語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【保健】男性は運送業、女性は医療・介護 ~メタボになりやすい業種~

2016年06月08日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)日本の勤労者約12万人のデータから、「メタボ」になりやすい業種が特定された。
 調査では、2012年に福島県内で健康診断を受けた会社員の男女、約16万人のデータを収集。このうち、ウェスト周囲径、血圧値、血糖値、脂質値、およびメタボ判定結果が判明した約12万人(年齢35~75歳)のデータをもとに、各項目と業種との関係を解析した。

 (2)業種別では、
  (a)男性・・・・「建設業」「運送業・郵便業」「学術研究、専門・技術サービス」「協同組合・郵便局などの複合サービス業」「でメタボ率が高いことが判明した。特に「運送業・郵便業」で、ウェスト周囲径高値、高血圧、脂質異常と、すべての項目で有病率が標準を上回った。
  (b)女性・・・・「医療・介護」「協同組合・郵便局などの複合サービス業」でメタボ率が高かった。「医療・介護」では、血圧こそ標準だったが、ウェスト周囲径高値、高血糖、脂質異常の3項目で有病率が高い。
  (c)その他・・・・脂質異常を来しやすい業種は次のとおり。
    ①男性・・・・「飲食・娯楽サービス」「学術研究、専門・技術サービス」
    ②女性・・・・「運送業・郵便業」「金融業」

 (3)従来、シフト勤務や夜勤の多い業種は、生活習慣病の有病率が高く、心筋梗塞や脳卒中のリスク因子であることが指摘されている。体内リズムの乱れや睡眠不足、過食に加えて、ストレスや眠気を紛らわそうとタバコに手が伸びることも一因。
 本調査でも、男性の「運送業・郵便業」、女性の「医療・介護」などシフトワーカーの健康リスクが浮き彫りにされた。

 (4)意外なことに、専門技術職や金融業でもメタボ率が高い。特に男性は、脂質異常やウェスト周囲径の高値が指摘されている。「座りっぱなし」や「車移動」の弊害がありそうだ。
 「転職」によって疾病予防を図るのは、無理な話。まずは勤務形態の改善を上層部と交渉しつつ、生活習慣の是正に努めるしかない。

□井出ゆきえ(医学ライター)「メタボになりやすい業種は?/男性は運送業、女性は医療・介護 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.2~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月11日号)
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【古賀茂明】「リーマン級」という虚構 ~経産官僚が支配する官邸~

2016年06月07日 | 社会
 (1)消費増税延期・・・・その舞台裏から、安倍晋三・政権の究極の暴走メカニズムが見えてくる。
 アベノミクスの効果がいっこうに現れず、経済の主役である消費が停滞するという状況下だから、消費増税が無理なのは誰でもわかる。
 しかし、安倍政権にとって、物事はそう簡単ではない。
 2014年11月に消費増税の延期を発表した際に、安倍総理は、
   増税の「再延期はない!」
と断言した。しかも、アベノミクスで増税でえきる環境を作ると宣言した。今、単純に増税延期と決めると、
   「嘘つき」
と言われ、
   「アベノミクスは失敗だった」
という烙印を押されてしまう。
 失敗した時は謝って過ちを正すのが世の常識だが、永田町や霞が関における常識は、
   「他人のせいにする」
ことだ。

 (2)そこで、「アベノミクスは成功しているが、世界経済は危機にある。この危機打開のために増税延期によって世界景気浮上に協力する」という理屈が考案された。
 主導したのは、経済産業省から来ている今井尚哉・総理秘書官と経産官僚たちだ。
 もともと、安倍総理たちは、こういう時のために「リーマン・ショックや東日本大震災なみの危機」が起きたら延期するという発言をすることで、逃げ道を用意していたので、「リーマン級の危機」がキーワードになった。
 しかし、実際には、世界経済は、中国バブルの後始末や資源に頼る新興国経済の停滞などの不安はあるものの、「リーマン級の危機」と言うには無理がある。

 (3)それでも経済官僚たちは、サミットで「リーマン級の危機」を各国首脳に訴えるための資料を作成し、安倍総理にそれを説明させてしまった。
 首脳宣言では、安倍総理のメンツのために、「新たな危機に陥ることを回避する」という文言が入ったが、「リーマン」の言葉はおろか、「現状が危機だ」ということさえ否定された。
 それでも、厚顔無恥、いや「無知」の安倍総理は、「リーマン・ショック」という単語を連呼し、世界経済危機を何とか国内にアピールしようとした。
 むろん、各国メディアはこの顛末を強烈に批判し、安倍総理の思惑は完全にはずれた。

 (4)なぜ、こんなお粗末なことが起きたのか。
 それは、官邸が経産官僚に支配されているからだ。
 意外かもしれないが、経産官僚の経済に関する見識は極めて低い。「経済音痴」だが、威勢のよさだけで生きているというのが実態だ。
 さらに驚くかもしれないが、これだけの失態を演じても、彼らは意に介さない。厚顔無恥ぶりでは、財務官僚と並ぶ双璧、いや、それ以上だろう。

 (5)今回の騒動で見えてきたのは、官邸が完全に経産省に支配され、内閣府や財務省は完全に「蚊帳の外」状態だということだ。
 加えて、もともと不勉強な上に、安倍政権に完全に押さえ込まれているマスコミも、形ばかりに批判が精一杯だ。
 その結果、経産官僚がその途方もない無知により決定的な間違いを犯し、驚くほど傲慢であるため、それが正されなくてもそのまま放置されてしまう。
   「安倍政権、無知と傲慢の暴走」
 これこそ、今の政治状況をもっとも端的に表すフレーズではないか。

□古賀茂明「「リーマン級」という虚構 ~官々愕々第202回~」(「週刊現代」2016年6月18日号)
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【佐高信】自民党と創価学会、水と油の野合

2016年06月07日 | 社会
 (1)『自民党と創価学会』を刊行した。この水と油の野合を暴こうとした契機は、1994年に自民党の機関紙「自由新報」に20回にわたって激しい公明党=創価学会批判が掲載されたのを知ったことだ。
 それからわずか5年後、自民党と公明党は連立政権を組んだ。野合といえば、これ以上の野合はあるまい。
 これについて、小沢一郎と共に自民党をとびだして、当時、民主党の幹事長となった羽田孜がこう語っている。
 <自民党は、かつて反創価学会を標榜する内藤国夫ら評論家や学者を集め、「四月会」を結成し、創価学会を徹底的に攻撃した。それにもかかわらず公明党と手を組もうとする。だれも自民党を信頼しなくなるのではないだろうか。われわれは、基本的に宗教の自由を認めている。わたしの妻は、クリスチャンだ。が、公明党の議員の選挙の応援にも行っている。しかし、自民党の場合そうではない。あれだけ攻撃し、池田(大作)名誉会長の証人喚問まで要求した。それなのに手を組むなら、公明党の支持者もついていけないのではないか>
 羽田のいうとおりだ。しかし、「だれも自民党を信頼しなく」はならず、「公明党の支持者もついていけな」くなっていない。
 それぞれのトップがいい加減な人間だからだろうか。
 それとも、自民党の支持者や創価学会の信者が自分で判断しないからか。

 (2)1994年11月1日、安倍晋三も学会批判の「四月会」に出た。新人代議士で、おっかびっくりだったが、安倍はこう回想している。
 <ごく内輪の自民党内での会合が開かれた次の日、私の選挙区の公明党の大幹部から電話が入り、「安倍クン、君は創価学会を誹謗中傷する会に出席したそうじゃないか。君の姿勢を変えてもらいたい。慎重に行動してくれ」と。
 その場で私は、これはあまりに危険な団体だ、と思いました。創価学会を除外しようというのではありません。あくまで政治的野望を捨てていただきたいのです>

 (3)しかし、安倍はその「危険な団体のドンの池田」と10年後に極秘会談をすることになる。2006年9月22日に小泉純一郎内閣の官房投函で、首相就任直前の安倍が池田と会った、と全国紙が一斉に報じたのだ。
 国会でそのことを訊かれた安倍は、一応それを否定した。

 (4)自民党と創価学会という水と油は、決して理念におって結びついたのではない。利害によって結びついた。もっとストレートに言えば、学会と公明党は、自民党にスキャンダルを握られて、平和や福祉といった理念を捨て、自ら自民党にすり寄ったのだ。
 日蓮宗の本山、大石寺のある静岡県富士宮市は、山口組きっての武闘派といわれた後藤組の縄張りだった。その後、大石寺と学会はもめて訣別するが、そんなつながりで後藤組が学会のボディーガードとなった。
 しかし、両者の間に食い違いが生じて、後藤組が学会を攻撃し始めた。それを止めるべく、公明党の都議会のボス、藤井富雄が後藤忠政と会った。それをビデオに撮られ、その「密会ビデオ」の存在が、当時野党だった自民党の野中公務らの知るところとなったのだ。
 そのビデオでは、藤井が反学会活動をしている亀井静香ら4人の名を挙げ、「この人たちはためにならない」と、受け取りようによっては後藤に4人への襲撃を依頼したという意味にもとれることを言っている。それで、学会は自民党に全面降伏となったわけだ。

□佐高信「自民党と創価学会、水と油の野合 ~新・政経外科 第71回~」(「週刊金曜日」2016年5月20日号)
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【米国】保育危機 child care crisis ~保育費が大学授業料を超える~

2016年06月06日 | 社会
 (1)ブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」をめぐって議論百出となった日本。
 だが、深刻な保育園問題を抱えているのは日本だけではない。
 11月に大統領選を控える米国では、保育危機(child care crisis)が争点として浮上してきた。

 (2)米ケンタッキー州の予備選を控えた5月10日、民主党最有力候補のヒラリー・クリントン候補は同州を訪れ、保育危機の克服を公約として打ち出した。具体的には、自分が大統領になった場合には、保育費(child care cost)を世帯収入の10%以内に抑えると表明した。
 米ワシントンポスト紙によれば、集会で次のように語っている。
 <子育ては私たちにとって一番重要です。だから誰もが不安なく子育てできなければなりません。でも現実は違います。子育てはとんでもなく大変ですし、莫大なお金がかかります>

 (3)クリントン氏が指摘するように、米国では保育費が急騰し、多くの世帯にとって負担できない水準に達しつつある。
 主要都市部では、0歳児と4歳児2人の合計保育費は平均世帯収入の2~3割に達している【米シンクタンクの経済政策研究所(EPI))】。
 結果として、米国の州の半数近い23州で、4歳児の保育費が18歳大学生の学費を上回るようになった。そのうち保育費が特に高い州を見ると、いずれも自宅の家賃とほぼ同水準だ。
  (a)マサチューセッツ州
    4歳児の年間保育費:12,781ドル(約140万円)/大学授業料を20%上回る。
  (b)首都ワシントン
    4歳児の年間保育費:17,842ドル/大学授業料の2倍以上

 (4)EPIは昨年10月、次のような指摘を含む報告書を出した。
 <質が高くて信頼でき、利用料が手頃な保育園がかつてないほど必要とされている。大多数の世帯にとって共働きが必須条件になっているからだ>

 (5)保育危機を引き起こしている要因としては、保育費の急騰のほか、保育士(day care worker)の低賃金もある。この点では、日本と同じだ。EPIの調べでは、平均的時給は10ドル強にとどまり、他業種平均の17ドルを4割近く下回る。保育士の9割以上が女性で、しかも大多数が有色人種である点も問題視されている。

 (6)牧野洋の2013年までの5年間の米国生活(ロサンゼルス近郊)では、
   小学校の長女:学童保育
   長男と次女:保育園
で現在の為替レートで計算すると、毎月の保育費は20万円に達し、家賃とそんなに変わらなかった。それでも米国の基準では比較的安かったのだが、公的補助が出る日本の認可保育園では保育費は毎月数万円だった(日本でも無認可の保育園の利用料は高い)。

 (7)ブログ「保育園落ちた」が象徴するように、日本では保育園不足がなかなか解消に向かわない。認可保育園の「手頃な利用料」に注目すれば、米国よりずっと恵まれているとはいえ、「保育園落ちた」は就労を難しくして収入減を招く。子育て世代が大きな経済的負担を強いられているという点で見れば、日米は同じ保育危機に直面していると言える。 

□牧野洋(ジャーナリスト兼翻訳家)「child care crisis ~Key Wordで世界を読む No.95~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月4日号)
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 【参考】
【米国】トランポノミクス ~ドナルド・トランプの経済政策~
【IT】米IBMはもはや「コンピューターの巨人」ではない ~Medium Blue~


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【保健】健康生活の王道は「食」 ~食事バランスガイドと死亡率~

2016年06月05日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)知名度は低いが、日本には国が「推奨」する食事の指針
   「食事バランスガイド」
なるものが存在する。
 2005年に厚生労働省と農林水産省が策定したもので、
   「主食(ご飯など)」
   「副菜(野菜、キノコ類、イモ類など)」
   「主菜(肉、魚、大豆製品など)」
   「牛乳・乳製品」
   「果物」
など5グループについて、1日あたりの摂取量とバランスが示されている。

 (2)先日、(1)の「食事バランスガイド」の順守度と、脳・心血管死との関連を調べた大規模調査の結果が報告された。
 同調査は、日本の11地域の健康な住民(年齢45~75歳)、男性36,624人と女性42,970人を対象にした。ガイドの順守度を70点満点で採点し、点数が低い順に4群に分けて死亡率との関連を調査。追跡期間の中央値は15年間。
   ①最良順守群
   ②その次に良順守群
   ③順守度が不良の群
   ④順守度が最低の群
 その結果は、 
  (a)ガイドの順守度が高いほど、全死亡率が低くなることが判明した。具体的には、点数が10点高くなると、相対的な死亡率は7%低下した。とりわけ脳血管疾患の死亡率は11%も下がった。
  (b)野菜やキノコ類などの副菜と果物の摂取量が多いほど、死亡リスクが下がることも判明した。
  (c)4群間で比較してみると、①は④より全死亡率が15%も低かった。
  (d)死因別では、心筋梗塞などの循環器疾患リスクが①で16%も低下。脳出血、脳梗塞を含む脳血管疾患死リスクに限ると、22%と大幅に低下した。一方、癌死亡リスクは減少傾向を認めたものの、有意差はつかなかった。

 (3)米国にも農務省推奨の食事ガイド「My Plate」がある。1枚のお皿の
   半分に穀物(主食)、蛋白質(主菜)を
   残り半分に野菜(副菜)、果物を
配置しましょう、というシンプルなもの。シンプルすぎて批判が出るほどだが、それでも順守している人は4割を切る。
 そして、今や、米国の成人の3人に1人が心疾患持ちだ。

 (4)昔から養生の基本は「食」だった。今日食べたものが、明日の健康を守る。それとも病気を呼び込むかは、自分次第なのだ。

□井出ゆきえ(医学ライター)「健康生活の王道は「食」/食事バランスガイドと死亡率 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.301~」(「週刊ダイヤモンド」2016年5月28日号)
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【保健】その一言で妻の2型糖尿病リスクが減少 ~「先に寝ていて」~
【保健】先進国では認知症が減少? ~予防の鍵は生活習慣の改善~
【保健】生活設計は長期戦か短期決戦か ~癌の臓器別・病期別生存率~
【保健】イチゴとオレンジはEDに効く ~米国の研究報告~
【保健】高齢者の服薬適正化にGL ~容易な多剤併用に警鐘~
【保健】朝食抜きに脳卒中リスク 阪大など調査 大規模調査で1.18倍高
【保健】下剤は脳・心血管疾患リスク> ~背景にストレスや運動不足~
【保健】高脂肪食でシナプスが消失? ~動物実験~
【保健】2型糖尿病とフライド・ポテトとの関係 ~ポテトは煮物で~
【保健】世帯の所得と健康リスクの関係 ~食習慣と飲酒習慣~
【保健】抗がん剤の価格差は最大4倍以上 ~WHOの調査~
【保健】より危険な睡眠時無呼吸 ~脳・心疾患のリスク増~
【保健】初日の出の心身的効果 ~鬱対策は光を浴びて~
【保健】日本人肥満男性の食事と運動 ~糖尿病予防~
【保健】適性な「降圧目標値」 ~120未満で関連疾患が3割低下~
【保健】自由な裁量権でスリムに ~ストレスでメタボ~
【保健】目の老化には赤と緑と橙色 ~加齢黄斑変性症の予防~
【保健】早期発見のためにエコーと併用 ~乳がん検診~
【保健】骨折予防はカルシウムのほかに・・・・
【保健】前糖尿病患者は食習慣の改善を ~全国糖尿病週間~
【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~
【保健】受動喫煙が歯周病リスクに ~ただし男性のみ~
【保健】貧乏ゆすりが命を救う? ~マナーより健康~
【保健】「高収入の勝ち組」の健康リスク? ~50歳以上の有害な飲酒~
【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?
【保健】目の愛護デー ~緑内障による失明を予防~
【保健】長時間労働は脳卒中リスク ~週41~48時間でも上昇~
【保健】ほぼ毎日食べると、死亡リスクが14%減少 ~唐辛子~
【保健】水族館でリラックス効果 ~血圧・心拍数に好影響~
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【TPP】の闇 ~格差を拡大した米韓FTA~

2016年06月04日 | 社会
 (1)米韓FTA(環太平洋戦略経済連携協定)は韓国に何をもたらしたか。
 韓国を米国化する手段だ。経済だけではない。米国企業が自由に活動できるよう、政治・社会・文化まで変える。昔なら武力を背景に植民地支配できたが、21世紀はさすがにそんなことはできない。自由貿易協定を結べば、企業が合法的に国民生活を押しのけ、市場を席巻できる。

 (2)そんなFTAをなぜ韓国は米国と結んだのか。
 背景に北朝鮮をめぐる政策の不一致があった。当時の盧武鉉・大統領は北朝鮮を「太陽政策」で取り込もうとしたが、強硬策で締め付けたい米国のブッシュ政権とそりが合わなかった。しかし、米韓関係は維持しなければならない。そこで米国が求めるFTAをのむことで関係改善を図った。2006年の施政方針演説で米国とのFTA交渉を表明、1年で合意にこぎつけたのだ。

 (3)その後が大変だった。
 両国が批准したものの、米国から待ったがかかった。2008年は民主党のオバマ候補(当時)は、米韓FTAは米国に利益にならないとして「大統領になったら内容を変える」と公約した。就任すると再協議が始まった。当時の国務長官はヒラリー・クリントン。今は大統領候補として「TPPは米国の利益にならない」と主張している。オバマが米韓FTAに反対したときと、まったく同じ構図だ。

 (4)なぜ再協議に応じたのか。
 発足したばかりの李明博・政権は、「決して不利なことにはならない」と国民を説得。3大紙を中心とするメディアも米国との協調を重視して自由貿易推進を主張した。1997年のアジア通貨危機でIMFの管理下で大転換した韓国は、輸出主導の産業構造になり、GDPの大部分は輸出に頼っている。
 米国市場を抜きに韓国は立ちゆかない、という政府の宣伝が行き渡り、「再協議になってもFTAは韓国に恩恵がある」という受け止め方が広がった。
 しかし、再協議が始まると交渉は秘密のベールに包まれた。なにがどう話し合われているのかわからない不安の中で、不平等条約ともいえる協定ができあがった。

 (5)いかなる点が不平等か。
 法や条例とFTAでルールが異なれば、韓国では協定が優先する。TPPで投資家が政府を訴えるISDS条項が問題になっているが、米韓FTAにもISDS条項が盛られた。韓国の法や行政が米国企業の利益を損ねたら、米企業はワシントンにある世界銀行傘下の仲裁法定に韓国政府を訴え、損害賠償をさせることができる。ところが、協定は前文に「米国では外国投資家は国内法に従う」と明記されていたのだ。韓国企業は米国の法律に従う、というのでは訴えは起こせない。
 米韓FTAは憲法違反だ。韓国の裁判権の及ばないところで政府が訴えられるのは韓国の法秩序を否定するものだ、などと法学者から反対運動が起きた。米国の身勝手な要求を通すための秘密交渉も韓国政府にとっては都合がよかった。屈服して譲歩していることを国民に知られたくなかったから。

 (6)漏れた秘密もあった。
 「コメ市場開放の密約」が暴露された。韓国ではコメの輸入は認めていない。それなのに輸入解禁を強く求める米国のフロマン代表に、日本でいえばTPP担当相にあたる交渉責任者が、「ミニマムアクセスの制度が期限を迎える2014年まで待ってほしい」と譲歩した、と報じられて大騒ぎになった。政府は「密約などない」と打ち消し、なんとか逃げ切った。だが協定が発効すると、密約どおり2015年にコメ輸入が解禁された。「504%の高関税がかかるので実害はない」と政府はいうが、これから関税の引き下げ交渉となり、価格は徐々に下がっていくだろう。

 (7)協定発効でどんな影響が出たか。
 農業の衰退が深刻化している。米国に先駆けて、韓国はチリとの間でFTAが結ばれ、ブドウが問題になった。収穫期が違うから影響はないと政府はいうが、10年経つと韓国のブドウ農家は大打撃を受けた。安城(アンソン)市ではブドウ畑が3分の1にまで激減した。農業の衰退は徐々に進む。米韓FTAがそれを加速した。顕著に影響が出ているのは畜産だ。牛肉は40%だった関税を15年かけてゼロにする。しかし、2012年度には米国産牛肉の輸入は53.6%伸びた。一方、仔牛価格は24.6%下落した。FTAに備え、規模拡大に走った農家が経営難に陥っている。

 (8)畜産だけか。
 サクランボが米国産チェリーの流入で窮地に立っている。24%だった関税がゼロになり、輸入が3年で3倍になった。サクランボは急激に値段が下がり、影響はブドウやマクワウリにも及んでいる。消費者は安い商品になびき、果物全体で価格下落が起きている。

 (9)政府の支援策はいかに。
 ①補助金による直接支援、②技術支援、③廃業支援だ。
 ①はあまりにも被害が大きく、政府の損失補填は続かなかった。②は時間がかかる。
 政府は生産性の悪い農家は廃業させ、工業に移行させようとしている。しかし、他業種に移るのは簡単ではない。農業の衰退で地域経済は疲弊している。儲かる仕事を探すのは困難だ。

 (10)農業切り捨ての政策だ。
 韓国では人口の20%がソウル周辺に集中している。地方に仕事がないから、若者は都市に向かう。極端な一極集中が加速度的に進んでいる。富の集中も加速し、10大財閥でGDPの70%を占め、その一つサムスングループだけで17%だ。米韓FTAは、都市と農村、金持ちと生活困窮者の格差を拡大する。米国の経済界からは「米韓FTAはこれからのFTAのモデルになる」と絶賛する声が上がっている。FTAは米韓FTAを環太平洋に広げるものだ。

 (11)農業を切った韓国は工業で成果をとったのか。
 輸出増大が期待された乗用車も関税は5年目に撤廃されるので、成果が出るまで時間がかかる。輸出はさほど伸びていない。しかも協定には「手のひら返し」を意味するスナップバック条項が設けられた。韓国車の輸入が急速に増えたと米国の自動車業界が判断したら、輸入を制限できる。米国の自動車産業だけに認められる条項で、韓国側には認められていない。米国車の輸入は30%も増えている。

 (12)米国の自動車業界の意見がそのまま協定に実現している。
 典型がエコカー減税の先送りだ。韓国政府は2013年から燃費のいい小型車は補助金を交付し、2000ccを超える中型車には増担金を課す、というエコカー政策を予定していた。ここに米国自動車工業会が、「米国車に不利になる」と抗議し、2年の延期が決まった。ところっが2015年になってもエコカー減税は実施されず、宙に浮いたまま。政府はISDS条項で提訴されることを恐れたらしい。負けたら巨額の賠償金をとられる。

 (13)ISDS条項は相手を萎縮させる効果があるようだ。
 ソウル市では学校給食には遺伝子組み換え食品は使わないと条例で定めているが、ISDS条項との関係が心配されている。対応は決まっていない。国民の健康や阿年のための政策が切り崩され、米国企業の儲けに奉仕する米国化が韓国で進んでいる。

 (14)よく国会が認めたものだ。
 評決の2週間前、李明博・大統領は国会議員全員に書簡を出し、「米韓関係の重要性」を訴えた。南に日本、北に中国・ロシアという大国に囲まれた韓国は、米国との関係が大事だ、経済的な不利益があっても米韓FTAは進めなければならない、という趣旨だった。
 「米韓関係の維持」と引き換えに秘密交渉で国民生活や経済的利益が損なわれる。日本も同じ状況ではないか。

□郭洋春(立教大学教授)/構成:山田厚史(ジャーナリスト、デモクラTV代表)「格差を拡大した米韓FTA ~デモクラTV共同企画 TPPの闇を斬る 第3回~」(「週刊金曜日」2016年5月20日号)
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【古賀茂明】「酒の安売り規制」という選挙対策

2016年06月03日 | 社会
 (1)庶民の生活に直結するにもかかわらず、ほとんど議論されぬまま成立した法律がある。「酒税法及び酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律の一部を改正する法律」がそれだ。
 この長い名称を見ても、意味がまったくわからない。この法律が、大手量販店による「酒の安売り」を規制するものだと気づく人はほとんどいないだろう。
 本法は、原価割れなどの格安の価格で酒を売った店に対し、財務大臣が改善命令や罰金、さらには販売免許取り消しまでできるとするものだ。
 これを聞いて、「酒を安く売ろうとする企業努力を国がなぜ規制しようとするんだ!」と憤る消費者は多いだろう。しかも、まともに審議されないまま可決したのであれば、なおさらだ。
 
 (2)なぜ、こんなことになったのか。
 もともと、自民党は、大手量販店との価格競争に勝てない中小酒販店の政治団体から陳情を受け、昨年この法案を成立させるつもりだった。しかし、安保法案の審議が予想以上に難航したため、それに悪影響を与えないようにと、国民受けの悪そうなこの法案を引っ込めたという経緯がある。民意を気にするならば、今回も参院選前に出すのは止めておこうとなりそうなものだが、そうはしなかった。なぜなら、この法案こそ逆に、重要な参院選対策だからだ。

 (3)酒販組合は、全国津々浦々にある。酒屋は地域の商店街の顔役で、商工票を取りまとめる力を持っている。政党からすれば、酒販組合や商店街は大きな票田だ。何としても支持を取りつけたいと考えるのは当然だろう。だから、この法案が最優先で成立してしまう。
 与党の暴挙に対して、野党はどういう態度をとるのか、と疑問が湧く。
 だが、驚くなかれ。全野党がこの法案に賛成したのだ。選挙前に町の酒屋を敵に回したくないのは、民進党も共産党も同じなのだ。節操なく、自民党の提案に乗ってしまった。
 「野党共闘で自公と対決」
などと威勢はいいが、しょせん、党利党略が優先。庶民のことなど、まるで考えていない。

 (4)一方、財務官僚、特に実際の規制を担当とする国税庁の官僚はウハウハだ。町の酒屋から「あそこの量販店の販売価格が安すぎる」と苦情がきたら、彼らの味方につくフリをして、実際には規制の発動などせず、量販店側にやんわりと釘を刺す。
 こうして、そこそこのところで手を打ち、双方に恩を売る。
 その対価は、形を変えた賄賂、すなわち「天下り」だ。全国各地の「税務署ごとに」作られる酒販組合は、実は「税務署職員天下りのための組織」でもあるのだ。
 ちなみに、この法案は密室の中で与野党が談合して作られたが、その過程の議事録は開示されていない。衆議院の委員会審査は、何と「省略」。憲法違反という声さえ上がりそうだ。
 「こんな議員たちはいらない!」
 こう叫んでみても、選挙ではまた同じ顔ぶれの中で「選択」を迫られる。
 有識者は絶望するしかないのか。

□古賀茂明「「酒の安売り規制」という選挙対策 ~官々愕々第201回~」(「週刊現代」2016年6月11日号)
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 【参考】
【古賀茂明】消費者後回しの燃費偽装問題
【古賀茂明】「小林新党」成功のカギ ~参院選~
【古賀茂明】三菱グループの「親バカ」 ~その反社会的行動~

【古賀茂明】世界が危惧する日本の報道弾圧 ~八方塞がり~
【古賀茂明】政府・大企業を批判しない大手マスコミ ~波紋を呼ぶパナマ文書~
【古賀茂明】亡国の農政 ~安倍政権の選挙対策~
【古賀茂明】武器輸出大国を目指す安倍政権 ~豪州政府との商談
【古賀茂明】民進党綱領の茶番 ~原発推進政策~
【古賀茂明】バカじゃねえのか、この国は ~被災者が見る原発推進~
【古賀茂明】【原発】再稼働の愚 ~事故頻発~
【古賀茂明】岩盤規制に負けた「安倍ドリル」
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【古賀茂明】シャープ救済劇と官僚の思惑
【古賀茂明】ルールが守られない国、日本 ~途上国体質~
【古賀茂明】争点化すべき企業献金問題
【古賀茂明】基地をめぐる二つの選挙
【古賀茂明】前半がバラマキ政策、後半が憲法改正 ~「先楽後憂」の今年~
【古賀茂明】玉虫色の民主・維新政策合意 ~平和主義も放棄?~
【古賀茂明】シリア空爆の裏にある真実 ~軍需産業の大儲け~
【古賀茂明】橋下市長の去就で、憲法改正が現実味?
【古賀茂明】空虚な「日本再興戦略」 ~成長戦略の挫折~
【古賀茂明】「なかったこと」にされた議事録 ~閣議決定の記録~
【古賀茂明】【原発】大手電力のエゴ丸出し
【古賀茂明】勝っても負けても安倍自民には得 ~大阪ダブル選
【古賀茂明】問題だらけの軽減税率 ~最悪の方向へ~
【古賀茂明】【原発】骨抜きの「ノーリターンルール」
【古賀茂明】アベノミクス「第二ステージ」 ~失敗を隠す官僚の常套手段~
【古賀茂明】難民と安倍とメルケルと ~ドイツと差がつく日本~
【古賀茂明】安保法成立の最大の戦犯
【古賀茂明】軽減税率、本当の問題 ~官々愕々第170回~
【古賀茂明】国民のために働く官僚の左遷 ~読売新聞の問答無用~
【古賀茂明】安倍首相の「積極的軍事主義」が根付くとき
【古賀茂明】電力自由化は進んでいない
【古賀茂明】【TPP】の漂流と「困った人たち」
【古賀茂明】安保法案の裏で利権拡大 ~原子力ムラ~
【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~
【古賀茂明】維新の党の深謀遠慮 ~風が吹けば橋下市長が儲かる~
【古賀茂明】腐った農政 ~画餅に帰しつつある「日本再興」~
【古賀茂明】読売新聞の大チョンボ ~違法訪問勧誘~
【古賀茂明】「信念」を問われる政治家 ~違憲な安保法制~
【古賀茂明】機能不全の3点セット ~戦争法案を止めるには~
【古賀茂明】維新が復活する日
【古賀茂明】戦争法案審議の傲慢と欺瞞 ~官僚のレトリック~
【古賀茂明】「再エネ」産業が終わる日 ~電源構成の政府案~
【古賀茂明】「増税先送り」「賃金増」のまやかし ~報道をどうチェックするか~
【古賀茂明】週末や平日夜間に開催 ~地方議会の改革~
【古賀茂明】原発再稼働も上からの目線で「粛々と」 ~菅官房長官~
【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~
【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~
【古賀茂明】役立たずの「情報監視審査会」 ~国民は知らぬがホトケ~
【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~
【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~
【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~
【古賀茂明】これが「美しい国」なのか ~安倍政権がめざすカジノ大国~
【古賀茂明】原発廃炉と新増設とはセット ~「重要なベースロード電源」論~
【古賀茂明】改革逆行国会 ~安倍政権の官僚優遇~
【古賀茂明】安部総理の「大嘘」の大罪 ~汚染水~
【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~
【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~
【古賀茂明】報道自粛に抗する声明
【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている
【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~
【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す
【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~
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【メディア】萎縮 「公式発表をベースに」は大本営報道の再来 ~籾井NHK会長発言~

2016年06月02日 | 社会
 (1)籾井勝人・NHK会長が、局内の会議で原発について「公式発表をベースに」伝える旨を指示したことが報道された【4月23日付け朝刊「毎日新聞」、4月27日付け朝刊「朝日新聞」など】。
 「独立した」報道機関で「公式発表をベースに」報道することを公に宣言した戦後初めての試みであり、挑戦ではないか。
 その帰結は、かつての大本営発表報道の容認と再来にほかならない。

 (2)籾井会長が発言したのは、熊本地震発生を受けて開いたNHK内部の災害対策本部会議で、同月20日にNHK放送センターで開催された。
 会長は、公式発表をベースに伝える旨の理由として、「住民の不安をいたずらにかき立てないよう」にするためとしつつ、「いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかきたてる」とも発言している。
 同月26日の衆議院総務委員会で、公式発表が何を指すかについて質問を受けた籾井会長は、気象庁、原子力規制委員会、九州電力が出しているもの、を挙げている。

 (3)自由で独立した報道機関(公共放送機関であるNHKを含む)であろうとする限り、原発についてであれ、何であれ、その報道について当局の「公式発表をベースに」報道しつつ、報道機関の独自の取材や調査など多様な報道(専門家の見解を含む)を狭め、排除することは原理、原則のレベルで認められない。
 「公式発表をベースに」した報道機関とは、政府の広報機関に他ならず、政府の宣伝、プロパガンダ機関、かつての大本営発表を垂れ流す機関になり下がることを意味する。
 何人も、自由で独立したNHKを支える報道原理を勝手に改変することは、もとより許されない。

 (4)何よりも、原発をめぐる情報や報道をめぐっては、3・11の福島原発事故の教訓をこそ踏まえるべきではないか。
 政府は、当初長いこと、放射能の拡散を予測するSPEEDI情報を公表せず、的確な避難を困難にさせた。こうした情報は、
   当局が公表するまで報道機関はこれを待ってしか報道できず、
   当局が公表しなければ報道機関は永遠に報道するな、
ということになる。報道機関の自殺だ。

 (5)事故当初は特に、メディアによる福島原発報道は公式発表報道のオンパレードだった。そのため、メディアは、
   政府や東京電力に真相の情報公開を強く迫らず、
   事故の重大性や放射能の危険性を過少に発表する当局の主張を無批判に伝え、
   事故と原発推進政策をめぐる政府や東電の責任を厳しく追及する姿勢も稀薄だった。
 ジャーナリズムの魂である真実の探求も権力の監視も、雲散霧消してしまったわけだ。

 (6)原発報道について、
   公式発表を批判的に吟味、克服し、調査報道に軸足を置いた報道の転換
こそが、報道機関に求められている課題だ。
 翻って考えると、原発問題に限らず、「公式発表をベースに」したのではない報道を、この国のメディアは貫いてきたと言えるか。メディア全体が克服すべき問題だ。

□田島泰彦(上智大学教授)「NHK籾井会長発言 「公式発表をベースに」は大本営報道の再来」(「週刊金曜日」2016年5月20日号)
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 【参考】
【メディア】弾圧 ~国連の「記者クラブ」廃止論を隠す大新聞~
【メディア】弾圧 ~国連「表現の自由」調査官が懸念を表明~
【メディア】オバマの広島訪問に大賛辞の朝日紙、立ち直りは疑問
【メディア】への政治家による圧力は犯罪とならないのか ~停波問題~
【メディア】放送の「自由」と「公平・公正」とは ~停波問題~
【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
【メディア】高市総務相は「脅し」の政治家、報道は「健忘症」
【メディア】総務大臣には、停波命じる資格はない ~放送電波停止発言~ 
【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【メディア】政治的公平とは何か ~「NEWS23」への的外れな攻撃~
【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~
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【メディア】弾圧 ~国連の「記者クラブ」廃止論を隠す大新聞~

2016年06月01日 | 社会
 (1)日本における表現の自由について調査した国連特別報告者、デービッド・ケイ米カルフォニア大学教授(国際人権法)は、4月19日、暫定的な調査結果を報告した【注】。
 ケイ氏は、
 <特定秘密保護法と政府による「中立性」と「公平性」への絶え間ない圧力が、自己検閲を生み出しており、報道の独立性は重大な脅威に直面している>
と表明した。また、
 <自民党が憲法21条について、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」とする憲法改正草案を出している。これは国連の「市民的及び政治的権力に関する国際規約」19条に違反している>
と警告した。

 (2)ケイ氏は、19日に日本外国特派員協会で会見した際、最初に、
 <私に会ったジャーナリストの多くは冒頭から「匿名でお願いします」と言った。異例のことだ。彼らの多くが、有力政治家からの間接的な圧力によて、仕事から外され、沈黙を強いられた、と訴えている>
と語った。

 (3)ケイ氏はまた、政治的公平を定めた放送法4条を根拠に電波停止に言及した高市早苗・総務相発言を取り上げ、
 <政府は放送法4条を廃止し、メディア規制から手を引くべきだ>
と提言した。

 (4)ケイ氏が、
 <記者クラブ制度は廃止すべきだ>
と断言したのは画期的だ。ケイ氏は、記者クラブを“press club”ではなく“kisha club”と英語表記していて、日本にしかない排他的な情報カルテルと正確に捉えている。
 ケイ氏は、
 <記者クラブ制度は調査報道を妨げ、メディアの独立性に対する障害になっている>
と指摘。また、
 <クラブと閣僚や高官とのオフレコ懇談によって、情報はオープン化しているように見えるが、人民はそれにアクセスできない。懇談やレクチャーのメモはメディア内部で広範囲に回覧されている。しかし、記者クラブ外では不透明さがある。同制度は情報へのアクセスを抑止するツールになっており、人民が、政府が何をしているかを知ることができなくなっている>
と強調した。

 (5)ケイ氏は、自民党が2014年11月にテレビ各局に威圧文書を送り、その1週間後にテレビ朝日の「報道ステーション」へ文書を送ったと指摘。その上で、
 <オフレコ懇談メモが広く配られ、特に放送関係者は圧力を感じている。例えば、15年2月24日には、菅義偉官房長官がオフレコ懇談で、番組名は言わず、自分の放送法の解釈に合わない番組があると繰り返し批判し、そのメモが記者の間で回し読みされたと訊いた>
と述べた。

 (6)ケイ氏はまた、政府の影響力に抵抗できるジャーナリストの横断的な幅広い職業的な組合組織をつくるべきだと延べ、報道評議会の設置を奨励した。

 (7)4月20日の主要紙の取り扱いは、
  (a)「東京新聞」だけ、ケイ氏の記者クラブ廃止提言を正確に伝えた。
  (b)「朝日新聞」は、「記者クラブの排他性も指摘した」とだけ報じた。
  (c)「毎日新聞」は、ケイ氏の会見を載せたが、記者クラブに関する発言には25日のメディア面の要旨で触れただけだ。
  (d)「読売新聞」は、ベタ記事で放送法改正を訴えたとだけ書いた。
  (e)「産経新聞」は、会見記事を載せず、25日にweb版で<国連特別報告者とは一体何者なのか?>などの見出し記事を載せた。
  (f)沖縄の二紙は、21日の社説でケイ氏を明確に支持した。
   ①「琉球新報」は、<氏が提言したように、放送法4条は廃止すべきだ>と主張。
   ②「沖縄タイムス」も、<ケイ氏は「公平か公平でないかを政府がコントロールしてはならない」と強調する。自由民主主義の核心を言い当てた言葉だ>と評価した。

 【注】「【メディア】弾圧 ~国連「表現の自由」調査官が懸念を表明~

□浅野健一(同志社大学大学院教授)「国連の「記者クラブ」廃止論を隠す大新聞」(「週刊金曜日」2016年5月13日号)
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 【参考】
【メディア】弾圧 ~国連「表現の自由」調査官が懸念を表明~
【メディア】オバマの広島訪問に大賛辞の朝日紙、立ち直りは疑問
【メディア】への政治家による圧力は犯罪とならないのか ~停波問題~
【メディア】放送の「自由」と「公平・公正」とは ~停波問題~
【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
【メディア】高市総務相は「脅し」の政治家、報道は「健忘症」
【メディア】総務大臣には、停波命じる資格はない ~放送電波停止発言~ 
【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【メディア】政治的公平とは何か ~「NEWS23」への的外れな攻撃~
【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~

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【メディア】弾圧 ~国連「表現の自由」調査官が懸念を表明~

2016年06月01日 | 社会
 (1)デイビッド・ケイ氏は、国連人権理事会に任命され、各国の「表現の自由」を調査している特別報告者だ。
 ケイ氏は、4月中旬、調査のため来日した。特に報道の自由について報道関係者や政府関係者、市民団体などに聴取し、中間報告書をまとめた。そこには、特定秘密保護法や放送法への危惧、そして「電波停止」発言をした高市早苗・総務相が面会に応じなかったことも指摘されている。

 (2)ケイ氏が今回の来日で特に強い関心を持ち、その問題を指摘したのが、安倍政権下で2013年末に強行採決され、成立した特定秘密保護法だ。そもそも、ケイ氏が来日したのは、彼の前任者であるフランク・ラ・ルー特別報告者が、特定秘密保護法に「深刻な懸念」を表明していた、という経緯がある。
 今回の来日調査を経て、ケイ氏は4月19日に東京都内で開いた会見で、こう指摘した。
 <何が秘密にあたるのかが、あまりに曖昧かつ広範囲です。日本の安全保障政策や原発に関する報道など、日本の人々が高い関心を示すであろう重要なトピックが、情報を既成されうるトピックでもあるという状況です。ですから、秘密とは何なのかについて、透明性の高いかたちで規制を設け、明確に定義をする必要があると思います>
 この法律によってジャーナリストが処罰されうる可能性が完全に排除しきれない点にも、ケイ氏は懸念を示した。
 <特定秘密保護法は実施の初期段階ながら、重大な社会的関心事について、メディア報道を萎縮させる影響をすでに生んでいまっています。関連して、内部告発者を保護する目的の公益通報者保護法についても、ジャーナリストや内部告発者を守ろうとする力が非常に弱いと言えます。この二つの法律について、「これを報道してしまうと法律的に罰せられるのではないか」とか「記事の書き方によっては刑事罰を被るのではないか」というような懸念が出てくるわけです。そういった危険性を排除していく必要があります>
 特定秘密保護法第22条第2項には、報道関係者の取材について「法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」と定められているが、ケイ氏は<何をもって『不当な行為』と判断されるのか>と、中間報告書の中で疑問を呈している。また、秘密の漏洩を「共謀し、教唆し、又は煽動した者は、五年以下の懲役に処する」などとする同法第25条も改正すべきだと指摘している。

 (3)ケイ氏が会見の場で、「法改正すべき」と踏み込んだ見解を示したのが、放送法だ。
 <放送法第4条には、「政治的に公平であること」と書かれているのですが、この条文はジャーナリストの職業的義務を謳っているようでありながら、放送免許の取り消しを行う政府権限とも混同されています。第4条の法律違反があれば、業務を停止させたり、電波停止を命じられると読めることは大きな懸念です。実際、さまざまな放送メディア関係者は、過去に処罰された例がないとしても、やはり脅威であると話していました。その脅威によってメディアが弱体化させられているという話を聞きました>
 その上で、ケイ氏は「第4条を削除するなど、放送法は改正する必要がある」と勧告した。
 ここまで強い意見を表明した背景には、やはり高市早苗・総務大臣の一連の発言があるのだろう。
 高市大臣は、2016年2月8日、衆院予算委員会で、「テレビ局が政治的公平性を欠く放送を繰り返した場合、電波停止を命じることができる」との趣旨の答弁を行い、翌9日にも同様の見解を示した。
 このため、ケイ氏は何度も面会を求めたものの、結局、高市大臣は面会に応じなかったことも会見で明かした。
 そのことを高市大臣は、4月22日の総務省で開かれた記者会見で質問されると、「国会会期中だった」「九州の地震発生の対応もあり14日以降、外務省が面会の申し出を伝えてくれなかった」とぐちぐち言い訳をした。
 だが、ケイ氏のスケジュールを調整した関係者によれば、「いくら地震があったとはいえ、外務省が総務省にケイ氏の意向を伝えなかったとは考えづらい」「今回のケイ氏の最優先事項のひとつが、高市総務大臣との面会だった。予定が合わないから合えなかった、というのは無理があるのでは」とのこと。
 国連人権理事会に提出されるケイ氏の最終報告書がまとめられるのは来年で、ケイ氏が追加調査のため再来日する可能性もあり得るので、そのときも逃げ腰であるようでは高市氏も総務相を辞任するしかあるまい。

 (4)夏の参院選で大勝できれば、安倍政権は会見を目指す、としている。
 自民党の改憲案にもケイ氏の厳しい視線が向けられた。
 <自民党の改憲草案では、表現の自由を保障する憲法第21条「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」や結社を着せ宇刷る文言があります。日本人が誇りに思うべき素晴らしい21条を、改変しようというのは大きな問題です。それは、日本が批准した、市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条とも矛盾することになります。同規約の第19条は、政府がこうした市民の政治的権利を制約することに、大変厳しい姿勢をとっています。21条が改悪されると、市民運動への弾圧もより強力になるのではないかと懸念しています>
 ケイ氏の指摘どおり、自民党の改憲草案では「表現の自由」を含め、個人の権利が「公益」「公の秩序」によって制限される色合いが濃い。現在の憲法でも個人の人権が制限されることがあるが、それは政府の都合ではなく、個人と個人の人権が衝突した際の、調整機能にすぎない。そもそも現在の憲法は立憲主義に基づき、公権力の暴走から個人の権利を守るところに重点が置かれている。
 ケイ氏は、自民党の改憲草案が報道の自由や市民運動を弾圧するものになり得るとみているのだ。

 (5)表現の自由への弾圧の具体例として、ケイ氏は沖縄県辺野古沖での米軍基地建設反対運動への弾圧、自民党勉強会での百田尚樹氏の「沖縄二紙は潰さないと」発言を指摘。
 <日本政府に対しても懸念を伝えています。たとえば基地建設予定地周辺の海上での抗議活動、そして陸上での抗議活動に参加している人たちへの過剰な圧力などについて、警察庁、海上保安庁などと具体的に話をする機会がありました。両庁に対して、これからも問題を追及し、監視していきたいとつたえました>
 <とくに沖縄のメディアbなどに対する圧力は、非常に重要な問題と認識しています。沖縄のコミュニティの皆さん、そして日本政府とも対話を続けていきたいと思います>

 (6)シリア取材を計画していたフリーカメラマン杉本祐一氏が昨年2月、外務省にパスポートを強制返納させられた問題についても、<不適切な処置だと外務省に申し入れた><自らリスクを負い、紛争地で取材しようというジャーナリストがいるならば、彼らが自由に取材できるようにすべき>と批判した。
 
 (7)ケイ氏の会見直後の4月20日、ちょうど国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)の「世界報道の自由度ランキング」が公表された。日本は72位となり、先進7ヵ国では最低レベルという評価だった。
 民主党政権の鳩山由紀夫・首相(2010年)の時の11位からの凋落ぶりは、まさに危機的状況だ。
 憲法に保障された「表現の自由」、そして人々の知る権利を保障する「報道の自由」は、民主主義国家の土台を支えるものだ。それが、安倍政権の下で奪われようとしている。 

□志葉玲(フリージャーナリスト)「安倍政権の下で奪われつつある「報道の自由」 国連「表現の自由」調査官が懸念を表明」(「週刊金曜日」2016年5月20日号)
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 【参考】
【メディア】オバマの広島訪問に大賛辞の朝日紙、立ち直りは疑問
【メディア】への政治家による圧力は犯罪とならないのか ~停波問題~
【メディア】放送の「自由」と「公平・公正」とは ~停波問題~
【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
【メディア】高市総務相は「脅し」の政治家、報道は「健忘症」
【メディア】総務大臣には、停波命じる資格はない ~放送電波停止発言~ 
【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【メディア】政治的公平とは何か ~「NEWS23」への的外れな攻撃~
【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~

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