はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

紫陽花に埋まる母

2014-06-21 22:11:38 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月21日 (土)

   岩国市  会 員   山本 一 

 病院で寝たきりの母は花が好きだった。5月末からは庭に次々と紫陽花が咲く。まず白の大輪、続いて赤。可憐で質素な山紫陽花2種も早咲きだ。6月上旬からはどこにでもある赤紫の大輪と額が加わり、全てが咲き乱れる。母に、この時期だけは贅沢に、毎日新しい紫陽花を持参した。とりわけ赤と白の組み合わせが好きだった。病院の看護師さんや介護士さんの「わー、きれい」の声に母もかすかな笑顔をみせた。
 今年もいよいよ全ての紫陽花が咲きそろう。6月8日は母の一周忌だった。お墓を6種類の紫陽花で埋めてあげた。
  (2014.06.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

卓上の花

2014-06-20 18:24:29 | はがき随筆
 

母の日、少し照れながらラッピングした花を渡してくれた婿殿。その優しさに感激した。早速、花瓶にその花を挿し卓上に飾ると華やかな雰囲気になる。だが、赤いカーネーションを見つめている彼は天国のお母様を思い出しているようにみえる。
 我が母に勝るものはないように、心優しい彼のお母様を思うと切なくなる。新茶の香りに包まれ、婿殿と母の日のひとときを過ごす。「お母さん、健康に気を付けてください」。言葉を残して、彼は帰った。
 私は卓上の赤いカーネーションを眺める。「ありがとう、また来てね」
  鹿児島市 竹之内美知子 2014/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載

内緒のツクシ

2014-06-20 18:14:42 | はがき随筆


 子どもの頃の食卓は、今ほど食材が豊富でなかった。その分、季節ごとの物を口にしていた。と言っても、野原や山林に生えた物だが。幼いながらツワブキやツクシの煮物が好きだった。
 ツクシ採りは秘密の場所があった。国鉄と私鉄の電車が間近に並んで走る、線路沿いの土手だ。緑の雑草の中に、小指サイズの薄茶色のツクシが並んでいる。一本一本を丁寧に抜き、買い物かごに入れ持ち帰った。
 毎年のように母は「どこでこげん採ってきたんね」と尋ねた。「あの土手たい」と口を濁す。線路際では遊ばないようにと、きつく言われていたからだ。
  鹿児島市 高橋誠 2014/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載 

野イチゴ

2014-06-20 16:52:51 | はがき随筆


 妻が居間で何か捜し物をしている。「何を捜す?」と聞くと「ピンセット」と答える。
 「なぜ?」と再度聞くと「草刈り中、野イチゴをとって食べる時、トゲが刺さった」という。なんと彼女も私と同じで野イチゴを食べていたのだ。傷は大したことはなさそうだった。農薬を使わない畑周りの野イチゴは、季候のせいか、今年は繁って赤い実をいっぱいつけた。野イチゴの甘い味は、私をふっと少年の日に帰らせてくれる。
 妻を少し痛い目に遭わせた野イチゴ。だが、私は食の乏しい時代、友と、学校の登下校時に食べた野イチゴが懐かしい。
  出水市 小村忍 2014/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載

「幸せが来る来る」

2014-06-20 14:48:54 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月19日 (木)

     岩国市 会 員   貝 良枝

 雨上がりの朝、久しぶりに散歩に出掛ける。道端のクローバーの一群に足を止めた。
 「四つ葉を探す時は『幸せ探そう』と言ってから探すのよ。そうしたら本当に結婚が決まり……」と同僚が話したことが気になっていた。
 「幸せさーがし」と歌うように言い見ていると、緑の一群の中に四つ葉が一本浮かび上がる。そっと摘んでまじまじと見る。
 先々月、天に夫を見送った私の幸せって何だろう。気になっている年ごろの娘の縁談のことかしら。帰り道、また見ると目が釘付けになる。四つ葉だ。
 「えーっ、下の娘にも縁談?」

 (2014.06.15 毎日新聞「はがき随筆」掲載;文学賞)岩国エッセイサロンより転載

ご近所に関心を

2014-06-19 23:30:27 | ペン&ぺん


 赤ん坊や幼児、女子高校生らが犠牲となる悲惨な事件が全国で相次いでいる。栃木県日光市(旧今市市)の小学1年、吉田有希ちゃん(当時7歳)が2005年12月、下校途中に連れ去られ殺害された事件。ご両親の胸中を思うと言葉がない。我が子に食事を与えず、衰弱死させた保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された父親には言葉がない。なぜ、そんなことができるのか。信じられない。
 「子ども虐待防止ネットワーク会議」で5月、13年度の県内の虐待認定件数が報告された。なんと452件で過去最多主なものは、身体的虐待が79件、ネグレクト(育児放棄)45件、性的虐待7件。
 子どもの頃、私の古里の町内の親子げんかや夫婦の不和、子どもの非行などは“筒抜け”だった。万引きや不純異性交遊で補導されたなども。今や不純異性交遊という言葉は死語か。それだけ、近所付き合いがあったという証しでもある。「そんな事で補導されるなんて」「警察のお世話になるとは……」。昭和の時代は、世間の目や恥の文化もあって非行や犯罪に走らせるのを思いとどまらせていたと思う。
 私が正月や盆に熊本の実家に帰省しても、町内で暮らす人の顔が分からない。竹馬の友は私同様、県外で働き、親も80歳代以上で、既に無くなった人も多い。若い夫婦も共働きが多く、町内会活動への参加はない。だから「お隣さんの様子がおかしい」と感じたり、関心を寄せることもない。県中央児童相談所は「周囲の目が大切」と呼びかけているが、その通りだと思う。
 W杯が始まり、日本代表に3人を送り出し本県も盛り上がっている。ギリシャ戦は20日午前7時、試合開始。遠藤保仁、大迫勇也選手らには幕末の志士のごとく大いに活躍してほしい。鹿児島をサムライブルー一色にして声援を送りたい。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2014/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載

蚊の好都合

2014-06-19 23:25:19 | はがき随筆
 蚊がブーンと寄ってくる。ブーンと聞こえるから、蚊と書くのであろうか。
 最近、気温が上がり植木鉢に水をやる機会が増えた。おまけに夕方である。鉢の数が多いので、1時間はかかる。蚊との夏の戦いが始まる。
 蚊は15度で活動を始め、25度以上で活発に動くようになる。人間は、25度くらいで半袖などの薄着になる。蚊にとっては好都合であろうが、人間にとって不合理である。
 最近、気が付いたことがある。犬も今の時期、毛を夏毛に変えている。犬にとっても蚊の活動開始は不合理であろう。  
  出水市 小村忍 2014/6/17 毎日新聞鹿児島版掲載

ばあばのおっぱい

2014-06-18 22:11:54 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月17日 (火)


   山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 広島に住む長女が里帰り出産をし、孫が生まれてはや2カ月。時々、娘に代わっておむつを替えたりミルクを飲ませたりする。今では母乳パックで冷凍した母乳を哺乳瓶で飲ませることができるので、孫は不思議そうに私の顔を見つめる。
 眠くなると胸をさわってくるが、私のおっぱいではどうしようもない。そこでひらめいた。おしゃぶりを胸に置いて吸わせてみよう。「ばあばのおっぱい飲んで、ねんねしようね」と言いながら、だっこすると、一生懸命吸いながら眠りにつく。我が家では、おしゃぶりは、ばあばのおっぱいと呼ばれている。
  (2014.06.17 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

はがき随筆5月度

2014-06-16 21:20:21 | 受賞作品
 はがき随筆の5月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】16日「母の耳」高橋宏明(70)=日置市伊集院町飯牟礼
【佳 作】17日 「あの日の思い」竹之内美知子(80)=鹿児島市城山
   ▽ 22日「まず今日を」久野茂樹(64)=霧島市大窪


 「母の耳」は、不思議な内容で、読んで恐ろしくなる文章です。四つの時に伯母の家に預けられることになったのも、不安だったでしょうし、列車とホームの間に落ちたことにも恐ろしくなります。泣き声が聞こえるはずがない所にいた母親に助けられたのは、母親に泣き声が聞こえたからだというのですが、理屈抜きに不思議です。
 「あの日の思い」は、子息の入院で、慣れない東京に行くことになった。年配の紳士に交通の便を教えてあげると誘われ、半信半疑で身を引いていたが、実は裏のない親切心からの好意であった。「人を信じることにも勇気がいる」という経験談です。20年前よりも、私たちは疑い深くなっているかもしれません。
 「まず今日を」は、久方ぶりに旧友を訪ねたら、友は若年性の認知症で、奥さんに、健全な時の夫のことを覚えていてくれと言われて会わせてもらえなかった。今度電話したら友が出たが、会話するのが恐ろしくなって切ってしまった。それにしても、気が沈んでならない。一日一日を生きていくしかないとは思うが、人生の夕暮れ時は難しい。同感される方も多いと思います。
 この他に、3編を紹介します。
 中鶴裕子さんの「たんぽぽと少年」は、童話の1ページのような文章です。少年が、両手で、小鳥とも見える白い綿毛を持って通り過ぎた。よく見るとタンポポの綿毛であった。介護施設の母親と、無垢の少年のあどけなさとの対比が見事です。
 鳥取部京子さんの「猫の慕情」は、弟さんの飼い猫を、友人にあげたら、遠方なのに、弟さんを探し出して帰ってきたという「猫帰る」を、猫の視点から描いた文章です。猫は家につき犬は人につく、といいますが、人に付いたようです。
 清田文雄さんの「車両違い」は、新幹線の中で、検札に来た車掌に、謝っている老人を見かけた。何ごとかと思っていたら、自分も間違えて指定席に座っていた。今度はこちらが謝る番、さっきの老人が合図をおくっていた。
  (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

孫が生まれた

2014-06-16 21:13:28 | はがき随筆
 次男が生まれて初めて歌ったのは「さっちゃん」の歌。私と長男が歌っていたら、まだろくに回らぬ舌で終わりの部分、さっちゃんを「ちゃっちゃん」と歌った。10歳年下のいとこは聡子、1歳年上の妻は智子。さっちゃんと縁があった。
 次男夫婦はいっこうに子供が授からず、いつの間にか高齢出産を心配するようになった。夫が「諦めてはいけない」と言ったが、私は諦めかけた矢先のことだった。
 コウノトリが男の赤ん坊を運んで次男宅を訪れてきた! 思いがけないことで感激ひとしお。良かった。良かった。
  馬渡浩子 鹿児島市 2014/6/16 毎日新聞鹿児島版掲載

挽歌-友へ

2014-06-16 16:51:44 | はがき随筆
 晩春の過日に「友」は逝った。事故とも病気ともいわれているが、真相は分からない。そして、果たして彼女が、私を友として認めていたのかどうかも、もはや確かめようがない。彼女との肉声のやり取りは、虚空のかなたに消え、残ったのは彼女の叫びのごときメール文。「死にたい」「お金はあっても私は不幸」「夫にも本音が言えない」……。私の携帯に残る胸が詰まるような彼女の言の一群を、私は消さないままでいる。いや、きっと、一生手放さないだろう。それが私の彼女への友情の証しだから。
 友よ安らかに。
  鹿児島市 奥村美枝 2014/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載

ひとつのおまけ

2014-06-16 16:38:47 | はがき随筆
 病院帰りに無人野菜販売所に立ち寄る。棚には大根だけが5,6本ある。大きくてみずみずしい。「残り物に福あり」の格言で、その中野1本を選ぶ。お代箱がないので、オーナーに声を掛けると、自宅から見えた。お代はきちんと竹筒に納めた。オーナーは快く大根1本を添えた。うれしくて、心の底まで深く喜んだ。「ありがとう」と丁寧にお辞儀した。おまけの大根に感謝。1本100縁の大根を培う農業に携わる方の労苦は計り知れない。賢い。人と野菜の無人販売は、お互いに信じ合ってこそ商いが成り立つ。おまけの大根で夕げの卓を飾る。
  堀美代子 姶良市 2014/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

風向計

2014-06-16 16:24:49 | はがき随筆

 飼育園の傍らに立派な風向計が、三回忌を迎えた今日もひっそりとそびえ立っています。
 「あんちゃん、知っちょっけ」と弟が話してきました。私たち兄弟が卒業した小学校に弟が、PTAから頼まれて寄贈したという話でした。色が落ちていないか、さびついていないか、ちゃんと動いているか調べてほしいと私に伝えました。
 弟が自宅療養で気分が少し落ち着いていた時のことでした。何も明記のないそれは、福岡空港で働いていた時と同じように何ごともなく、確かに風を受けていました。報告後、いくばくもなく弟は、彼岸に旅立ちました。
  いちき串木野市 新川宣史 2014/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載 

遺言状

2014-06-16 16:18:41 | はがき随筆
 6月1日の誕生日に遺言を書く。古希から書き始め、今年は喜寿である。
 遺言状といえば、たいそうに聞こえるが、何のことはない。便箋に「お願いと感謝」の気持ちをしたためるだけ。
 遺す財産はない。残す気もない。「火にも焼けず、水にも流されない」形のないものを重んじる家族のお互いである。
 金持ちでも貧乏でもない普通の家庭に生まれ、人生の節目を越えて今日まで生かされ生きてきた。「日暮れて道遠し」だが、来世の宿題とし、沈む太陽が最後の光線を放つその時まで祈りと感謝の日々でありたい。
  内山陽子 鹿児島市 2014/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載

地球環境

2014-06-16 16:12:49 | はがき随筆
 冬から春、初夏と確かに季節は移っていくのだが、今年の季候はやはり異常である。暖かい冬の次に肌寒い春、そして梅雨も来ないのに猛暑が続いた。30度以上の気温が続いたこともあった。地球が崩れかかっているように感じる。
 世の中、相変わらず変動が激しく、さまざまなことでもめている。もう少し人間らしく世界中の人々と仲良く生きていけないものだろうか。
 梅雨の季節を迎えたが、洪水が発生しないように願っている。今こそ皆で知恵を絞って、地球環境を良くする方法を考える時だと思う。
  出水市、橋口礼子 2014/6/11 毎日新聞鹿児島版掲載