語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【片山善博】らの鼎談 違法性がなくても知事の適性がない ~舛添は日本の恥(2)~

2016年06月13日 | ●片山善博
 (承前)

(4)政治資金は「バブル状態」
 政治資金規制法は、「ザル法」と言われる。ほかの点を挙げれば、金の入口の規定は「外国人はダメ」「補助金などの公的資金を受けている企業はダメ」「個人献金の上限はいくら」などと事細かに法律で定められているのに対し、お金の出口、「支出」の対象範囲については厳格な規定がない。理屈をこねれば、あらゆることが政治活動になり得るわけだ。一つひとつについて違法ではないかを検討するのは極めて難しい。【片山】
 本来、知事や国会議員という公職にある人間が問われるべきは、「違法性」ではないはずだ。法律違反をしてはいけないのは当然であって、むしろ知事としての「適格性」や、本当に国民、都民のためのお金の使い方になっているかの「妥当性」が問われるべきだ。【増田】
 「政治資金オンブズマン」は、これまで多くの政治家の収支報告書を調査、追求してきたが、疑わしいものが実に沢山あった。なぜそのようなことが起きるかと考えてみると、次のような問題がある。【上脇】
  (a)使途が制限されないという法制度上の問題。
  (b)政党交付金があるため、政治資金が潤沢すぎるという問題。
 政党交付金は、年間320億円が議席数などに応じて各政党に分配される。2015年度分でいうと、自民党が一番多く、170億円だった。
 しかし、この320億円という金額は、1980年代後半のバブル時に大企業などを中心に集めていた政治資金の額が前提となっている。当時「政治改革」の美名のもとで、癒着や賄賂を防ぐため、企業・団体献金を国民の税金に振り替えようと導入された経緯がある。バブル崩壊後の1995年から正式に政党助成制度が施行された。あれから20年以上が経過し、景気は悪化し、国の財政もどんどん逼迫している。それなのに結局、企業献金は禁止されず、政党交付金との「二重取り」が続いている。つまり、政治資金は実は「バブル状態」で、豊富な資金が黙っていても転がり込んでくる“国営政党”になっている。政治資金に余裕があるため、違法または不適切な支出がなされてしまう。政治資金の入口を改革しないと、出口は杜撰なままだろう。【上脇】
 企業・団体献金は厳しく制限していくはずだったが、結局上限などは設けたものの、今も残っている。【片山】
 時代や国家財政の状況によって見直していくべきだ。【増田】
 ただ、政治資金報告書は、総務省のホームページや、各都道府県のホームページでも過去3年分は公表される環境が整い、メディアはもちろん、一般の方もいつでも誰でも見られるし、情報公開請求で、更に詳細な使途を示す領収書も見られるようになっている。つまり多くの人の目にさらされるようになっているわけだ。舛添知事の問題も、すべてこうした公開情報が端緒になっていることを考えると、政治資金規制法が法改正によって改良された効果があったとも言える。それによって刑事告発も可能だし、もし罪に問われなくても、こんなおかしなお金の使い方をする政治家は見識がない、と広まれば、次の選挙の当落や政治家の進退に影響を及ぼし得る。【片山】
 ただ、政界では、使途を全く明かさず、政治資金規制法の網をくぐり抜ける方法が未だに温存されている。「組織対策費」名目で、巨額の政治資金を政治家個人に流し、その先をブラックボックスにする方法だ。舛添知事も新党改革時代の2012、2013年に「組織対策費」として計1,050万円を受け取っている。【上脇】
 公金を受け取る政治家の政党支部や政治団体が、悪質な虚偽記載などをした場合、「間違ったので訂正しました」、「すぐ返金します」で済ませるのではなく、例えば該当額の10倍を翌年の政党交付金から削減する等、なならかのペナルティを科さないと、虚偽記載や不記載はなくならないのではないか。【上脇】

(5)保育所や介護施設の視察はゼロ
 舛添知事は、2001年に政治家に転身する前は国際政治学者として長らくテレビで活躍していた。その経験がそうさせるのか、記者会見もどこかテレビタレント的だ。テレビでは、限られた時間内でタイミングを見計らい、CMに入る間際で相手をやり込めるとか、話が切り替わるときに意表を突くようなことを言うなど、独特のテクニックを使う人がいるが、舛添知事もそれに頼っているように見えるところがある。【片山】
 一連の会見でも、自分の公私混同や公金意識の欠如が問題になっているのに、論点をずらし、本質の議論を棚にあげて記者をやり込めようとしているかのような姿は、情けない。【片山】
 舛添知事が第一次安倍政権や福田政権で厚生労働大臣だったが、官僚の話ではすごく頭がいいので、一度聞くとパッとポイントを理解する。政策の説明などがすごく楽だと言われていた。ただ、厚生労働大臣の担当する分野は数ある省庁のなかで最も多岐にわたるが、舛添大臣(当時)は医療問題に特に関心が深い一方、他の分野はそうでもないようで、興味を持って取り組むテーマが偏っているとも官僚は言っていた。【増田】
 いま、都庁の役人も同じような評価を下している。【片山】
 本来、保育園不足や福祉など、都政には課題が沢山あるはずなのに、2015年春からこの4月までの1年間で、視察の7割超が美術館や博物館だった。保育所や介護施設の視察はゼロだった。【上脇】
 知事は、その自治体のあらゆることに責任を持つわけで、ある意味、国会議員や大臣の時以上に「自己規律」が求められる。特に日本の首都である東京都の知事なのだから、自己規律をさらに厳正に働かせて、従来の自分の趣味や流儀もすべて変えて都民のために尽くさなくてはならない。そういう思想が舛添知事には欠けているのではないか。【増田】

(6)都議会は学芸会
 6月1日から都議会が始まった。石原都政のときも高額な海外視察が問題になったが、当時、議会のチェック機能は働かなかった。【上脇】
 一連の舛添疑惑は、都議会がきちんと追求するのがあるべき姿だ。増田氏も知事時代に海外視察に行ったときなど、帰国後の議会でその成果を詳しく聞かれた。都議会ともなれば、都議たちも海外視察に相当行っている。だから知事への追求を厳しくし過ぎると、自らにブーメランのように跳ね返ってくるのを恐れて何も言えないのではないか。【増田】
 今夏、都議たちは五輪開催地のブラジルに、視察目的で大挙して行くだろうし。【片山】
 本来、地方自治体の統治機構は「二元代表制」で、国政の議員内閣制とは根本的に異なる。この二元代表制のもとでは与党、野党などという概念はなく、「議会」対「知事」という構図で論戦すべきなのであって、自公の与党がまとまって知事を支えるという現在の都議会の在り方は本来おかしい。ただ、これは日本のほとんどの自治体にいえる問題で、どこも与党で多数会派が形成されて、多数会派と首長との一種のなれ合いで自治体が運営されている。【片山】
 東京都の議会運営など、ほとんど「学芸会」だ。学芸会と言ったら、歌舞伎と言ってくれ、という人もいた。セリフも決まっていて、終了時刻まで寸分たがわずと言ってよいほどシナリオどおりなのだ。【片山】
 都の職員によると、議員の質問ですら役所が作ってあげている場合が少なくない。こんな状態では、議会による緊張感のあるチェックなど望むべくもない。だから、今回の舛添問題は、都議会の怠慢ゆえの産物とも言える。【片山】
 また、議会以外にも、知事の暴走を制御する術はある。例えば、東京都人事委員会が、あまりに高額のスイートルームなどの出費をすんなりと了としてきたわけだ。本来はチェックしなければならなかったのに、人事委員会も実質的に機能していなかった。この点も再点検されねばならない。【片山】
 一連の疑惑について、舛添知事は「第三者の厳しい目で見てもらう」として、元検事の弁護士2人を雇った。ただ、その第三者の弁護士名も明かさず、いつまでに調査結果を公表するかを明言しなかった。【上脇】
 この対応は論外だ。これは沈静化をねらった時間稼ぎだし、その間はだんまりを決め込む作戦だとしか見えない。【片山】
 何もわざわざポケットマネーで高い弁護士費用を払わなくても、かなり厳しい第三者である多くの記者が熱心に聞いてくれるのだから、それに真摯に回答すれば、無料で済む。【片山】
 「元検事」というと厳しいチェックをするような印象を与えるが、弁護士は依頼人の利益が最優先だ。もし記者に質問されて解らないことがあっても、次の会見までに調査して答えればよい。本人の言葉で説明した結果を都民がどう思うかだ。【増田】
 舛添知事には政治家としての説明責任があるのに、なぜ弁護士に丸投げするのか。参議院選挙などにマスコミと都民の関心が移り、注目されなくなることを期待して先延ばしにしているのではないか。【増田】

(7)TOKYOのプレゼンス
 舛添知事は、4年後の五輪で世界中の注目を集める東京の顔だ。ところが、その説明に89%の人が「納得できない」と答えている【JNN調査】。77%の人が辞任すべきと考えている【毎日新聞世論調査】。弁護士の調査結果が出たところで、都民の多くが納得するとは思われない数値だ。【上脇】
 事ここに至っては潔くお辞めになったほうが余程スッキリする【片山氏、増田氏】。
 行政のトップである知事は、都民、県民の信頼があてこそ仕事ができる。都民の9割に「あなたは信用できない」と言われていて、知事をやっている意味がない。【片山】
 しかし、本人が、直ちに違法とは言えないとして、強弁してでもしがみついたほうがいいという価値観なのであれば、仕方ない。都議会が百条委員会で追い込むとか、不信任を突きつけるとか、果ては都民およそ146万人の署名によってリコールを請求するなど、次の局面に移っていき、ますます泥沼化するだろう。それは都民にとっても本人にとっても不幸なことだ。【片山】
 東京五輪は、エンブレムや国立競技場の問題に始まって、招致の際に2億3,000万円のコンサル料を払っていた疑惑など、さまざまな問題が噴出しているが、都知事が疑惑を抱えたまま居座ることで、さらにイメージが悪化していく。【増田】
 今年はブラジルで五輪が開催されるが、彼の地のルセフ大統領は、国会会計を不正操作して粉飾した疑惑による弾劾裁判中だ。8月5日に開幕するリオ五輪では代行のテメル暫定大統領が各国を迎えるという異例の事態になりそうで、世界中が心配している。【増田】
 東京都は、これまでただでさえ問題が続いたのだから、東京五輪に支障がないようにしなければならない。そのためにも、舛添知事は、早急に疑惑にケリをつけるべきだ。【増田】
 本来五輪は都市の祭典だ。東京都が主体的になって、五輪の準備を進めなければならないときに、トップがらみの騒動が長引くほど、都政は停滞し、TOKYOのプレゼンスは低くなってしまう。東京都が中心的役割を堂々と発揮できるようにしてもらいたい。【片山】

□鼎談:片山善博(慶應義塾大学教授)、増田寛也(東京大学公共政策大学院客員教授)、上脇博之(神戸学院大学教授/市民団体「政治資金オンブズマン」共同代表)「舛添知事は日本の恥だ ~汚れた「TOKYOの顔」への退場勧告~」(「文藝春秋」2016年7月号)
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 【参考】
【片山善博】&増田寛也&上脇博之 舛添知事は日本の恥だ ~辞任勧告~
【片山善博】【舛添】都知事問題は自治システム改善の教材

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【片山善博】&増田寛也&上脇博之 舛添知事は日本の恥だ ~辞任勧告~

2016年06月13日 | ●片山善博
 この4月から、舛添知事の
   ・豪奢で高額な海外視察
   ・毎週末の公用車におる湯河原の別荘通い
   ・私的な家族旅行への政治資金流用疑惑
   ・etc.
都知事としての適格性が疑われる問題が続々と発覚している。

(1)豪奢で高額な海外視察
 舛添知事は、2014年2月の就任から2015年末まで、計8回、海外出張をしているが、その経費は総額2億1,300万円に上る。2015年秋の5泊7日のパリ、ロンドン視察では5,000万円超。飛行機はファーストクラスで266万円(知事1人分・往復)。宿泊費は一流ホテルのスイートルームで1泊19万8,000円(知事1人分)。【上脇】
 都の条例によれば、知事の宿泊費の上限は4万200円だが、舛添知事はその上限の5倍近い豪華な部屋を使っている。尋常ではない。舛添知事は、「急な要人との面会に備えて」などと記者会見で説明したが、ほとんど絵空事だ。海外出張中、VIPが突然、知事が寝泊まりしているホテルの部屋を訪れることなど、あり得ない。また、通常海外出張では、事前に綿密な訪問スケジュールを組んでおり、こちらから出向くのが基本ルールだ。【片山】
 片山善博・前鳥取県知事も増田寛也・前岩手県知事も、一度もそんな高級な部屋に泊まったことはない。【片山、増田】
 舛添知事は、会見で、その点を突っ込んだ香港の記者に「香港のトップが二流のビジネスホテルに泊まりますか。恥ずかしいでしょう!」と怒っていたが、論点をすり替えている。あまりにもおかしな回答だ。
 加えて、同行人数が多すぎる。去年のパリ、ロンドン視察や2014年のベルリン、ロンドン視察の同行者はそれぞれ19人。まるで参勤交代のような「大名旅行」で驚愕するばかり。これだけ人数が多いと移動も大変だ。知事の海外視察は必要最小限の人数でコンパクトに行って、帰ってきたらすぐ仕事に戻れるようにするべきだ。【増田】
 舛添知事の海外視察費用を子細に見てみると、都知事に就任して最初の5回分の海外出張費はそれほど極端に高額ではない。最高額はソチ視察の3,000万円で、ほかはだいたい1,000万円程度に納まっている。これらは前知事時代から決まっていた視察だったのかもしれない。経費の使い方が明らかに変わったのは、2014年秋のベルリン、ロンドン出張で、7,000万円かかっている。このあたりから舛添知事の意向が強く反映しているのではないか。一般的に知事の海外視察はどのように決まるか。【上脇】
 知事の海外視察は、職員の方から、県庁の仕事として知事にぜひ行ってもらいたいという要請もあるにはある。ただ、件数としてはあまり多くはない。逆に、もし知事が「ここに行きたい」と希望すれば、たいていは通るだろう。「止めたほうがいい」と直言する勇気のある職員は、どこの役所でもそう多くはいないから。【片山】

(2)毎週末の公用車におる湯河原の別荘通い
 舛添知事が毎週末、東京を離れ、公用車で神奈川県湯河原町の別荘に行っていたことも問題視されている。「週刊文春」5月5・12日号のスクープがきっかけだったが、同誌によれば、この1年間で合計49回も公用車で「別荘通い」をしていた。【上脇】
 危機管理上、大問題だ。舛添知事は、股関節術後のリハビリのために「週に一度くらいは広い風呂で足を伸ばしたい」と説明したが、知事が毎週自らの自治体を離れるなど断じてあってはならない。知事は、災害が起きた際、災害対策本部長を担う。つまり、1分でも早く県庁に駆けつけて情報を収集し、対策を講ずるのが仕事だ。だから、いつでも都庁に駆けつけられる場所にいるのが本来、都知事のあるべき姿だ。
 増田氏も、知事時代、何かあればすぐ県庁に駆けつけられるよう、常に気をつけていた。台風の予報がある時はなおさら注意する。しかし、地震は予測できない。例えば、夜中、飲酒しているときに地震が起こり、真っ赤な顔で駆けつける自体に陥るのは避けたいと思ったら、自然に酒量が減り、そのうちにほとんど飲まなくなった。【増田】
 災害時に知事権限で判断しなければならないことは実に沢山ある。人命救助を最優先しなければならない時に、まず知事を探したり、隣県から知事を連れ戻したりするのにエネルギーを費やすなんて、誰が考えてもおかしい。任期中ぐらいは自分のやりたいこともぐっと我慢して、組織に迷惑をかけないように行動するのもトップの大事な務めだ。【片山】
 例えるなら、増田氏が知事時代に隣の宮城県に毎週行っていたとか、片山氏が知事時代に岡山県に毎週行っていた、というのと同じだ。さらに敷衍すれば、安倍首相が毎週隣国の韓国へ行っているのと同じようなものだ。あり得ない。東京から神奈川というと、毎日その間を通勤している人も多いから、何となく見過ごしがちだが、極めて異様な事態なのだ。【片山】
 国会議員時代なら毎週湯河原に行ってもいいだろう。しかし、地方自治体を預かる知事は、よほどの事態がない限り県外に出るようなことは避けるべきだ。もちろん不自由だが、知事になるとは、そうした不自由さを職務として担うということのはずだ。【片山】

(3)美術品購入は「業務上横領」の疑い
 「公用車での別荘通い」は、危機管理上はもちろん、税金の無駄遣いの観点からも批判を免れない。ハイヤーで都庁から湯河原までの往復は8万円かかるそうだから、年49回で単純計算するとざっと400万円。海外視察の事例と合わせて、今後、都民から返金を求める住民監査請求がなされ、住民訴訟になる可能性がある。【上脇】
 一連の報道を見ていると、舛添知事が知事になる前の政治資金の使途も、公私混同の誹りを免れない。【増田】
 <例>2013年、2014年の正月に、家族旅行で「龍宮城スパホテル三日月」に宿泊し、合計37万円を「会議費用」として政治資金で支払った疑惑。【増田】
 国会議員時代に染みついた政治資金のルーズな使い方が、都知事になってからもずっと続いてしまったように見受けられる。【増田】
 舛添知事は、家族と宿泊した部屋で政治に関する会議をやったのだと強弁していたが、結局「誤解を招いた」として返金する意向を示した。返すということは、やはりやましいお金の使い方をしていて、会議などしていなかったのだろうと思われて当然だ。舛添知事の夫人は、「舛添誠司経済研究所」の代表取締役のようだから、「妻と、ひと月後に迫っていた知事選に出馬するかどうか会議をしていました」と言いたかったのかもしれないが、子ども連れでプールで遊んでいたのでは、誰も納得しないだろう。【片山】
 会見での弁明を見ていると、相談できる仲間、信頼できるブレーンがいない人だとわかる。会議の出席者の名前や人数を聞かれて、「政治の機微にかかわる」と答えなかった。名前はともなく、参加していた人数までが「政治の機微にかかわる」なんて、誰も思わない。【増田】
 「政治資金オンブズマン」は、「龍宮城スパホテル三日月」の費用を「会議費」としているのは政治資金規正法違反(虚偽記載)にあたるとして東京地検に刑事告発している。【片山】
 舛添知事は、「龍宮城スパホテル三日月」の費用を「会議費用」、自宅近くの天ぷら料理屋やイタリアンレストラン等の飲食代7万円を「食事代」、美術品・絵画・骨董品等の購入費580万円を「資料代」として政治資金から支出していた。これらはすべて私的なもので、政治活動とは言えず、虚偽記載の疑いがあり、告発の対象となった。【上脇】
 問題は、それだけにとどまらない。舛添知事が都知事になる前から、「政治資金オンブズマン」では舛添の政治資金の使途を分析し、疑惑に警鐘を鳴らしていた。当時は今ほど注目を集めなかったが、例えば、
  (a)参議院議員だった2009年から、舛添の政党支部や資金管理団体が、「舛添誠司経済研究所」に、事務所費として毎月44万円を支払い、6年間で合計3,000万円が流れている。今回、このことも改めて注目され、批判を浴びている。政治団体の事務所としての使用実態があったとしても、地元の不動産相場よりも、明らかに高額な値段設定ではないか。
  (b)通常「資料代」とは、国会で質問するなどの政治活動に使う資料の購入費が該当する。美術品の購入費を「資料代」と書いておけば「セーフ」にできると考えたのかもしれないが、記者に質問されて「国際交流のためだ」と弁明したのは、後知恵だろう。政治資金規正法では、使途に関する明確な制限がない。そこに付け込んだ狡賢いやり方だ。そもそも、美術品を政治活動のための「資料」として購入するなど、あり得るのか。【上脇】
 舛添知事は、「海外の方と交流する際に、書や浮世絵の版画などをツールとして活用している」と弁明していた。増田氏は知事を12年、総務大臣を1年務めたが、そのようなケースは聞いたことがない。自身の趣味のためではないか、と疑われても仕方ない。【増田】
 百歩譲って好意的に考えれば、海外の姉妹都市との交流事業などに際し、知事としてお土産を準備することはあり得る。例えば、地元にちょっとした書家がいる場合、その方を顕彰する意味も含めてその書を購入し、先方にお贈りするようなことはあり得る。ただ、毎月のように「世界堂」(画材・額縁の専門店)で買い物しえいる事実からは、とてもそうは思えない。購入した美術品などが自分の趣味や資産形成のためのものではないと世間に納得してもらうには、何を買い、どのような場所で誰に手渡し、どう政治に役立てたのかを説明する責任がある。【片山】
 「政治資金オンブズマン」は、美術品などの購入に関しては、政治資金規正法はもちろん、刑法上の業務上横領にもあたるのではないかと刑事告発している。【増田】
 舛添知事は、国民1人年間250円の血税である政党交付金を受け取る政党、すなわち「新党改革」時代にそのお金で美術品、580万円を購入している。ところが、舛添知事は都知事選出馬時に離党して「無所属」になっており、彼の政党支部だった新党改革比例区第4支部も、個人の資金管理団体だった「グローバルネットワーク研究会」も、すべて解散している。つまり、美術品はどこにも返還されず、舛添知事の思うがままに処理され、個人資産になってしまっている可能性が高い。これは会社解散時に残っていた絵画などを持ち逃げしたに等しい。「業務上横領」に該当すると「政治資金オンブズマン」はみて、同罪で刑事告発することになった。【上脇】
 「政治資金オンブズマン」はこれまで何人もの政治家を「政治資金規制法違反」の疑いで告発したが、業務上横領で告発したことはない。【上脇】
 政治資金規制法では、政党支部や資金管理団体が解散したときの金や資産についての処理方法が一切書かれていないから、後処理をする団体の良識に委ねられている。ひどいケースになると、スタッフで山分けしたと囁かれることもある。今後、政党や政治団体の解散時の処理について法整備が必要だ。【上脇】

□鼎談:片山善博(慶應義塾大学教授)、増田寛也(東京大学公共政策大学院客員教授)、上脇博之(神戸学院大学教授/市民団体「政治資金オンブズマン」共同代表)「舛添知事は日本の恥だ ~汚れた「TOKYOの顔」への退場勧告~」(「文藝春秋」2016年7月号)
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 【参考】
【片山善博】【舛添】都知事問題は自治システム改善の教材

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