はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

TVの「一軒家」

2019-11-20 22:03:51 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月17日 (日)
   岩国市   会 員   片山清勝 
 衛星写真で見つけた人里離れた一軒家。そこにはどんな人が、どんな暮らしをしているのか、と訪ねる。民放のテレビ番組である。
 私はいつの間にか興味を持った。見るたび、人の暮らしや生き方の原点を教えられるようだった。飾り気のない住人の生活する姿、環境を取り入れる工夫、その力に新鮮さを感じずにはいられない。便利な都市生活ではたどりつけない想像力に満ちている。
 番組は、スタッフが写真を携えて、この辺りと考える付近で聞き込みをしてスタートする。親切に道を教えてくださる人たち。なんとも言えない温かさを漂わせるイントロが本番を期待させる。
 一軒家に住み始めたいきさつは、当然ながら毎回違う。だが共通点もある。逃避しての一軒家暮らしではなく、その地を継承するという動機だ。そこがいい。
 住み始めると、周囲の命ある全てのものに感謝しながら、それらと共存を目指す。生活の中で描いた夢を実現していく。住人の子や孫が、山深い一軒家を訪れて自然を満喫する。
 私は勝手なことを思う。自然との共存を見習い、山を守りながら暮らしの場を引き続き守ってほしいと。
 この番組は、テレビ界ではバラエティーに属するらしい。大都市へ人口が集中する現代、私には都市生活とは真反対の生き方を紹介する社会派番組に思える。
 人は人工知能(AI)と無縁でも生きていける。高視聴率なのもよく分かる。
        (2019.11.17 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)




気配り運転士

2019-11-20 21:56:35 | はがき随筆
 手押し車の老女が市電の降車口にやってきた。ステップのある車両。たまたまドアの近くに座っていたので、席を離れ車を外で受け取ってあげる。
 数分後、自分が降りる停留場に到着。「ありがとうございます」とさくらカードを読み取り機にタッチしたら「先ほどはお世話になりました」と逆に運転士から御礼の言葉。お節介とも思えるささやかな行動だったので、かえって恐縮した。
 社内のこうした動きをきちんと受け止め、こまやかな気配りのできる運転士。温かみのある接客に、市電の良さを改めて見直した。
 熊本市東区 中村弘之(83) 2019/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載

西郷さんの相談

2019-11-20 21:39:59 | はがき随筆
 明治4年、大蔵省の官僚だった渋沢栄一の家に突然、西郷参議が訪ねてきた。相馬藩は政府の財政改革により藩の財政法が廃止になるのを恐れて、その阻止を西郷さんに依頼したのだ。
 相談を受けた渋沢が「先生は相馬藩の法をご存じですか」と尋ねると「全く知らない」と西郷さんは答えたので、渋沢は「今は相馬藩より国家の事を考えるのが先決です」と断った。
 西郷さんは飾り気のない、率直な方だったと、「論語と算盤」でこのエピソードを紹介している。参議の相談をそんたくしなかった渋沢、静かに辞去された西郷さんは立派である。
 鹿児島市 田中健一郎(81) 2019/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載