はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

版画で年賀状を

2021-11-12 18:18:08 | はがき随筆
 来年は寅年、さぁてどんなデザインにしようかなと思う。奇抜な寅もいいし、従順な寅もありか。絵本の中から一つに決めた。もちろん愛犬の桃太郎君は登場させる。年賀状用の版木は意外と柔らかくスイスイとはかどる。一気に線を彫る。版画の醍醐味はこれだ。しま模様がいい。版木2枚で完成する。彫りながら今年こそはコロナ禍が終息してほしいと願う。マスクをはずしてみんなと大きな声でおしゃべりしたい。遠方に住む子供や孫たちに会いたい。穏やかな日々が恋しい。そんな願いのこもった1枚の年賀状になれば幸せ。頼みますよ、寅さん。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2021.11.6 毎日新聞鹿児島版掲載

秋日和

2021-11-12 18:11:14 | はがき随筆
 朝起きて、玄関のドアを開ける。澄んだ外気とともに甘い香り。「うん?」。見上げるとキンモクセイが咲いている。「キーキー」と電線にモズが。縄張りか、相方を求めているのか。ツマベニチョウがギョボクの葉にツンツン止まっては離れたり。産卵かしら。愛らしいピンクの小花、ゲンノショウコ。もうすぐプチンパチンと種をとばしそう。サザンカにはつぼみがいっぱい。ツワの花もそろそろ顔をもたげてきそう。残照に映える花、木々たち。なんと美しいことか。かなたに銀色の飛行機音がかすかに響く。のどかな、すてきなすてきな秋日和です。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(68) 2021.11.5 毎日新聞鹿児島版掲載

ある秋の日に

2021-11-12 18:03:41 | はがき随筆
 「天気はいいし、ガソリンは満タンだし……」。朝食後、夫がつぶやく。山好きの夫の心は早、下界を離れ、山道をさまよい始めたようだ。多分いま、胸に去来するのは、心を寄せる雄大なくじゅう連山。行きましょう。秋集う山塊へ。
 実りの大地を越え、彼岸花の野を走る。はるかだった峰々が近づいた。お久しぶり。車を降りて登山道を少し歩いた。秋色に装い始めた森の小道のこもれびがキラキラと奥へと誘う。
 「いいね」と夫はしみじみと。そう、山は夫のおもいびと。さ、阿蘇の山も回りましょう。きっとススキが美しいから。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(76) 2021.11.4 毎日新聞鹿児島版掲載

予定表の空欄

2021-11-12 17:56:32 | はがき随筆
 来月はもう師走。いくつかのカレンダーが届くはず。だが、私は毎月末、新聞と一緒に配られる「生活メモ」を重宝している。届いたら予定表として記入し、冷蔵庫の前に張る。毎日何回も目を通すし、忘れることがない。今年は残念にも記入する行事予定がなく、空欄のままが多く、月1回の通院日だけの時も。だから新型コロナウイルスのワクチン接種日は、大きく書いた。楽しみの高齢者レクリエーションダンス月2回もやっと10月から復活、その他に記入する行事予定はいまだ無くさびしいまま。ただ、予定表に書かない早朝散歩は続けている。
 熊本市中央区 原田初枝(91) 2021.11.3 毎日新聞鹿児島版掲載


2021-11-12 17:50:02 | はがき随筆
 4時前に起きて空模様を確認する。地面はぬれているが、降ってはいない。雲の向こうにぼんやり明るいモヤモヤは月だろう。トーストを食べ散歩に出る。一日の始まりに勇んで家を出た。闇の世界だからか海中電灯の光が頼り。だが、その光の中に糸が流れる。不安が現実になった。雨である。まれにあることで、自室に戻って夜明けを待つしかない。ぼんやり物思いにふけるのもいいもので、楽しかった思い出が浮かんでは消えていく。年老いて見る頭の中の映画館である。ふと現実に戻る。毎朝一緒に歩く友人は稲刈りを予定していたが大丈夫だろうか。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(82) 2021.11.2 毎日新聞鹿児島版掲載

私のSDGs

2021-11-12 17:42:15 | はがき随筆
 両親は家業で忙しく、子供時代は同居の祖父母と過ごすことが多かった。関東大震災や戦争を生き抜いた「もったいない精神」は確実に私に引き継がれた。
 40年前、長男を妊娠中にブラウスをほどいてベビー服を作る私に母は「初孫にそんなつましいことはしないで」と言った。
 時代はバブル期。母だけでなく、周囲の消費ぶりにひとり違和感を覚えていた。
 それでもやっぱり譲れない。靴下の破れは繕い、すり切れたシーツの端は枕カバーにした。
 私も祖父母の年齢になった。幾多の災害やコロナ禍を経て時代が私に追いついてきた。
 宮崎県日南市 小野小百合(63) 2021.11.1 毎日新聞鹿児島版掲載


入浴

2021-11-12 17:35:00 | はがき随筆
 若かった頃、「高齢者になるとまず足から弱るので、若いうちに鍛えておくように」と聞き、車の運転はせずに、バスを利用して勤務先まで歩いたものだ。でも最近になって足が弱りヨタヨタと歩くようになった。入浴する時は浴槽上部の3カ所に取り付けた金属製の手すりを両手で抑えて入るし、出る時は上に伸ばした手で手すりをつかみ、力を加えて立ち上がっている。一人暮らしだし、手すりはとても役に立っている。私が70歳代の頃、かつて勤務した高校で担任したA君が来訪して手すりを取り付けてくれた。大変役立っている。A君、ありがとうね。
 熊本市東区 竹本伸二(93) 2021.10.31 毎日新聞鹿児島版掲載

キネマの神様

2021-11-12 17:27:20 | はがき随筆
 映画「キネマの神様」を見に行った。原田マハの小説を青年劇場が舞台化し昨年見たが、映画製作の方はコロナ禍で難航している様子と見聞きした。
 山田洋次監督のオリジナル脚本により、主人公のゴウとテラシンというジジイ2人の関係性が分りやすくなっている。
 映画「蒲田行進曲」を30歳で見た。近年は舞台「キネマと恋人」や「キネマの天地」を見た。わが人生の傍らにはいつも映画があった。2000本をはるかに超える作品を見た計算になる。この世に映画を残してくれたエジソンとリュミエール兄弟を「神様」と呼びたい。
 鹿児島市 本山るみ子(68) 2021.10.30 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しいリハビリ

2021-11-12 17:16:50 | はがき随筆
 「祝卒寿 延寿万歳」。墨色鮮やか、筆勢滑らか。米寿のS氏の書。鶴と亀の絵も添えてある。ありがたく、頂く。S氏とはリハビリの同志。イオンタウン内の施設で週1回のリハビリに励んでいる。若く明るいスタッフの女性たちに励まされ、各種のマシンに挑戦し、楽しいひと時を過ごす。足が上がった、足が組めたなどうれしい声も上がる。老若男女、それぞれの悩みを抱えているが、週1.2回のリハビリで若さと気力を頂いている。送迎付きのリハビリは、心身ともに力を与えてくれる。「祝白寿 延寿万歳」の書を99歳のS氏に期待!
 姶良市 宇都晃一(89) 2021.10.30 毎日新聞鹿児島版掲載

母となった瞬間

2021-11-12 17:09:43 | はがき随筆
 宮崎県も新型コロナが増え、串間でも皆注意する日々。そんな中、娘が出産を迎えた。 お産に付き添ってあげたいが行けない、病院にも立ち入れないで八方塞がりだ。ただ待つのみのお産。入院が決まり、メールや電話で近況を知るのみの、やきもきとした日が過ぎた。
 「陣痛が来たからメールは無理」と電話してきた娘を案じつつ、何時間待ったろう。「おばちゃん、生まれたよ」。娘の友が休日返上して行ってくれたらしい。みどりごとの初対面だ。
 娘のまなざしは、痛みを忘れ子を慈しむ穏やかな母親のものとなっていた。
 宮崎県串間市 安山らく(70) 2021.10.30 毎日新聞鹿児島版掲載

絵手紙、俳画展へ

2021-11-12 16:59:47 | はがき随筆
 八代駅でバスを乗り換えた。今日は日奈久へのミニお一人様旅行とウキウキ気分だ。私のは佳作、でもうれしい。はたして自分のがどこに飾ってあるのかと思うとなんとも落ち着かない。温泉前で下車。目指すホテルはすぐわかった。入って正面にズラリと絵手紙がお出迎え。ちょうどテレビの取材中だった。友人の笑顔が見えてほっとした。特選は、昔の温泉センターが偲ばれる懐かしい絵手紙で妖艶な腰つきで踊る女性の絵。大勢の観客が楽しんでいた。日奈久に関する楽しいものだかり。いろいろな絵柄に見入ってしまう。秋の日の小さな幸せ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2021.10.30 毎日新聞鹿児島版掲載

お変わりなく

2021-11-12 16:52:49 | はがき随筆
 2カ月ぶりのミニバレー再開。そして何よりうれしいメンバーとの再会である。70~80代の我々にとって、2カ月のブランクは大きい。進歩は遅いが退化は早い。入念に準備体操をし、ゲームを始めるが、相変わらずの珍プレー続出で、そのたびに大爆笑が起きる。以前と変わってないなと少しホッとする。
 休憩時間には、自家製の漬物や手作りのお菓子が並び、おしゃべりが尽きない。あー、この時間も変わってない。よかった。会えなかった2か月間は吹っ飛んでしまった。
 「また来週ね」と手を振るメンバーの笑顔は輝いていた。
 宮崎市 四位久美子(72) 2021.10.30 毎日新聞鹿児島版掲載

華麗なる夢

2021-11-12 16:36:01 | はがき随筆
 「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の切なさよ」
 昔のラジオドラマのナレーションである。90歳を目の前にして、このことばの重さを今更のようにかみしめる。
 40代の頃、小松原庸子さんのフラメンコに憧れて、まずは体操教室に入った。戦争のさなかに育った体はすぐに足首を痛め一度もタップを踏むことなく挫折した。
 フラメンコは夢に終わったけれど、タップの激しいリズムは、文章の歯切れの良さにも似て随筆の糧になるかも。と、また夢を見る。
 熊本市東区 黒田あや子(89) 2021.10.30 毎日新聞鹿児島版掲載

薄いタオル

2021-11-12 16:28:20 | はがき随筆
 私は白くて薄いタオルが好き。なぜかというと、まず、洗ってすぐ乾くところ。
 ところが最近、触った感じがふあふあする厚手の高級タオルが増えている。厚手なので乾きにくいのが難点。確かにふあふあで、触った感じは最高なんだけれど……。
 いただいたものも使うが、旅館などの名入りタオルが大好きなのだ。薄く、汚くなっても漂白すればきれいになるので、とても重宝している。また、夏場は半分に切っておしぼりにして冷凍しておき、帰ってきたらそれで顔、首などをふくと最高。最後は雑巾にしている。感謝。
 宮崎県延岡市 和田康子(71) 2021.10.29 毎日新聞鹿児島版掲載

美容室

2021-11-12 16:21:17 | はがき随筆
 Sちゃんは、同級生で実家も隣同士の竹馬の友。ベテラン美容師です。
 ショートカットの私は、髪が伸びるとテンションが下がる。その時がカットするタイミング。その症状が出たら美容室に駆け込む。大きな鏡の前に腰掛けると、後はSちゃんにお任せコース。
 カット、シャンプーの間は、近況や子供の頃の話題になる。懐かしい昭和がよみがえり、童心に返るひと時。
 帰る頃には心身ともに軽くなり、気持ちはスキップ状態。美容室は私にとって、元気回復と気分転換に大切な空間。
 鹿児島県垂水市 竹之内政子(71) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載