町内でテレビがある家が一、二軒の時代がありました。
大人までテレビを見せてもらいに行ったものです。
白熱灯のついた応接間に皆が揃うとおもむろに消灯。
映画館のように室内を暗くしてテレビを観賞します。
観客は10~20人。
画面は14インチくらいでしたか。
大勢で見るには小さなモノですがこちらも必死に見て
いたので大丈夫です。
ときおり他人の頭が邪魔をしましたが。
○
初めて見たテレビが『月光仮面』でした。
何だか真っ白い包帯でも巻いたような人がビルの屋上
に立っています。
「えいっ」
その場で垂直跳びをすると
次の瞬間地上にしゃがんでいます。
私は何がおきたのか理解できませんでした。
翌日、友達に教えてもらい、あれは屋上から下へ
飛び降りたのであると分かりました。
「ケガせんの?」
「するか~、月光仮面じゃ」
小3の私には十分に刺激的なシーンで
月光仮面は尊敬すべきものだと理解しましたね。
◎
カットつなぎに慣れてストーリーを追えるように
なるまで時間は不要でした。
カットつなぎという技術が人間の脳の構造にそった
ことだからでしょうね。
映画を初めて見ても大概の人間はカットつなぎを
理解できたそうです。
私が最初理解できなかったのは猿並みだったのかな?
◎
話が現在に飛びます。
TVのドキュメンタリー番組です。
眠りかけた目でぼんやりと見ていました。
とある家族を追った番組です。
「A君も一人で外出できるようになりました」
画面には建物の中から、外に停まったバスが映り
ちょうど窓にA君の顔が見えます。
次の瞬間カメラはバスの中、A君をアップにして
彼の視線の先には建物の中から見送る人がいます。
ドキュメンタリーであれば2台カメラが必要な
シーンですね。
通常はドラマに出てくるような印象深い画面ですが
一つの家族を追う番組で2台のカメラという制作の
態勢は考えにくいことです。
思うに、外出してもらうシーンをコンテのとおりに
撮ろうとして、まずバスに乗ってもらい、建物の中
から撮ります。
「え~っと席を一つ後ろに移ってください」などと
演出しながら。
ビデオで撮れた画面を確認して
「はい次。バスの中」
待たせてあったバスへ移動して次を撮ります。
(自立の眼差し)を捉えるため。
「A君、お待たせ。次ぎ撮ります」
○
これをヤラセと言います。
ドキュメンタリーではごく限定的にしか使っては
いけない手法です。
「これから~のシーンに行きます、カメラOK?
A君、悲しかったら泣いても良いんだよ・・」
「偽装」です。
しかし普通に見ている視聴者はヤラセであるとは思わず、
カメラがそこにいてその場の現実を写したと思います。
カットつなぎの常識を悪用しているのです。
○
今もこのテのやらせが多いようですね。
リハーサルどおりに初めてのような驚きをしてみせる
アナウンサー。素人も上手な人がいます。
月光仮面がビルを飛び降りると信じるのと
あまり違わない構図ができているのです。