はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

85歳出たとこ勝負

2021-09-04 17:09:10 | はがき随筆
 お勝手でインスタントコーヒーをいれようとしたら、カップを居間のテーブルに置いたまま来てしまった。ちょうどカミさんが通り掛かったので「カップを持ってきて」と頼んだ。手に取ってこちらに向かおうとしたが、足もとには座布団が2枚重ねて置いてある。カミさんはくるりと振り返り、テーブルを一回りして持ってきた。「あんな座布団ひとまたぎでしょう」「それができれば苦労しません」。85歳と82歳の老夫婦は苦笑い。「『老夫婦、無理を通さず、出たとこ勝負』というのはどうよ」と私。コロナと熱中症を恐れて自宅謹慎中の老夫婦でした。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(85) 2021/9/4 毎日新聞鹿児島版掲載

眠れない夜

2021-09-04 17:02:49 | はがき随筆
 今年はなぜかあまり蚊に刺されない。よく眠れ、ありがたい話ではあるが、なんだかふに落ちない。のんでいる薬のせいではと妻が言うので、主治医に聞いてみた。「そんなことは聞いたことがない」と一蹴された。
 ではなぜ、蚊が寄り付かないのか。蚊は人間の呼気に含まれる二酸化炭素に寄ってくるそうだ。しかし呼吸状態が、特に変わったという自覚はない。ならば呼気に含まれる二酸化炭素以外に、蚊を引き付ける物質があり、それが減ったのか。
 考えだしたら眠れなんなった。せっかく蚊

誕生祝い

2021-09-04 16:55:02 | はがき随筆
 過去に例がないほどの大雨が続き、洪水による家屋の浸水、土砂崩れによる倒壊などをテレビで視聴し、一人暮らしをしていると「泊りがけで菊池渓谷の旅館へ一泊でいこうよ」と娘が電話してきた。娘夫婦と孫娘の3人が同行。8月19日は珍しく晴れて、孫娘が運転する車で大観峰を経て菊池渓谷の旅館に着いた。宿の裏側には音をたてて源流が流れていた。掛け流しの湯で身を清めてから夕食。「お誕生日おめでとうございます」。乾杯の音頭を娘婿がとった。「ありがとうね」。このために私を誘ったのか。さまざまの料理が殊の外おいしかった。
 熊本市東区 竹本伸二(93) 2021.9.4 毎日新聞鹿児島版掲載

ラジオ体操

2021-09-04 16:44:03 | はがき随筆
 今日は、胃がんと超音波の検診日。受け付けは8時から。でも、自宅にいても飲食はできない。6時半からのラジオ体操を済ませて行くか迷ったが、少しでも早く行くことに。
 会場に着くと一番乗りの男性が携帯ラジオを聞きながら、地面に新聞を広げ読んでいる。
 あいさつを交わしていると「新しい朝が来た♪」と流れ男性が体操を始めた。反射的に私も。次に来場のご夫婦も自然に加わり、体操は第2まで終えた。
 出会ったばかりの4人が、会場前でラジオ体操とは。滑稽でもあり、ちょっぴり一体感とほっこり感も……。
 鹿児島県垂水市 竹之内政子(71) 2021.9.4 毎日新聞鹿児島版掲載

白熊

2021-09-04 16:35:37 | はがき随筆
 めいの8歳と10歳の子をデパートの喫茶店へ連れていく。メニュー表をのぞき込む姿が可愛い。ピザを分けあった後、輝く白熊が運ばれてきた。
 「わあー」と歓声をあげ拍手したのは私。子どもらは冷静。「だっておばちゃんは、夏になると、必ず食べたいんだもん」
 かき氷にたっぷり練乳がかかり、スイカ、メロンなどがちょこちょこ、小豆あんとアイスクリームもたっぷり。食べている子らを見ているだけだ幸せ。
 亡母たちとも、毎年夏休みはみんなで食べたったけ。こうして孫たちが食べる姿を見るのが楽しかったのかなあ。
 宮崎市 鶴薗真知子(58) 2021.9.4 毎日新聞鹿児島版掲載

何か変?

2021-09-04 16:28:44 | はがき随筆
 7月の梅雨の雨量がまだ足りなかったとでも言うかのような大雨が続いた。気象庁は「50年に一度の記録的な大雨」などと警告するが、近年頻発しており、例年同様と言ってもいいくらいに大雨が毎年繰り返されている。
 今年の春はわが家のレモンが例年より一月ほど早く花をつけた。また、彼岸近くになると律儀に季節を知らせていた紅白の彼岸花が8月に咲き始めた。植物は自然を肌で感じ、花をつけるが、人間の暦との間に微妙なずれが生じ始めた。花見をしながら正月を祝う日が来るのではないかとの懸念が頭をよぎる。
 熊本市北区 西洋史(71) 2021.9.4 毎日新聞鹿児島版掲載

端っこ文化

2021-09-04 16:19:45 | はがき随筆
 夏休みの親子会の行事として寺の境内でボランティア活動があった。早朝、約40人の親子が参加して、まずラジオ体操が始まった。ところが、集合の真ん中で体操をする人は一人もいない。親も子も端っこでそれぞれ体操をする。清掃活動が終わって集合写真を撮ることになったが、大人も端っこに立って譲り合っている。寺の法座も似ている。まず端っこから席が埋まっていく。かく言う私も隅っこを好むタイプである。どうやら我々日本人は、端っこ文化が身についているのではないかと思われる。のり巻きを食べるときも端っこから食べる私です。
 鹿児島県志布志市 一木法明(85) 2021.9.4 毎日新聞鹿児島版掲載