書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

吉越弘泰 『威風と頽唐 中国文化大革命の政治言語』

2012年11月26日 | 地域研究
 再読。
 著者は文革時の政治的言説、とくに戦略的批判言語であるところの「大批判」言語について、王年一の以下の文章を引用して形容する。
 
 それは先に罪名を定めてから資料をかき集めるのを常とする。そのやり口は深文周納(事実をまげて人に罪をきせる)、断章取義(文章や話の前後を顧みずに、自分に都合のよい部分だけを引用する)、随意引申(勝手に拡大解釈する)、任意汚蔑(思うままに中傷する)、歪曲歴史(相手の経歴を歪曲する)、無限上網(ことを路線的問題にまで引き上げて批判する)というものであった。 (「はじめに」本書19頁。引用は、26頁注(21)によれば、王年一『大動乱的時代』河南人民出版社、1989年、239頁から)

 なぜそういう形を取ったかについてはこの大著のテーマではない。著者は何も語ってはいない。だがもし原因を個人の資質に求めるのであるなら、現象という集団的・社会的性質のそれとして分析することと矛盾していることになるし、さらにいえば言語とは文化項目の一つであるから、文化的範疇で捉えるべきであろうと思う。

(太田出版 2005年8月)