はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ワラジョイ

2014-06-10 16:07:11 | はがき随筆
 いつもの散歩道にアジサイ。淡い緑の葉っぱの上にアマガエルの姿が目に入った。いよいよ梅雨入り。そして。田植えが始まる。僕の手伝いはあぜや土手を走り回って田んぼに苗を投げ入れる。母ちゃんが素足であぜを歩くのは危ないと「ワラジョイを踏め」と一つは履いて、一つは腰にぶら下げてくれた。
 ワラジョイはじいさんが納屋で「ワラはね、餅米のワラが一番じゃっ!」と、言いながら編み上げていた。ワラは暮らしになくてはならない物であったが、今、あぜのワラジョイはどこを探しても、もはや昭和のこどもの心の中にしかない。
  さつま町 小向井一成 2014/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

我が家の恒例

2014-06-10 15:17:44 | はがき随筆


 我が家の恒例「ちまき」と「らっきょう漬け」作りを終えた。ちまきの竹の皮と灰は、夫が調達。友人に習った圧力鍋での作り方だ。弱火で1時間を40分に短縮してみると、米粒が残ってしまった。煮直してやっと完成。らっきょうは、夫が畑で栽培。忙しさにかまけ、除草を怠り、掘り起こすのに大変な苦労だった。不足分は買い足し、2人で「こしたえる」こと1時間余り。瓶につけ込み、1ヶ月後にはアメ色に輝き、カリッと歯ごたえのある食感がたまらない。好物故に、これだけは手伝ってくれるので大助かり。来年も楽しみにしてますよ、お父さん。
  鹿屋市 中鶴裕子 2014/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

金剛山寺蔵王堂

2014-06-10 15:00:58 | はがき随筆
 友人が奈良の吉野の寺に行くというので、付いて行った。彼女は一昨年、一人娘を亡くし、独りぼっちになった。
 吉野の蔵王堂は遠かった。秘仏の蔵王権現が開帳中だった。青色の大きな権現様は迫力があり、恐ろしげなお顔。だが眼前に座り見上げていると心が和らいでいく。友人はと見ると、一心に祈りをささげていた。私も彼女の心の安穏を祈った。
 帰り道、一言主神社に立ち寄った。そこで私は私の息子たちに平穏な人生をと願を掛けた。
 友人に寄り添いたい思いが、吉野の寺で自分のために祈ることをためらわせていた。
  出水市 清水昌子 2014/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

梅の木

2014-06-10 14:41:11 | はがき随筆


 実家は町道より10㍍ほど高い位置にあった。
 母屋に至る坂道には、大きな梅の木が1本あった。
 黄色に熟れた梅の実が落ちていた。
 梅の実は坂を転がり、平坦な道端にたくさん集まっていた。
 小学生時代、帰宅途中にそれを食べた記憶がある。
 あれから50年あまりがたち、その梅の木は跡形もなく消え去った。
 今は、長いセメント坂があるばかりである。
 さて、今年はその坂の脇に誕生日の記念に梅の木を植えようと思っている。
  鹿児島市 下内幸一 2014/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

2014-06-10 14:21:59 | はがき随筆


 樹木に絡まり繁茂する厄介なツル植物。図鑑によると、漢字名「葛」。秋の七草の一つ。食用、薬用、飼料等、生活に有用とある。根は葛粉の原料だったと知り驚いた。稲の取り入れ時に、その長いツルをひもとして利用していた。
 ある時、農作業の合間にそれを採りに行った夫が戻らない。皆で探すと、木陰で昼寝中の本人を発見。それは滑稽だった。
 繁殖力旺盛なこの植物が支えた古人の生活に思いを巡らす。秋には、紅紫色の鮮やかな花が咲く。それは、せめてもの償いのように思えるが、先人達の目にはどう映ったことだろう。
  出水市 伊尻清子 2014/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載
 

80歳同窓会

2014-06-10 10:44:58 | はがき随筆
 60歳から始めた同窓会が一応終止符を打っていたのに、80歳の同窓会を再び企画することに相成った。先日、打ち合わせ会に声が掛かったが、長時間腰掛けることはなるべく避けようと欠席した。
 果たして何人参加できるだろうか。もらった名簿から、まず市内たった1人の同級生をキャッチした。声は昔ながらも、体調イマイチとのこと。郷里の面々の電話を記入していたら、男性の孫から電話があり、期限までになすべきことを確認した。
 80歳まで生きていることが不思議である。今度は、おいそれと分からないかも知れない。
  鹿児島市 東郷久子 2014/6/4 毎日新聞鹿児島版掲載