三代目金馬

2009-09-11 10:29:31 | 本の話
尾道は海の町ですが私は釣りをしません。
人生で二度だけしか釣りの経験がありません。
いずれも広島に来てからのことです。

一度は船に乗せてもらいキスを釣っているうちに
船酔いしてしまいました。
もう一度は友達に連れられて堤防から釣りをし
彼の父親の竿を流してしまいました。
ドジですね。

祖父母の影響もあったのでしょう。
殺生を嫌いました。
仏教文化ですね。

人間は他の生き物の命を奪ってしか生きられないのに
いや、だからこそ殺生を意識せよという事でしょう。

父は若い頃釣りをした様でしたから、祖父母の影響より
私が特別にドンクサかったのが理由かもしれません。

もっとも尾道という町、眼前の水道は流れが速く
岸ぞいには家も多くあり、子供が気軽に釣り糸を垂れる
スポットが少なかったこともあります。
川もほとんどないしね。


釣りに疎い私ですが、その世界を楽しそうだと実感する
文章に出会いました。

三代目三遊亭金馬の『浮世断語』(河出文庫)
色々な形で出版されている有名な本です。

(今の金馬はNHK[お笑い三人組」の小金馬が
 襲名した四代目です)

先代は線の太い芸風で子供にも人気があった人。

『居酒屋』
 「そのウィ~ってのを遣っつくれい」

『孝行糖』
 「で、どこをぶたれたんだい」
 「此処と-、こーこーとー」

あの独特な声がラジオから聞こえていたのが
懐かしいですね。


先代金馬、1894~1964ですから日清戦争~オリンピック
と激動の日本を生きておられます。

『浮世断語』には古い芸人の世界も描かれています。
ドロドロとした世界が興味深く広がっています。
八代目正蔵の本にはあまり出てこないものですね。

金馬の文章は全体に丁寧で細やか。
描写が詩人を思わせます。
知識も深いようです。

だから、あの線の太い噺ができたのでしょう。

細かく見つめることが出来れば思い切って削ることも
できるようになるからです。
彼の噺も近年やっと評価が上がってきているそうですね。


釣りが大変にお好きだったようです。
生き生きとした描写によく現れています。

還暦のとき、その釣りの帰り道で汽車に跳ねられ
九死に一生を得ます。

手術、長い入院の後やっと退院できるときの感慨
は胸に沁みいりました。

(若い頃読んでなくて良かった。
 年をとるのも悪くはありませんね)