書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

李重煥著 平木實訳 『択里志』

2013年04月24日 | 東洋史
 18世紀初頭朝鮮の地誌。「李重煥の30年にわたる放浪生活で得た知識が反映されており」(『世界大百科事典 第2版』)というのだが、描写が全然具体的でない。ほとんどの現地には行ったことがないのではないか。それとも行っても目が節穴だったか。『徐霞客遊記』のような旅行記に比べるのは酷としても、行文の精密さからいって(量ではなく)、『読史方輿紀要』ほどの情報の密度もない。書き方も平板である。風水を本気で信じ込んでいるらしいところは彼が蔑視している琉球で同時代を生きていた実学者蔡温にも及ばぬ。ずいぶん緩い著作であり著者の知性である。

(平凡社 2006年6月)