はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

他人事にあらず

2019-11-05 17:29:44 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 3日 (日)
他人事にあらず
    岩国市  会 員   森重 和枝

 連日、台風19号の被害状況が放映される度、平成17年の水害を思い出してしまう。今回もバックウオーターやダムの放流の仕方が原因の一つとされるが、あの時もダムの放流で増水し、逆流したと後で知った。
 夜8時、突然玄関に水が入る。大騒動で2階に避難。水が階段の3段目で止まった時は、本当に安堵した。床上70㌢でも、泥だらけの1階の片付けに3週間は無我夢中だった。限られた地区だったので、すぐ身内も駆けつけてくれて復旧できた。
 今回のように広範囲では助け合いもままならず、さぞご苦労だと同情する。
   (2019.11.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




つり橋

2019-11-05 17:28:19 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 1日 (金)
  岩国市  会 員   角 智之

 「山のつり橋や どなたが通る」で始まる懐かしいヒット曲「山の吊橋」は、深まる秋の情景を巧みに描写している。
 我が家近くのつり橋は、晩秋にはワイヤに覆いかぶさった木々の紅葉が素晴らしかった。眼下に清流を眺めながら、「しょいこ」を背負った人の渡る光景は、この曲を絵にしたようだった。
 先般、久しぶりに思い出の地を訪ねると、橋はコンクリートに変わり、木々は伐採されていた。錦川流域には多くのつり橋があったが、老朽化などで数が減った。安全確保は大切だが、趣のある風景が失われるのは残念だ。
  (2019.11.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)  




捨てられない

2019-11-05 17:26:22 | 岩国エッセイサロンより
2019年10月29日 (火)
   岩国市  会 員   山本 一

 オーディオが故障した。次女が置いていったもので、30年ものだ。妻と電気店で下見。CDプレーヤーを更新すればまだ使えるが、約10万円で丸ごと更新すると決断した。捨てる前に持ち主の了解が必要だ。
 次女が独り言のようにつぶやく。「私が高校の時にお父さんの反対を押し切ってアルバイトをして、そのお金で買った。確か当時20万円近かったと思う」 
 あれから1カ月。5000円のCDプレーヤーをネットで購入。「まだ良い音が出るね」と、流行遅れのスピーカーでフジコ・ヘミングの「ため息」を聴いている、気弱な老い二人。
   (2019.10.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




知らなかった父のこと

2019-11-05 17:24:36 | 岩国エッセイサロンより
2019年10月28日 (月)
   岩国市   会 員   片山清勝
 テレビ番組で、父と同じ明治生まれの人が明るく語り、「110歳」と出た。父はこの半分しか生きれなかったのか。あらためて早世を思った。
 父は明治42年10月28日生まれ。私も同じ誕生日だ。公務員だった父は勇退を翌年春に控え、夏の繁忙期を頑張っていた。そのさなか、突然の発病による入院からひと月。新築2年の自宅に帰ることはかなわなかった。
 葬儀は、病身の母を長男の私と3人の弟妹で支え、近所のご協力で済ませた。初秋の猛暑日だったことをなぜか強く記憶している。
 父のいない生活にようやく慣れたころ、死亡叙勲として勲記や勲章が届いた。突拍子もないことで戸惑った。もともと、秋の叙勲を受けることになっていたようだった。
 叙勲を知った人たちから、祝意やその意味を教えられた。ごく普通の父親と思っていたが、家族の知らないところで真摯な働きをしていたのだと理解した。その陰に母や家族、同僚の支えがあったはずだ。
 勲記や勲章を収める額縁を特注して飾った。今は両親の遺影と向き合う、かもいに掛けている。父はどう思って見ているだろうか。
     (2019.10.28 中国新聞「明窓」掲載)




一手

2019-11-05 17:16:09 | はがき随筆
 中央にできた相手の大きな陣地に、もう打つ手がない。あの一手がよくなかったと悔やむ。囲碁ゲームをさかのぼり、再びゲーム再会。
 以前と異なるゲーム展開に、人生もこういう風にいかないものかとふと思う。受験や恋愛や仕事に子育て。あの時ああしていればと後悔しても戻れない。
 後悔する事以上にいい事もたくさんあった。行き詰ったように見えるゲームも投げずに頑張っていると勝敗抜きに味のある模様になる。後悔と満足とが背中合わせに連なる。人生に残された数手、大切に打たねば。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(67) 2019/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載

2019-11-05 17:10:09 | はがき随筆
 池に大きな鯉が1匹泳いでいる。子供の頃、「その鯉は池の主だから取ったらいかん」と言われたものだ。それだけでなにやらそこの場所が神聖なものに感じるから不思議だ。
 人間の世界にも主がいる。こちらは少々厄介である。職場で中途入社の人たちが早い時期に辞めてしまう。その人たちに辞めた理由を聞くと多くは主との関係が原因らしい。
 人間社会の主は仕事に厳しい人も多いが自分や仲間には甘く、新参者には厳しくする人も少なくないようだ。人様の世はなかなか住みづらい。池の主も新参魚をいじめるのだろうか。
 熊本県嘉島町 宮本登(68) 2019/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載

幼稚園から落第

2019-11-05 17:03:21 | はがき随筆
 次女はメキシコで3歳の娘を子育て中。孫は音楽が流れだすと全身で踊りだすおしゃまさん。時差15時間の地球の裏側でスペイン語と日本語を話す姿が、毎日タブレットの無料テレビ電話で見られる。
 幼稚園に通いだしてから、机の前にいる姿がよく映し出される。娘に尋ねると「幼稚園の宿題」だという。メキシコは2013年に幼稚園から高校までが義務教育になった。小学校入学には幼稚園卒業証明書がいる。日本人のママ友の間では「日本への里帰りに連れて帰ると、長期欠席で留年になる」と、まことしやかな噂が広がっている。
 鹿児島市 高橋誠(68) 2019/11/3 毎日新聞鹿児島版掲載

大器晩成?

2019-11-05 16:55:58 | はがき随筆
 どうにか職に有り付いた20代の頃。夢も希望すらなく、しょぼくれた青春時代を送った。仕事帰りは居酒屋通い。仲間と安酒を囲んではおだをあげた。路地裏で、易者に出会ったのが運の尽き。「大器晩成の相が」と言うではないか。急に世の中が明るくなった。人生、捨てたもんじゃないなあ。めらめらと生きる勇気が湧いてきた。
 もがき苦しんだどん底生活から60年が過ぎた。あの易者の言葉は今もはっきりと覚えている。妻は「あなたの人生はこれから」と慰める。たとえ晩成はならずとも、晩節は汚したくないなあ、俺の人生だもの。
 宮崎市 原田靖(79) 2019/11/2 毎日新聞鹿児島版掲載

糸手毬

2019-11-05 15:53:07 | はがき随筆
 天草から引っ越してきたおばあさんが、挨拶回りの際に小さな糸手毬を手渡した。「これはどうしたのですか」と家内が聞くと「私が作りました」と答えた。「教えてもらえませんか」と頼むと、快く応じてくれた。
 発泡スチロールを砕き布切れに包んで球体に整えてから、黒糸で地割りをした。赤、白、緑などのリリアンを通した布団針を手際よく使って、菊模様の手毬ができあがった。
 傍らで見ていた私の方が病みつきになって興味を抱き、桜、ばら、サッカーボールの模様などを考案し、今では10種類ばかりの模様が作れる。  
 熊本市東区 竹本伸二(91) 2019/11/1 毎日新聞鹿児島版掲載

樹木希林さん

2019-11-05 15:43:07 | はがき随筆
 個人の樹木さんが残された言葉に感動した。「驕らず、人と比べず、おもしろがって平気に生きればいい」とあった。ひょうひょうとした中にも自分の生き方を決して曲げず、質素で、人からの贈答さえかたくなに拒否され、病床にふす傍ら、9月1日は学生の自死率が最も高いからと危惧され「死なないで」と、ご自身の体調より世の中の苦しむ若者の身を案じ、思いとどまることを願う聖母のような方だった。凡人には足元にも及ばない。樹木さんの残された言葉を座右の銘とし、その生きざまを見習いたい。また一つ、心のよりどころを失った。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しみなこと

2019-11-05 15:33:58 | はがき随筆
 「ばあば、アスパラガスのベーコン巻きが作れるよ。12月に行った時作るね」「あらー、楽しみ‼」と応えながら、去年はキュウリのからし漬けを作ってくれたことを思い出した。
 この孫は次女の双子の一人。未熟児で産まれたが、今は元気な5年生。母を手伝いながら色々と覚えているようだ。その光景を思い描きながら、食に興味を持ち始めた孫が頼もしかった。山菜採りや釣りの収穫は調理していただく家族でもある。
 孫の好物や覚えた料理の話。子供の頃食べた料理の味付けを聴いてくる娘。食に関する電話はとりわけうれしく、楽しい。
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(70) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

さりげなく

2019-11-05 15:26:45 | はがき随筆
 月に1度の病院通いは受験生が受験に行くような思いです。前日から診察がすぐできるよう前開きの服を用意し、財布の中、診察券、手帳を確かめ戸締りをしてタクシーを呼びます。
 病院はいつも満員です。靴がいっぱいで置き場がありません。杖にもたれて困っていたら、待合室から若い奥さんがさっときて、自分の靴を高い下駄箱に入れ「ここにどうぞ」。場所をあけてくださって、スリッパまで私の足元に。お礼を言うとニッコリ笑顔で診察室へ。優しさに心の中で手を合わせました。
 私もこんなさりげない動作のできる人になりたい。
 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

精華女子吹奏楽部

2019-11-05 15:14:58 | はがき随筆
 9月の九州文化塾の日、アクロス福岡のホールに入るとステージに譜面台が並んでいて、講演前のミニコンサートだと思い出した。
 以前、各地の中高吹奏楽部の密着取材番組があり、演奏やマーチングの練習風景を見た。
 精華女子校といえば福岡の名門であり、吹奏楽コンクールで毎年金賞を獲る常連校でもある。ステージで、座奏だけでなく、マーチングにカラーガード、バトントワリングまで所狭しと動き回り、聴衆の目も耳も引き付けた。歌謡曲やオールデイズなど中高年向きの選曲で、生の大迫力に圧倒された。
 鹿児島市 本山るみ子(66) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

にわかファン

2019-11-05 14:56:00 | はがき随筆

 ころんと卵が産まれるように楕円形のボールが足もとから出てくる。スクラムを組めば、まるで牛の押しくらまんじゅうのようで圧倒される。
 サッカーは息子が中学、高校とやっていたので、時々日本代表の試合を見る。でも、ラグビーとなると、寒い中試合をやっているのは知っているが見たことはなかった。
 ワールドカップが日本で開催され日本が勝ち進んでいくたびに、テレビの前に釘付け。「走れー、潰せー、トライ、決めろ」と叫んでいる。にわかファンにも優しいラグビー関係者の方々、ノーサイド。ありがとう。
 宮崎市 高木真弓(65)  2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

孫、ひ孫世代に

2019-11-05 12:19:40 | はがき随筆
 二人の孫は30歳すぎたが一向に結婚する気がないらしい。私の元気なうちにひ孫の顔を見る事はとっくに諦めている。
 時には「ひ孫が大人になった頃には日本も地球もどうなっているか分からない。いっそ居ない方が安心」とヤケッパチ。半ば本心を言ったりもする。
 16歳の少女グレタさんの国連での痛烈な演説に心を打たれた。この頃の異常気候はまさしく地球温暖化の表れとしか思えないし、その責任は便利な生活のみを追い求めてきた私たち世代に有ると思う。そのツケを次々世代に負わせるのは絶対有ってはならないとつくづく思う。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載