はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

晩秋の旅

2021-11-30 16:58:32 | はがき随筆
 毎年晩秋の頃になると、地区老人会の日帰りバス旅行が実施されていたが、昨年は新型コロナウイルスが蔓延したので中止になった。今年は11月17日に23人の参加者で実施された。目的地は天草であった。大矢野島のホテルに到着し、6階の食事室から見下ろすと景色が素晴らしくて、日本三景の松島に負けないのじゃないかと思えるほどの明媚な風光であった。新鮮な魚の刺し身や焼き魚など、次々に出される料理に舌鼓を打ちながら賞味したが、小食多噛の私は食べ残した。ストレスが解消したような楽しい一日だった。
熊本市東区 竹本伸二(93) 2021.11.22 毎日新聞鹿児島版掲載


毎日ペンクラブ鹿児島・秋の研修会

2021-11-30 16:30:22 | はがき随筆
 毎日ペンクラブ鹿児島の秋の研修会が、11月14日、鹿児島市・よかせんたーで開催され、講師に石田宗久鹿児島支局長をお迎えし、「はがき随筆で表現する個性」と題して講演をお願いしました。

ペンクラブ賞の発表では、馬渡浩子さんの「年老いても」
本山るみ子さんの「終わりよければ」
が選ばれ、表彰されました。

各地区持ち回りで作成する会報「マイペン」今回は北薩地区の担当でした。




親捨て

2021-11-30 16:22:15 | はがき随筆
 子の意見など聞く耳持たぬ母だった。私は幾度となく同居を勧めたが断り続け、76歳の時の話し合いでは怒って口もきかなかった。その母は91歳で入所した施設で暴力をふるい追い出され、病院を転院して今年7月、95歳で逝った。その日から親を施設に捨てたという自責の念が頭から離れない。用を足しに起きると容易に寝付けない。できるだけの事はしたと自負しても、母の死に顔が浮かび「なぜ捨てた」と耳元で聞こえるような……。が、家庭での介護は双方が甘え合い傷つけ合っての別れも多いという介護の現実を知り、少し自分を許す気になった。
 鹿児島県湧水町 近藤安則(67) 2021.11.21 毎日新聞鹿児島版掲載

ワンピース

2021-11-30 14:15:38 | はがき随筆
 居間に母の写真を飾っている。喜寿祝の時のもので、お気に入りのワンピース姿にバッグを持ち、にこやかな表情だ。
 母の命日の朝、写真を見つめながら一緒にデパートに出かけた時のことを思い出した。母の日のプレゼントを買うため婦人服売り場へ向かった。母に似合いそうな品を見て回るが、目移りして決まらない。
 私選ぶ人、母着る人となり、試着の手伝いをしながら、私は更衣室を出たり入ったりした。ようやく色柄、サイズとぴったりのワンピースが見つかり母の日の贈り物にした。うれしそうな母の笑顔が浮かんでくる。
 鹿児島市 竹之内美知子(89) 2021.11.20 毎日新聞鹿児島版掲載

高鍋湿原にて

2021-11-30 14:09:00 | はがき随筆
 湿原を囲む遊歩道を散策して出口につながる橋のたもとまで来た時、足元で何かが動いた。
 蛇だ。70~80㌢ほどで口にはカエルをくわえている。カエルは命乞いをするかのようにギーギーと鳴いていて哀れだ。
 折しも向こうから上品そうな熟年夫婦が近づいてきた。男性は「絶好のシャッターチャンス」とカメラに収めた後、いきなり尻尾を踏んづけると蛇は橋下の草むらへと落ちていった。
 「なんばしよっと。やっと食料にありつけたかもしれんとに」。女性がすかさず言った。
 まるで鉄也の母ちゃん、しかも蛇の見方だ。人は見かけに……。
 宮崎県延岡市 楠田美穂子(64) 2021.11.20 毎日新聞鹿児島版掲載

月曜日の朝

2021-11-30 14:02:49 | はがき随筆
 「今日は、何時から?」。母の声で夢の世界から引き戻される。まだ肌寒く、暖かい布団から出たくない。だが月曜日は早めに登校しなくてはならない。立ち上がるとフラッときた。いつものんでいた薬を昨日はのんでいなかったことを思い出した。「朝の分の薬おいてあるからのみなよ」と母。自己管理ができていないと反省。シャワーを浴び終えた兄が牛乳を飲んでいる。「それ、消費期限切れてなかった?」。ゲホッとせき込んで牛乳パックを見る。「3日過ぎとる」と言った兄の顔が変だったので私も噴き出し、笑いがおさまらなかった。
 熊本市中央区 福永綾乃(19) 2021.11.20 毎日新聞鹿児島版掲載

明けの空

2021-11-30 13:55:57 | はがき随筆
 毎朝、総菜を届けてくれる娘が「空がきれいよ」と。10分くらい話して帰り際、私の「明けの空を見たい」という願いで一緒に外に出た。
 「オリオンよ」「大きいね」「その後ろに北斗七星が」と振り返って確かめる。「あの星は?」「木星かな」。二人で昔のように会話をしながら見上げるうたに東の空が明るくなった。
 「ありがとう」。レモンの木の下をつえをついて庭に行く私を見守り、通りへ出る娘の気配。小さなことだけど、一緒に明けの空を見上げられてうれしかった。桜島は一握りの煙を上げている。今日もいい天気。
 鹿児島市 東郷久子(87) 2021.11.20 毎日新聞鹿児島版掲載

スイカとムジナ

2021-11-30 13:48:57 | はがき随筆
 今夏のこと。父から電話がきて「コンテナ貸してくれ」。家に行くとスイカ約50個が無残に食い荒らされ、あぜんとした。
 100個の収穫を予想し楽しみにしていた。なりだして「こんげなったど」と喜んでいた。父に「ムジナの予防をせんといかんよ」と忠告していた。
 「網張れば大丈夫やが」と軽く言っていた。コンテナをスイカにかぶせ大丈夫と思いきや、重なりを乗せわすれたものは食べられた。残ったのは二、三個。
 「もう作らん」と腹立たしく言ったのもつかの間、「こんだ、つり下げにしてみようかい」と父。来年はどうだろうか。
 宮崎県串間市 林和江(65) 2021.11.20 毎日新聞鹿児島版掲載

新しい一億総中流

2021-11-30 13:40:56 | はがき随筆
 35年ほど前、一億総中流とよく言われた。一方、米国のような上流がいないとも言われ、私は疑問を感じた。その後、バブルがはじけ、低成長期になると、労働者派遣法改正による規制緩和で正社員が激減し格差が大きくなった。そして今、コロナ禍で格差はますます大きくなっている。今回、岸田総理が成長と分配を強く言っているが、私は分配と成長だと思う。分配が正当に行われれば、自然と国民の生活は安定し成長につながる。IT社会や働き方の多様化で35年前と違うが、渋沢栄一氏の言う倫理のある共存共栄で、新しい一億総中流の日本を願う。
 熊本県八代市 今福和歌子(71) 2021.11.20 毎日新聞鹿児島版掲載

花を育てる

2021-11-30 12:16:42 | はがき随筆
 通りに面した敷地に、花を植え楽しんでいる。チューリップ、マリーゴールド、千日草と、季節ごとに植え替え、花を咲かせるのが私の日課だ。
 そよ風に吹き飛ばされそうな種から、やがて双葉が出、大地に根を張り、それぞれの形や色の花を咲かせる。繰り返されてきた自然の恵みの手助けが、私の元気の元になっている。
 通りすがりの人が「きれいですね」と、声をかけてくる。作業の手を休め、花壇を挟んで花談義から世間話へ移り、地域の人との交流の場ともなる。
 そろそろ来春に向けての順場が始まります。
 宮崎市 実広英機(76) 2021.11.20 毎日新聞鹿児島版掲載

寂聴さんを悼む

2021-11-30 12:10:01 | はがき随筆
 いつかこんな日が来ると分かっているのに、いつまでも書き続けて庶民の見方でいてくださるような気がしていた。大きく報じる本紙の紙面で、「忘己利他」の精神を貫き、現世に別れを告げられた事実を突きつけられた。直接お会いする機会はなかったが、親しくしておられた恩師がご縁をつないでくださって、最も身近に感じる作家であった。手元にある著書を開くと、折々の関連記事を切り抜き挟んでいる。辛いことはあってもユーモアを忘れず、日々を楽しんで生きよと励まされ続けてきたように思う。前方に灯を掲げ導いてくださったことに感謝。
 熊本市中央区 渡邊布威(83) 2021.11.19 毎日新聞鹿児島版掲載

一冊の本

2021-11-30 12:02:27 | はがき随筆
 久しぶりに積ん読の書棚の整理をすることにした。もともと面白そうだなと思ったらつい買ってしまう本好きから出発しているので、関心のある絵の本以外は積ん読になっていた。そこに古ぼけた一冊の本。石川達三「青春の蹉跌」が目に留まった。この本を読んだのは20代の頃だった。どちらかと言えば落ちこぼれだった自分に「青春とは何か」と人生の指針になってくれた本である。あれから50年。古希を過ぎるとともに感激は薄まっていくものだが、読み直してみると、そこにはいかに生きたかと問う73歳の青年がいた。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(73) 2021.11.18 毎日新聞鹿児島版掲載

栗拾い

2021-11-30 11:55:42 | はがき随筆
 10年位前に荒れたクヌギ林の草刈りをしている時に栗の苗を数本見つけた。上の山から飛んできて自生したのだろう。あてにしないで手入れをしてきた。
 白い花を見た時には、毛糸の房のような物が栗の実になるのかなと不思議でならなかった。花が枯れて小さいマリモみたいなイガグリを付けて納得した。
 風の日は期待して、雨でも傘をさして拾う。軽トラには軍手と火ばさみと袋を常備して仕事の合間の栗拾いに夢中になる。
 昔、義母の共に連れられ栗拾いに行った。初体験だった。秋には思い出して懐かしくなり、無性におばさんに会いたくなる。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(67) 2021.11.17毎日新聞鹿児島版掲載

阿蘇

2021-11-30 11:48:35 | はがき随筆
 秋空に誘われて阿蘇までドライブをした。途中から、新しく整備されたバイパスに入る。この道路のおかげで、阿蘇が近くなった。
 しばらく走るとトンネルにさしかかるが、このトンネルを出たところに絶景ポイントがある。阿蘇にはもう行ったと言われる方にも、絶対おすすめである。トンネルを出た瞬間、迫力ある阿蘇山が飛び込んでくる。とにかくご覧いただきたい景色である。
 当日は草千里までしか行けなかったが、噴煙を上げている中岳火口は目の前、自然に手を合わせる気持ちになった。
 熊本市北区 岡田政雄(74) 2021.11.16 毎日新聞鹿児島版掲載

カゴッマ弁

2021-11-30 11:41:29 | はがき随筆
 「ンダモシタン」が隣県小林市の西諸県弁だと新聞にあり、カゴッマ弁だと信じて疑わなかった私には意外だった。
 県境をまたぐ方言。祖父母の時代、ンダモシタンは驚いた時、耳にした記憶がある。その記事を見て何だか、お株を取られたような気がしたのは私だけだったのか。
 方言は言葉を短縮し、感情を端的に表現し、余計な説明がいらない。ドンビシャ。最近、あまり聞かなくなったカゴッマ弁。亡き義母のおはこでもあった。私も何かにつけ口に出している。いつまでも絶やすことなく伝承していきたい。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(71) 2021.11.14 毎日新聞鹿児島版掲載