疲れた。最近チョウ目に縁があるような気がする。金曜日にルリタテハ、土曜日にはオオミズアオを見かけた。ルリタテハは最高に美しかった。
さて、最近爬虫類熱が高まっている気がする。きっかけはニホントカゲに最近しょっちゅう出会うことで、知人がヘビの一種ジムグリも採集していると聞いた。しかしジムグリは飼育が難しいとも聞いている。で、インターネットで飼育情報を調べたのがきっかけでこのぶろぐを更新することになってしまった。長文だが、ヒマな人は最後まで、そうでない人は途中までお付き合いください。「長文はやめろ、今北産業」という方は、うーん、どうしよう。ということで、簡単に言うとインターネットよりも書籍の復興をお願いしたい椎名さんである。
●調べたい情報が得られない
インターネット全盛で、情報の量はあふれかえっている現在であるが、なぜ書籍を復興する必要があるのか。これを見てほしい。これは私がジムグリを飼育してみたくて、インターネットで飼育情報を調べたものである(出典:Google)。
Google検索より「ジムグリ 飼育」での検索結果
赤く囲んだのはいわゆる「キュレーションサイト」というものである。
キュレーションサイトは某プロ野球球団を運営している会社のキュレーションサイト「WELQ」に代表されるサイトで、「まとめサイト」ともいうが、「まとめサイト」といえば私たちのような世代では大体2ちゃんねる→5ちゃんねるのスレをまとめたサイト、というイメージが強い。一方でキュレーションサイトはほかの人が書いたサイト・ウェブログなどの情報をまとめてウェブサイトで公開するタイプのサイトである。ここ10年ほど、特に2013年以降はやったような気がする。悪名高かった故「NAVERまとめ」もキュレーションサイトのひとつだろう。
その中の「WELQ」という医療情報をテーマにしたキュレーションサイトが「肩には守護霊がつく」など、デマを流していたり、ライターにほかのサイトをリライト、コピペなどするように指示していた問題が取り上げられ問題になったことがある。にもかかわらず、さすがに医療情報は無くなったが、生き物(ペット含む)、旅行、グルメに芸能人などYMYL(お金や健康など、生活に重大な影響をもたらしうるもの)以外のものについてキュレーションサイトが跋扈している。これらのサイトは大体Googleのアドセンスなどからの広告を得るために作られたサイトで、品質も「いいもの」はなくはないが、ほぼない。後はみな有象無象。筆者の作っていた熱帯魚サイトは、一応自分(や友人)が飼育していたもののみを紹介したが、結局はこのようなサイトとひとくくりにされた。なお、このGooブログも広告がついているがこれはブログサービスの仕様によるもの。無料だから仕方ない。
上の写真にある有象無象の山のうち、赤く囲んでいないサイトが二つある。有象無象の山から宝物を見出す感じか。一つは「明治大学 植物保護研究部のブログ」というもので、アメーバブログで運営されているいわゆる「ウェブログ」である。執筆時期も2012年6月23日で、キュレーションサイト大増殖よりも何歳も若い。実際に飼育している人が運営しているウェブログであり、情報の信憑性はキュレーションサイトとは比較にならないレベルで高いものである。
ただしこのようなウェブログサイトには欠点が三つある。一つはウェブログは日記形式で書いてあることが多いので、情報を得るのにいくつものページを見ないといけないことである。二つ目は最近のキュレーションサイトは、どうしても「Google検索で1位を獲て、アフィリエイトで金を稼ぐ」ことを目標に作られており、このような良質のウェブログは、有象無象の山の中に埋もれがちなのだ。そして三つ目は情報が古くなりやすいということである。たとえば2012年に作成されたサイトで紹介されているアイテムには、もう10年後には手に入れられないアイテムもあったりする。私がやっているサンゴ飼育ではこれが顕著、バイオアクティフやゼオビットなど、近所の海水魚店では入れるのを辞めた。また飼育技術の蓄積は日々進歩していき、2012年当時の飼育論が現在に当てはまらないなんてこともよくあるのだ。
赤く囲んでいないもう一つのサイトは「いきもの館の繁殖ラッシュ」という名前で、横浜市にある金沢動物園のサイトの一ページである。このような動物園のサイトも十分参考になる。欠点としては、動物園の飼育サイトというのはあくまでもライト層を中心にしたものであり、それほどマニアックな情報が得られないということがあげられる。
●強調スニペットも信用してはいけない
最も上の赤く囲んだサイトだけ大きく表示されている。これは強調スニペット、という。スニペットは「断片」とか「少しの」とかいう意味なのだが、強調スニペットは「質問が内包する検索語句に対する明確な回答を信頼性の高いWebページから抽出してGoogle検索結果の上部に強調表示する仕組み」ということである(鍵括弧内はSEOラボの強調スニペットのページより引用)。しかしながら、実際にはあまり信頼性の高くないWebページから情報が抽出されることもあり、あまりよろしくない。
ではこの強調スニペットで表示されているサイトは信頼性が高いのだろうか。見てみると…
なんと!画像すべてがインスタグラムから、もしくはTwitterからのリンクになっているではないか。こういうサイトは品質に問題があり、信頼してはいけないサイトである、というのは当ぶろぐの読者であればわかっていただけると思う(「低品質図鑑サイトの見分け方」の項目に書いてある)。つまり「飼育したことがない人が堂々と、ただ本やネットを見ただけで、飼育経験が豊富な人を偽って書いているサイト」なのである。ほかのページを見てもどこかで見たような画像ばかり。さらにはオトシンクルスを「コリドラス」として紹介していたり、クロコショウダイを「メバル」として紹介していたりしており、素人であるといえる。
このような会社は、何も飼育について知らない人が運営している会社である。この会社の会社概要を見ていると、他にも「旅行メディア」や「女性向けメディア」などが出てくる。まさしく某プロ野球球団運営会社が運営していた「なんちゃらパレット」と一緒ではなかろうか。そして「なんちゃらパレット」がなくなり、「WELQ」や「MERY」なども閉鎖などに追い込まれた結果発生した、「WELQ難民」たちの受け皿になっていたのかもしれない。低品質サイトの運営会社を見ていると、創業が2016~2018年が多いのは何らかの偶然か(WELQ問題が発生したのが2016年秋。ただし法人化していない低品質サイトも存在する)。
●この手のサイトの存在が生物にとって危機になりうる
先ほども述べたように、WELQが叩かれたのは、無断転載、ノン・オリジナリティの問題ももちろんあるのだが、一番の理由は、センシティブな「医療」の記事を何も知らないド素人ライターが書いている、というところが大きい。ということは私も以前「WELQ問題について感じたこと」という記事を書いている。
では医療情報でない、ジムグリの飼育についてはどうなのか。ジムグリは知人にお伺いしたところ「ああ、あれは難しいヘビだよ」という。しかし難しいヘビを、飼育できるという風に書いているのは大きな問題である(ヘビは難しいのは本当に難しい。正直海水魚飼育したことがない人にタツノオトシゴを飼わせるほうが簡単)。そう書くと、「おいおい、ジムグリ飼育は医療情報でもないし、YMYLでもないぞ」などという人はかならず出てくるはずだが、これについては大きな問題がある。
ジムグリは日本に生息する在来のヘビであり、ほとんどの場合採集個体、もしくは販売された採集個体を飼育することになる(繁殖させた個体がわずかに流通している)。しかしアオダイショウやシマヘビとは異なる難しいヘビ、飼育情報をインターネットで見て、採集しては殺しの繰り返し、となればその分ジムグリの数が減っていく。そしてそれはいわゆる「トリコ」も同じ、彼らは需要があるものは根こそぎとっていくのもいるので、消費される対象生物にとっては大いなる危機となる。ほかの生き物も同じで、生物の飼育情報は誤った情報を流せば、消費するだけの飼育になり、結果生物にとって存亡の危機になる危うさを秘める。
●嘘は嘘であると見抜ける人でないとインターネットは難しい
この手の飼育情報は「その生物を飼育していないにも関わらず、生物の飼育方法を紹介している」という意味でタチが悪い。このような嘘、というか出鱈目情報を初心者が鵜呑みにしているのだが、かつて2ちゃんねるの「ひろゆき」氏は2000年ごろ「嘘は嘘であると見抜ける人でないと(掲示板を使用するのは)難しい」と述べており、これはまさに今の飼育キュレーションサイト()全盛期にも当てはまる。というより、2000年ごろと比べて、嘘は嘘であると見抜ける人でないとインターネットから情報を得るのは困難な時代になりつつある。昔は愛好家が趣味でインターネットのホームページを有していたが、現在は趣味でつくっていたインターネットのホームページは少なくなり、カネを得るためのものになってしまった。
キュレーションサイトの情報はすべてとは言わないが嘘ばかり、飼育に関する情報はなかなか手に入らない。ペットショップへ行きたいが遠い、もしくは不安、ならどうすればいいか、となると、やはり紙でできた書籍の復活が最も望ましいということになるかもしれない。
ああ。また肩が痛い。これはきっと守護霊が背中についているんだろうな()
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