はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

記念樹

2009-04-11 11:00:25 | はがき随筆
 春は出会い、別れの季節。迎える方はうれしい中にときめきもあるが、送る方はさまざまな思いが胸をよぎり「さよなら」とすんなり言えない一抹の寂しさがある。
 昼間から窓越しに見る紫モクレンの大木。四方に枝を張り、無数のかれんな花たちが、澄んだ空に向かって伸びやかに咲き誇って美しい。
 かつて高校を卒業した娘のたびだちの「記念樹」で学んだ大学の名をつけて、朝な夕なに水をやりながら、語りかけて育てた思い出の一本の木。十数年の時を経て今年も見事に咲いて、晩春の庭に彩りを添えている。
   鹿屋市 神田橋弘子(71) 2009/4/11 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はバセさん


妙味

2009-04-11 10:56:39 | はがき随筆
 今年も友に、土から顔を出したばかりのタケノコをちょうだいする。早速、刺し身に変身させ、サンショウの葉を添え、日本酒でタケノコを堪能。春の香りと妙味が口中に広がる。至福のひととき。友にただ感謝。十分に味わい尽くしリッチなる気分のままに「おい、デザート」。
 「そんなしゃれた物などありませんよ」
 「これが恋人時代なら瞬時に用意するだろうに」
 「60を過ぎた者に愛だの恋だのあるものですか」と後片づけをすべ
く腰を浮かした途端「妙」なる音の……。初老の夫婦は妙な音も「たえなるね」と聞いた。これこそ夫婦の妙味ならんや。
   肝付町 吉井三男(67) 2009/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はyushitaさん