はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

卓上の花

2014-06-20 18:24:29 | はがき随筆
 

母の日、少し照れながらラッピングした花を渡してくれた婿殿。その優しさに感激した。早速、花瓶にその花を挿し卓上に飾ると華やかな雰囲気になる。だが、赤いカーネーションを見つめている彼は天国のお母様を思い出しているようにみえる。
 我が母に勝るものはないように、心優しい彼のお母様を思うと切なくなる。新茶の香りに包まれ、婿殿と母の日のひとときを過ごす。「お母さん、健康に気を付けてください」。言葉を残して、彼は帰った。
 私は卓上の赤いカーネーションを眺める。「ありがとう、また来てね」
  鹿児島市 竹之内美知子 2014/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載

内緒のツクシ

2014-06-20 18:14:42 | はがき随筆


 子どもの頃の食卓は、今ほど食材が豊富でなかった。その分、季節ごとの物を口にしていた。と言っても、野原や山林に生えた物だが。幼いながらツワブキやツクシの煮物が好きだった。
 ツクシ採りは秘密の場所があった。国鉄と私鉄の電車が間近に並んで走る、線路沿いの土手だ。緑の雑草の中に、小指サイズの薄茶色のツクシが並んでいる。一本一本を丁寧に抜き、買い物かごに入れ持ち帰った。
 毎年のように母は「どこでこげん採ってきたんね」と尋ねた。「あの土手たい」と口を濁す。線路際では遊ばないようにと、きつく言われていたからだ。
  鹿児島市 高橋誠 2014/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載 

野イチゴ

2014-06-20 16:52:51 | はがき随筆


 妻が居間で何か捜し物をしている。「何を捜す?」と聞くと「ピンセット」と答える。
 「なぜ?」と再度聞くと「草刈り中、野イチゴをとって食べる時、トゲが刺さった」という。なんと彼女も私と同じで野イチゴを食べていたのだ。傷は大したことはなさそうだった。農薬を使わない畑周りの野イチゴは、季候のせいか、今年は繁って赤い実をいっぱいつけた。野イチゴの甘い味は、私をふっと少年の日に帰らせてくれる。
 妻を少し痛い目に遭わせた野イチゴ。だが、私は食の乏しい時代、友と、学校の登下校時に食べた野イチゴが懐かしい。
  出水市 小村忍 2014/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載

「幸せが来る来る」

2014-06-20 14:48:54 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月19日 (木)

     岩国市 会 員   貝 良枝

 雨上がりの朝、久しぶりに散歩に出掛ける。道端のクローバーの一群に足を止めた。
 「四つ葉を探す時は『幸せ探そう』と言ってから探すのよ。そうしたら本当に結婚が決まり……」と同僚が話したことが気になっていた。
 「幸せさーがし」と歌うように言い見ていると、緑の一群の中に四つ葉が一本浮かび上がる。そっと摘んでまじまじと見る。
 先々月、天に夫を見送った私の幸せって何だろう。気になっている年ごろの娘の縁談のことかしら。帰り道、また見ると目が釘付けになる。四つ葉だ。
 「えーっ、下の娘にも縁談?」

 (2014.06.15 毎日新聞「はがき随筆」掲載;文学賞)岩国エッセイサロンより転載