティンは、彼女らの計算しつくされた動きだったのだ。

 キッチンでの映像が多く、腰より少し上くらいの高さに設置された固定カメラは、淡々としたジャンヌの動きをひたすら映し続ける。普通の映画だったら、数秒、長くて1分くらいでカットになるシーンだろうが、ここまで執拗に描写する必要があるのか、、、?と思って見ていると、その必要性は、中盤以降からだんだん感じて来て、ラストでこれまでのあの延々とした映像がなぜ必要だったのかを理解できるようになっている。

 見終わって、ボー然、、、。うわぁ、、、やられた……って感じだった。


◆真似しちゃダメ。

 つまり、ジャンヌの規則正しいルーティンに、ほんの少しの綻びが生じ、それがどんどんジャンヌを思わぬ方へと導いていくことになるのだ。

 昨日と同じ直線のラインをなぞっているはずなのに、ある箇所で0.1ミリズレてしまって、元のラインに戻れないでいるうちに、元のラインと自分の進むラインがどんどんどんどん、1ミリ、1センチ、10センチ、、、、と離れて行ってしまう。……そんな感じなのよ、この映画は。

 その些細なズレは、あの省略のない連続した映像があってこそ、見ている者たちにジワリと伝わるのだ。そして、ジワジワと恐怖感が襲ってくる。これは何かが狂っていく前兆だ。……でも何が?これくらい、別に大したことないじゃん。……いやでも、何かヤバいでしょ、このズレ、、、!!!

 それが、普通の映画みたいにカット割りでつないでいれば、説明的になって、ヤバさを演出するばかりにあざとくなる、、、という結果になりかねない。手に汗握るジワジワとした恐怖はあんまし味わえないだろう。

 でも、だからって、こんな演出を実践してしまうアケルマンの発想と実行力には恐れ入る、、、としか言いようがない。真似してみたとしても、きっと本作のような効果は生まれないだろう。誰もが出来る芸当ではない。

 セリフが異様に少ない映画なのだが、その少ないセリフの中でも、ジャンヌと息子の短い会話にギョッとなる。ジャンヌは亡き夫と愛情なく結婚したことを話すと、息子が「自分は好きじゃない人とセックスなんかできないと思う」(セリフ正確じゃありません)と返す。するとジャンヌは「セックスなんて大した問題じゃない。あなたを授かったんだし」とシレっと言うのである。

 この会話で、この母と息子の関係性は十分に察せられる。こういう、何でもなさそうなシーンに横面を張られた気分になるのだった。

 本作が名画だとか、見るべき映画だとか言われるのも納得。滅多にこんなことは書かないが、書いちゃいます。「見ないと損」です。アケルマンのBlu-rayが出るらしいのだが、欲しい、、、。

 

 

 

 

 

 


じゃがいもをゆでる時間も決まっていたのに、アイツのせいで……

 

 

 

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