はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆5月度

2014-06-16 21:20:21 | 受賞作品
 はがき随筆の5月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】16日「母の耳」高橋宏明(70)=日置市伊集院町飯牟礼
【佳 作】17日 「あの日の思い」竹之内美知子(80)=鹿児島市城山
   ▽ 22日「まず今日を」久野茂樹(64)=霧島市大窪


 「母の耳」は、不思議な内容で、読んで恐ろしくなる文章です。四つの時に伯母の家に預けられることになったのも、不安だったでしょうし、列車とホームの間に落ちたことにも恐ろしくなります。泣き声が聞こえるはずがない所にいた母親に助けられたのは、母親に泣き声が聞こえたからだというのですが、理屈抜きに不思議です。
 「あの日の思い」は、子息の入院で、慣れない東京に行くことになった。年配の紳士に交通の便を教えてあげると誘われ、半信半疑で身を引いていたが、実は裏のない親切心からの好意であった。「人を信じることにも勇気がいる」という経験談です。20年前よりも、私たちは疑い深くなっているかもしれません。
 「まず今日を」は、久方ぶりに旧友を訪ねたら、友は若年性の認知症で、奥さんに、健全な時の夫のことを覚えていてくれと言われて会わせてもらえなかった。今度電話したら友が出たが、会話するのが恐ろしくなって切ってしまった。それにしても、気が沈んでならない。一日一日を生きていくしかないとは思うが、人生の夕暮れ時は難しい。同感される方も多いと思います。
 この他に、3編を紹介します。
 中鶴裕子さんの「たんぽぽと少年」は、童話の1ページのような文章です。少年が、両手で、小鳥とも見える白い綿毛を持って通り過ぎた。よく見るとタンポポの綿毛であった。介護施設の母親と、無垢の少年のあどけなさとの対比が見事です。
 鳥取部京子さんの「猫の慕情」は、弟さんの飼い猫を、友人にあげたら、遠方なのに、弟さんを探し出して帰ってきたという「猫帰る」を、猫の視点から描いた文章です。猫は家につき犬は人につく、といいますが、人に付いたようです。
 清田文雄さんの「車両違い」は、新幹線の中で、検札に来た車掌に、謝っている老人を見かけた。何ごとかと思っていたら、自分も間違えて指定席に座っていた。今度はこちらが謝る番、さっきの老人が合図をおくっていた。
  (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

孫が生まれた

2014-06-16 21:13:28 | はがき随筆
 次男が生まれて初めて歌ったのは「さっちゃん」の歌。私と長男が歌っていたら、まだろくに回らぬ舌で終わりの部分、さっちゃんを「ちゃっちゃん」と歌った。10歳年下のいとこは聡子、1歳年上の妻は智子。さっちゃんと縁があった。
 次男夫婦はいっこうに子供が授からず、いつの間にか高齢出産を心配するようになった。夫が「諦めてはいけない」と言ったが、私は諦めかけた矢先のことだった。
 コウノトリが男の赤ん坊を運んで次男宅を訪れてきた! 思いがけないことで感激ひとしお。良かった。良かった。
  馬渡浩子 鹿児島市 2014/6/16 毎日新聞鹿児島版掲載

挽歌-友へ

2014-06-16 16:51:44 | はがき随筆
 晩春の過日に「友」は逝った。事故とも病気ともいわれているが、真相は分からない。そして、果たして彼女が、私を友として認めていたのかどうかも、もはや確かめようがない。彼女との肉声のやり取りは、虚空のかなたに消え、残ったのは彼女の叫びのごときメール文。「死にたい」「お金はあっても私は不幸」「夫にも本音が言えない」……。私の携帯に残る胸が詰まるような彼女の言の一群を、私は消さないままでいる。いや、きっと、一生手放さないだろう。それが私の彼女への友情の証しだから。
 友よ安らかに。
  鹿児島市 奥村美枝 2014/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載

ひとつのおまけ

2014-06-16 16:38:47 | はがき随筆
 病院帰りに無人野菜販売所に立ち寄る。棚には大根だけが5,6本ある。大きくてみずみずしい。「残り物に福あり」の格言で、その中野1本を選ぶ。お代箱がないので、オーナーに声を掛けると、自宅から見えた。お代はきちんと竹筒に納めた。オーナーは快く大根1本を添えた。うれしくて、心の底まで深く喜んだ。「ありがとう」と丁寧にお辞儀した。おまけの大根に感謝。1本100縁の大根を培う農業に携わる方の労苦は計り知れない。賢い。人と野菜の無人販売は、お互いに信じ合ってこそ商いが成り立つ。おまけの大根で夕げの卓を飾る。
  堀美代子 姶良市 2014/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

風向計

2014-06-16 16:24:49 | はがき随筆

 飼育園の傍らに立派な風向計が、三回忌を迎えた今日もひっそりとそびえ立っています。
 「あんちゃん、知っちょっけ」と弟が話してきました。私たち兄弟が卒業した小学校に弟が、PTAから頼まれて寄贈したという話でした。色が落ちていないか、さびついていないか、ちゃんと動いているか調べてほしいと私に伝えました。
 弟が自宅療養で気分が少し落ち着いていた時のことでした。何も明記のないそれは、福岡空港で働いていた時と同じように何ごともなく、確かに風を受けていました。報告後、いくばくもなく弟は、彼岸に旅立ちました。
  いちき串木野市 新川宣史 2014/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載 

遺言状

2014-06-16 16:18:41 | はがき随筆
 6月1日の誕生日に遺言を書く。古希から書き始め、今年は喜寿である。
 遺言状といえば、たいそうに聞こえるが、何のことはない。便箋に「お願いと感謝」の気持ちをしたためるだけ。
 遺す財産はない。残す気もない。「火にも焼けず、水にも流されない」形のないものを重んじる家族のお互いである。
 金持ちでも貧乏でもない普通の家庭に生まれ、人生の節目を越えて今日まで生かされ生きてきた。「日暮れて道遠し」だが、来世の宿題とし、沈む太陽が最後の光線を放つその時まで祈りと感謝の日々でありたい。
  内山陽子 鹿児島市 2014/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載

地球環境

2014-06-16 16:12:49 | はがき随筆
 冬から春、初夏と確かに季節は移っていくのだが、今年の季候はやはり異常である。暖かい冬の次に肌寒い春、そして梅雨も来ないのに猛暑が続いた。30度以上の気温が続いたこともあった。地球が崩れかかっているように感じる。
 世の中、相変わらず変動が激しく、さまざまなことでもめている。もう少し人間らしく世界中の人々と仲良く生きていけないものだろうか。
 梅雨の季節を迎えたが、洪水が発生しないように願っている。今こそ皆で知恵を絞って、地球環境を良くする方法を考える時だと思う。
  出水市、橋口礼子 2014/6/11 毎日新聞鹿児島版掲載