はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

愛国行き

2021-09-23 20:54:39 | はがき随筆
 「♪幸福行きを二枚ください 今度の汽車で出発します」の歌に引かれ、幸福駅を訪れたのは学生時代。無人駅だった。愛国駅⏤⏤幸福駅の汽車に乗ろうと考えていたのだが、1日に何本しか走らないとのこと。あきらめる。売店で、愛国行き2枚と幸福行き8枚を買った。1枚110円なり。「愛の国から幸福へ」。切符を持っていると、何か良いことがありそうな気になる。愛国駅も幸福駅も昭和62(1987)年に廃止になった。幸福より愛の国を選んで残した切符は、今でも財布の中で息づいている。あせてなほ愛国行きの空澄めり。
鹿児島県霧島市 秋野三歩(65) 2021.9.23 毎日新聞鹿児島版掲載

20年の歳月

2021-09-23 20:46:23 | はがき随筆
 実家の母が電話を掛けてきた。「帰国していて良かった……」と言った切り、言葉が途切れた。受話器の向こうで嗚咽している様子が伝わる。
 2001年9月11日の夜、私はテレビを視聴していた。番組は中断してアメリカからの映像が流れた。飛行機がビルに突入する様子が映る。同時多発テロが起こったのだ。仕事でニューヨークに滞在していた息子が、日本に帰国した直後であった。
 あれから20年が過ぎ、孫を心配した母は老いて他界した。
 米国はテロリストを懲らしめると立ち上がったが、8月に幕を引いた。混沌としたまま……。
 宮崎県延岡市 源島啓子(73) 2021.9.22 毎日新聞鹿児島版掲載