ニセモノがはびこる構造

2010-07-16 18:21:39 | 本の話
たいへん面白い本です。
齋藤光政著『偽書「東日流外三郡誌」事件』

新人物往来社の新人物文庫。
450頁ほどの厚さがありますが、一気に読んでしまえます。
文章も良い!

著者は新聞記者ですから、凝った形容をされません。
理系の方などにしばしば見受けられる無理やりモってある
「詩的」な文章の反対で、さらりと書いてあります。

内容が、考えようによってはおどろおどろしい世界ですから
すっきりとした日本語がありがたいですね。


本屋でチェックできる方は、この文庫本の終わり辺りを
先にご覧になり、「あとがき」を2頁ほど読んでいただけば
どのような本か分かると思います。

今ではほぼ完ぺきに偽書とされている「東日流外三郡誌」が
なぜ一時期もてはやされ有名になったのか。
この事件から現代の日本が見えてきます。

東北では前土器遺跡のフェイクでFさんが有名ですが
それよりもさらに深い問題を提起している事件でしょう。


偽書ではないという説もあるそうです。

しかし、この本を読めば答えは決まっていますね。

Aと非Aとが対立している場合、片方の話を聞けば
「そうだ、完璧にAが正しい」と思い
あとで非Aを読むと「いや非Aだ」となる
困った私ですが、この偽書に関しては間違えることは
ないでしょう。
それほど目配りがきいた本です。


こういう証拠で偽書だ、という部分も面白いのですが
それより、この偽書事件を通して見える日本文化の
ありかたが勉強になりますね。

なぜここまでウソがまかり通ってしまったのか。

嘘を作り上げた人物像から文化的背景、日本社会の
かかえる問題まで、幅広く言及してあります。

学者や専門家もマスメディアも問題があります。
それ以上に役人の罪が重い。
いわゆるお役所仕事がいかに重大な影響を与えるか
おそるべき実態があきらかにされます。

ニセモノ造りだけが悪いのではない、ようです。

この本の中から短く引用しますと
「自分の頭で考えることを怠ってきた日本人独特の
 前例主義」
「主体性のない横並びの論理」

筆者が厳しく言及しているのは役人だけではなく
日本文化に根付く「お役所」的事なかれ主義の人々
すべてに向けられたものでしょう。

また偽書と分かっていても未だにそれを利用する
文化にも怒っておられます。

「面白いからよい」「ロマンがある」などという
逃げ口上で商売にいそしむ人がいるのです。

金がもうかればよい、厭な世の中ですね。

とはいえ私も清貧に生きる立派な人間なんぞには
なれそうもないのですけれども。


忘れていました。

「東日流外三郡誌」は(つがるそとさんぐんし)と
読むそうです。