はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

安心のお守り

2009-04-15 14:04:26 | はがき随筆
 もう10年前にもなるある日の夜、宴会が終わって席を立とうとした時、急に心臓の鼓動が激しくなり、その場にうずくまった。やがて妻が駆けつけ病院に直行。脈拍が180回ぐらい。点滴を受けて脈は正常になったが、心筋こうそくの恐れがあるから、病院で一晩様子を見ることになった。結果的には発作性頻拍症と診断され、以来、今日まで時々頻脈を伴う不整脈に見舞われる。主治医は、不整脈そ
のものよりも血液の凝固による脳こうそくが心配だという。
 外出の際、発作を抑える薬の携帯を忘れると不安でならない。安心のお守りみたいである。
 志布志市 一木法明(73) 2009/4/15 毎日新聞鹿児島版掲載


納骨を終わって

2009-04-14 11:02:28 | はがき随筆
 妻が亡くなって四十九日がきた。寒い春で遺骨を仏壇に置いていたが、法事の前に坊さんにもお墓に来ていただいて納骨をすませた。毎週お寺に行って一人でお経を聞いてきたが、これで一つの区切りになる。と言っても落ち着かないが、残された余生を生きるために、心をしっかり持たなくてはなるまい。
 ひとりの生活にはなかなか慣れないが、頑張るしかない。一人で生きている人はたくさんいるのだから。文芸の他、油絵にも挑戦してみたいと考えている。残り少ない人生、ぼんやりしている暇はない。
 大事に生きたいものである。
志布志市 小村豊一郎(83) 2009/414 毎日新聞鹿児島版掲載



南天のつえ

2009-04-14 10:49:41 | はがき随筆
 南天は難を防ぐと言われている縁起物。家の周りの南天がぎっしりと繁茂した。妻が「少し間引きしたら」ということで伐採。切った南天でつえを作ることにした。にわか大工、ふれあいサロンの皆さんへ室内用にと始めた。適当に長さを切り、皮をはぎペーパーをかける。次に塗料を塗りテープで装飾する。不調法な自分にしてはよくできたと自画自賛。次の作品に取りかかったが張り切り過ぎてじっくりと汗、とたんに風邪。2週間たった今ようやく復調。年寄りの冷や水、しかし皆さんに喜ばれ何より。次の課題に取り組み、ボランティアを続けよう。
   薩摩川内市 新開譲(83)  2009/4/12  毎日新聞鹿児島版掲載



記念樹

2009-04-11 11:00:25 | はがき随筆
 春は出会い、別れの季節。迎える方はうれしい中にときめきもあるが、送る方はさまざまな思いが胸をよぎり「さよなら」とすんなり言えない一抹の寂しさがある。
 昼間から窓越しに見る紫モクレンの大木。四方に枝を張り、無数のかれんな花たちが、澄んだ空に向かって伸びやかに咲き誇って美しい。
 かつて高校を卒業した娘のたびだちの「記念樹」で学んだ大学の名をつけて、朝な夕なに水をやりながら、語りかけて育てた思い出の一本の木。十数年の時を経て今年も見事に咲いて、晩春の庭に彩りを添えている。
   鹿屋市 神田橋弘子(71) 2009/4/11 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はバセさん


妙味

2009-04-11 10:56:39 | はがき随筆
 今年も友に、土から顔を出したばかりのタケノコをちょうだいする。早速、刺し身に変身させ、サンショウの葉を添え、日本酒でタケノコを堪能。春の香りと妙味が口中に広がる。至福のひととき。友にただ感謝。十分に味わい尽くしリッチなる気分のままに「おい、デザート」。
 「そんなしゃれた物などありませんよ」
 「これが恋人時代なら瞬時に用意するだろうに」
 「60を過ぎた者に愛だの恋だのあるものですか」と後片づけをすべ
く腰を浮かした途端「妙」なる音の……。初老の夫婦は妙な音も「たえなるね」と聞いた。これこそ夫婦の妙味ならんや。
   肝付町 吉井三男(67) 2009/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はyushitaさん

さくら

2009-04-09 09:56:50 | はがき随筆
 近くの特攻碑公園の桜が満開。ヨガ教室の仲間と花見に行った。見上げると空いっぱいの花。きれいきれいと連発。そのうち桜の思い出が□をついて出る。そぞろ歩きをしていると、両手を支えられてすり足で歩く人、肩を借りて歩く人、つえの人……。10入のホームの方が介護の方に見守られて花見をされていた。車椅子から身を乗り出し、オーオーと見上げる桜に両手をあげる。サクラ、サクラと歌声に出す人、きっとこの方たちも桜の思い出が浮かんだのでしょう。桜ほど人それぞれに思い出を作る花は他にないだろう。私もまた桜の思い出を作った。
   出水市 年神貞子(73) 2009/4/9 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はカイルアさん






男の持ち物

2009-04-08 17:38:10 | はがき随筆
 ショルダーバッグを妻からプレゼントされた。イタリー製の高級品でバックル付きのポケットがすてき。しかし何を入れて歩けばいいのだろう。ご婦入の場合、持たない方が不自然に映るが、男の姿は目に浮かばない。旅行ならボストンバッグ、ビジネスではカバンなら分かる。さて、何を持ち歩くか考えて‥みたが、メモ帳、本、財布、カメラぐらいしか思い浮かばないのだ。あまり重くなると肩が凝る心配もある。こうなると思案投げ首状態で、いっそのこと空気枕でも詰め込んでかっ歩して来ようかしら。必携グッズが見えてくるかも……。
   志布志市 若宮庸成(69) 2009/4/8 毎日新聞鹿児島版掲載



久々のひな飾り

2009-04-07 12:29:27 | はがき随筆
 今年、久々にひな壇を飾った。12年前、種子島に移住する際、娘の元に置いてきたのだが、狭くて出せないからと送ってきたのだ。その年に飾って以来だから、それこそ10年ぶりのご対面である。健在だった母が、大喜びしていた様子を思い出す。「私の小さいころ、この辺で飾ったのは、土で作ったおひな様じゃったやろなア」
 娘が2歳のころに買ったのだが、その娘も、今ではこの春中学3年になった娘を持つ母親である。孫娘はこのひな飾りを見ていない。じいさん、ばあさんが一緒に収まった写真でも送ることにしよう。
   西之表市 武田静瞭(72) 2009/4/7 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は武田静瞭さん提供




心の温暖化

2009-04-07 12:16:31 | はがき随筆
 年度替わりに際し、中国からの研修員や留学生を招いて歓送迎会が行われた。総勢15人のささやかな宴。性別、年齢もまちまちで最初のうちは言葉の違いでしどろもどろ。時がたつに連れアルコールが効いてきて勝手にしゃべり、勝手に通訳をかって出る。奥の方では水割りの焼酎を水だとだまされて飲む中国人、こちらではビールをなみなみ注がれて干杯(かんぺい)、干杯と一気飲みをせがまれる日本人。狭い会場は笑いと熱気に包まれた。
 地球温暖化がうんぬんされる今日このごろ。こんな温暖化なら大歓迎だ。いや、中国式に歓迎! 歓迎!といこうか。
   鹿児島市 高野幸祐(76) 2009/3/6 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はトムさん





招待旅行

2009-04-07 11:58:43 | はがき随筆
 妹と姪たちの心のこもった関西方面の招待旅行を受け、妻と2人で久しぶりに新幹線を利用して九州路を後に本州へ向かった。プランに基づいて、まずは二条城を皮切りに洛西の有名寺社数社に参拝し心を清めた。殊に龍安寺の石庭には目を見張るものがあった。観光船から見る鳴門の渦潮は圧巻。七十数年前在住していた神戸の家屋周辺を訪ねたが、ビルが林立していて昔をしのぶ縁もなかった。知人とて誰一人見当たらず、正に今浦島の気分を実感させられた。旅の終わりは世界遺産に名を運ねた姫路城を見て、満喫した気分で幕を閉じた次第である。
   霧島市 有尾茂美(80) 2009/4/5 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はKYRIさん




犯罪被害者支援

2009-04-07 11:25:12 | かごんま便り
 独り身遺族の申請拒否――。1月15目朝刊社会面の見出しをご記憶だろうか。

 母を殺害された鹿児島市の40代女性が、単身者用の空きがないなどの理由で県営住宅への入居を認められなかったという記事だ。犯罪被害者等基本法が公営住宅への優先入居を保障し、国交省が災害被災者用住宅の転用など柔軟な対応を自治体に通知しているにもかかわらず、である。記事には県の“お役所的な”な対応を「法の趣旨に反している」と批判する識者談話も添えられていた。

 I週間後「一転して入居提案」の見出しとともに、県が初のケースとして目的外使用を認め、女性に入居を提案したことを伝える記事が載った。女性はその後、無事に入居し、新たな生活の一歩を踏み出したという。

犯罪被害者に施策の光が当たり始めたのはつい最近だ。加えて4年前に施行された基本法の趣旨すら徹底されているとは言えない状況である。

 例えば、犯罪被害者の心のケアや法律相談に応じる機関は各都道府県ごとにあるが、あくまでボランティアの任意団体。県内の犯罪被害者の自助グループ「南の風」の二宮通代表によると、今回のケースではそうした機関から有効な支援は得られなかったという。質的にも量的にも「犯罪被害者支援」と銘打つのにほど遠い実情は、もっと認知される必要がある。

    ◇

 心温まる報告を一つ。記事で窮状を知った読者から複数の寄付の申し出が毎日新聞に寄せられた。福岡本部に寄託された匿名の寄付には、米国の童話作家の、次の言葉が添えられていた。

 「生きていれば、落ち込むこともあります。状況を好転できると思ったら、ぜひ努力すべきです。でも、変えられないなら、それを受け入れて歩み続けるしかありません。何があっても『生きていることを楽しもう』という気持ちを忘れないで」

鹿児島支局長 平山千里 2009/3/6 毎日新聞掲載





晴れの日に

2009-04-04 15:35:55 | アカショウビンのつぶやき









 久しく待ち望んでいた長男の結婚式。お彼岸過ぎの第一級寒波襲来の朝、義妹と姪と共に上京した。翌日は風は冷たいけれど陽も差してまあまあのお日和。先日から風邪気味だったお嫁さんの体調が心配だったが、晴れ晴れとした表情で安心した。
 式場は築87年と言う、重厚な煉瓦造りの早稲田教会。パイプオルガンの奏楽が厳粛な中にも穏やかな気持ちを醸し出してくれる。
神様の前で「共に愛し敬い仕え合って生きる」ことを誓った2人、いつまでもこの思いを忘れずに愛のある家庭を築いて欲しい。きっと亡き夫も今、この誓いを一緒に聞いているのだろうと天を仰いで祈る。美しい花嫁を優しくエスコートする息子に「おめでとう」と2人で言いたかった。

 自由人らしい息子の披露宴は、友人と家族に囲まれ、形式にとらわれないつつましく楽しいものだった。猫が取り持つご縁だった2人の周りはすべて猫グッズ…。すべの準備を2人にまかせ、はらはらしながら見ているだけの私だったが、短い準備期間だったのに、よくやったねと2人に心から拍手を送った。これからも2人が補い合い助け合って明るい家庭を築いて行って欲しい。

携帯水没事件

2009-04-04 15:22:25 | アカショウビンのつぶやき
 旅に出ると、いつも珍道中を演じる私だけれど、今回は長男の結婚式という、大事な旅だからと用意周到に準備したのだが、出発直前に、大きなハプニング(>_<)。携帯を水に落としてしまった。
 拭いたり乾かしたり頭は真っ白。かろうじて息子と娘の携帯番号だけを控え、事の顛末を連絡し、羽田でDoCoMoショップに行こうと決心して出発した。
 羽田に着くと奇跡が起こり、携帯が生き返った! でもバッテリーが異常に熱くDoCoMoショップへ直行。「水没して生き返ることは殆どありません、奇跡ですね、ただし旅行中使えるかどうかは保障できません」と。仕方なく機種変更、データの移し替えなどで、半日つぶれてしまった。とばっちりを受けたのは同行の義妹と姪。先にホテルに行って貰ったが、予定が大幅に狂い本当に申し訳なかった。私の携帯は電話帳はもちろん、スケジューからメモまでぎゅうぎゅう詰め、これを落としたら動きがとれない。でも水に落とすなど考えもしなかった。

 まあ命があっただけで良しとしよう。本当に守られた1日でした。
 これからも息子たちに心配かけないよう気を付けましょう。
 

今年も会えた

2009-04-04 13:58:38 | はがき随筆
 3月26日。桜たちが見事に咲きほこっていた。
 9年前の乳がん再々発。一か八かの治療を受けるため入院する日の前日、夫が連れていってくれた磯山公園。満開の桜に息をのみ、穏やかな気持になれたことをハッキリ覚えている。
 奇跡が起き、がんは消え、老母をきょうだいたちと共に見取ることができた。でもその後、難病になり、また落ち込んだ。けれど障害者支援センターでの出会い、体験が私に新たな生き方を教えてくれた。体は不自由になったけれど、心は自由になれました。今年も会えたね、桜さん。うれしいです。
   鹿児島市 別府柳子(61) 2009/4/4 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は仇虫さん




夢のかなた

2009-04-04 13:06:36 | はがき随筆
 夢をみて目がさめた。何かあったのではと気にかかるが1日たっても連絡もなく安心する。その人は中Iの時の同級生。冗舌でクラスを沸かせる楽しい存在だったので印象深い。高校の時、同じ列車で通学、その後1年、さるところで勉強し東京の大学へ。その後世界のあちこちで活躍され退職。私たちの所へも昔のように来てくださる。昔の色白に更にまぶしく反射する白いシャツの印象が夢の中のその人だった。2部授業でスタートした新制中学の日が懐かしく、それぞれにかえる時が老齢の日々のゆとりの中にもどるのだろう。みんな元気に生きたい。
   鹿児島市 東郷久子(74) 2009/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載