はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

達成感の代償

2019-11-16 21:43:59 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 8日 (金)
    岩国市  会 員   上田 孝

 体育の日、地元広報誌の取材が目的で、ウォーキング大会に参加した。腰痛持ちのため、開会式と歩き始めの数分を写真に収めて帰るつもりだったが、満足する写真が撮れないうちに、参加者と一緒にどんどん山の方へ上がっていく。不思議に腰が痛くならない。
 そのうち視界が開けると、我が街並みと瀬戸内海が見晴らせる絶景。秋晴れに映えて気分は爽快だ。楽しい会話や道端の秋の花にも癒やされながら、とうとう7㌔の道のりを完歩してしまった。
 この距離を歩いたのは数年ぶりだ。久々の達成感と引き換えに今、じわーっと腰に来ている。
   (2019.11.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




足の故障

2019-11-16 21:03:43 | はがき随筆
 朝、右足首の異常な痛みで目覚めた。だんだん痛みが増して赤く腫れ上がり歩行困難に。病院で偽痛風と診断され、症状を抑える薬を処方された。尿酸値が高くないので偽だが痛みは痛風なみ。痛みも腫れもなかなか治まらず、精神的に苦しい日々が続いた。孫の七五三祝に行くつもりで航空券をとっているが無理かも……。
 2か月ほどで少し歩けるようになった。ぎりぎり出発日に決心がついて上京。
 荘厳な成田山新勝寺での儀式に参列できて感慨無量。病み上がりの足は正座に耐えてくれた。
 鹿児島市 馬渡浩子(72) 2019/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆10月度

2019-11-16 20:29:53 | はがき随筆
月間賞に梅田さん(宮崎)
佳作は増永さん(熊本)、中鶴さん(鹿児島)、逢坂さん(宮崎)

はがき随筆10月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

【月間賞】11日「虹の宝物」梅田浩之=宮崎県日向市

【佳作】31日「孫、ひ孫世代に」増永陽=熊本市中央区
▽31日「樹木希林さん」中鶴裕子=鹿児島県鹿屋市
▽17日「母を思う」逢坂鶴子=宮崎県延岡市

 街角には年賀状発売のチラシやおせちの申し込みの文字を見かける季節になりました。
 さて、梅田さんの「虹の宝物」。この作者の文章には豊かな感性を感じます。「視界に虹が飛び込んできたのは、右カーブを曲がった時だった」の表現で読者も同時に、その景色が見え、「『虹の根元には宝物がある』という伝説を思い出し」、虹に向かって車を走らせた。虹が消えた辺りの校庭には雨に濡れて、キラキラと日差しをはじきながらはしゃいでいる子どもの姿。この光景を宝物ととらえた作者の心ばえ。簡潔な文章になんともいえない清潔感が感じられて梅田さんのこれからが楽しみです。
 増永さんは、16歳の少女グレタさんの国連でのスピーチを紹介し、これからの地球環境を案じておられます。ほとんどの方が膝を打ちつつ読まれたことと思います。大切なことを取り上げて下さいました。
 中鶴さんの文章は「樹木希林さん」の素敵な生き方に感動した思いが読者にひしひしと伝わってくる力がありました。樹木さんの遺された言葉は多くの人に感動を与え今もその生きざまは人の心をとらえて離しません。
 逢坂さんの「母を思う」。母と娘の優しい愛情が綴られ胸の奥がキュンとなる内容でした。人は男女を問わず幾つになっても母は永遠の思い人。心の温まる作品でした。
 他に、関友里恵さんの「新たなスタート」、里形有希さんの「覚えているよ」には若い力がみなぎり、北窓和代さんの「万物共有語」は、森羅万象全てが呼応している不思議を再認識します。塩田きぬ子さんの「ごめんなさい」も心に残りました。
 朝夕が冷え込んで参りました。皆さまお体を大切に。
 みやざきエッセイスト・クラブ会員 戸田敦子

現金書留

2019-11-16 20:22:52 | はがき随筆
 知人からの送りものに、代金を支払うことになった。自宅に届けるには、時間的な余裕がない。現金書留にしよう。
 熊本の大学に通った長女には、書留の封筒に生活費を入れて送ったものだ。厳しい家計から捻出して送る金額は多くはなかったが、それなりに重みがあった。封筒を3重に糊付けしながら思いを馳せた。次女や三女のの時は銀行振り込み。何となくお金が軽く思えたものだ。
 時代はキャッシュレスに移行するという。福沢諭吉さんや樋口一葉さんの影が薄くなりそう。知人への封筒には、感謝の言葉も一筆書き添えた。
 宮崎市 河上久子(70) 2019/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

ルリタテハⅡ

2019-11-16 20:02:27 | はがき随筆


 ホトトギスの葉が今年も食べられている。目をこらして捜してみる。「いた、いた、2匹発見」。ルリタテハの幼虫。今年こそは成虫の出会いを、と楽しみにしていた。
 ある日の昼下がり、突然やってきた。ルリ色の蝶。背後か目の前にゆっくり、ひらーりと。なんともいえない幸福感に浸った。「わが屋へまた飛んできてね。」と願った思いがかなえられたこと。狭い、我が家の庭にホトトギスが植わっていることを知り、産卵にやってきてくれること。昆虫の生命に感心します。これからもずっと待ってます。ありがとう、お元気で。
 鹿児島県指宿市 外園恒子(66) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載 

台風の日の記憶

2019-11-16 19:51:49 | はがき随筆
 何度も台風の文字が飛び交った日。ワンシーンを思い出した。兄たちは雨漏りを見つけては競って洗面器やバケツを置いた。母は、急いで晩御飯を作った。幼い私は「お父ちゃん~」と何度も格子戸を開けて叫んだ。
 父は、雨戸に板を打ち付けたり植木を縛ったりして激しい台風に備えていた。次第に雨が横殴りになり雷が鳴り始めた。
 落ちないだろうか。飛ばされたらどうしよう。落ち着けない私に父は「家の中にいなさい」と促した。暴風雨の度に古い家はガタガタと揺れて恐ろしかったが、父が傍に座っているだけで、安堵感の方が大きかった。
  宮崎市 津曲久美(61) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

曾孫の七五三祝い

2019-11-16 19:44:11 | はがき随筆
 曾孫4人が七五三の祝い。孫娘の方は「数え年」7歳と5歳。孫息子の方は5歳と3歳。神社参詣日は違っていた。
 孫娘の方の宮参りに同行。綺麗な振り袖に髪飾り、可愛い姿。成長の早さに驚く。記念写真では妹の方が恥ずかしがり屋で正面を向いてくれず、やっと撮れた。
 孫息子の方は1週間後。風邪のため同行できず残念。ところが参詣後、わざわざ立ち寄ってくれた。優しい孫たちの心遣い。体力のの衰えを感じる昨今だが、成長していく曾孫たちを楽しみに見守りたい。幸せな秋空は澄んで広い。
 熊本市中央区 原田初枝(89) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

ちぢむ身長

2019-11-16 19:34:34 | はがき随筆
 「看護師さん、ちゃんと測ってよ」。神妙な面持ちで身長計の台に乗る。「何センチ?」「ええと、181㌢かな…」「ええっ」。わが耳を疑った。これまでの人生でたった一つの自慢である身長がちぢんだのだ。
 思い起こせば青春真っ盛りの高校生のときに記録した184㌢が私の最高値。それ以来ずっと変わらない。いや変わらないと思い込んでいた。それがなんと……。「年を取ると背はちぢむのよ」。ずっと昔どこかのいおばちゃんに言われた。高齢者5年生。老い坂を急降下中である。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(70) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

鮎はいずこへ

2019-11-16 19:26:31 | はがき随筆
 近くを流れる五ヶ瀬川と、谷川の瀬音を聞きながら暮らしている。毎年6月1日が鮎の解禁日だ。前日には釣り人たちが道端にテントを構え、徹夜で夜明けを待っている。朝、誰よりも先に釣り場を確保するのだという。しかし、度重なる大雨に鮎たちは居場所をなくしたのか、今年は一人も釣り人の姿はなかった。以上に繁殖した鵜が鮎を狙っているのも原因だと聞く。
 奇声をあげながら川面を舞う鵜は、狙う鮎もいない中洲で羽根を休めている。いつかこの川に鮎が住み、釣り人が糸を垂らす日が訪れることを心から願っている。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(74) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

弟からの手紙

2019-11-16 19:19:59 | はがき随筆
 「そちらは何回ごはんをたべますか。指宿に勉強に来ていた私に弟から手紙が届いた。小学4年生。田舎の純真無垢な男の子。年が離れていたから、遊んだ覚えはほとんどないのに。
 そりゃあ3回に決まっているとおかしかった。どうしてそんな手紙を書いたの? 返事は聞いたような聞かないような。
 弟とは趣味が合う。気があう。旅行の話は延々と続く。避暑に帰るのが楽しみ。大病を克服して元気に暮らしている。2度目のはがき随筆に大喜びしてすぐに電話を入れる。鹿児島と熊本。さあ、これからが楽しみ。感謝の日。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

カラオケ同好会

2019-11-16 19:08:54 | はがき随筆
 カラオケ同好会といっても、老人会メンバーの歌好きの集まり。これまでリハビリ優先で参加できなかったが、スケジュールを変更したので参加できるようになり、そっそく出かけてみた。
 定年後にここ種子島に移住し、5年間仕事に就いた。そのころはカラオケ店に行ってもリクエストが来るくらい、うまく歌えていた。そのつもりで歌いだしたのだが、声がまるで出ない。マイクにも乗らない。こんなはずではないと、2曲目に自慢の低音の歌で勝負したが声がかすれる。その夜は風呂場で発声練習、次回に名誉挽回を狙ってみるが、果たして……。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(83) 2019/11/13 毎日新聞鹿児島版掲載

夫の笑顔

2019-11-16 19:02:00 | はがき随筆
 秋風の心地よい日曜日、垣根越しに「タ、タ、タ」と耕運機の音がする。退職した娘婿が、荒れていた畑を耕している。
 娘は、草が巻きこまれぬよう見守りながら、進んでいる。
 2人の働く姿を目にした私は、思いがよぎった。亡夫も退職後は、畑を耕しては、作物つくりを、楽しんでいた。サラサラした土なので、刃物が主だったが、ある人の菊花展を見て、感銘を受け、大輪の花を仕立てるまでになった。
 さて婿殿は、何を植えるのだろうか、不言実行の人だ。まめまめしく働く様子を見て、夫は笑顔で、何と声かけただろう。
 宮崎市 田原雅子(85) 2019/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載

読書

2019-11-16 18:55:20 | はがき随筆
 小学4年生の時だった。私は探検家リビングストンの「アフリカ探検記」を寝転がって読んでいた。場面では、怪我をしたリビングストンが、原住民がかつぐタンカに乗せられジャングルを進んでいる。タンカはきしむ「ギシギシギシギシ」と。
 私は、リビングストンがどうなるのか不安でいっぱいだった。完全に本の世界に入り込んでいる私の耳に、突然「ギシギシ」という音が近くではっきり聞こえた。私はガバッと起きあがり、キョロキョロと周りを見回した。胸がドキドキしていた。
 読書の秋。あんな体験はしたくてもできない。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2019/11/10 毎日新聞鹿児島版掲載

いおけけ

2019-11-16 17:52:41 | はがき随筆
 母は午前中は山へ薪運びに行き、昼ごはんがすむとリヤカーに薪や野菜(トイモガラ、ミガシキ、カボチャ、ナス)などを積んでハマへ売りに行く。父のサラリーをあてにせず、野菜や薪を売って、その金でおかずを買ってくる。隣近所より一回り大きなリヤカーを父が買ってくれたので、それいっぱい売りものをそろえるのも大変だった。だから日曜日、私たちも薪運びに午前中キバった。「いってきもんでー」。母は祖父に子供を預け、夕食のおかずの魚を買いに出かけました。日ぐれどきに品を売りさばいて帰ってき、夕食の準備をしました。
 鹿児島市 東郷久子(85) 2019/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載

おませな子

2019-11-16 17:45:50 | はがき随筆
 多分自分は昔から言うおませな子供だったんだろうと思う。母から「ませたこつ言うな」とよく叱られた記憶がある。
 母が亡くなりもう26年だが叱られた事は忘れられない。母と祖母の家に泊まりに行けば枕を見て、やはりこの辺が汚れるなと指さし「要らぬ事言う」と叱られ、おばさんの化粧台が玄関横にあるが変だと言うと「農家仕事だから、便利じゃからよ。要らぬ事言うな」と叱られ頭をかしげる事もあった。
 数えれば沢山ある母の要らん事、そんな自分を片時も離さず見ていた母でした。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2019/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載