【古賀茂明】勝っても負けても安倍自民には得 ～大阪ダブル選

　（１）維新の党（代表：松田頼久）のお家騒動。異常事態、泥仕合が連日スポーツ新聞などで面白おかしく報じられている。
　　（ａ）松野維新側・・・・橋下徹・大阪市長が旗揚げ予定の「おおさか維新の会」系の国会議員・地方議員合わせて１６０人超の除籍処分。
　　（ｂ）「おおさか」側・・・・除籍された議員たちで逆に「維新解党」を決定。

　（２）これは大阪府知事・大阪市長のダブル選挙（１１月２２日）に向けた橋下市長お得意のパフォーマンスという面もあるが、だからといって笑って見ていればいいというほど軽い話ではない。
　　（ａ）大阪ダブル選における「おおさか」側の勝利は、橋下市長の政治的影響力の復活を意味する。
　　（ｂ）他方で、松野維新側の力は大きく落ちる。現在は、民主・維新の間の野党再編協議で、維新がリベラル色の強い高めのタマを投げているが、これが民主主導の再編になれば、政策軸のない玉虫色の政策合意に終わる可能性が高い。それだと国民の野党支持は増えない。
　　（ｃ）（ａ）の復活にとどまらず、橋下市長の力が強まれば、考え方の近い前原誠司・細野豪志らのタカ派の勢いが増し、共産党が提案する野党連立政権「国民連合政府」への民主党の参加は難しくなる。その結果、野党は引き続き十数パーセントの支持率しか得られず、自民一強体制は継続するのだ。

　（３）自民一強体制の継続を防ぐには、大阪のダブル選で「おおさか」側の勝利を阻止することが必要だが、現実には、その動きがきわめて弱い。
　なぜか？
　国政では、「おおさか」の議員は守旧派が多い上に、タカ派で安倍政権の補完勢力だ。それはしかし、大阪ダブル選ではまったく問題にならない。
　今回の知事・市長選ともに、「おおさか」の対立候補は自民党だ。むろん、安倍自民の一部だから、超タカ派のイメージだ。
　　　タカ派・「おおさか」橋本維新
　　　超タカ派・安倍自民
の戦いでは、「おおさか」のタカ派イメージは薄れる。
　そこで、橋下市長が作った争点が、どちらが「改革派」かというものだ。
　大阪の自民党を改革派だと言う人はいないだろう。
　一方、橋下市長の持つ改革派イメージで「おおさか」の候補はなぜか、皆、改革派に見えてしまう。この構図では、「おおさか」が有利だ。

　（４）（３）の状況で困るのが、リベラル系の有権者だ。
　国政を考えれば、橋下市長の復活は困る。
　しかし、「おおさか」の候補を落選させるには、自民候補を当選させねばならない。
　まさに究極の選択だ。

　（５）安倍政権は、表向き大阪の自民候補を強力に支援する姿勢を見せる一方、橋下市長らとの蜜月ぶりもアピールしている。
　これも実は、「おおさか」にとって有利だ。なぜなら、自民でも維新でも結局は安倍自民の支援になると思えば、リベラル派の棄権が増えて、「おおさか」に有利になるのだ。

　（６）こうした中、東京のＳＥＡＬＤｓやＳＥＡＬＤｓＫＡＮＳＡＩの動きに関心が集まっている。手詰まりのリベラル勢力にとって、今や頼みの綱はＳＥＡＬＤｓしかなさそうだ。
　「国政のために自民候補を応援すべきか、すべきでないか」
　ハムレット的悩みを乗り越えて、若者ならではの奇抜な選挙戦略が出てくるのか、今後の動きに注目が集まっている。

□古賀茂明「悩ましき大阪ダブル選　～官々愕々第１７６回～」（「週刊現代」２０１５年１１月１４日号）
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　【参考】
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「【古賀茂明】【原発】骨抜きの「ノーリターンルール」」
「【古賀茂明】アベノミクス「第二ステージ」　～失敗を隠す官僚の常套手段～」
「【古賀茂明】難民と安倍とメルケルと　～ドイツと差がつく日本～」
「【古賀茂明】安保法成立の最大の戦犯」
「【古賀茂明】軽減税率、本当の問題　～官々愕々第１７０回～」
「【古賀茂明】国民のために働く官僚の左遷　～読売新聞の問答無用～」
「【古賀茂明】安倍首相の「積極的軍事主義」が根付くとき」
「【古賀茂明】電力自由化は進んでいない」
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