はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「おうち」

2014-06-26 22:42:51 | 女の気持ち/男の気持ち
 幼稚園から帰ってきた子どもたちを迎えに外に出た。私を見つけたKちゃんは「だっこして」と駆け寄ってきた。Kちゃんを抱き上げ「さあ、おうちに入ろうか」と言うと「おうちじゃないもん。D園だもん」。
 一瞬言葉を失った。たわいないおしゃべりをしながら、腕の中の4歳児の言葉に私はとらわれていた。
 昨年9月からある養護施設でボランティアとしてこどもたちのお世話をしている。近所の暇なおばさんというスタンスで子どもの相手をしているのだが、時々考え込んでしまう子どもの言葉に出くわす。
 昼間は幼稚園や学校で過ごし、おうちに帰る。当たり前のことだと思っていた。ここで暮らしている幼児たちでさえ「おうちで暮らしていない」と認識しているとは、うかつにも気づかなかった。
 「おかえりなさい」と出迎えられ、宿題をしたりビデオを見たり。お風呂に入り、ご飯を食べて寝る。おうちでしていることをD園で子どもたちはしている。だから「D園がおうちだ」と子どもたちは思っているものとばかり思っていた。この脳天気なおばさんも、おうちで暮らせない子どもたちのやりきれなさに気づかされることがたびたびあるようになった。
 「君の笑顔が見たい」という連載が始まった時、こういう養護の方法もあるのだと知った。早く日本でも家庭養護が主流になることを祈るばかりだ。
  出水市 清水昌子 2014/6/26 毎日新聞「の気持ち」欄掲載

田植え

2014-06-26 22:23:38 | はがき随筆


 今年も田植えが始まった。
 田植機が水を満たした田んぼをチャッ、チャッと走っている。
 広い田んぼも、見る間に早苗が植えられ、水田が植田に変わっていく。
 その上を風がスーと吹いて苗が揺れている。
 「ワァーありがとう、大きくなるよ」と一斉に喜んでいるようだ。
 見ていてうれしくなる。 今年は腰を痛めたので、長年続けていた稲作りをやめた。
 昨年までの忙しさを考えると、ゆっくりできる。
 でも、なんだか寂しいなあ。
  出水市 畠中大喜 2014/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ピアノ演奏

2014-06-26 14:09:40 | はがき随筆






 西村由紀江さんのピアノ演奏を介護施設で聴いた。クラシック、童謡、演歌など、なじみの深い曲の演奏に、入所者たちは静かに聴き入っていた。
 由紀江さんの両親は種子島生まれで、島とは縁が深い。これまでにも中種子や西之表市のホールで演奏会を催しているが、今回は中種子の施設に入っている祖母のお見舞いに来て、その合間に依頼した演奏だった。
 ピアノを弾き始めて40年という由紀江さんだが、私としては彼女が天才少女とうたわれていた頃からのおなじみ。CDも3枚持っており、折に触れ聴いている。
  西之表市 武田静瞭 2014/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

画像は武田さんのブログより

最北のしぶし

2014-06-26 14:02:31 | 受賞作品
 志布志が、全国のどこかにないか常々思っていた。
 先日、北海道岬めぐりツアーに参加した。観光バスで宗谷岬から知床半島に向かう。途中のどこかで、しぶし、という字が見えた気がした。注意していると、次に漢字で、志撫子、が目についた。地図上にはない。
 帰宅後、どうしても気になりパソコンで国道をなぞってみる。あっ、あった。
 サロマ湖畔で。字は違うが呼び名はまさしく「しぶし」だ。アイヌ語で「シュプン・ウシ」(コイ科の魚が多くいる川)に由来するそうで、私にとって偶然の大発見だった。
  志布志市 原田輝明 2014/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

診察室で

2014-06-26 13:28:12 | はがき随筆
 「ええっ、何~?」。一瞬、私は正にキツネにつままれたような表情をしたのだと思う。「私はどこにいるんだ」。時々頭がフワッとすると言って、確か脳神経外科の診察室をノックしたはず。すると、医師が言った。「目を閉じて、その場で足踏みしてみてください」「ふらつくかもしれない、でも落ち着くんだ」。自分に言い聞かせた。「はい、目を開けて」。私は見事に90度左回転して、診察室の別の風景を見ていたのだ。
 「左耳の三半規管の異常でしょう」。してやったりとばかりに、医師が目配せしたと、後で妻から聞いたのだった。
  霧島市 久野茂樹 2014/6/23 毎日新聞鹿児島版掲載

ホタルの思い出遠く

2014-06-26 12:26:44 | 岩国エッセイサロンより
2014年6月26日 (木)

岩国市  会 員   角 智之

薫風を受けて新緑も色濃くなる頃、初夏の風物詩、ホタルたちの出番となる。
 たそがれ時に川辺の草むらに目をやると、鈍い光を放ちながら飛び立つタイミングをうかがっているようだ。初めは思い思いに光っているが、やがて一つのグループとなって乱舞する。 
 子どもの頃、近所の友達と夢中で追い掛けた記憶がある。走りながら狙いを定め、竹ぼうきを振り上げると、いきなり光を消して高く舞い上がる様子が月明かりに見えた。小さな虫でさえ、身を守るすべを心得ているのに驚いた。今では見ない光景となった。
 コンクリート護岸工事で隠れ場となる雑草が少なくなったのと、上流のダム工事で川底に土砂が堆積し餌のカワニナが減少、幼虫の生息の場が狭められた。
 人間の生活を豊かにする河川工事も、自然環境の保全と両立させながら進めるべきではないかと思う。

(2014.05.08 中国新聞「広場」掲載岩国エッセイサロン)より転載