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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

 『子規全集』 第19巻 「書簡」

2014年05月29日 | 文学
 図書館で手に取り、何の気なしに開いてみると、そこはあの「僕ハモーダメニナツテシマツタ」で始まる、漱石宛の手紙だった。これには何の不思議も神秘もないのであって、それだけこの巻ではこの手紙を読もうとする人が多いということであろう。

  やまといもありかたくそんし候 つまらぬ御くわしすこしさし上候 小づゝみにて 東京上根岸 正岡常規

 明治三十五年「八月十八日 長塚節殿」、葉書、〔東京上根岸 正岡常規〕〔自筆〕の注記。660頁。
 短いが私にはいかにも子規らしい文面と。

  やまべといふ肴山の如く難有候 但し盡くくさりて蛆湧き候は如何にも残念に存候

 明治三十五年七月三十一日 長塚節宛封書。659頁。
 なるほど夏とはものが腐る季節であるとあらためて思った。
 ところでこの後が面白い。

  量は左迄澤山ならずとも腹をあけて燒いて日に干してといふだけの手間を取てもらうとよかつた

 原文は“腹をあけて”から“日に干して”までの部分、横にことごとく〇印が打ってある。子規は、念者(ねんしゃ)であるから。

(講談社 1978年1月)