はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ひょっとこ面

2009-04-26 21:34:17 | はがき随筆
 上2人の孫がにやにやして見ている。じいはI歳半の孫娘に、眼鏡の顔と外した顔を、絵本の見開きから交互に出し「いないいないばぁ」をやっている。
 その動作を数回繰り返し、今度は、ひょっとこ面を付けて出してみた。とたんに孫の柔和な顔がこわ張って、ヤバイ!と思う聞もなく泣き出した。その声を聞きつけて、娘が台所から飛んで来た。するとすかさず5歳の孫が「じいちゃんがお面でびっくりさせた」と告げ□した。
 いや、そうではないのだ。じいは君たちの未来を案じ、世の中がそんなに単純ではないことを教えてやったのだ。
  伊佐市 山室悟入(62) 2009/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載



ベナレスに泣く

2009-04-26 21:30:12 | はがき随筆
 オスカー賞を含め、61の映画賞を取った「おくりびと」は、名優・本木雅弘が青年期に、インドのベナレスで体験したことが基になっているという。
 私も13年前、かの地で見た光景を忘れることが出来ない。ガンジス川を流れる亡きがらや、遺灰をまく傍らでもく浴をする人々に驚き、死を待つ人の家や ″だび″にも格差があることを知り嘆いた。また異臭─ごみや牛の排せつ物、物乞いをする人たちの体臭、火葬のにおい──にもこの国の縮図を感じた。
 ヒンズー教の聖地・ベナレスの夜は、人と宗教とのしがらみを思い、枕を涙で濡らした。
  出水市 清田文雄(69) 2009/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

善人と悪人

2009-04-26 21:20:25 | はがき随筆
 知らない字を辞書で調べようと妻の書棚を探していると、見慣れない赤表紙の本があった。
 「世界一周すると10万円貯まる本」。めくってみると東京を出発してアジア、ヨーロッパなど200都市の地名に500円硬貨を埋めていくと10万円になる計算。生涯行けない北極圏から無料でも行きたくないバンコクもある。道理で妻は500円硬貨を集めていたのかと納得。
 そういえば3年前に沖縄に2人で行ったきり世界一周どころか県内一周も果たしていない。本の中身はまだ3分の1、こっそり埋めてやるか抜き取るか善人と悪人が行き来する日々だ。
  志布志市 佐竹佐俊(66) 2009/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

白い菜の花

2009-04-26 21:16:09 | はがき随筆
 辺り一面、黄色や白やピンクで染まる春。ある日の私と子どもたちとの会話。
 「帰り道、道ばたに白い菜の花があったよ」
 「えっ、白い菜の花。ああ、それきっと大根の花だよ」
 何日かしていつも元気いっぱいのR男も同じように話す。
 「白い菜の花があったよ」「それ大根の花だよ。引っこ抜いたら大根が出てきたよ」
 「ふうん、大根の花か」
 子どもたちのかわいい会話に思わずにっこり。白い菜の花、本当にそうだ。道ばたを歩くと黄色い菜の花や白い菜の花がきれいに咲いている。
  出水市 山岡淳子(50) 2004/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載
  写真はyushitaさん