はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

元気くれる通学児童

2014-06-13 22:23:53 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月13日 (金)

    岩国市   会 員   片山 清勝 

 「来た、来た」と登校中の小学1年生が、狭い通りの傍らによけて並ぶ。待つほどもなく、近くの幼稚園の送迎バスが来る。
 通り過ぎるとき、車内の先生の名前を呼び一斉に手を振る。卒園生の思わぬ声掛けに、先生は笑顔で手を振り応える。
 入学時は、黄色のカバーを掛けたランドセルが、少し大きいと思っていた。
 それから2カ月余り、大きめのかばんも体になじみ、登下校の様子も安心して見れるようになった。成長したなと感じる。
 毎朝、元気な会話を交わし、時には立ち止まって、身ぶり手ぶりで話し合う姿が微笑ましい。
 高齢夫婦のわが家。子どもの声が家の中から消えて久しい。しかし、近くに若い人らの新築が増え、児童数も増している。
 おかげさまで、朝夕の子どものはつらつとした声に、夫婦で、元気をもらっている。いつまでも子どもの明るい声が続くように、と願いながら見送っている。

   (2014.06.13 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロン より転載

ともに闘って

2014-06-13 00:02:08 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月12日 (木)

岩国市  会 員   横山 恵子

 結婚3年目ぐらいだった。厳しい姑のことを思ってか、夫が「お前は結婚したことを後侮しとると思うが、わしは結婚して良かった……」と言った。その言葉を支えに40年余り。
 それは突然にやって来た。4月28日夕方、夫が救急車で運ばれたと聞き、急ぎ病院へ。夜中3時過ぎ、看護師の動きが慌ただしくなった。夫の寝息が少しずつ静かになっていく。頭をなでながら「お父さん、ありがとう、ありがとうね」と耳元で言うと、看護師が背中をさすってくれた。長い闘病から解放された穏やかな顔。誕生日を祝ったばかり。73年の生涯だった。
  (2014.06.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

ワラジョイ

2014-06-10 16:07:11 | はがき随筆
 いつもの散歩道にアジサイ。淡い緑の葉っぱの上にアマガエルの姿が目に入った。いよいよ梅雨入り。そして。田植えが始まる。僕の手伝いはあぜや土手を走り回って田んぼに苗を投げ入れる。母ちゃんが素足であぜを歩くのは危ないと「ワラジョイを踏め」と一つは履いて、一つは腰にぶら下げてくれた。
 ワラジョイはじいさんが納屋で「ワラはね、餅米のワラが一番じゃっ!」と、言いながら編み上げていた。ワラは暮らしになくてはならない物であったが、今、あぜのワラジョイはどこを探しても、もはや昭和のこどもの心の中にしかない。
  さつま町 小向井一成 2014/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

我が家の恒例

2014-06-10 15:17:44 | はがき随筆


 我が家の恒例「ちまき」と「らっきょう漬け」作りを終えた。ちまきの竹の皮と灰は、夫が調達。友人に習った圧力鍋での作り方だ。弱火で1時間を40分に短縮してみると、米粒が残ってしまった。煮直してやっと完成。らっきょうは、夫が畑で栽培。忙しさにかまけ、除草を怠り、掘り起こすのに大変な苦労だった。不足分は買い足し、2人で「こしたえる」こと1時間余り。瓶につけ込み、1ヶ月後にはアメ色に輝き、カリッと歯ごたえのある食感がたまらない。好物故に、これだけは手伝ってくれるので大助かり。来年も楽しみにしてますよ、お父さん。
  鹿屋市 中鶴裕子 2014/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

金剛山寺蔵王堂

2014-06-10 15:00:58 | はがき随筆
 友人が奈良の吉野の寺に行くというので、付いて行った。彼女は一昨年、一人娘を亡くし、独りぼっちになった。
 吉野の蔵王堂は遠かった。秘仏の蔵王権現が開帳中だった。青色の大きな権現様は迫力があり、恐ろしげなお顔。だが眼前に座り見上げていると心が和らいでいく。友人はと見ると、一心に祈りをささげていた。私も彼女の心の安穏を祈った。
 帰り道、一言主神社に立ち寄った。そこで私は私の息子たちに平穏な人生をと願を掛けた。
 友人に寄り添いたい思いが、吉野の寺で自分のために祈ることをためらわせていた。
  出水市 清水昌子 2014/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

梅の木

2014-06-10 14:41:11 | はがき随筆


 実家は町道より10㍍ほど高い位置にあった。
 母屋に至る坂道には、大きな梅の木が1本あった。
 黄色に熟れた梅の実が落ちていた。
 梅の実は坂を転がり、平坦な道端にたくさん集まっていた。
 小学生時代、帰宅途中にそれを食べた記憶がある。
 あれから50年あまりがたち、その梅の木は跡形もなく消え去った。
 今は、長いセメント坂があるばかりである。
 さて、今年はその坂の脇に誕生日の記念に梅の木を植えようと思っている。
  鹿児島市 下内幸一 2014/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

2014-06-10 14:21:59 | はがき随筆


 樹木に絡まり繁茂する厄介なツル植物。図鑑によると、漢字名「葛」。秋の七草の一つ。食用、薬用、飼料等、生活に有用とある。根は葛粉の原料だったと知り驚いた。稲の取り入れ時に、その長いツルをひもとして利用していた。
 ある時、農作業の合間にそれを採りに行った夫が戻らない。皆で探すと、木陰で昼寝中の本人を発見。それは滑稽だった。
 繁殖力旺盛なこの植物が支えた古人の生活に思いを巡らす。秋には、紅紫色の鮮やかな花が咲く。それは、せめてもの償いのように思えるが、先人達の目にはどう映ったことだろう。
  出水市 伊尻清子 2014/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載
 

80歳同窓会

2014-06-10 10:44:58 | はがき随筆
 60歳から始めた同窓会が一応終止符を打っていたのに、80歳の同窓会を再び企画することに相成った。先日、打ち合わせ会に声が掛かったが、長時間腰掛けることはなるべく避けようと欠席した。
 果たして何人参加できるだろうか。もらった名簿から、まず市内たった1人の同級生をキャッチした。声は昔ながらも、体調イマイチとのこと。郷里の面々の電話を記入していたら、男性の孫から電話があり、期限までになすべきことを確認した。
 80歳まで生きていることが不思議である。今度は、おいそれと分からないかも知れない。
  鹿児島市 東郷久子 2014/6/4 毎日新聞鹿児島版掲載

返上はいつできる?

2014-06-06 19:45:42 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月 6日 (金)

    岩国市  会 員   森重 和枝

 今年も、里芋の芽が出始める。雑草がびっしり生える。芽をきずつけないように気をつけて草取りをする。毎年、精出して作るが、収穫量にがっかりする。不得手だ。 
 姑から交代して10年になる。姑のは掘るのに一苦労するほどの大きな塊だった。私の場合はスコツプ1回で掘れる。
 先日、施設にいる姑が「もう畑もできんようになった。どうなっとるかいねー、、あんたは町の子じゃけー、ようやらんじゃろうが」。「何とかやってるよ」とは言ったが、とても姑のようには無理。
 立派な里芋を作れるようになったら、町の子返上できるかも。
   (2014.06.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロン転載

今こそ外交力を

2014-06-03 16:21:49 | ペン&ぺん

安倍晋三首相の私的懇談会が5月、集団的自衛権の行使を、憲法解釈を変更して容認するよう求める報告書を提出した。憲法改正によらず解釈で変更するとの考えだ。記者会見で、安倍首相が艦船をイラストに使って邦人救助時の自衛権について持論を展開していたのを、多くの皆さんが覚えておられるだろう。
 私たちは、一部地域・局所の武力衝突や国境紛争が、世界や世界大戦の引き金になることを歴史で学んだ。公海上空の中国軍戦闘機による自衛隊機への異常接近などが憂慮されるが、今こそ「外交」で正常な関係にもっていかねばならない。
 日本と北朝鮮が拉致被害者の再調査で合意したとのニュース。私にも2人の娘がいるのでテレビで横田めぐみさんのご両親を見ると、いたたまれない。日本には、あの北朝鮮を相手に再調査合意にもっていける交渉力がまだあるのだ。
 県内にも1978年に拉致された市川修一さん(当時23歳)ら被害者が複数おられる。家族の高齢化は進むばかりで早期の解決が望まれる。今度こそ、北朝鮮の誠実な対応に期待したい。拉致問題は安倍政権にとって最重要課題の一つ。納得いく解決を図ってほしい。中国の軍事力増強や海洋進出、北朝鮮の核開発など脅威はある。ならば日本が見せた外交力をもって、自衛隊が出ていかなくてもいいようにしてほしい。青臭いだろうか。
 さて、NHK争奪県選抜高校野球大会は見応えがあった。今春のセンバツに本県から出場した神村学園が決勝へ、大島が準決勝へ進んだ。今夏の甲子園出場を占うとされるNHK旗。神村と大島は甲子園への春夏連続出場がかかっており、鹿屋中央もNHK旗初優勝校の実力を見せたい。離島や山村などの高校もハンディを克服し、県予選に挑んでもらい、再び鹿児島を熱くしてほしい。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2014/6/3 毎日新聞鹿児島版掲載

娘にありがとう

2014-06-03 16:15:47 | はがき随筆
 夜中にふうわりと優しく布団を掛けてもらう感じがした。7年間の闘病の末、今年2月に亡くなった夫が元気な頃、よく私と娘に布団を掛けてくれていたなあ……。優しかった夫のことが思い出され、幸せな気持ちになった。
 もう一度、ふうわりと布団を掛けてくれる感じがして目が覚めた。「夫かもしれぬ」と期待していたが、何と17歳の一人娘がかけてくれていたのだった。
 「お母ちゃん、寝相が悪すぎるよ。風邪ひくじゃない」と嘆く娘。「お父ちゃんに似て、優しく育ってくれてありがとう」 
 思いを声に出して伝えた。
  鹿児島市 萩原裕子 2014/6/3 毎日新聞鹿児島版掲載

「御」の安売り

2014-06-03 16:06:21 | はがき随筆
 銀行の1年定期が満期になった。担当の若い男性行員はばか丁寧な言葉遣いで新タイプの定期を勧めるが、こちらは生活費が必要なので普通預金に移すことにする。書類の記入法を説明する時も「こちらに御名前と御口座番号と御金額を」ときた。なぜ金額に敬語を使う?
 彼が再び「御金額」と言った時、たまらず「あのー、金額に『お』をつけるのは気持ち悪いんでやめてください」と言ってしまった。彼は一瞬顔をこわばらせて「申し訳ございません」。怖いおばさんと思われただろう。ゴメンネ。あなたを嫌いなわけじゃないのよ。
  鹿児島市 種子田真理 2014/6/2 毎日新聞鹿児島版掲載

ホタルの競演

2014-06-03 09:49:33 | 岩国エッセイサロンより


2014年6月 3日 (火)

   岩国市  会 員   角 智之


 初夏の風に乗ってホタルがやって来る。実家は錦川の中流域で川のそばの道路を挟んですぐの所に家があった。我が家は居ながらにしてホタルの競演が見える特等席だった。梅雨入り前後の雨天の夕方から、川面に霧が立ち込めると、光はおぼろとなり神秘的な雰囲気を醸す。仲間とコミュニケーションを取っているのか、縄張りを誇示しているのか、わずか数日のはかない命を惜しむかのようだ。
 古くから親しまれてきた風情ある情景も見えなくなって久しい。人間の生活を優先させた結果であろう。乱舞の復活を夢見て保護に努めなければと思う。

  (2014.06.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

アカショウビン

2014-06-02 22:32:07 | はがき随筆


 私が生まれ育った大隅の山村。蛍が飛び交う頃になると、毎年家の近くに真っ赤な鳥が住みついていた。くちばしまで赤いこの鳥は土手に巣穴を掘り、子育てをして「キョロロローキョロロロー!」と甲高く鳴く。長老から、牛馬の使いだと教えられ大切に見守っていた。
 いつの頃からか、さっぱり姿を見せなくなった。田中一村の絵の中や奄美大島にはいるらしい。時々、テレビやラジオでその声を聞くと子供の頃を思い出す。裏山からコジュケイやホトトギスの鳴き声がにぎやかに聞こえて、それが日常だったあの頃は自然も心も幸せだった。
  指宿市 有村好一 2014/6/1 毎日新聞鹿児島版掲載

喜寿同窓会

2014-06-02 22:24:56 | はがき随筆
 10年前に東京で中学の同窓会をした。NHKのスタジオパークを見学したら、小田切アナが突然私たちにインタビューした。今は亡きK君が「鹿児島から来ました」と、テレビで放送され、よい思い出になっている。
 3年ぶりに喜寿の同窓会を開いた。参加者はとみに少なくなったが、東京や大阪からグループで帰省、歓談の輪ができた。
 翌日、桜島クルージングを終え、湯之平展望所で記念撮影したが、4人写っていない。移動に時間がかかるのはやむを得ないが、足腰は少々衰えても口だけはまだ達者だ。次回も鹿児島で会おうと、約束して別れた。
  鹿児島市 田中健一郎 2014/5/31 毎日新聞鹿児島版掲載