今回ご紹介するのは、沖縄県で採集されたカワスズメ科魚類の一種である。おそらくコパディクロミス属と思われる種である。コパディクロミス属はアフリカのマラウィ湖に生息する属であり、もちろん沖縄には生息していないはずである、というかそもそもカワスズメ科自体が日本には生息せず、南米、中米、アフリカに多く、アジアには在来のカワスズメ類はインド周辺に生息するオレンジクロマイドやパールスポット以外には知られていない。したがって日本には在来のカワスズメ科魚類は皆無なのだ。
しかし、なぜかコパディクロミス属の魚は沖縄県の河川で繁殖している。この個体はある方からいただいたものなのだが、沖縄本島の某ダム湖で採集されたものらしい。このダム湖には外国産の魚がほかにもみられるらしく、一大パラダイスと化してしまっているようである。
カワスズメ科の魚類が日本で見られる理由はいくつかある。まずは食料として導入されたケースである。カワスズメ科、とくにティラピア類は白身でおいしい(らしい)。また飼育も繁殖も容易であり、今でも東南アジアでは盛んに養殖される。我が国でも中国人や東南アジア系の人たちの多い地域では冷凍で販売されていることがある。しかし養殖池から逸脱するようなことがあれば、生態系に大きな悪影響を及ぼすことは確実である。さらにカワスズメやナイルティラピアは海水域でもその姿をみることができ、魚類写真資料データベースでは浅いサンゴ礁域を泳ぐナイルティラピア(データベースではナイルテラピアとなっている・・・)の写真を見ることができる。つまりあちこちに分布を広げてしまう危険性があるのだ。
もう一つはアクアリウムにおける放流の問題である。これは飼育しきれなくなったアクアリストが河川や湖沼に魚を放つというものである。これについてはこのぶろぐでも過去何度も書いてきたものであるので、今回はさっと触れるだけにするが、新しい見方からこの問題について考えてみたい。
今年は長く続いた自粛期間ということで家にいても楽しめる趣味ということでアクアリウムを趣味にする人も多くいたようだが、一時のブームに乗っていくだけでは、最後まで世話をできずに河川や湖に飼育生物を放流することが起こりかねない。そのようなブームをつくっているウェブサイトやらニュースやらもこの問題については及び腰なところがある。
最近は在日外国人のアクアリストも増えてきた。しかし出稼ぎに来ている人の多くは日本からやがて出ていかなければならなくなる。そうなったときに飼育していた魚はどうなってしまうのか。考えると恐ろしい。特に「放生会」の文化のあるアジア地域の人については注意が必要であろう。店員さんも明らかに日本人ではない人について、永住権のない限り販売はしない、という風にしてもよいのかもしれないが、そうなったら「差別」という人も出てくるだろうし、一方愛玩動物としてイヌネコみたいに厳しくしてしまうのも多くの問題が発生するだろう。難しくかつ悩ましいものである。