書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

レヴィ・ブリュル著 山田吉彦訳 『未開社会の思惟』 上下

2018年06月17日 | 人文科学
 “融即”と“前論理(的)”の二つの概念は非西洋世界の、しかも歴史的過去を観るさいには、両方が常に必須かどうかはわからぬながら、観点として極めて重要と思うのだが、この筆者にして完全には脱しえていない――書名を見れば判る――西洋中心主義の自覚と反省が、すくなくとも戦中から戦後すぐ生まれの中国学者は、ついに頭に入らなかった人が少なからずいるようだ。西洋をAとして中国を非A(だから優れている)という考え方は、AをAであるという認識で受容する時点ですでに西洋中心主義である。中国にもAの要素はあった(から西洋より遅れていたわけではない、価値が低いわけではない)という議論などもう論外である。

(岩波書店 1953年9・10月)。