「第一章 対移処分制度の確立過程」で引用する方勺『泊宅編』巻二の「不称職者」は、「職に称せざる者」ではなくて、「職に称(かな)わざる者」ではないのか。“職務不適格”という意味であれば。
仕有不稱職者,許郡將或部使者兩易其任,謂之「對移」。(『維基文庫』所収『泊宅編』巻二より)
仕に職に称わざる者あれば、郡将或いは部使者がその任を両易するを許す。之を「対移」と謂う。
とでも訓読すべきところであろう。訓読は半分翻訳だから、その漢字の読みを機械的に当てはめるのではなくて、意味に合った訓を選ばねばならない。称という字(動詞としての)には、大別して「呼ぶ」と「つりあう」の、二つのまったく違う意味があって、元来漢語としては発音も別である。「称する」と読むのは前者の訓読(というよりただの日本語漢字音での音読)である。ここの「称」は後者の意味だから「かなう」と訓まねばならない。ついでにいえば、冒頭の「仕」は、「仕えること」「仕える場所」の名詞であって、宮崎氏の解したような「仕えて」つまり動詞ではない。名詞(形式上の主語)+動詞「有」+目的語(意味上の主語)の構文だから。
この論文は、私の知らないことが書いてあって、とても有用であったが、論文そのものについては、これくらいしか言うことがない。
(『史学雑誌』122-3、2013年3月、342-366頁)